9. ベクトル空間 (1)

2014 年 2S 科 代数学 1 演習
9. ベクトル空間 (1)
ベクトル空間の定義・1 次独立と 1 次従属
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(おおまかに言うと,) 四則演算をもつような集合を体といい, K で表す. 実数全体 R や複素数全体
C は体の例である. 一方, 整数全体 Z や自然数全体 N は商や差について閉じていない (逆数や負の
数が存在しない) ので体ではない.
定義 (ベクトル空間). 集合 V に次のような 2 つの演算
I (和) x, y ∈ V ⇒ x + y ∈ V
II (スカラー倍) x ∈ V, k ∈ K ⇒ kx ∈ V
が定義され, 次の 8 つの条件がみたされるとき, V は K 上のベクトル空間であるという:
(1) (x + y) + z = x + (y + z) (結合法則),
(5) (k + h)x = kx + hx,
(2) x + y = y + x (交換法則),
(6) k(x + y) = ky + kx,
(3) x + 0 = 0 + x = x となるベクトル 0 が存在する,
(7) (kh)x = k(hx),
′
′
′
(4) 各 x に対して, x + x = x + x = 0となる x が存在する, (8) 1x = x.
(3) の 0 を零元 (零ベクトル) といい, (4) の x′ を x の逆元 (逆ベクトル) といい −x で表
す. x + (−y) を x − y と表す.
V の要素をベクトル, K の要素をスカラーという. 特に K = R, C とするときそれぞれ V
を実ベクトル空間, 複素ベクトル空間という.
例 (数ベクトル空間) K の要素を成分とする n 項列ベクトル全体の集合 Kn は K 上のベク
トル空間である.
定義 (部分空間). K 上のベクトル空間 V の空でない部分集合 W が 2 条件
(1) x, x′ ∈ W =⇒ x + x′ ∈ W
(2) x ∈ W , k ∈ K =⇒ kx ∈ W
をみたすとき, W は V の部分空間, 部分ベクトル空間であるという.
例 x1 , x2 , . . . xm ∈ V とするとき,
{
}
[x1 , x2 , . . . , xm ] = k1 x1 + k2 x2 + · · · + km xm k1 , k2 , . . . , km ∈ K
は V の部分空間であり, これを x1 , x2 , . . . , xm によって生成される部分空間という.
定義 (1 次独立と 1 次従属). V のベクトル x1 , x2 , . . . , xm と k1 , k2 , . . . , km ∈ K に対し,
m
∑
kj xj = k1 x1 + k2 x2 + · · · + km xm
j=1
をベクトル x1 , x2 , . . . , xm の 1 次結合という. ベクトル x1 , x2 , . . . , xm が条件
k1 x1 + k2 x2 + · · · + km xm = 0 =⇒ k1 = k2 = · · · = km = 0
をみたすとき, ベクトル x1 , x2 , . . . , xm は 1 次独立であるという. ベクトル x1 , x2 , . . . ,
xm が 1 次独立でないとき, ベクトル x1 , x2 , . . . , xm は 1 次従属であるという.
定理. n 次正方行列の列ベクトル表示 A = (a1 a2 · · · an ) について, 数ベクトル空間 Kn
のベクトルの組 a1 , a2 , . . . , an が 1 次独立であるための必要十分条件は |A| ̸= 0.
&
問 1. 実数を成分とする (m, n) 型行列全体の集合 Mm×n (R) は行列の和と (実) スカラー倍の
もとで, 実ベクトル空間であることを確かめよ.
問 2. 次の集合はそれぞれの K 上のベクトル空間であるか調べよ.
(1) K = R, x を変数とする 3 次の実数係数多項式関数全体の集合
(2) K = R, x を変数とする 3 次以下の実数係数多項式関数全体 P3 (R) の集合
(3) K = C, x を変数とする 3 次以下の実数係数多項式関数全体 P3 (R) の集合
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%
問 3. 閉区間 [a, b] で定義された連続な実数値関数全体の集合 C[a, b] は R 上のベクトル空間
であることを確かめよ.
問 4. K 上のベクトル空間 V において次のことを示せ.
(1) 零元 0 は一意的に定まる.
(2) x ∈ V に対し, その逆元 x′ は一意的に定まる.
問 5. K 上のベクトル空間 V において次のことを示せ. ただし, x ∈ V , k ∈ K とする.
(1) k0 = 0
(3) kx = 0 ならば,k = 0 または x = 0
(2) 0x = 0
(4) (−1)x = −x
問 6. 次の集合が R3 の部分空間であるか調べよ.
}
}
{( )
{( )
x1 x1 x2 x1 + x2 + x3 = 1
x2 x1 + x2 + x3 = 0
(2) W =
(1) W =
x
x3
}
}
{( 3 )
{( )
x1 x1 x1 + 2x2 + 3x3 = 0
2
x2 x1 + x22 = x23
x2 (3) W =
(4) W =
3x
−
2x
+
x
=
0
1
2
3
x
x
3
3
問 7. 次のベクトルの組は 1 次独立か 1 次従属か調べよ.
(
)
(
)
(
)
1 0
0 1
0 1
(1) M2×2 (R) で A1 =
, A2 =
, A3 =
.
0 −1
1 0
−1 0
(2) P2 (R) で f1 = 1 − x, f2 = x − x2 , f3 = x2 − 1.
問 8. 次の R3 のベクトルの組は 1 次独立か 1 次従属か調べよ.
( ) ( ) ( )
( ) ( ) ( )
(1)
1
0 ,
0
2
1 ,
0
3
2
1
(2)
1
4 ,
7
2
5 ,
8
3
6
9
(3)
( ) ( ) ( )
a
1 ,
1
1
a ,
1
1
1
a
(a ∈ R)
問 9. a1 , a2 , a3 が 1 次独立なベクトルであるとき, 次のベクトルの組は 1 次独立か 1 次従属
かを調べよ.
(1) a1 , a1 + a2 , a1 + a2 + a3
(2) a1 + a2 + a3 , a2 + a3 , a1 + a3
補充問題
問 10. ベクトル空間 V の元 x, y, z に対して, 次のことを示せ.
(1) x + z = y + z ならば x = y.
(2) x = y + z と z = x − y は同値.
問 11. W1 , W2 をベクトル空間 V の部分空間とするとき, 次の集合も V の部分空間であるこ
とを示せ.
(1) W1 ∩ W2
(2) W1 + W2 = {x1 + x2 | x1 ∈ W1 , x2 ∈ W2 }
問 12. (n, n) 型のエルミート行列の全体集合は, 通常の行列の和とスカラー倍のもとで C 上
のベクトル空間ではないが, R 上のベクトル空間になることを示せ.
問 13. V を K 上のベクトル空間とし, x1 , x2 , . . . , xm , y 1 , y 2 . . . , y n ∈ V とする. このとき,
W1 = [x1 , x2 , . . . , xm ], W2 = [y 1 , y 2 , . . . , y n ] に対して, 次の式が成り立つことを示せ:
W1 + W2 = [x1 , x2 , . . . , xm , y 1 , y 2 , . . . , y n ].
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