フェーザ

1
第3章
フェーザ
と表すことが多い*2 .電気回路で「フェーザ形式」を導
本章では,以下のことを学ぶ.
• a(t) = A m sin(ω t + θ ) を a(t) = A m ej(ω t+θ) に置き換
えても線形回路方程式は成り立つ.
• a(t) = A m ej(ω t+θ) から jω t をのぞき,振幅 A m の代
p
わりに実効値 A e = A/ 2 を用いたものをフェーザ
という.即ち,a(t) のフェーザ表記を A とすると,
A = Aee
jθ
に表してよいのかどうか,について確認する.
3.2 ejω t を用いるとどうなるのか
以下の関係(オイラーの公式)があることは既知であ
ejω t = exp(jω t) = cos ω t + j sin ω t
• フェーザ形式の電圧 V と電流 I を用いると,抵抗
に加えて,微分・積分が関与するコイルとコンデン
サについても,以下のようなオームの法則的関係が
成り立つ.
di
v(t) = L
dt
∫
1
v(t) =
i dt
C
表現できることを前提とする.そこで,まず,このよう
るとする.
と表される*1 .
v(t) = R i(t)
入する際にも,正弦波で変化する電圧・電流が,ejω t で
(3.3)
実は,「線形微分方程式」と呼ばれる特定の条件を満た
した微分方程式では,sin や cos の代わりに,上記の exp
を用いたものを使っても,以下のようになるだけであ
る,ということが数学的にわかっている.
⇒
V =R I
⇒
V = jω L I
⇒
V=
• sin の代わりに exp を用いた場合
exp を用いた計算結果の虚数部分が sin を用いた計
算結果と同じになる.
1
I
jωC
• cos の代わりに exp を用いた場合
exp を用いた計算結果の実数部分が cos を用いた計
3.1 フェーザ形式の導入の前に∼正弦波の
ejω t による表現方法と利用方法∼
算結果と同じになる.
なお,この関係は線形微分方程式以外では成り立たない
電気回路のように正弦波のみを扱う分野では,正弦波
ので注意のこと.電気回路学基礎で扱う回路方程式は全
て線形微分方程式である.また,sin と cos とが両方用
の表し方として,
いられている場合には,次の関係等を使って,exp に置
i(t) = I m sin ω t や i(t) = I m cos ω t
(3.1)
のように三角関数を用いて表す代わりに,
i(t) = I m ejω t = I m exp(jω t)
(3.2)
き換える前にどちらかに統一しておく必要がある.
(
π)
sin(ω t) = − cos ω t +
2
(
π)
cos(ω t) = sin ω t +
2
(3.4)
(3.5)
*1 この表記法は,数学的には便利だが,数値を扱う工学では不便
*2 ここで,exp() は,e() と書くと,指数部が小さくて鬱陶しいの
である.そのため,次章以降では,これを A = A e ∠θ と表し,θ
の単位として度「◦ 」を用いることになるので留意して欲しい.
で,このような書き方をしている.状況に応じて適宜使い分け
ているので,慣れて欲しい.
第3章
2
3.3 正弦波を ejωt 形式で表したときの回路素
子の表し方∼フェーザ形式の一歩手前∼
jω t
ここでは,正弦波を e
3.3.3 コンデンサ
コンデンサの電流電圧の関係式は,
v(t) =
形式で表すと,抵抗,コイル,
コンデンサの電流電圧の関係がどのような式になるかを
示す.結論から先に言うと,sin や cos で表した場合に
v(t) =
と,全て
(3.6)
1
C
∫
i(t) dt
(3.11)
であった. i(t) = I m ejω t とすると,
は,微分や積分が関与してくるのに対して,exp で表す
v(t) = [ ]i(t)
フェーザ
1
I m ejω t
jωC
(3.12)
1
i(t)
jωC
(3.13)
となる,即ち,
v(t) =
というオームの法則のような形式なるのである.
となっていることがわかる.
従って,コイルの場合の関係式 (3.13) の意味するとこ
3.3.1 抵抗
ろは,以下の通りである.
抵抗の電流電圧の関係式は,
v(t) = R i(t)
(3.7)
1
倍になる
ωC
• 位相差: 電圧は電流に対して 90◦ 位相が遅れる*4
• 振幅: 電圧の振幅は電流の
であった.R をかけ算するだけであるから,exp 形式に
しても抵抗の場合には,関係式は同じである.
3.4 フェーザ
この関係式の意味するところは,以下の通りである.
正弦波を exp 形式で表すと,計算中の等式の右辺と左
• 振幅: 電圧の振幅は電流の R 倍
辺に必ず ejω t が現れる.従って,ejω t を両辺から削除し
• 位相差: 電圧と電流は同相
ても,等式は成り立つ.そこで,電流や電圧の表し方と
して,最初から,ejω t を除いて表してしまう,というこ
とをする.これがフェーザ形式を導入する基本的な考え
3.3.2 コイル
方である.即ち,正弦波を
コイルの電流電圧の関係式は,
i(t) = I m ej(ω t+θ)
d
v(t) = L i(t)
dt
jω t
であった. i(t) = I m e
(3.14)
(3.8)
によって表現する代わりに,おおちゃくをして,
とすると,
I = I m ejθ
jω t
v(t) = jωL I m e
(3.15)
(3.9)
が正弦波を表しているものとしてしまおう,というもの
である.
となる,即ち,
v(t) = jωL i(t)
(3.10)
この考え方は,線形微分方程式であれば,周波数 ω が
変わることは無く,変わるのは振幅と位相だけ,という
となっていることがわかる.従って,コイルの場合の関
ことに基づいている.変わるのが振幅と位相だけなら,
係式 (3.10) の意味するところは,以下の通りである.
振幅と位相の情報だけを持つパラメータで表現すれば,
• 振幅: 電圧の振幅は電流の ωL 倍になる
それでよいではないか,という考え方である.この振幅
• 位相差: 電圧は電流に対して 90◦ 位相が進む*3
と位相の情報だけを持つのが「フェーザ」と呼ばれる複
素数である.この複素数の大きさが振幅情報に相当し,
複素数の偏角が位相情報に相当する.
*3 j がかけ算されているからである.詳細は章末の豆知識を参照
のこと.
*4 j で割り算されているからである.詳細は章末の豆知識を参照
のこと.
3.6 フェーザ形式の絶対値のルール適用
3
但し,後述のように振幅情報についてはある決まった
ルールが設けられている.即ち,フェーザの大きさに振
3.5.2 コイル
コイルのもともとの電流と電圧の関係式は,
幅そのものの情報を持たせるのではなく,振幅を少しだ
v(t) =
け改変した「実効値」なるものにする,というルールで
d
i(t)
dt
(3.25)
ある.このルールが先に登場すると,話がややこしくな
であった.これに exp 形式の電流と電圧を代入すると,
るので,ここでは,まずはそのルールを無視して説明し,
Vm ejθ ejω t = jωL I m ejω t
最後にそのルールを適用する.
(3.26)
両辺の ejω t を除いてしまえば,
3.5 フェーザ形式を用いた各素子の電流と電
Vm ejθ = jωL I m
圧の関係
ここでは,フェーザ形式を用いた場合に,抵抗,コイ
ル,コンデンサの電流と電圧の関係が以下のようになる
となる.即ち,フェーザ形式の電流と電圧の間には,以
下の関係が成り立っていることになる.
V = jωL I
ことを学ぶ.
jω t
電流を i(t) = I m e
V =R I
(3.16)
V = jω L I
1
V=
I
jωC
(3.17)
(3.18)
(3.19)
j(ω t+θ )
である.電圧を v(t) = Vm e
コンデンサのもともとの電流と電圧の関係式は,
v(t) =
(3.29)
Vm ejθ ejω t =
1
I m ejω t
jωC
(3.30)
両辺の ejω t を除いてしまえば,
ザ形式は
V = Vm e
1
i(t)
jωC
であった.これに exp 形式の電流と電圧を代入すると,
とすると,そのフェー
jθ
(3.28)
3.5.3 コンデンサ
とすると,そのフェーザ形式は,
I = Im
(3.27)
(3.20)
Vm ejθ =
である.これらが,抵抗,コイル,コンデンサの場合に
1
Im
jωC
(3.31)
となる.即ち,フェーザ形式の電流と電圧の間には,以
どのような関係式で結ばれるのかを以下に示す.
下の関係が成り立っていることになる.
3.5.1 抵抗
V=
抵抗のもともとの電流と電圧の関係式は,
v(t) = R i(t)
(3.21)
であった.これに exp 形式の電流と電圧を代入すると,
Vm ejθ ejω t = R I m ejω t
1
I
jω C
(3.32)
3.6 フェーザ形式の絶対値のルール適用
既に但し書きで述べたようにフェーザ形式では,絶対
値をそのまま用いず,「実効値」なるものを用いる,と
(3.22)
いうルールがある.ここでそれを適用する.
即ち, i(t) = I m ej(ω t+θ) であるとき,これに対応する
両辺の ejω t を除いてしまえば,
フェーザ形式は,
Vm ejθ = R I m
I = I e ejθ
(3.23)
(3.33)
となる.即ち,フェーザ形式の電流と電圧の間には,以
と書かれる.ここで, I e が「実効値」であり,振幅 I m
下の関係が成り立っていることになる.
との間には以下の関係式がある.
V =R I
Im
Ie = p
2
(3.24)
何故
(3.34)
p
2 で割るのかについては,後ほど説明する.
第3章
4
i(t)
i(t)
v(t)
v(t)
フェーザ
v(t)
R
v(t)
L
i(t)
i(t)
I
I
Im
V
Im
V
V
R
L
I
0
I
V
Re
Re
図 3.1 時間変化する波形として電流電圧を見たときの抵
図 3.2 時間変化する波形として電流電圧を見たときのコ
抗における電流電圧の関係とフェーザという表し方で電
イルにおける電流電圧の関係とフェーザという表し方
流電圧を見たときの抵抗における電流と電圧の関係.
で電流電圧を見たときのコイルにおける電流と電圧の
関係.
i(t)
3.7 フェーザまとめ
v(t)
抵抗,コイル,コンデンサの電流と電圧の関係をフェー
v(t)
ザ形式で表すと,以下のようになる.
C
i(t)
3.7.1 抵抗
I
抵抗に流れる電流と抵抗にかかる電圧の間の関係を,
Im
波形そのもので考えた場合の関係と,フェーザに置き換
V
えて考えた場合の関係を図示すると,図 3.1 のようにな
V
C
I
る.即ち,波形の位相のずれは無く,大きさのみが変わ
Re
る.これがフェーザ形式で表した場合には,位相のずれ
が無いことから,ベクトル的に表したフェーザの方位が
図 3.3 時間変化する波形として電流電圧を見たときのコ
同一となり,長さだけが異なる,という状況になる.
ンデンサにおける電流電圧の関係とフェーザという表し
方で電流電圧を見たときのコンデンサにおける電流と電
3.7.2 コイル
圧の関係.
コイルに流れる電流と抵抗にかかる電圧の間の関係
を,波形そのもので考えた場合の関係と,フェーザに置
き換えて考えた場合の関係を図示すると,図 3.2 のよう
3.7.3 コンデンサ
◦
コンデンサに流れる電流と抵抗にかかる電圧の間の関
◦
相が遅れる(電圧波形は電流波形に対して 90 だけ位
係を,波形そのもので考えた場合の関係と,フェーザに
相が進む).電流に対して電圧はその大きさが ωL 倍と
置き換えて考えた場合の関係を図示すると,図 3.3 のよ
なる.フェーザ形式で表した場合には,電圧に対して電
うになる.即ち,電流波形は電圧波形に対して 90◦ だけ
流が 90◦ だけ位相が遅れているという状況が,90◦ だけ
位相が進む(電圧波形は電流波形に対して 90◦ だけ位相
フェーザの偏角が小さい,ということに対応して描かれ
が遅れる).電流に対して電圧はその大きさが 1/ωC 倍
ることになる.大きさについては,電流に対して電圧の
となる.フェーザ形式で表した場合には,電圧に対して
フェーザは ωL 倍の大きさで描かれることになる.
電流が 90◦ だけ位相が進んでいるという状況が,90◦ だ
になる.即ち,電流波形は電圧波形に対して 90 だけ位
3.8 実効値
5
けフェーザの偏角が大きい,ということに対応して描か
そこで,交流の時も,直流の時のように電圧と電流を
れることになる.大きさについては,電流に対して電圧
表すものを単純にかけ算したらよいという風にしよう,
のフェーザは 1/ωC 倍の大きさで描かれることになる.
という目的で使用されるのが「実効値」である.即ち,
p
電圧と電流の振幅をそれぞれ 2 で割ったものを振幅
3.8 実効値
「のように」扱えば,電力計算のときに 1/2 をかける,な
本章の前半の説明では,フェーザ形式の電流電圧の大
どということはせずに,直流の時のように電圧と電流の
きさ(絶対値をとったもの)は,実関数に戻したときの
振幅のようなもの (=実効値) を単にかければよい,とい
「振幅」としていた.しかし,途中で但し書きを書いた
うことになる*5 .以上の理屈により,フェーザ形式の電
ように,フェーザ形式の電流電圧の大きさは,振幅では
圧と電流の絶対値 (=実効値) を単純にかけ算すれば電力
なく「実効値」なるものにする,というルールを紹介し,
p
実効値が振幅を 2 で割ったものである,ということを
p
述べた.その時点では,なぜ, 2 で割ったものを「実
の大きさが出てくることになる.
効値」などという特別な名前を付けて定義するのか,ま
かけ算するとどうなるのであろうか?これについては,
た,振幅の変わりになぜ実効値を使うのか,については
しかし,フェーザは大きさしか持たない実数ではな
く,大きさと偏角をもつ複素数である.複素数のままで
「複素電力」の章で学ぶ.
何も言及しなかった.本節では,以上の二つの「なぜ」
にたいする回答に相当する説明をする.
3.8.1 電力計算と実効値
* * *
実効値なるものを定義する必要があるのは,それを定
義しておかないと,電力計算のときに,ちょっとおかし
なことが起こるからである.抵抗 R に電圧 V を印加し
て電流 I が流れたときの,直流の場合の電力 P の計算
式は,
P = V I = R I2
(3.35)
であるが,交流ではどのようになるであろうか?
抵抗 R に電圧 v(t) = Vm sin ω t を印加して電流 i(t) =
I m sin ω t が流れたときの,電力 p(t) の計算式は,
p(t) = v(t)i(t)
(3.36)
である.これは瞬時値であるが,一周期 (周期 T = 2π/ω)
で平均化した平均電力 P を見てみると (各自で以下の積
分をやってみること),
P=
1
T
∫
T
v(t)i(t) dt
0
1
T
1
= Vm I m
2
= Vm I m
∫
T
0
sin2 ω dt
(3.37)
となる.即ち,直流の場合は単純に電圧と電流をかけ算
したら良かったのだが,交流の場合の電力を求めるとき
には,電圧と電流の振幅を単純にかけ算したらダメで,
1/2 という係数がつく,ということがわかる.
*5 なお,この 1/2 を掛けるという作業を電力計算のときにちゃん
とやればよいではないか,というポリシーの教科書では,フェー
ザの大きさは振幅である,と定義されている.
第3章
6
豆知識
フェーザ
と表され,これをコイルの式に代入すると,
sin の exp への置き換え具体例 1: sin の代わりに exp
v(t) = jωLAej(ω t+θ)
を使った例
(3.46)
i(t) = A sin(ω t + θ ) なる電流がコイルに流れたときのコ
となる.cos を exp に置き換えた場合は,最終結果の実
イルの電圧 v(t) を sin の表記のままで求める方式と,
部を見ればよい.exp を用いて得られた結果を,その実
exp の表記に直して求める方式とを比較してみよう.
部と虚部がわかるように書くと,
コイルの電圧 v(t) は,
v(t) = jωLA cos(ω t + θ ) − ωLA sin(ω t + θ )
v(t) = L
di
dt
(3.38)
で与えられるから,sin のままで v(t) を求めると以下の
(3.47)
となる.確かに exp で計算した結果の実部は,cos の
ままで計算した結果と同じになっていることが確認で
きる.
ようになる.
v(t) = ωLA cos(ω t + θ )
(3.39)
豆知識
一方,exp を用いると,
sin の exp への置き換え具体例 3: ダメな例
i(t) = Aej(ω t+θ)
(3.40)
す.即ち,置き換えが許される線形微分方程式では「無
と表され,これをコイルの式に代入すると,
j(ω t+θ )
v(t) = jωLAe
ここでは,上記のような置き換えをしてはダメな例を示
い」場合である. i(t) = A sin(ω t + θ ) なる i(t) に対して,
(
(3.41)
w(t) = K
となる.sin を exp に置き換えた場合は,最終結果の虚
di
dt
)2
(3.48)
部を見ればよい.exp を用いて得られた結果を,その実
なる非線形微分方程式を想定してみる.sin のままで計
部と虚部がわかるように書くと,
算すると,
となる.確かに exp で計算した結果の虚部は,sin の
w(t) = K(ωLA)2 cos2 (ω t + θ )
1 − cos[2(ω t + θ )]
= K(ωLA)2
2
ままで計算した結果と同じになっていることが確認で
となる.一方,exp に置き換えた場合には,
v(t) = jωLA cos(ω t + θ ) − ωLA sin(ω t + θ )
(3.42)
きる.
w(t) = K(jωLA)2 exp[2j(ω t + θ )]
2
豆知識
(3.49)
(3.50)
(3.51)
= −K(ωLA) cos[2(ω t + θ )]
(3.52)
−jK(ωLA)2 sin[2(ω t + θ )]
(3.53)
sin の exp への置き換え具体例 2: cos の代わりに exp
を使った例
となる.sin の場合は,虚部を見れば良いはずであるが,
i(t) = A cos(ω t + θ ) なる電流がコイルに流れたときのコ
この虚部が sin のままで計算した結果とは一致していな
イルの電圧 v(t) を cos の表記のままで求める方式と,
いことがわかる.
exp の表記に直して求める方式とを比較してみよう.
豆知識
コイルの電圧 v(t) は,
v(t) = L
di
dt
「j を掛ける」「j で割る」ということの物理的意味
(3.43)
で与えられるから,cos のままで v(t) を求めると以下の
フェーザ形式を導入すると式の中に「j を掛ける」「j で
割る」という形が出てくる.それぞれの物理的意味はそ
れぞれ以下のような意味を持つ.
ようになる.
v(t) = −ωLA sin(ω t + θ )
(3.44)
• j を掛ける
位相を π/2 (90◦ ) だけ進ませる.
一方,exp を用いると,
• j で割る
j(ω t+θ )
i(t) = Ae
(3.45)
位相を π/2 (90◦ ) だけ遅らせる.
3.8 実効値
7
これらについて以下に説明する.
とならねばならない.
まず,jωL という式の中にある「j をかけ算する」と
もしも,|V | = Vm /2,| I | = I m というルールにしてし
いうことの物理的意味を考えてみよう.j は exp 形式で
まうと,P = V I は成立するが,V = [ ]I が成立しなく
書けば
なる,ということはおわかり頂けると思う.V = [ ]I も
( π)
π
j = ej 2 = exp j
2
(3.54)
ちゃんと成立するようにするためには,フェーザ形式の
電圧と電流の大きさ(絶対値)を振幅をもとにして定義
である.従って,j を乗じるということは,
v(t) = jωL i(t)
(3.55)
π
= ej 2 ωL I m ejω t
π
= ωL I ej(ω t+ 2 )
(3.56)
(3.57)
m
という式からわかるように,かけ算する前の物理量の位
相を π/2 だけ進ませることに相当する.
次に,1/(jωC) のという式の中の j による割り算の物
理的意味を考えよう.この場合は,
( π)
π
1
= e−j 2 = exp −j
j
2
するときに,電圧も電流も同じ数で割り算しておかない
といけない,ということがおわかり頂けると思う.
豆知識
自乗平均値 (root-mean-square: rms)
p
波形が正弦波の時は,振幅を 2 で割った電圧と電流を
かけ算したらよい,というルールで電力計算は OK で
あった.では,正弦波で無かったらどうか?例えば矩形
(3.58)
波とか三角波とかではどうか?
この場合は,瞬時電力の一周期分の平均に立ち戻って
からわかるように,割り算する前の物理量の位相を π/2
考える必要がある.即ち,任意の周期関数 (周期=T) を
だけ遅らせることに相当する.
f (t) とし,v(t) = Vm f (t), i(t) = I m f (t) という電圧・電
以上のことを理解していれば,sin(ω t + π/2) や sin(ω t −
π/2) という風にわざわざ書き直さなくても,j によるか
流に対する電力を計算しようとすると,次式のように
なる.
◦
け算・割り算の状況をを見るだけで,π/2 (90 ) の位相の
P=
進み・遅れを把握することができる.
1
T
∫
T
v(t)i(t) dt
0
1
= Vm I m
T
豆知識
p
なぜ 1/ 2?パート 2
P = (1/2)Vm I m の 1/2 をなくそうとするだけなら,
「電圧
の振幅だけ 1/2 にして電流の振幅は振幅のままにしても
ええんちゃうか?」というのも,P = V I という関係式
但し,この疑問を持つということは,P = V I という
関係だけを見ている,という近視眼的な頭なので,少し
頭の使い方を「木を見て森を見ず」ではなく「木を見て
森も見る」という風にして欲しい.
電圧の振幅 Vm と電流の振幅 I m の間には,
Vm = [ ]I m
という関係があるが,電圧と電流をフェーザにしたとき
も,この関係がきちっと成り立つようにしておく必要が
f (t)2 dt
(3.59)
0
いう関係式になっていたところが,任意の周期関数 f (t)
の場合には,
√
Ve = Vm
√
にしているのだろう?という疑問を持った人がいれば,
ちょっと嬉しい (少しは頭を使ってくれているから).
T
p
p
従って,正弦波の場合に Ve = Vm / 2 や I m = I m / 2 と
を成り立たせるだけなら正論である.なんで,フェーザ
形式の電圧と電流の大きさを同じ数で割り算するルール
∫
Ie = Im
1
T
1
T
∫
T
f (t)2 dt,
(3.60)
f (t)2 dt,
(3.61)
0
∫
T
0
ということになる.
v(t) = Vm f (t), i(t) = I m f (t) であったことを利用すれ
ば,以下のようにも書くことができる.
√
∫
1 T
v(t)2 dt,
T 0
√
∫
1 T
i(t)2 dt,
Ie =
T 0
Ve =
(3.62)
(3.63)
即ち,電圧や電流の二乗の平均値が実効値なのであ
ある.即ち,
V = [ ]I
る.このような二乗(自乗ともいう)の平均値のことを
第3章
8
自乗平均値 (root-mean-square: rms) や RMS 値と
言っている.
電気回路学を学んだ人は,交流電圧や交流電流を計測
するときに,計測器が示している値が RMS 値を示して
いるのか,それとも,振幅を示しているのか,というこ
とを常に意識するように心がけて欲しい.そうでない
と,波形を再現するときに困る.また,電力を計算する
ときにも,以下のように困ったことになる.
•「おい,この電圧と電流は単純にかけ算して電力を
計算してもええんか?計測器が実効値を示してたん
か,振幅を示してたんか,ちゃんと記録してたか?」
•「何? 記録してへんかったやと!?」
•「ほな電力がわからんやないか! (`Д´)」
•「電気回路,習たんちゃうんか!?もっぺん測って
こい!」
ということになる.
フェーザ