目白大学大学院 所属 氏名 論文題目 心理学研究科 臨床心理学専攻 修士課程 桝田 智彦 修了論文概要 修了年度 平成 25 年度 指導教員 (主査) 沢崎 達夫 ひきこもりにおける不合理な信念とひきこもりビリーフの検討 本 文 概 要 【問題と目的】 今日,就学・就労といった社会的参加や対人交流を行わずに自宅を中心とした生活を送る“ひきこも り”と呼ばれる状態を呈する人々に,社会的関心が高まっている。近年注目された研究では,草野(2010) , 岡部他(2012)が社会的ひきこもり経験者の GTA 解析結果から,社会的ひきこもり状態から回復し,就 労や就学に至るための心理的な要因として“ (規範・常識・他者からの評価などへの)とらわれからの解 放”が重要であることを見出した。本研究では,ひきこもり状態にある人の“とらわれ”の具体的な内 容を検討するため,ひきこもり支援の専門家へのインタビューから項目化し, “ひきこもり状態にある人 に特有な信念ならびに認知傾向”と定義した“ひきこもりビリーフ”として尺度化(以下、HB 尺度とす る)する。HB 尺度と不合理な信念ならびに家族との情緒的絆尺度を併せて一般青年,ひきこもり群なら びにひきこもり親和群の間(以下、3 群)で比較し,これらの変数間の差異および関連を検討する。 【方法】 研究1:ひきこもり支援に携わる常勤職員,2 施設 8 名に半構造化面接を実施した。 研究 2:ひきこもり支援施設が提供する居場所に来所したひきこもり状態にある青年約 80 名と都内の 大学生ならびに一般社会人約 460 名に対して、①日本版不合理な信念測定尺度短縮版:JIBT-20(森ら, 1994) ,②HB 尺度(予備調査にて作成) ,③ひきこもり親和性尺度(渡部,2010) ,④家族との情緒的絆 尺度(東京都生活文化局,1982) (以下、絆尺度とする)を用いた無記名自己記入式質問紙調査を行った。 配布,回収は主に郵送にて行った。 【結果と考察】 研究 1:得られた情報および先行研究を基に,HB 尺度、全 17 項目 5 件法を作成した。 研究 2:最尤法,プロマックス回転による探索的因子分析の結果 1 因子構造が確認され、最終的に全 外的妥当性の検討の結果は HB 尺度は JIBT-20 と r=.63 16 項目とした。 内的整合性の検討結果はα=.88、 であり、妥当性が確認された。HB 尺度ならびに JIBT-20 における 3 群の差の検討のため、一要因分散分 析を実施した結果、ひきこもり群と親和群はいずれも HB を強く有している点で一般群と異なり(F(2, 477)=7.20,p<.01)、親和群は不合理な信念を強く有している点で一般群と異なることが明らかとなっ た(F(2,477)=10.7,p<.01) 。このことから,ひきこもり群と親和群には“ひきこもり状態にある 人に特有の信念ならびに認知傾向”が強く存在することが示唆され,また,親和群という“社会に適応 している群”が,HB をひきこもり群と同程度に有すると同時に,不合理な信念を強く有していることが 示唆された。 “親和群をひきこもり予備群と考える仮説(東京都青少年・治安対策本部,2008)”に 沿って考えた場合,親和群が HB をひきこもり群と同等レベルで有していた結果から,HB それ自 体は,ひきこもり状態に陥ってしまった結果生まれたものではなく,ひきこもり状態に陥る前からある 程度有しているものと考えられる。 【主要な引用文献】 草野 智洋 (2010)民間ひきこもり援助機関の利用による社会的引きこもり状態からの回復プロセス カ ウンセリング研究 43(3), 226-235.
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