目白大学大学院 修了論文概要 所属 心理学研究科 臨床心理学専攻 修士課程 修了年度 平成 26 年度 氏名 下光 幸子 指導教員 (主査) 高橋 稔 論文題目 「新型うつ病」傾向者の社会的スキルが職務行動への不安と回避を介して 抑うつへ及ぼす影響 本 文 概 要 【問題と目的】 近年,主に産業領域において「新型うつ病」が問題となっている。就業への不安が強く,自宅で過ごす 時や休日には抑うつが改善されることや(石川・芦原・松田・山内,2009) ,抗うつ薬が効きにくく, 他者に対する攻撃性である他責や他罰の強いことが特徴として挙げられる(夏目,2009) 。傳田(2009) は,社会人として未熟であることから,職業生活への適応の仕方や,コミュニケーションの方法を身に 付ける必要のあることを報告しており,社会的スキルの不足と攻撃性の高さが,職務行動への不安を高 め,不適応的な行動を招いている可能性が考えられる。しかし「新型うつ病」における社会的スキルの 役割や攻撃性との関連について,あまり報告されていない。そこで,本研究では「新型うつ病」傾向者 の社会的スキルが,職務行動への不安,職務行動の回避,そして抑うつに対して及ぼす影響を検証する ことを目的とする。このとき,攻撃性がどのような影響を及ぼすかも合わせて検証する。 【方 法】 予備調査では職務行動への不安・職務行動の回避を測定する尺度を作成した。本調査では,変数間の関 連性を調べた後,社会的スキルと攻撃性が,職務行動への不安と回避を介して,抑うつに及ぼす影響に ついてモデルを検証した。調査対象者:予備調査;国内在勤の社会人 50 名,本調査;400 名。質問紙 の構成:①フェイスシート,②職務行動への不安・回避尺度(予備調査で作成) ,④企業従業員用ソーシ ャルスキル尺度(田中,2007) ,⑤日本版 Buss-Perry 攻撃性質問紙(安藤・曽我・山崎・島井・嶋田・ 宇津木・大芦・坂井,1999) ,⑥抑うつ状態自己評価尺度日本語版(島・鹿野・北村・浅井, 1985) ,⑦ グローバルうつ病尺度(福西,2012) ,個別自己記入式の質問紙調査を行った。倫理事項:口頭または 文書にて調査の概要および倫理事項を説明し,同意の上,回答を求めた。 【結 果】 相関分析と重回帰分析の結果から,社会的スキルが低く,攻撃性が高いとき,職務行動への不安と抑う 」は, 「健 つが高まることが明らかになった。一要因分散分析の結果から「新型うつ病傾向群(N =22) 」と比較して,トラブルシューティング・スキルが有意に低く,攻撃性の短気と敵意, 常群(N =216) 職務行動への不安と抑うつが有意に高いことが明らかになった。パス解析によって,モデルを検証した 結果, 「新型うつ病傾向群」の,職務行動への不安を招く要因として,トラブルシューティング・スキル が有意に低いこと,攻撃性の短気と敵意が,職務行動への不安や抑うつに対して,有意な正の影響を及 ぼすことが明らかになった。 【考 察】 「新型うつ病」傾向者は,トラブルシューティング・スキルの低さから,困難場面において適切な問題 解決行動がとれないこと,短気や敵意と言った攻撃性の高さが,環境への適応をより困難にし,職務行 動への不安や,抑うつを高めていることが明らかとなった。したがって, 「新型うつ病」傾向者に対して, 社会的スキルの獲得という行動的な側面のみならず,短気や敵意といった感情や認知的な側面に対する 働きかけが求められることが示唆された。 【主要な引用文献】 傳田健三(2009) .若者の「うつ」 「新型うつ病」とは何か 筑摩書房
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