ラグランジュの運動方程式の例題 (津留 作成) ラグランジアン : L = K − U (K は運動エネルギー,U はポテンシャルエネルギー) d ( ∂L ) ∂L ラグランジュの運動方程式: − =0 dt ∂ q˙r ∂qr O 1. 自由落下運動 ポテンシャルエネルギー:U = −mgx , 働く力:F = − dU = mg dx x 1 mx˙ 2 + mgx 2 ∂L ∂L d ラグランジュの運動方程式: = mx, ˙ = mg, (mx) ˙ − mg = 0, x ¨=g ∂ x˙ ∂x dt 1 一般解:x = gt2 + v0 t + x0 2 ラグランジアン: L = mg k 2. 水平なバネに取り付けられた質点の単振動 1 dU ポテンシャルエネルギー:U = kx2 , 働く力:F = − = −kx 2 dx 1 1 ラグランジアン: L = mx˙ 2 − kx2 2 2 ∂L ∂L d ラグランジュの運動方程式: = mx, ˙ = −kx, (mx) ˙ + kx = 0, m¨ x = −kx ∂ x˙ ∂x dt √ 一般解:x = A cos(ωt + α) (ω = k/m) x軸 m x O 3. 垂直なバネに取り付けられた質点の単振動 バネの自然長の位置を原点に,鉛直下方に +x 軸をとる. dU 1 働く力:F = − = mg − kx ポテンシャルエネルギー:U = −mgx + kx2 , 2 dx 1 1 ラグランジアン: L = mx˙ 2 + mgx − mkx2 2 2 O ∂L d ∂L = mx, ˙ = mg − kx, (mx) ˙ = mg − kx, ラグランジュの運動方程式: ∂ x˙ ∂x dt √ k mg mg k x ¨ = − (x − ), u = x − と置くと u ¨ = − u = −ω 2 u (ω = k/m) m k k m mg mg mg x 一般解:x = +u = + A cos(ωt + α) · · · 釣り合いの位置 x0 = のまわりでの単振動 k k k k 4. 連成振動 k1 m k m 右図のようにバネ定数 k ,質量 m の 2 つ の振動子がバネ定数が k1 のバネでつながれ x2 x1 ている系を考える. ラグランジアンは L= m 2 k k1 k (x˙ + x˙ 22 ) − x21 − (x1 − x2 )2 − x22 2 1 2 2 2 ラグランジュの運動方程式を書くと O ∂L ∂L = mx˙ 1 , = −kx1 − k1 (x1 − x2 ), m¨ x1 = −(k + k1 )x1 + k1 x2 · · · 1 ∂ x˙1 ∂x1 k m O ∂L ∂L = mx˙ 2 , = k1 (x1 − x2 ) − kx2 , m¨ x2 = k1 x1 − (k + k1 )x2 · · · 2 ∂ x˙ 2 ∂x2 解法 1 OO xj = Aj eiωt (j = 1, 2) と置き 1 , 2 に代入する. O1 より −mω A = −(k + k )A + k A , {mω − (k + k )}A + k A = 0 · · · O3 O2 より −mω A = k A − (k + k )A , k A + {mω − (k + k )}A = 0 · · · O4 O3 , O4 が A = A = 0 以外の解をもつには係数行列式が 0(永年方程式) でなければならない. 2 2 1 1 1 2 1 1 1 1 1 2 2 2 1 1 1 2 1 1 1 2 2 2 mω 2 − (k + k1 ) k1 k1 mω 2 − (k + k1 ) {mω 2 − (k + k1 )}2 = k12 , ω 2 = = 0, k + k1 ± k1 , m ω12 = O k k + 2k1 , ω22 = ··· 5 m m 固有ベクトル: O (a) ω = ω1 のとき、mω 2 = mω12 = k を 3 に代入すると −k1 A1 + k1 A2 = 0, A1 = A2 O4 に代入すると k A − k A 1 1 1 2 = 0, A1 = A2 いずれも A1 : A2 = 1 : 1 になる.これは、 ⃝−→ ⃝−→ のような同位相の運動を表している. O (b) ω = ω2 のとき、mω 2 = mω22 = k + 2k1 を 3 に代入すると k1 A1 + k1 A2 = 0, A1 = −A2 O4 に代入しても同じ式が得られ、いずれも A 1 : A2 = 1 : −1 になる. これは、 ←−⃝ ⃝−→ のような逆位相の運動を表している. 一般解: xj = aj exp(iω1 t) + bj exp(iω2 t) (j = 1, 2) 解法 2 u1 = x1 + x2 , u2 = x1 − x2 と置くと, O x1 = (u1 + u2 )/2, x2 = (u1 − u2 )/2, x˙ 1 = (u˙ 1 + u˙ 2 )/2, x˙ 2 = (u˙ 1 − u˙ 2 )/2 · · · 7 O を得る.これらを 1 に代入すると L= O 1 1 1 m (u˙ 21 + u˙ 22 ) − k u21 − (k + 2k1 ) u22 · · · 8 4 4 4 を得る.これから,ラグランジュの運動方程式を作ると O ∂L m ∂L 1 = u˙ 1 , = − ku1 , m¨ u1 = −ku1 · · · 9 ∂ u˙1 2 ∂u1 2 O ∂L m ∂L 1 = u˙ 2 , = − (k + 2k1 )u2 , m¨ u2 = −(k + 2k1 )u2 · · · 10 ∂ u˙ 2 2 ∂u2 2 O9 , O10 から u と u は,それぞれ,O5 の角振動数 ω と ω で振動することが分かる. O8 は u と u が分離しているので,L = L + L と書くことができる.ただし, 1 1 L1 = 2 1 2 1 1 m u˙ 21 − k u21 , 4 4 1 L2 = 2 2 1 1 m u˙ 22 − (k + 2k1 ) u22 4 4 2 k m 5. 2 原子分子 m 連成振動で両端のバネを切ると右図のような 2 原子分子になる. L= x2 x1 ラグランジアン: O 2 原子分子 m 2 k (x˙ 1 + x˙ 22 ) − (x1 − x2 )2 · · · 1 2 2 ラグランジュの運動方程式は次のようになる. O k(x − x ) · · · O 3 ∂L ∂L = mx˙ 1 , = −k(x1 − x2 ), m¨ x1 = −k(x1 − x2 ) · · · 2 ∂ x˙1 ∂x1 ∂L ∂L = mx˙ 2 , = k(x1 − x2 ), m¨ x2 = ∂ x˙ 2 ∂x2 1 2 解法 1 OO xj = Aj eiωt (j = 1, 2) と置き 2 , 3 に代入する. O2 より −mω A = −kA + kA , (mω − k)A + kA = 0 · · · O4 O3 より −mω A = k A − kA , kA + (mω − k)A = 0 · · · O5 O4 , O5 が A = A = 0 以外の解をもつには係数行列式が 0(永年方程式) でなければならない. 2 2 1 1 1 2 1 2 2 1 2 1 2 2 1 2 2 mω 2 − k k k mω 2 − k = 0, (mω 2 − k)2 = k 2 , ω 2 = k ± k , ω12 = 0, ω22 = 2k · · · 6 m m O 固有ベクトルを求める. O (a) ω = ω1 = 0 を 4 に代入すると −kA1 + kA2 = 0, A1 = A2 O5 に代入すると kA − kA 1 2 = 0, A1 = A2 いずれも A1 : A2 = 1 : 1 になる.これは, ⃝−→ ⃝−→ のような並進運動を表している. O (b) ω = ω2 のとき,mω 2 = mω22 = 2k を 4 に代入すると kA1 + kA2 = 0, A1 = −A2 O5 に代入しても同じ式が得られ,いずれも A 1 : A2 = 1 : −1 になる. これは, ←−⃝ ⃝−→ のようなバネの伸縮運動を表している. 解法 2 u1 = x1 + x2 , u2 = x1 − x2 と置くと, O x1 = (u1 + u2 )/2, x2 = (u1 − u2 )/2, x˙ 1 = (u˙ 1 + u˙ 2 )/2, x˙ 2 = (u˙ 1 − u˙ 2 )/2 · · · 7 O を得る.これらを 1 に代入すると L= O m 2 k (u˙ 1 + u˙ 22 ) − u22 · · · 8 4 2 を得る.これから,ラグランジュの運動方程式を作ると O m ∂L ∂L = u˙ 1 , = 0, m¨ u1 = 0 · · · 9 ∂ u˙1 2 ∂u1 3 O ∂L m ∂L = u˙ 2 , = −ku2 , m¨ u2 = −2ku2 · · · 10 ∂ u˙ 2 2 ∂u2 O9 から u˙ = (一定) を得る. u は重心の座標である.したがって,重心は等速並進運動する. O10 から,2 原子間の距離 (変位)u はO6 の角振動数 ω で単振動する. 一般解は,u = v t + u , u = A cos(ω t + α) であり,これらをO 7 に代入すれば x と x が得られる. 1 2 1 1 2 1 0 0 2 2 2 1 j−1 6. 1次元格子振動 j 2 j+1 ラグランジアン: L= xj−1 ∞ ∞ K ∑ m ∑ 2 x˙ j − (xj − xj−1 )2 2 2 j=−∞ xj xj+1 j=−∞ ラグランジュの運動方程式: O ∂L ∂L = mx˙ n , = −K(xn − xn−1 ) + K(xn+1 − xn ), mx¨n = K(xn+1 + xn−1 − 2xn ) · · · 1 ∂ x˙n ∂xn O (a) 解法:xn = Aei(kna−ωt) と置いて 1 に代入してみる。 (b) (c) (d) (e) m(−iω)2 Aei(kna−ωt) = KAei(kna−ωt) (eika + e−ika − 2), √ 4K ka K 2K ka 2 2 2 (1 − cos ka) = sin , ω=2 −mω = K(2 cos ka − 2), ω = sin · · · 分散関係 m m 2 m 2 2π 時間的周期:T = ω 2π 2π 空間的周期 (波長):k(∆na) = kλ = 2π, λ = , k= (波数) k λ ω ω 位相速度:na = x と置くと位相が 0 の点は kx − ωt = 0, x = t = vp t より、vp (= ) の速度で移動す k k る。vp を位相速度という。λ = vp T (1 周期 T の間に進む距離) という関係がある。 √ ∂ω K ka 群速度を vg = で定義する。今の場合、vg = a cos である。 ∂k m 2 (f) 分散:ω ∝ k の場合は位相速度 vp と群速度 vg が等しくなるが、今の場合は異なる。これを分散があると いう。光の分散は、媒質中の光の速度、したがって屈折率が振動数 (波長) によって異なるために生じる現 象である。 参考 固有値・固有ベクトル n 次の正方行列 A に対して,連立方程式 Au = λu が成り立つとき λ を固有値,u を固有ベクトルという.こ の方程式は u = 0(自明な解) 以外の解をもつときのみ意味があり,そのときの λ は n 次方程式 (固有方程式) O の解として求められる.なぜならば,O 1 は (A − λE)u = 0 と変形でき,|A − λE | ̸= 0 ならばクラーメルの公式 を使って u = 0 となってしまうからである.言い換えると,O 1 は逆行列 (A − λE) が存在しない条件である. |A − λE| = 0 (E は単位行列) · · · 1 −1 ( ) n = 2 の場合を考える.A = ac db , u = (x, y) とおく.固有方程式は a−λ b x = 0··· 2 (A − λE)u = 0, c d−λ y O 4 すなわち, (a − λ)x + by = 0 ··· 3 cx + (d − λ)y = 0 O となる. 2 元の連立方程式 kx + ly = 0 · · · (1) mx + ny = 0 · · · (2) が x = y = 0 以外の解を持つには (1) と (2) が同じ式,つまり,(1) を定数倍したものが (2) であればよい.比例 式で書くと k : m = l : n,内項の積=外項の積から,kn − lm = 0 が成り立てばよい.書き方を変えると,係数 k l ) の行列式が 行列 B = ( m n O |B| = kn − lm = 0 · · · 4 となる.このとき x, y の値は一義的に決まらず,比が決まるだけである.つまり, O O O x l n = − = − が成り立つ. y k m 結局,n = 2 のとき固有方程式 1 は, 3 の係数行列式に 4 を適用すれば, a − λ b = (a − λ)(d − λ) − bc = λ2 − (a + d)λ + ad − bc = 0 · · · 5 |A − λE| = c d − λ O のような λ についての 2 次方程式になる. 3 1 の固有値と固有ベクトルを求めよ. 例題 行列 A = 2 4 3−λ 1 であるから固有方程式は 解 A − λE = 2 4−λ |A − λE| = (3 − λ)(4 − λ) − 1 × 2 = λ2 − 7λ + 10 = 0 となり,解 λ = 2, 5 を得る. O 1) a = 3, b = 1, c = 2, d = 4, λ = 2 を 3 に代入すると x + y = 0 · · · (1) 2x + 2y = 0 · · · (2) が得られる.(1) 式を 2 倍したものが (2) になっており,どちらの式からも x : y = 1 : (−1) が得られる.固有ベ クトルは u1 = (α, −α)(α は任意の定数) である. O 2) a = 3, b = 1, c = 2, d = 4, λ = 5 を 3 に代入すると −2x + y = 0 · · · (1) 2x − y = 0 · · · (2) 5 が得られる.(1) 式を (-1) 倍したものが (2) になっており,どちらの式からも x : y = 1 : 2 が得られる.固有ベク トルは u2 = (β, 2β)(β は任意の定数) である. 固有ベクトルを |u| = 1 になるようにすることがある.これを,規格化するという.u1 , u2 を規格化すると 1 1 u1 = √ (1, −1), u2 = √ (1, 2) 2 5 となる. 物理の固有方程式 物理法則には,量子力学の波動方程式 Hψ = Eψ (H は演算子または行列,ψ は複素関数またはベクトル) など,固有方程式の形をしたものが多い. 行列 a11 a12 · · · a1n a21 a22 · · · a2n A= .. .. .. .. . . . . . an1 an2 .. ann の要素が aij = aji を満たすとき A を実対称行列という.また,aij = a ¯ji (z = x+iy のときその共役複素数 は z¯ = x−iy ) を満たす複素行列 A をエルミート行列という.エルミート行列には実対称行列が含まれている. O2 で言えば b = c である.このときO5 の判別式は D = (a + d) − 4(ad − bc) = (a − d) + 4b 2 2 2 > = 0 となり,実 数解を持つ.すなわち,実対称行列 (エルミート行列を含む) の固有値は実数である.これは任意の n につい て成り立つ. 連成振動の場合 連成振動は実対称行列の一つの例である. ω = ω1 のときの固有ベクトルは u1 = (α, α), ω = ω2 のときの固有ベクトルは u2 = (β, −β) である.規格化 すると u1 = √1 (1, 1), 2 u2 = √1 (1, −1) 2 になる.u1 と u2 の内積を計算すると u1 · u2 = 0 になる.つまり,u1 と u2 は直交している.これは,偶然ではない. 「任意の次数のエルミート行列では異なる固有値に対する固有ベ クトルは直交する」という性質がある.このような固有ベクトルを「規格直交化されている」という. 6
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