『公共経済学講義:理論から政策へ』 1 数学付録:2 次形式 須賀晃一[編] c ⃝Koichi Suga, 2014 発行所:有斐閣 2014 年 6 月 25 日 初版第 1 刷発行 ISBN 978-4-641-16445-1 1 須賀晃一(編)『公共経済学講義:理論から政策へ』(有斐閣,2014 年)の【数学付録】を項目別に公 開しています。本書を読み進めて頂くに際してのご参考に,ぜひご利用下さい。 1 2 次形式 1 2 次形式と対角化 A を n 次の対称行列,xを Rn のベクトルとし,積 x′ Ax を考えよう.これを成分表示 すれば, x′ Ax = = n ∑ n ∑ aij xi xj i=1 j=1 a11 x21 + a12 x1 x2 + · · · + a1n x1 xn +a21 x2 x1 + a22 x22 + · · · + a2n x2 xn ············ +an1 xn x1 + an2 xn x2 + · · · + ann x2n ∑ = a11 x21 + a22 x22 + · · · + ann x2n + 2 aij xi xj i<j となる.これは x1 , x2 , · · · , xn に関して 2 次の同次式となっている.このような x′ Ax を x の 2 次形式といい, Q(x) = x′ Ax で表わす. [ ] 1 2 例 1. A = のとき,2 次形式 Q(x) は 2 −2 [ ][ ] 1 2 x1 Q(x) = (x1 , x2 ) = x21 − 2x22 + 4x1 x2 2 −2 x2 である. 対称行列の固有値は実数である.以下では,2 次形式と固有値の関係を考察しよう. 定理 1. n 次の正方行列 A において,正則行列 P によって P −1 AP を対角行列にする (こ れを A の対角化という) ための必要十分条件は,A が 1 次独立な n 個の固有ベクトルを持 つことである.このとき,P −1 AP の対角要素は A の固有値になる. 例 2. 例 1 において,P −1 AP を求めてみよう. -3,[2 であるから,これに対 [A の固有値は ] ] 1 2 する固有ベクトルを求めてみると,-3 のとき s ,2 のとき t となる.ここで s,t −2 1 は任意の数である.いま, [ ] [ ] 1 2 x1 = , x2 = −2 1 2 とおいて,P = [x1 , x2 ] とすると, [ ][ ][ ] [ ] 1 − 52 1 2 1 2 −3 0 −1 5 P AP = 2 = 1 2 −2 −2 1 0 2 5 5 を得る. もし P が直交行列ならば,P −1 = P ′ であるから,P ′ AP を (??) の形の対角行列にする ことができる.このとき,次の定理を得る. 定理 2. 2 次形式 Q(x) = x′ Ax に対し,正則直交行列 P をとれば,(正則)1 次変換 x = P y によって, x′ Ax = y ′ By = λ1 y 21 + λ2 y 22 + · · · + λn y 2n (1) とすることができる.ここで B = P ′ AP , λi を 2 次形式の標準形という. (i = 1, 2, · · · , n) は A の固有値である.(1) [ 1 ] √ x 5 ,−2 に対する固 例 3. 例 2 において,−3 に対する固有ベクトルを z 1 = ∥x11 ∥ = − √25 [ 2 ] √ x 2 有ベクトルを z 2 = ∥x2 ∥ = 15 とおき,P = [z 1 , z 2 ] とすると,これは直交行列となる. √ 5 [ ′ P AP = √1 5 √2 5 − √25 ][ √1 5 であるから, ][ 1 √ 1 2 5 2 −2 − √25 [ −3 0 Q(x) = x Ax = [y1 , y2 ] 0 2 ′ √2 5 √1 5 ] [ ] −3 0 = 0 2 ][ ] y1 = −3y12 + 2y22 y2 を得る.ここで,y = P −1 x である. この例と同様にして,n 個の 1 次独立な固有ベクトルからなる行列 [x1 , x2 , · · · , xn ] は, z i = xi /∥xi ∥ (i =, 2, · · · , n) とおくことにより,直交行列 [z 1 , z 2 , · · · , z n ] に作り変えら れる.この方法をシュミットの直交化法という. 2 2 次形式の符号 2 次形式 Q(x) = x′ Ax について,次の符号を定義しよう. (1) 任意の x ̸= 0 に対して Q(x) > 0 となるとき,Q は正値または,正の定符号であると いう. (2) 任意の x に対して Q(x) ≥ 0 となるとき,Q は非負値または正の半定符号 (非負定符 号) という. (3) 任意の x ̸= 0 に対して,Q(x) < 0 となるとき,Q は負値または負の定符号であると いう. 3 (4) 任意の x に対して,Q(x) ≤ 0 となるとき,Q は非正値または負の半定符号 (非正定 符号) という. (5) 任意の x ̸= 0 に対し,Q(x) > 0 となったり,Q(x) < 0 となったりするとき,Q は不 定値であるという. 例 4. x21 + 3x22 ,x21 − 2x1 x2 + x22 ,−x21 − x22 ,−4x21 + 4x1 x2 − x22 はそれぞれ,正値,非 負値,負値,非正値である.一方,例 1 の 2 次形式 x21 − 2x22 + 4x1 x2 は不定値である. ところで,2 次形式において, Q(kx) = (kx)′ A(kx) = k 2 x′ Ax = k 2 Q(x) ¯ (¯ が成立するから,x ̸= 0 に対する Q(x) の符号は,∥¯ x∥ = 1 であるような x x = x/∥x∥) 対してのみ調べれば十分である. 定理 3. ∥x∥ = 1 の下で Q(x) = x′ Ax の最大値は A の最大固有値に,最小値は A の最小 固有値に等しい. この定理から直ちに,次の定理が得られる. 定理 4. 2 次形式 Q(x) = x′ Ax において,A の固有値を λ1 , λ2 , · · · , λn とすると, (i) Q が正値 ⇐⇒ λi > 0 (i = 1, 2, · · · , n) (ii) Q が非負値 ⇐⇒ λi ≥ 0 (iii) Q が負値 ⇐⇒ λi < 0 (iv) Q が非正値 ⇐⇒ λi ≤ 0 (i = 1, 2, · · · , n) (i = 1, 2, · · · , n) (i = 1, 2, · · · , n) が成立する. [ ] 4 2 例 5. 行列 の 2 次形式 4x21 + x22 + 4x1 x2 は非負値である. 2 1 以上は,標準形を利用して 2 次形式の符号を判定する方法であった.次の定理は行列式 を使ってその符号を判定する方法である. 定理 5. 2 次形式 Q(x) = x′ Ax が正値であるための必要十分条件は,A のすべての主小行 列式 |Ar | (r = 1, 2, · · · , n) が正となることである.すなわち, a a12 11 · · · a 11 a12 |A1 | = a11 > 0, |A2 | = > 0, · · · · · · , |An | = . . . . . . . . . . . . . . > 0 a21 a22 an1 · · · ann 2 次形式 x′ Ax が負値ならば x′ (−A)x は正値となるから,ただちに次の定理を得る. 4 定理 6. 2 次形式 Q(x) = x′ Ax が負値であるための必要十分条件は,主小行列式 |Ar | が 条件 (−1)r |Ar | > 0 (r = 1, 2, · · · , n) を満たすことである.すなわち, a a12 11 · · · a 11 a12 |A1 | = a11 < 0, |A2 | = > 0, · · · · · · , (−1)n |An | = (−1)n . . . . . . . . . . . . . . > 0 a21 a22 an1 · · · ann [ ] a b 例 6. 行列 の 2 次形式は ax21 + cx22 + 2bx1 x2 となる.このとき, b c a > 0,ac − b2 > 0 ならば正値 a < 0,ac − b2 > 0 ならば負値 となる. 最後に,x に, b′ x = b1 x1 + b2 x2 + · · · + bn xn = 0, b1 ̸= 0 (2) という条件がついている場合に,2 次形式 Q(x) = x′ Ax の符号に関する定理を与えておく. 定理 7. 2 次形式 Q(x) = x′ Ax が b′ x = 0 という条件の下で (i) 正値となるための必要十分条件は,|Er | < 0 (r = 2, 3, · · · , n) となることである. (ii) 負値となるための必要十分条件は,(−1)r |Er | > 0 ある. ここで, Er = (r = 2, 3, · · · , n) となることで 0 b1 b2 · · · br b1 a11 a12 · · · a1r b2 a21 a22 · · · a2r ...................... br ar1 ar2 · · · arr [ ] 1 2 例 7. A = のときの 2 次形式 Q(x) に,条件 x1 + 2x2 = 0 が付加されたとき,符 2 −2 号がどうなるかを考えよう. 0 1 2 |E2 | = 1 1 2 = 6 > 0 2 2 −2 であるから (E3 は存在しない),2 次形式の符号は負値となる. 練習問題 1.次の行列の 2 次形式を求めよ. 5 1 2 3 1 [ ] 1 −1 1 2 0 1 2 1 −2 (1) (2) −1 1 1 (3) 3 1 0 1 −2 4 1 1 1 1 2 1 1 2.次の行列の 2 次形式を標準形に直し,符号を判定せよ. [ ] 0 1 1 1 −2 (1) (2) 1 0 1 −2 4 1 1 0 3.次の行列の 2 次形式の符号を,主小行列式を求めることによって判定せよ. 1 2 3 1 3 1 −2 2 0 1 2 (1) 1 (2) 3 −2 3 1 0 1 −2 −2 6 1 2 1 1 0 1 −1 x1 ′ 4.A = 1 0 0 で,b x = (1, −2, 3) x2 = 0 なる制約条件が付加されたときの x3 −1 0 1 2 次形式の符号を判定せよ. 6
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