行列式 (Determinant) 劉 雪峰(Liu Xuefeng) 2014/05/14-24 行列式 1 行列式とは • 連立一次方程式問題の可解性などの性質を表す量(計算式) 1.1 例 次の連立一次方程式を考える。 ( )( ) a11 a12 x1 =b a21 a22 x2 If a11 a22 − a12 a21 ̸= 0, x1 = a22 b1 − a12 b2 a11 a22 − a12 a21 x2 = a21 b1 − a11 b2 a11 a22 − a12 a21 Remark 1.1 行列 A = (ai j) に関する量 a11 a22 − a12 a21 は一次方程式の可解 性を判断するための指標である。 1.2 定義 特別な場合 • (1) 1 × 1 行列 A の行列式 : |A| = det(A) = a11 (2) 2 × 2 行列 A の行列式 |A| = det(A) = a11 a22 − a12 a21 (1) 一般的な正方行列の行列式の定義は? 定義 n × n 正方行列 A に関して、次の性質を持つ量(計算式)は A 行列式 という。 1) |In | = 1 2) 2つの行を入れ替えると、符号が変わる。 1 3) 行列の各行に関して、線形写像である。行列の第 i 行を ai として、行 列式を次の形に書く。 |A| = det(a1 , a2 , · · · , an ) (3.1) det(· · · , a ˜i + a ˆi , · · · ) = det(· · · , a ˜i , · · · ) + det(· · · , a ˆi , · · · ) (3.2) det(· · · , λai , · · · ) = λdet(· · · , ai , · · · ) 練習 2 × 2 の場合、(1) を確認しなさい。 注意点 • det(A + B) ̸= det(A) + det(B) (反例を考えなさい) • det(AB) = det(A)det(B) (後で説明する) 2 定義から分かる性質 性質4 A のある2つの行列が同じであれば、|A| = 0。 (定義の性質2に よる分かる) 性質5 行列の1つの行の k 倍を他の行に加えると、行列式は不変。(定義の 性質3による分かる) 性質6 行列の1つの行が 0 ベクトルであれば、|A| = 0。 性質7 三角行列の行列式は対角成分の積である。(復習:下三角行列、上三 角行列の定義) 説明:以下は 3 × 3 の場合を考える。 a11 0 A = a21 a22 a31 a32 性質 3.1)によって、 a11 0 a22 |A| = 0 a31 a32 0 0 a33 a11 + a21 a31 0 0 a33 0 0 a32 0 0 a33 =: |A11 | + |A12 | A12 を2つ場合に区別して、|A12 | = 0 を説明する。 a) a11 = 0: 第1行が 0 になって、自明。 b) a11 ̸= 0: 第1行の −a12 /a11 倍を第2行に加えて、 第2行が 0 ベクトルと なる。この作業で行列式は不変。よって、|A12 | = 0。よって、|A| = |A11 |。 同じように、A11 の第3行を展開して、|A| = |diag(a11 , a22 , a33 )| = a11 a22 a33 が分かられる。 2 性質 8 |AB| = |A||B| |B| ̸= 0 の時、以下の A の関数が A の行列式となることを証明すれば O.K.。 f (A) = |AB| |B| (|B| ̸= 0) |B| = 0 の時、以下の性質 10 による簡単に証明できる。 消去法の紹介 3 3.1 置換行列 2つの行を入れ替えるのは置換行列 P に対応する。置換行列の性質: a) P P T = In b) |P | = −1 3.2 消去法 正方行列 A に対して、以下の作業によって対角以下の成分を「消去」でき る。当該作業は A の列を1つずつ処理する。列の番号を k と書いて、k の初 期値を k = 1 とする。 (1) A の第 k 列の対角の以下の非ゼロ要素を探し、非ゼロ要素が属する行 と第 k 行を入れ替える。全部 0 であれば、次の列に行く。行の入れ替え に対応する置換行列を Ek と書く。入れ替えが要らない場合、Ek = I と する。入れ替えられた行列はまた A と書く。 (2) 各 i = k + 1, · · · , n について、A の第 k 行の −aki /akk 倍を第 i 行に加 える。特に、ak+1,k , · · · , an,k が 0 になる。この作業に対応する行列を下 三角行列 Lk と書く。Lk の対角成分が 1、|Lk | = 1 を注意しなさい。 3 (3) k = k + 1, (1),(2) のような作業で A の第 k 列の対角成分とそれ以下の 要素を処理する。 以上の作業で、行列 A を第 n − 1 列まで処理し、上三角行列 U が求めら れる。さらに、行列 A を以下のよになる。 (Ln−1 En−1 ) · · · (L2 E2 )(L1 E1 )A = U 例: (2) 以下の行列 A を消去法によって行列式を計算する。 Remark 3.1 授業中は、上記の例の計算から、E1 , E2 , L1 , L2 を説明しなか ら、消去法を解説する。 4 行列式の他の性質 性質 9 |AT | = |A| 証明:消去法によって、上三角行列 U を求める。式 (2) と性質 8 によっ て、以下のことが分かる。 |Ln−1 En−1 | · · · |L2 E2 ||L1 E1 ||A| = |U | さらに、|Ek | = −1 or 1, |Lk | = 1 を利用して、次ぎの式を得る。 ) (n−1 ∏ |Ek | |A| = |U | k 式(2)の両辺の転置を考えると、|Ek | = |EkT | と |U | = |U T | によって、以下 のことが分かる。 (n−1 ) (n−1 ) ∏ ∏ T T T |A | = |U | |Ek | = |U | |Ek | k k 従って、|A| = |AT |。 Remark 4.1 この性質によって、行列式の「行」に関する結論は「列」に対 しても成り立っている。 性質 10 |A| ̸= 0 ⇔ 行列が正則である. (ヒント:上三角行列 A の場合、当該結論が成り立つすることを証明する。そ の後、 式 (2) を利用することで、 一般的な行列に対して、 性質 10 を証明できる。) まず、対角行列 A の場合を考える。 4 (a) |A| = 0 ⇒ 対角成分の1つが 0 ⇒ 正則ではない (b) |A| ̸= 0 ⇒ 対角成分は 0 ではない ⇒ 逆行列 A−1 が対角行列かつ対角成 分 A−1 ii = 1/Aii 。すなわち、正則行列である。 下三角行列 A について、以下2つのことを証明すれば十分。 |A| ̸= 0 → A が正則 |A| ̸= 0 によって、A の対角成分が 0 にならない。A を消去法によって対 角行列 Λ までに変形できる。特に、A の対角成分と対角以上の成分が変わら ないことを注意する。 Ln−1 · · · L2 L1 A = Λk (a) ですので、A の対角成分と Λ の成分は同じである。よって、Λ は正則行列 である。A の逆行列は Λ,Lk , Ek の逆行列の積を使って表現できる。よって、 A の逆行列が存在することが分かる。 (b) |A| = 0 → A が正則ではない |A| = 0 の時、A の対角成分 Akk = 0 かつ Aii ̸= 0 (1 ≤ i < k) と仮定する。 以下は「x ̸= 0 かつ xA = 0」を満たす x を作る。 A の第1列から k − 1 列まで消去法を行って、Λk まで変形できる。 Lk−1 · · · L2 L1 A = Λk 特に、Λk の第 k 行は 0 となることは分かる。以下のように xk を定義すると、 xk Λk = 0 が分かる。 xk = (0, · · · , 0, 1, 0, · · · , 0) (第 k 成分のみ 1 である。) よって、 xk Lk−1 · · · L2 L1 A = 0 行列 Li が正則であるので、x := xk Lk−1 · · · L2 L1 ̸= 0 を簡単に証明できる。こ の x について、x ̸= 0 かつ xA = 0。よって、A が正則行列にならないことは 分かる。 5 補題 補題 1 正則な行列 A について、「x ̸= 0 → Ax ̸= 0」 証明:Ax = 0 とすると、A−1 (Ax) = 0 が分かる。また、A−1 Ax = (A−1 A)x = Ix = x ̸= 0 によると、矛盾になる。 補題 2 x ̸= 0 かつ Ax ̸= 0 の場合、A は正則行列にならない。 5
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