No.16

前回の復習から始める.
題 4.4.2 に反する.よってこの操作は有限回で終わる.できる限り多く取ったベクトルの組を w1 , . . . , wn と
すると,その取り方から W = Span⟨w1 , . . . , wn ⟩ であるので W は有限次元であり,w1 , . . . , wn は線形独
立なので,このベクトルの組は W の基底である.
a1 , . . . , am を V の基底とすると,V = Span⟨a1 , . . . , am ⟩ に w1 , . . . , wn は含まれる.また w1 , . . . , wn
は線形独立なので,補題 4.4.2 より dim W = n ≤ m = dim V が成り立つ.
{0} でない有限次元線形空間 V のベクトルの組 a1 , . . . , an が V の基底であるとき,n を V の
次元 (dimension) といい,dim V で表す.また,V = {0} のときは dim{0} = 0 と定める.V の
次元は基底の取り方によらない (定理と定義 4.4.1) ことの証明が残っていた.その証明には次の補
もし n = m ならば,命題 4.4.4(1) により,w1 , . . . , wn も V の基底であるので,W = Span⟨w1 , . . . , wn ⟩ =
題が本質的である.
V である.逆に W = V なら,定理と定義 4.4.1 より n = m である.(証明終わり)
補題 4.4.2 V = Span⟨a1 , . . . , am ⟩ であるとき,b1 , . . . , bn が V の線形独立なベクトルの組なら,
※ この定理の前半部分「...W は有限次元であり」は,プリント 26 ページ右に書いた命題 4.3.1
n ≤ m である.
と同じである.また,この証明をよく見ればわかるように,W が有限次元であることの証明が面
倒で,命題 4.3.1 を認めれば,証明は最後の 4 行だけで済んでしまう.
さて,あらかじめ V の次元がわかっているとき,V のベクトルの組が基底であるか否かの判定
第 14 回の講義で,線形空間 V の二つの部分空間 W1 , W2 に対し,その共通部分と和空間
には,次の命題が有用である.
W1 ∩ W2 = {x | x ∈ W1 かつ x ∈ W2 },
命題 4.4.4 有限次元線形空間 V の次元が n であるとする.
を紹介した (講義プリント 26 ページ左).W1 , W2 , W1 ∩ W2 および W1 + W2 の次元には,次のよ
(1) V の n 個の線形独立なベクトルの組は V の基底である.
うな関係がある:
(2) V の n 個のベクトルの組が V を生成するなら,この組は V の基底である.
定理 4.4.6
dim W1 + dim W2 = dim(W1 + W2 ) + dim W1 ∩ W2
問 4.4.1 (1) 定理 4.3.5 と次元の定義を使うことにより,命題 4.4.4 (1) を示せ.
(証明の概略) dim W1 = r1 , dim W2 = r2 , dim W1 ∩ W2 = r0 とすると,W1 ∩ W2 ⊂ W1 , W2 であるので,定
理 4.4.5 により r0 ≤ r1 , r2 である.W1 ∩ W2 の基底 a1 , . . . , ar0 をとる.定理 4.3.5 により,これに r1 − r0
個のベクトル a′r0 +1 , . . . , a′r1 を付け加えることで,a1 , . . . , ar0 , a′r0 +1 , . . . , a′r1 が W1 の基底であるように
′′
′′
′′
できる.同様に,r2 − r0 個のベクトル a′′
r0 +1 , . . . , ar2 を付け加えることで,a1 , . . . , ar0 , ar0 +1 , . . . , ar2 が
W2 の基底であるようにできる.
′′
このときベクトルの組 a1 , . . . , ar0 , a′r0 +1 , . . . , a′r1 , a′′
r0 +1 , . . . , ar2 は W1 + W2 に含まれるが,これが
W1 + W2 の基底であることが証明できるので (下記問題 4.4.2),
(2) 定理 4.3.4 と次元の定義を使うことにより,命題 4.4.4 (2) を示せ.
4.4.2
W1 + W2 = {x1 + x2 | x1 ∈ W1 , x2 ∈ W2 }
部分空間の次元
線形空間の部分空間の次元を考えよう.部分空間の次元について,次の定理の結論は当たり前に
dim W1 + dim W2 = r1 + r2 = (r1 + r2 − r0 ) + r0 = dim(W1 + W2 ) + dim W1 ∩ W2
感じるであろうが,証明は結構面倒である.
が成り立ち,定理が証明される.
定理 4.4.5 有限次元ベクトル空間 V の任意の部分空間 W は有限次元であり,
問 4.4.2 上記定理 4.4.6 の証明の概略の状況下で,次の問に答えよ.
dim W ≤ dim V
(ヒントは講義で述べる予定.忘れていたら指摘して下さい.)
(1) ベクトルの組 a1 , . . . , ar0 , a′r0 +1 , . . . , a′r1 , a′′r0 +1 , . . . , a′′r2 は線形独立であることを示せ.
(2) ベクトルの組 a1 , . . . , ar0 , a′r0 +1 , . . . , a′r1 , a′′r0 +1 , . . . , a′′r2 は W1 + W2 を生成することを示せ.
が成り立つ.ここで等式が成り立つのは W = V のときであり,この場合に限る.
(証明) W = {0} なら,W は 0 で生成されるので有限次元線形空間であり,dim W = 0 ≤ dim V が成り
立つ.
W ̸= {0} のとき.まず 0 でないベクトル w1 ∈ W を取る.ここで W ̸= Span⟨w1 ⟩ なら Span⟨w1 ⟩
に含まれない W の元 w2 を取ることができる.以下同様にして,W ̸= Span⟨w1 , . . . , wℓ ⟩ なら wℓ+1 ̸∈
Span⟨w1 , . . . , wℓ ⟩ を満たすように wℓ+1 を取る.このように取ったベクトルの組 w1 , w2 , . . . は線形独立で
ある.
(∵) 元の個数に関する帰納法で証明する.
.
まず,w1 ̸= 0 なので,1 個の時は線形独立である.
次に w1 , . . . , wℓ が線形独立と仮定し,k1 w1 + · · · + kℓ+1 wℓ+1 = 0 であるとする.もし kℓ+1 ̸= 0 なら,
この式を wℓ+1 = . . . という形に変形すれば,wℓ+1 ∈ Span⟨w1 , . . . , wℓ ⟩ であることがわかるので,wℓ+1
の取り方に反する.よって kℓ+1 = 0 であるが,このとき上記の線形関係は k1 w1 + · · · + kℓ wℓ = 0 となり,
帰納法の仮定より k1 = · · · = kℓ = 0 であるので,w1 , . . . , wℓ+1 は線形独立である.
よって帰納法により,上記のように取ったベクトルの組は線形独立であることがわかった.
さて,このようなベクトル w1 , w2 , . . . が幾らでも取れるなら,W ⊂ V には幾らでも多くの線形独立な
ベクトルが存在することになる.しかし V は有限次元 (つまり有限個の元で生成される) なので,これは補
例 4.4.7 V = R3 で W1 , W2 が原点を通る平面の場合を考える.
もし W1 = W2 なら,W1 + W2 も W1 ∩ W2 も W1 に等しいので,dim W1 + dim W2 = 2 + 2 =
dim(W1 + W2 ) + dim W1 ∩ W2 である.
W1 ̸= W2 なら,W1 + W2 は R3 全体であり,W1 ∩ W2 は 2 平面の交線である.よって dim W1 +
dim W2 = 2 + 2 = 3 + 1 = dim(W1 + W2 ) + dim W1 ∩ W2 が成り立つ.
この関係式を,和空間が直和であるか否かの判定に使うことができる.第 14 回の講義で述べた
ように,W1 + W2 が直和であるためには,W1 ∩ W2 = {0} であることが必要十分である.よって
系 4.4.8 和空間 W1 + W2 が直和であるためには,dim W1 + dim W2 = dim(W1 + W2 ) であるこ
とが必要十分である.3 個以上の部分空間の和空間についても同様.
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