中年からの発声実践編 - Yokohama Male Choir

中年からの発声実践編
河合孝夫
ハーモニー誌より
1 姿勢
(よい姿勢は、発声器官の働きをよくする)
発声器官は何らかの形で背骨に関係していて、人間の体は姿勢をよくすると声が出やすくなる構造になっています。ところが、中年を過
ぎると背中の丸くなる人がふえ、そのために発声器官の働きが悪くなっています。
[エクササイズ①]
まずは、背骨を伸ばすことから胎めましょう。図 1 のように体の前で右手を上、左手を下に交差して手のひらを組合せ、図 2 のよう
にそのまま肘が耳の後ろに来るまで持ち上げ、かかとをあげながら腕をグーンと頭の上に伸ばして、背骨を十分に伸ばしましょう。次は反
対に左手を上、右手を下にして、同様にまた背骨を伸ばします。ちょうと背泳ぎの蹴伸びのようなやりかたでしっかり伸ばしましょう。背骨を伸
ばすだけでも体の中がスーツとして、息の通りがよくなるはずです。
[エクサザイズ②]
姿勢が悪くなる原因のひとつに腰の構えの悪さもあります。背骨をちゃんと支えるために、腰から背骨にかけての筋肉もしっかり鍛えまし
ょう。
図 3 のように両手を何かの上に置くか、つかまるようにして体を支え、背中を少し反るようにしながら右足を後ろに 8 回蹴りまし
ょう。右足が終わったら同様に、今度は左足を 8 回 後ろに蹴ります。このエクササイズをすると、何となく腰が引きしまった感じがしま
す。ついでながら、ギックリ般の予防にもなるそうです。
2.呼吸
(息を長く続かせるために広い胸郭をつくる)
胸がおちて狭くなるのも中年以降の欠点のひとつでしょう。胸郭を広げる筋肉を鍛えてゆとりのある呼吸と豊かに響く声を獲得し
ましよう。
[工クササイズ③]
図 4 を参考にして肩にカが入らないように気をつけ、胸が天井に釣り上げられる感じで息を吸います。息が胸いっぱいに入っ
たら、胸の高さが変わらないようにお腹の力を抜き、頭の中で 8 つ数えながらその姿勢を保ち、次に図 5 のように胸の力を完全
に抜いて背中を丸くしながら息を吐きます。
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1
この 2 つの運動をひと組に 3 回くり返し、4 回目に胸を高くして息を吸った後、図 6 のように胸の高さがそのまま動かないようにして、
お腹で呼吸してみましょう。
[工クササイズ④]
図 7 のように手をみぞおちの高さの両脇にあて(肋骨)がお腹のカを抜いた状態で横に広がるように息.を吸います。手を当てて
息を吸うと肋骨(あばら骨)が広がるのを感じることができます。十分に広がるのを感じてから、頭の中で 8 つ数えた後脱力しま
す。この運動を 3 回くり返します。
4 回目に広げたとき、肋骨を広げたまま動かないようにして、8 回お腹だけで呼吸をしてみましょう。胸が動かず、お腹だけで呼
吸できれば、あなたは横隔膜にカを入れない腹式呼吸ができたことになります。これは将来胸郭を広く保持して、横隔膜を支えに
使う発声をするための準備としてとても大切です。
3 .喉頭を支える筋肉の訓練
(ゆれ声を治して豊かな共鴫)
年をとるにしたがって声のゆれが大きくなり、ハーモニーしない声になる人がいます。正しい発声では、声帯を支える筋肉が働いて声帯を引き
伸ばしているのですが、よくわからずに声帯に頼って声を出していると声帯が囲まり、だんだんゆれ声になってしまいます。
そこで、声帯を引き伸ばす働きをする筋肉の訓練をして、柔軟な声帯を取り戻し、少しずつゆれ声を治していきましょう。
[エクザサイズ⑤]喉頭を下げる
図 8 を参考に、口を閉じ奥歯を軽く噛んで顎が動かないようにし、喉頭をグイッグイッと下の方に引き下げてみましょう。顎の力で押し下げるの
ではなく、喉頭から胸骨にかけてついている筋肉で引き下げ、喉頭を支える筋肉の訓練をします。
訓練を重ねていくと、図 9 にある首の後ろ頭の付け根の部分(東洋医学で風池と呼ばれる場所)が緊張するようになります。このとき声帯は
引き伸ばされており、そのままハミングで声を出してみると、喉が筒になったような声が出ます。このエクササイズは、すぐできない人もいますが、
続けてやっていると必ずできてきます。
[エクササイズ⑥]共鳴腔を広げる
図 9 のように両手の親指を風池にあて、そこがふくらむように鼻から息を吸い、その力で喉頭を下げます。こうすると喉の共鳴腔が広がり、
顎の力が抜け、声帯を伸ばすことができるのです。
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この 2 つのエクササイズは、ちょっとわかりにくいかもしれませんが、声楽的発声のトレーニングになりますので、根気よく練習してみてく
ださい。
4 声域を広げる
(高音を出せるようにするには)
声の使い方の基本として胸声と頭声があります。言葉が聞き慣れない人は、日本の地声をヨーロッパ風に共鳴させて声楽的にしたのが胸声、
裏声をヨーロッパ風に共鳴させて声楽的にしたのが頭声と考えてください。
いい歌手たちはこの両方の声をうまく使って歌っているのですが、日本の合唱界では女声は頭声だけで、男声は胸声だけで歌っていることが
多く、そのために発声にかかわる筋肉の使い方が片寄ってしまい、年をとるにしたがって声の柔軟性がなくなってきます。
[エクザサイズ⑦]地声と裏声の練習
まずはヨーデルのように地声と裏声を出す練習をしましょう。楽譜 1 のように低いソを地声で歌い、声をひっくり返すように裏声にして高いソを
歌った後、再び元の地声に声をひっくり返し低いソを歌うという練習でも音が変わるときにブレスをしないで一息で歌ってください。うまくいかな
いときは反対に高い音から始めてもかまいません。
このように地声と裏声の練習をすることで、声帯を分厚くして強く閉じる筋肉と、逆に声帯を引き伸ばし薄く柔らかく閉じる筋肉の両方をトレ
ーニングし、低音は声帯を分厚くして歌い、高音は声帯を薄くして出すことを喉に覚えさせます。
楽譜 1
胸声と頭声の練習
[エクザサイズ⑧]地声⇔裏声から胸声⇔頭声に
声を声楽的にする方法として、鼻を意識することは一般的によく知られていますが、そのひとつを練習してみましょう。
図 10 のようなイメージで指を喉頭にあて、鼻からすばやく息を吸ってみると、鼻の奥が広がる感じがすると同時に喉頭がスッと下がります。
その鼻の奥が広がった感じを大切にして、そこに地声、裏声が響くように練習してみましょう。
図10
顎に力をいれないで咽頭が下がり、声が鼻に響くように練習していくと、しだいに声楽的な声になり、いつの間にか高音が
出るようになってきます。このときエクササイズ⑤、⑥、⑦の効果がでてくると、どんどん言い声になってきます。
5 合唱発声の基本
(八一モニーする声)
これからのエクササイズは、エクササイズ①~⑧が基礎になっています。また、音は歌いやすい高さにしてかまいません。
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[エクササイズ ⑨]友達といっしょに練習
友達と 2 人ひと組で、胸郭を広く保ち横隔膜に力を入れない腹式呼吸で、まずひとりがファの音をオーと歌い、続いてもうひとりがその
声をよく聴き同調するようにオーと歌ってみると、頼りないボーとした声ですが、2 人の声がまるでひとつの声のようにとけあいます。このとき
互いの体の中の空洞が響きあうことをイメ ージして歌うと、よりよく響きあうでしよう。
[エクサザイズ ⑩]
次に、ひとりがファを歌い、もうひとりはその声を聴いてから五度上のドを、響きあうように気をつけて歌ってみます。すると 2 人の声が
体の中で響きあう感じがするでしょう。
このように合唱のよい発声は、一人ひとりの声を訓練する方法だけでなく、実際にハーモニーさせてみることで見つけることもできます。
そして、互いの声をハーモニーで響きあわせる練習が、いつの間にか声についた変な癖を取り除いていきます。
希望をもって努力する
中年以降の声の問題の解決には、いろいろな方法があります。きっと皆さんの中には、とてもいい方法をご存じの方もいらっしゃる
と思います。いずれにせよ、筋肉をトレーニングしながら問題を解決していくのですから、声が突然よくなるということはなかなかありま
せん。しかし、希望をもって続けていると、声は必ず努力に応えてくれます。
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