線形代数学Ⅱ 補足プリント 1 2014 年度後期 工学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) ここでは置換の 符号 signature を定義するために重要な以下の定理を一般の自然数 n の場合に どのようにして導き出すかについて解説します。テキストの 8.1 節 も参照して下さい (若干異なっ た証明に見えますが、本質的にはここで解説する方法と同じことをしています)。 定理 n 次置換 σ ∈ Sn を互換の積で表したときに現れる互換の個数の 偶奇 は σ のみ によって決まり、互換の積としての表し方に依らない。 ■多項式への置換の作用 変数を x1 , x2 , . . . , xn とする n 変数多項式 P (x1 , x2 , . . . , xn ) と n 次置換 σ ∈ Sn に対して、多 項式 σP (x1 , x2 , . . . , xn ) を ✓ ✏ σP (x1 , x2 , . . . , xn ) = P (xσ(1) , xσ(2) , . . . , xσ(n) ) ✒ ✑ で定める (つまり 変数の入れ換え)。 ( 例: P (x1 , x2 , x3 ) = x31 − 2x1 x2 + x2 x3 − x3 , σ = 1 2 3 2 1 3 ) ( ,τ= 1 2 3 ) とすると、 3 2 1 σP (x1 , x2 , x3 ) = x3σ(1) − 2xσ(1) xσ(2) + xσ(2) xσ(3) − xσ(3) = x32 − 2x2 x1 + x1 x3 − x3 , τ P (x1 , x2 , x3 ) = x3τ (1) − 2xτ (1) xτ (2) + xτ (2) xτ (3) − xτ (3) = x33 − 2x3 x2 + x2 x1 − x1 ( ) 1 2 3 となる。また、τ σ = であるから、(τ σ)P (x1 , x2 , x3 ) (多項式 P (x1 , x2 , x3 ) に 置 2 3 1 換 ( の積 ) τ σ を作用させたもの) と τ (σP )(x1 , x2 , x3 ) (σP (x1 , x2 , x3 ) という多項式に 置換 τ を作用させたもの) を計算してみると、 (τ σ)P (x1 , x2 , x3 ) = x3τ σ(1) − 2xτ σ(1) xτ σ(2) + xτ σ(2) xτ σ(3) − xτ σ(3) = x32 − 2x2 x3 + x3 x1 − x1 , τ (σP )(x1 , x2 , x3 ) = x3τ (2) − 2xτ (2) xτ (1) + xτ (1) xτ (3) − xτ (3) = x32 − 2x2 x3 + x3 x1 − x1 となり、 (τ σ)P (x1 , x2 , x3 ) = τ (σP )(x1 , x2 , x3 ) が成り立っていることが分かる。 ✓ ✏ 練習問題: 一般に n 次置換 σ, τ ∈ Sn と n 変数多項式 P (x1 , x2 , . . . , xn ) に対して等式 (τ σ)P (x1 , x2 , . . . , xn ) = τ (σP )(x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つことを示しなさい。 ✒ ✑ 1 ■ファンデルモンドの多項式 ✓ ✏ 定義 (ファンデルモンドの多項式): n 変数の ファンデルモンドの多項式 Vandermonde polynomial (または 差積 とも呼ばれる) Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) を Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = ∏ (xj − xi ) 1≤i<j≤n = (xn − xn−1 )(xn − xn−2 ) · · · · · · · · · (xn − x2 )(xn − x1 ) ×(xn−1 − xn−2 ) · · · · · · · · · (xn−1 − x2 )(xn−1 − x1 ) ×······························ ······························ ×(x3 − x2 )(x3 − x1 ) ×(x2 − x1 ) で定義する*1 。 ✒ ✑ 例: V2 (x1 , x2 ) = x2 − x1 , V3 (x1 , x2 , x3 ) = (x3 − x2 )(x3 − x1 )(x2 − x1 ), V4 (x1 , x2 , x3 , x4 ) = (x4 − x3 )(x4 − x2 )(x4 − x1 )(x3 − x2 )(x3 − x1 )(x2 − x1 ). 定理を証明するための鍵となるのは次の補題である。 補題 任意の互換 τ = (k ℓ) ∈ Sn に対して τ Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = −Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つ。 ✓ ✏ 練習問題: n = 2, 3, 4 の場合に補題が成り立つことを具体的に確認しなさい。 ✒ ✑ 証明. 互換 τ = (k ℓ) (但し k < ℓ) を考えよう。Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) の各素因子 (xj − xi ) のうち、 文字 xk , xℓ を含まないものに関しては τ を作用させた後も全く変化しないので、文字 xk , xℓ を含 む素因子が τ を作用させた後にどの様に変化するかを調べれば良い。 文字 xk , xℓ を含む因子を以下の様にグループ分けしよう; (1) (xℓ − xk ), (2) (xj − xℓ )(xj − xk ) (但し j は j > ℓ を満たす自然数を動く), (3) (xℓ − xj )(xj − xk ) (但し j は k < j < ℓ を満たす自然数を動く), (4) (xℓ − xj )(xk − xj ) (但し j は j < k を満たす自然数を動く). ※ 文字 xℓ , xk を含む因子が上記のものしかないことを確認しなさい。 *1 記号 ∏ (xj − xi ) は、1 ≤ i < j ≤ n を満たす全ての自然数の組 (i, j) にわたる (xj − xi ) の積を表す。 1≤i<j≤n 2 それぞれ τ を作用させたらどの様に変化するかを調べてみよう。 (1) (xτ (ℓ) − xτ (k) ) = (xk − xℓ ) = −(xℓ − xk ) である。 (2) (xτ (j) − xτ (ℓ) )(xτ (j) − xτ (k) ) = (xj − xk )(xj − xℓ ) = (xj − xℓ )(xj − xk ) である。 (3) (xτ (ℓ) − xτ (j) )(xτ (j) − xτ (k) ) = (xk − xj )(xj − xℓ ) = (−1)(xj − xk )(−1)(xℓ − xj ) = (xℓ − xj )(xj − xk ) である。 (4) (xτ (ℓ) − xτ (j) )(xτ (k) − xτ (j) ) = (xk − xj )(xℓ − xj ) = (xℓ − xj )(xk − xj ) である。 ✓ ✏ ※ 互換 τ = (k ℓ) の定義から ℓ τ (j) = k j (j = k のとき), (j = ℓ のとき), (それ以外のとき) であることに注意して計算しよう。 ✒ ✑ 結局 τ を作用させた後に (−1) 倍が現れるのは (1) の (xτ (ℓ) − xτ (k) ) = −(xℓ − xk ) の部分だけ で、残りの部分は τ を作用させた後も全く変化がないことが分かる。 したがって τ Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = −Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つことが示された。 ■定理の証明 n 次置換 σ が二通りの互換の積 σ = τ1 τ2 · · · τs = τ1′ τ2′ · · · τt′ で表されたとしよう。このとき、補題 (と練習問題) から σ = τ1 τ2 · · · τs を用いて計算すると σVn (x1 , x2 , . . . , xn ) = (τ1 τ2 · · · τs )Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = (τ1 τ2 · · · τs−1 )(τs Vn )(x1 , x2 , . . . , xn ) = (−1)(τ1 τ2 · · · τs−1 )Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = ········· = (−1)s Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) となる。表示 σ = τ1′ τ2′ · · · τt′ に対しても全く同様に計算出来るので、結局 σVn (x1 , x2 , . . . , xn ) = (−1)s Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) = (−1)t Vn (x1 , x2 , . . . , xn ) が成り立つことが分かる。したがって (−1)s = (−1)t が成り立たなければならないが、これは s と t の偶奇が一致することを表していることに他ならない。 3 (証明終わり)
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