微積分 I 2014 11 6 合成関数の微分法 y = (2x2 + 4x + 3)6 を微分することを要求されたときには, 今の我々の知 識では, 右辺を展開しそれから微分せざるをえないが, これはかなりめんどう なことになることは想像にかたくない. この展開を回避するためのテクニッ クを学ぼう. 次の比較的簡単な関数 y = (2x2 + 3x)2 を例として解説していく. まず確認のため展開して微分する仕方でこの関数 の導関数を求めてみると, y = 4x4 + 12x3 + 9x2 から y ′ = 16x3 + 36x2 + 18x である. 次に別の方法でこの関数を微分してみる. まず, 問題の関数を 2 つの 関数に分解する. 具体的には, 独立変数 x と従属変数 y の間にもう 1 つの変 数 u を導入し, u = 2x2 + 3x, y = u2 という 2 つの関数を考える. ここで, 第 1 式では u は x の従属変数となって いるが, 第 2 式では u は独立変数であり, 変数 y はそれに従属している. すな わち, x に対し, 第 1 式 2x2 + 3x を計算することにより u の値が決定され, そ の u の値をもって第 2 式を使い u2 を計算することにより y の値を決定する と考えるのである. このようにもとの関数を 2 つの関数に分解して考えると 複雑になった印象をもつが, この 2 式ともに今の我々の知識で微分できると いう意味で簡単になっている. 実際, 微分してみると, u′ = 4x + 3, y ′ = 2u となるが, 求めるもとの関数の導関数は, この第 2 式と第 1 式をかけあわせ変 数 u を消去することにより求めることができる. 即ち, y ′ = 2u(4x + 3) = 2(2x2 + 3x)(4x + 3). 微積分 I 2014 12 右辺を展開すると 16x3 + 36x2 + 18x となることは容易に確かめることができる. このように 1 つの関数を 2 つの 関数に分解しその導関数を求める方法を合成関数の微分法という. 以下この 合成関数の微分法を整理してみる. 関数 y = f (x) の導関数を求めたいのだが, このままでは我々の微分の知識 では直接求めることができないとする. しかし, 媒介となる変数 u を導入し, u = g(x), y = h(u) なる 2 つの関数で f (x) = h(g(x)) となるように f (x) が分解できたとする. このとき, 逆にみて f (x) はこの 2 つの関数を合成することにより出来あがっていると考えて, g(x) と h(u) の合 成関数であるということもある. ここで等式 f ′ (x) = h′ (u)g ′ (x) = h′ (g(x))g ′ (x) が成立することを主張するのが合成関数の微分法である. もう少し合成関数の微分法の練習をしてみよう. y = (2x + 1)5 の導関数を 求める. 合成関数の微分法を適用するために, この関数を u = 2x + 1, y = u5 と分解し, y ′ = 5u4 × 2 = 10(2x + 1)4 と計算することにより導関数がもと まる. 以上のまとめとして合成関数の微分法を定理の形にまとめ, その証明をつけ ることにする. 定理 6 2 つの関数 u = g(x) と y = h(u) が与えられ, 第 1 の関数の像を第 2 の関数の定義域が含んでいるとする.即ち I(g) ⊂ D(h) とする.このとき, g(x) を計算し x を u に対応させ, さらにこの u をつかって h(u) を計算し y に対応させることにより, x を y に対応させる関数を y = f (x) とする. すな わち, f (x) = h(g(x)) とする. このとき, f ′ (x) = h′ (g(x))g ′ (x)(= h′ (u)g ′ (x)) 微積分 I 2014 13 が成立する. 証明 x = a に注目し x が a + ∆x に変化した状況を考える.まず,関数 u = g(x) によって変数 u は g(a) から g(a + ∆x) に変化する.ここで u の変 化分は ∆u = g(a + ∆x) − g(a) と計算されるが,g の a における微分係数 g ′ (a) を使えば ∆u ≈ g ′ (a)∆x と ∆u は評価される.変数 u は g(a) から g(a + ∆x) に変化したので,これ に伴ない y は h(g(a)) から h(g(a + ∆x)) = h(g(a) + ∆u) に変化するので, ∆y = h(g(a) + ∆u) − h(g(a)) と y の変化分が計算される.ここで h の微分係数を使って ∆y を評価すると, ∆y ≈ h′ (g(a))∆u となる.よって, ∆y ≈ h′ (g(a))(g ′ (a)∆x) = (h′ (g(a))g ′ (a))∆x が成立するので,y = f (x) = h(g(x)) の x = a における微分係数は h′ (g(a))g ′ (a) である.即ち, f ′ (a) = h′ (g(a))g ′ (a) が成立する.□ 合成関数の微分法の技術を手にいれると, かなり自由に関数を微分する ことができるようになる. まず, 高校で習った微分の公式 (xn )′ = nxn−1 , n = 1, 2, . . . を n が負の整数の場合まで拡張してみよう. 一番簡単な n = −1 の場合を考察する. これは以前取り上げたものだが復習してみよう. y = x−1 = 1 x 微積分 I 2014 14 の導関数を考察するわけだが, その定義域は R \ {0} = (−∞, 0) ∪ (0, ∞) で あることに注意する. 0 ではない x = a に注目してここにおける微分係数を 定義にしたがって計算すると, ∆y = 1 1 −∆x − = a + ∆x a a(a + ∆x) だから ∆y 1 1 =− →− 2 ∆x a(a + ∆x) a よって, x = a における微分係数は −1/a2 である. 従って, その導関数は y′ = − 1 = (−1)x−2 x2 となり n = −1 のときには, 羃をおろして係数とし, 羃から 1 を引いたものを 羃とすることにより導関数が求まるという法則が成立していることが分った. さらに進んで n が一般の負の整数の場合はどうだろうか. すなわち, m を正 の整数としたときの関数 y = x−m の導関数を考察する. y = x−m = (x−1 )m と変形することにより, この関数は y = um と u = x−1 に分解でき, m が正の整数であることに注意すると高校で習った公式を第 1 式に使うことができ, 合成関数の微分法を使えば, y ′ = mum−1 × (−1)x−2 = m(x−1 )m−1 × (−1)x−2 = (−m)x−m−1 をうる. 以上の結果と高校で習った公式をまとめて定理の形にすると 定理 7 すべての整数 n に対し, 関数 y = xn の導関数は y ′ = nxn−1 である. 微積分 I 2014 15 7 積と商の微分公式 和や定数倍の微分公式は高校で学習したがその続きとして積の微分公式と 商の微分公式を証明しよう. この 2 つの技術を手にいれると微分できる関数 の範囲は飛躍的に広がるだろう. 定理 8 2 つの関数 y1 = f (x) と y2 = g(x) に対し, 1. (f (x)g(x))′ = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x) ( )′ f (x) f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x) 2. = g(x) g(x)2 が成立する. 証明 y = y1 y2 = f (x)g(x) とおいて考察を進める. x が a から a + ∆x に動いたとき, y1 , y2 の変化分はそれぞれ微分式より ∆y1 ≈ f ′ (a)∆x, ∆y2 ≈ g ′ (a)∆x となる. y の変化分 ∆y は ∆y = f (a + ∆x)g(a + ∆x) − f (a)g(a) = f (a + ∆x)g(a + ∆x) − f (a)g(a + ∆x) + f (a)g(a + ∆x) − f (a)g(a) = (f (a + ∆x) − f (a))g(a + ∆x) + f (a)(g(a + ∆x) − g(a)) = ∆y1 g(a + ∆x) + f (a)∆y2 ≈ (f ′ (a)∆x)g(a + ∆x) + f (a)(g ′ (a)∆x) = (f ′ (a)g(a + ∆x) + f (a)g ′ (a))∆x ≈ (f ′ (a)g(a) + f (a)g ′ (a))∆x これは y = f (x)g(x) の x = a における微分係数が f ′ (a)g(a) + f (a)g ′ (a) で あることを示している.従って,これで y ′ = f ′ (x)g(x) + f (x)g ′ (x) が証明 できたことになる. 問 9 平面に y1 軸と y2 軸をひき, 積の従属変数 y は横の長さ y1 と縦の長さ y2 の面積を表すと解釈し図示することにより, ∆y の式変形の連鎖が自然な 変形であることを確認しなさい. 積の微分公式がその形になるのはもっとも だと思えるだろうか. 微積分 I 2014 16 次に, 商の微分法の公式の証明に移る. 今証明したばかりの積の微分法を使 うことにより以下のように簡単に証明できる. ( f (x) g(x) )′ = ( f (x) × 1 g(x) )′ ( )′ 1 1 + f (x) g(x) g(x) ( ′ ) ′ f (x) g (x) = + f (x) − g(x) g(x)2 f ′ (x)g(x) − f (x)g ′ (x) = g(x)2 = f ′ (x) これらの式変形を行なう過程でどの命題を使ったかを確認しながら進むこと が肝要である. 特に 2 行目と 3 行目の等号が成立する理由を明かにすべきで ある. □ 問 10 y = x2 (x2 + x)3 を積と合成関数の微分法を使う方法と括弧を外し展 開したあとに和の微分法を使う方法と二通りの計算をし答が一致することを 確認しなさい. 問 11 y = x2 − 1 を微分しなさい. x2 + 1
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