日心第71回大会 (2007)
質問紙の項目表現に関する探索的研究(1)
-肯定的表現と否定的表現に着目した検討-
○大野高志1・折原茂樹 2・白井清太郎 1
1
( 国士舘大学大学院人文科学研究科・2国士舘大学文学部)
Key words: 肯定的表現・否定的表現, 逆転項目, 具体的レベル・抽象的レベル
結 果
結果は Table 1 に示した. 単純逆転の項目について 1. 名詞
にかかり事物や感情の有無を指す「ない」(項目 2, 18, 20, 25, 46,
64, 71)と 2. 動詞や形容詞にかかる打消しの「ない」(項目 39, 40,
41, 44, 50)に分類した. χ2 検定の結果、1. はいずれも有意差は
認められなかった. 2. は「感じる・感じない」の主観的感覚の有無
(39, 44, 49), 気分状態の主観的判断(40, 41, 50)であるが, いず
れも有意差が認められた.
次に, 意味逆転項目について, 1. 否定を表す接頭語を用いた
もの(非, 不など) (項目 28, 38, 44, 47, 72, 76, 77, 78)と 2. そうで
ないもの(項目 36, 37, 38, 41, 55, 75, 79)に分類した. 1. は, 末尾
が否定(「~ない」)の項目(72, 76, 77, 78)のみ有意差が認められ,
2. は末尾が肯定でも否定でも有意差が認められた.
独自作成のもの(項目 13, 21, 29, 45, 52)については, 29, 45 で
有意差が認められた.
考 察
単純逆転項目の検討から, 具体的に有無を尋ねるよりも, 抽
象的な事象や評価を尋ねるほうが p・n 間での意味が異なっており,
具体的質問で回答に迷いが少ないことが考えられ, 青木(1979)
による性格評定語の抽象性の指摘以来の多くの研究にあてはま
る. 本研究からは, 質問文の文章段階でも被験者側が具体的に
回答を考えられるかによって影響がある可能性を指摘できよう.
意味逆転項目での結果は, 二重否定(否定の接頭語+ない)
による意味解釈の困難が示した結果の可能性があると思われ,
今後は回答者の文章理解力も併せた検討も考えられる.
独自作成の 5 項目は、意味としての回答分布の特徴を捉えれ
ば、特別に辞書的な反対語を用いなくともよい可能性が考えられ
る. これも、鋤柄(2006)が指摘する反対語の単方向拡散と同様の
意味を持つ可能性が考えられるが, 質問文として末尾まで注目
する必要があるかもしれない.
本研究では, 具体・抽象レベルでの影響力, 肯定表現・否定
表現の意味解釈が異なる可能性までを指摘した. 独自基準の妥
当性を含め, 今後の課題としたい.
目 的
質問紙の質問項目において様々な表現や構成がみられるが,
その表現自体を検討したものはあまりみられない. 青木(1974)は
性格評定語を整理しており, その後も肯定的・否定的表現を用
いた検討(桑原 1986, 塗師 2004 など)により, 反応バイアスや評
定語の整理がなされている.
しかし, 反対語に対しての回答分布を確認したり, 質問文の構
成から検討するといった試みはあまり見られない. そこで, 本研
究では反対語になる肯定的表現・否定的表現を複数の基準で作
成し, 今後の検討の方向性を考えるため探索的に検討する.
方 法
調査日時:2007 年 4 月
調査対象:都内 4 年制私立大学生 170 名(男 121, 女 49 名)
調査用紙:友人関係尺度(岡田 1995), 時間的展望体験尺度(白
井 1994), 新版 STAI(肥田野ら 1999)を参考に, 元の項目に加
え. ほぼ同様の内容を言い換えた追加項目を作成した. それを
副詞(「よく」,「あまり」,「少し」,「だいたい」)やモダリティ(「ほうであ
る」,「ような気がする」)を削減した表現(r)と, 逆に副詞やモダリティ
を挿入した表現(a)に分類した. さらに r, a それぞれで肯定的表
現(p)と否定的表現(n)の両方の表現項目を作成した. 否定的表
現は 1. 打ち消し語(「ない」)による単純逆転, 2. 辞書的反対語で
ある意味逆転, 3. 対の意味を独自作成(反対語が考えにくいた
め)の 3 基準いずれかに割り当てた. 以上から rp, rn, ap, an 項目
を作成し, p・n 間で比較が可能な 35 項目対を選定し分析対象と
した. 回答は, あてはまる(5)~あてはまらない(1)の 5 件法. 以上
を大学生・大学院生・教員数名で協議した.
手続き :授業時間内に調査を行った. 大学生の意識調査の名
目で実施し, 回答後にディブリーフィングを行った. 数名にインタ
ビューをしたところ, 似た項目があったことに気づいたが, その意
図は理解していなかった. 検討は, p・n 項目と回答分布(1~5)に
ついて 2×5 のχ2検定を行った.
Table 1 肯定的表現項目(p)・否定的表現項目(n)と回答分布(1~5)について2×5 χ2検定(n=170, df=4)
表現 番号
rp-rn
肯定的表現項目
2 真剣な議論をすることがある
否定的表現項目
真剣な議論をすることはない
私には、だいたいの将来計画がない
χ
2
p
0.67
表現 番号
肯定的表現項目
否定表現項目
rp-an 36 楽しい気分になる
22.99 ***
3.88
rp-rn
19 将来のためを考えて今から準備していることがある 将来のためを考えて今から準備していることがない
9.13
rp-an 38 自分に満足である
自分に不満である
rp-rn
20 私には、将来の目標がある
1.47
rp-rn
興奮して落ちつかない
rp-rn
25 自分の将来は自分できりひらく自信がある
自分の将来を自分できりひらく自信がない
rp-rn
39 とりのこされたようには感じない
とりのこされたように感じる
rp-rn
40 気が休まっている
気が休まっていない
10.08
rp-rn
41 冷静で落ちついている
興奮して落ちつかない
rp-rn
44 しあわせだと感じる
しあわせだとは感じない
6.4
9.56
rp-an 44 しあわせだと感じる
p
神経質で落ちつかない
18 私には、だいたいの将来計画がある
rp-rn
41 冷静で落ちついている
2
63.25 ***
rp-rn
私には、将来の目標がない
37 几帳面で落ちつきがある
χ
苦しい気分になる
不幸だと感じる
6.09
41.16 ***
6.27
* rp-an 47 安心感がある
不安感がある
* rp-an 55 うれしい気分になる
悲しい気分になる
27.66 ***
2.69
41.16 *** rn-ap 72 今の生活に不満でない
今の生活に満足していない
10.25
14.18 ** rn-ap 75 苦しい気分にならない
楽しい気分にならない
*
145 ***
rp-rn
46 自信がある
自信がない
5.67
rn-ap 76 自分に不満でない
自分に満足でない
12.65
rp-rn
47 安心感がある
安心感がない
8.5
rn-ap 77 不幸だとは感じない
しあわせだとは感じない
15.78 **
rp-rn
49 力不足を感じない
力不足を感じる
11.7
安心感がない
51.66 ***
rp-rn
55 心が満ち足りている
心が満ち足りていない
ap-an
64 相手に甘えすぎることはない
相手に甘えすぎることがある
ap-an
66 私には将来計画がある
私には将来計画がない
17.1 ** rn-ap 79 悲しい気分にならない
一人の友達と特別親しくするよりはグループで仲良く
1.59
rp-rn 13
する
5.94
rp-rn 21 私の将来は歴然としていて中心が明確である
ap-an
71 私には未来がある
私には未来がない
6.47
rp-rn
45 余計なことを考えずに仕事や勉強に集中できる
いろいろ頭にうかんできて仕事や勉強が手につかない
9.56
rp-an
28 今の生活に満足している
今の生活に不満である
1.87
rp-rn
52 ひどく失望してもすぐに忘れることができる
ひどく失望するとそれが頭から離れない
7.02
rp-rn
29 毎日が変化の連続で面白い
毎日が同じことのくり返しで退屈だ
10.16
* rn-ap 78 不安感がない
*
うれしい気分にならない
118.6 ***
グループで特別親しくするよりは一人の友達と仲良くす
2.08
る
私の将来は漠然としていてつかみどころがない
6.59
*
*
注1: ***=p<.001, **=p<.01, *=p<.05 注2:分析対象外の項目は削除 注3: r…副詞・モダリティ削減項目 a…副詞・モダリティ挿入項目 p…肯定的表現項目 n…否定的表現項目
(OHNO Takashi
ORIHARA Shigeki SHIRAI Seitaro)