§6. 正則函数

§6. 正則函数
f (z):変数 z = x + iy ∈ C (x, y ∈ R) の複素数値函数.
f (x + iy) の値の方で実部と虚部を分けて,次の様に表す:
f (x + iy) = u(x, y) + iv(x, y) ( u, v は実数値函数).
例 6.1
f (z) = z 2 のとき,(x + iy)2 = x2 − y 2 + 2ixy より
u(x, y) = x2 − y 2 , v(x, y) = 2xy.
• f (z) の x に関する偏微分,y に関する偏微分は,実部・虚部ごとに定義する:
∂ (f (z)) := ∂ u(x, y) + i ∂ v(x, y),
∂ (f (z)) := ∂ u(x, y) + i ∂ v(x, y).
∂x
∂x
∂x
∂y
∂y
∂y
記号の定義
z と z をあたかも独立変数のようにみなして1
≥
¥
≥
¥
∂ := 1 ∂ − i ∂ ,
∂ := 1 ∂ + i ∂ .
∂z
2 ∂x
∂y
∂z
2 ∂x
∂y
注意 6.3
z + z ,y = z − z と連鎖律より
記憶法として2,x =
2
2i
eeeeeee
≥
¥
∂ = ∂x ∂ + ∂y ∂ = 1 ∂ + 1 ∂ ,
∂z
∂z ∂x
∂z ∂y
2 ∂x
i ∂y
≥
¥
∂y
∂ = ∂x ∂ +
∂ = 1 ∂ − 1 ∂ .
∂z
∂z ∂x
∂z ∂y
2 ∂x
i ∂y
例 6.4
f (z) = u(x, y) + iv(x, y) のとき
≥
¥
≥
¥
∂ f (z) = 1 ∂ − i ∂ u(x, y) + i ∂ − i ∂ v(x, y)
∂z
2 ∂x
∂y
2 ∂x
∂y
= 1 (ux + vy ) + i (−uy + vx ),
2
2
≥
¥
≥
¥
∂ f (z) = 1 ∂ + i ∂ u(x, y) + i ∂ + i ∂ v(x, y)
∂z
2 ∂x
∂y
2 ∂x
∂y
1
i
= (ux − vy ) + (uy + vx ).
2
2
∂z = 1, ∂z = 0.
とくに f (z) = z のとき,u(x, y) = x, v(x, y) = y より,
∂z
∂z
∂z = 0, ∂z = 1.
また f (z) = z のとき,u(x, y) = x, v(x, y) = −y より,
∂z
∂z
∂
∂
これらは,記号としての
,
の妥当性を示している.
∂z ∂z
1すなわち.z
2ここでは
は z の共役複素数であることを忘れる.
z が z の共役複素数であることを思い出す.
1
補題 6.5
≥
¥
∂ f (z) = ∂ f (z).
∂z
∂z
証明 例 6.4 より左辺 = 12 (ux + vy ) + 2i (uy − vx ).一方 f = u − iv と例 6.4 より,
1
i
右辺 = (ux + vy ) + (uy − vx ).
§
2
2
定義 6.6
f (z0 + h) − f (z0 )
が存在するとき,f (z) は z = z0 で複素微分可能で
h→0
h
あるといい,その極限値を f 0 (z0 ) で表す.
極限値 lim
例 6.7
f (z) := z = x − iy は実 2 変数函数としては明らかになめらかであるが
f (z + h) − f (z)
(z + h) − z
lim
= lim
= lim h .
h→0
h→0
h→0 h
h
h
実軸上で h → 0 とするとき (h = h) と,虚軸上で h → 0 とするとき (h = −h) とで
極限値が異なるので,上の右端の項の極限はない.ゆえに f (z) = z は,どの点でも
複素微分可能ではない.
例 6.7 によって,複素微分可能であることは,単に実 2 変数 x, y の函数としての
なめらかさとは別の要求があるようである.この辺をもう少し詳しく見てみよう.
f (z) − f (z0 )
• z0 = x0 + iy0 において, lim
が存在する
z→z0
z − z0
≥ f (z) − f (z )
¥
0
⇐⇒ ∃α ∈ C s.t. lim
−α =0
z→z0
z − z0
°
¢
⇐⇒ ∃α ∈ C s.t. f (z) = f (z0 ) + α(z − z0 ) + o z − z0
(z → z0 ).
最後の条件を,f (x + iy) = u(x, y) + iv(x, y), α = a + ib とおいて書き直すと
(
°p
¢
u(x, y) = u(x0 , y0 ) + a(x − x0 ) − b(y − y0 ) + o (x − x0 )2 + (y − y0 )2 ,
°p
¢
v(x, y) = v(x0 , y0 ) + b(x − x0 ) + a(y − y0 ) + o (x − x0 )2 + (y − y0 )2 .
ゆえに u, v は点 (x0 , y0 ) において全微分可能であって
ux (x0 , y0 ) = vy (x0 , y0 ),
uy (x0 , y0 ) = −vx (x0 , y0 ).
Ø
∂ f (z)Ø
例 6.4 より,これは
= 0 と同値である.
Ø
∂z
z=z0
定義 6.8 (Cauchy–Riemann の関係式)
≥
ux = vy , uy = −vx
または
2
¥
∂ f (z) = 0 .
∂z
定理 6.9
f (z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy) が z = z0 = x0 + iy0 で複素微分可能
⇐⇒ u, v が (x0 , y0 ) で全微分可能であって,かつ点 (x0 , y0 ) において,
eeeeeeeeeeee
Cauchy–Riemann の関係式が成り立つ.
Ø
∂ f (z)Ø
このとき,
= ux (x0 , y0 ) + ivx (x0 , y0 ) = f 0 (z0 ) となる.
Ø
∂z
z=z0
注意 6.10
最後の主張は,例 6.4 と,f 0 (z0 ) = lim
h→0
h ∈ R で h → 0 とすることで得られる.
f (z0 + h) − f (z0 )
において,
h
定義 6.11
f (z):領域 D で定義された函数.
def
f (z) が D で正則 (holomorphic) ⇐⇒ f (z) は D の各点で複素微分可能.
• 収束ベキ級数は収束円の内部で微分できるから,領域 D で解析的な函数は正則である.
逆に,領域 D で正則な函数が,D の各点の近傍で収束ベキ級数で表されることを後で示す.
定理 6.12
f (z):領域 D で定義された函数.
f (z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy) が D で正則
⇐⇒ u, v が D で全微分可能であって,Cauchy–Riemann の関係式が成り立つ.
def
注意 6.13 (1) 教科書では,f (z) が正則であることの定義に,最初から f (z) が C 1 級( ⇐⇒
u, v が C 1 級)であるとの要請が入っている.一般に u, v が全微分可能であっても C 1 級と
は限らないが,この講義のあとの方で,f が正則ならば何回でも複素微分可能になることが
示される.ゆえに,f が正則ならば,u, v はなめらかである.
(2) 定理 6.12 の ⇐= では,u, v が単に D で偏微分可能で Cauchy–Riemann をみたすとい
うだけでは反例がある(演習問題参照).また,Looman–Menchof の定理というのがあって,
f (z) が D で連続であって,さらに u, v が D で偏微分可能で Cauchy–Riemann の関係式を
みたせば,f (z) が D で正則になることがわかっている3.
例題 6.14
領域 D で正則な f (z) が f 0 (z) ≡ 0(恒等的に 0 ) =⇒ f (z) は定数.
解
f 0 (z) = ux (x, y) + ivx (x, y) と仮定より,ux = vx ≡ 0.Cauchy–Riemann の関
係式より,uy = −vx ≡ 0, vy = ux ≡ 0.よって u, v は定数.なぜなら,D のどの 2
点も座標軸に平行な線分からなる折れ線で結べるから(演習問題参照).
3Looman–Menchof の定理はとても delicate である.たとえば,f
§
が 1 点 z0 ∈ D で連続で,z0 で
Cauchy–Riemann の関係式をみたしても,f は z0 で複素微分可能でない例がある(演習問題参照).
3
例題 6.15
f (z):領域 D で正則, f (z) = C (定数) =⇒ f = const.
解 C = 0 のときは明らかだから,C 6= 0 の時を考える.
≥
¥
°
¢
0 = ∂ f (z) 2 = ∂ f (z)f (z) = f (z) ∂ f (z) = f (z) ∂ f (z) .
∂z
∂z
∂z
∂z
最後の等号は補題 6.5 より従う.C 6= 0 なので f (z) は決して 0 にならない.ゆえに
∂ f (z) ≡ 0.定理 6.9 より f 0 (z) ≡ 0.よって例題 6.14 より f (z) は定数である.
∂z
定理 6.16
f (z) が領域 D で正則 =⇒ uxx + uyy = 0(同様に vxx + vyy = 0).
注意 6.17
この定理では,f が正則ならば,u, v がなめらかであることを認める(現
時点では未学習であるが).
証明 ux = vy の両辺を x で偏微分して,uxx = vyx .同様に uy = −vx の両辺を y で偏
微分して,uyy = −vxy = −vyx .ゆえに uxx +uyy = 0.同様にして,vxx +vyy = 0. §
定義 6.18
2
2
∆ := ∂ 2 + ∂ 2 :Laplacian
∂x
∂y
∆g = 0 をみたす函数 g(x, y) のことを調和函数という.
• 定理 6.16 より,正則函数の実部と虚部は調和函数である.
例題 6.19
(1) u = x2 − y 2 − y は調和函数であることを示せ.
(2) u を実部に持つ正則函数 f (z) を求めよ.結果は z の函数として表すこと.
解 (1) uxx = 2,uyy = −2 より,uxx + uyy = 2 − 2 = 0.
(2) f (z) = u(x, y) + iv(x, y) (z = x + iy) とする.Cauchy–Riemann の関係式より
vx = −uy = 2y + 1, · · · · · · 1
vy = ux = 2x. · · · · · · 2
より v = (2y+1)x+C(y)(C(y) は y のみの函数).両辺を y で偏微分して,vy = 2x+C 0 (y).
これと 2 を比較して C 0 (y) = 0,ゆえに C(y) = C (実定数).
これより v = (2y + 1)x + C となるから
f (z) = x2 − y 2 − y + i(2xy + x + C) = z 2 + iz + iC · · · · · · (∗)
1
(上式 (∗) において,z が現れないことに注意4).
4(∗)
§
1
の最後の式変形が難しいという人は,x = 12 (z + z),y = 2i
(z − z) を代入して,z のみが現
れる所だけ計算すればよい.正則函数ゆえ,z を含む項は打ち消し合って結果の式には現れないはず
だから.そしてまた,(∗) の右端の項から中辺の項へ変形して検算するのは容易である.
4