提言論文 顧客接点のリ・デザイン -次世代マーケティングの提案 4.リアル小売の売場力開発 -選択、購入、入手の即時化 構成 (1)リアル小売はショートデシジョン支援業 (2)売場力格差 (3)衝動買いを促進させる売場力向上のポイント (4)売場力開発のステップ (1)リアル小売はショートデシジョン支援業 ネット購買の定着により、買い物が消滅する。店頭で店員に商品説明を受け、自宅に戻りネットで注 文し、1 日後に自宅で配送してもらう購買スタイルが当たり前になってきている。ネット小売は商品選択と 購入と商品の入手を分離させ、リアル小売の役割を大きく変化させた。リアル小売は商品選択と購入と 入手がその場で完結、即時化する。ネット小売が目的買い中心の購買行動である一方で、リアル小売 の売場の役割は衝動買いを喚起して、時間価値を提供することが重要な役割になる。リアル小売は衝 動買いの接点となることが、唯一の存在意義となっていく。現在、伊勢丹新宿店に代表させる都心百貨 店は売上が好調である。その理由は衝動買い比率が高く、売場で衝動買いを促進させていることが好調 の要因である。 (2)売場力格差 伊勢丹新宿店の 14 年 1 月の売上高前年比は 117.7%と二桁成長を続けている。13 年 3 月の 改装後、13 年 4 月∼14 年 1 月までの累計売上の対前年比は 112.4%と驚異的な成長を続けてい る。東横線と副都心線の相互乗り入れなどの追い風はあるものの、大規模な改装が成功している。改装 のポイントは「顧客が店内で足を踏み入れた瞬間からワクワク、ドキドキする売場を構築」、「モノだけでなく 店内を楽しみながら、知識を深められる「コト」提案を充実」というものである。具体的には陳列スペースを 15%削り(店頭在庫を 12%減らす)、店内に 21 ヶ所の情報発信スペースを設置し、旬の商品やライ フスタイルを提案できるようにした。その象徴となる売場が「リ・スタイル TOKYO」である。東京の最新スタイ リングをどこよりも早く紹介するために、ブランド横断で衣料や雑貨を編集する売場である。全てが東京基 準、東京発信がコンセプトである。 有名なハローデイや尼崎に本社のある中堅スーパーマーケットの北野エースも売場づくり、売り方の工夫 で伸長している。ハローデイは「もっと来店客や従業員が楽しめる店舗」をコンセプトに、例えば野菜売場 では、花屋のように緑溢れるようにし高級感を生み出し、そこで 1,980 円もする瓶入りのトマトジュースを copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved. 1 提言論文 トマト売場の横に置いて販売したところ好調な売上だと言う。北野エースではレトルトカレー売場が特徴 的である。300 種類のレトルトカレーを品揃えし、本屋のように陳列している。店員のこだわりのある商品 には、例えば「海鮮スープカレー:海の幸のホタテ、イカを煮出ししたスープに焦がしバジルとタイムの香る 本格スープカレー」というどう美味しいのかを訴求した売り込みPOPを設置している。伊勢丹、ハローデイ、 北野エースに共通することは、品揃えの豊富さや売場の演出、POPによる情報発信性の強化により 「ワクワク」「ドキドキ」する売場を実現し、購買を促進している点である。 (3)衝動買いを促進させる売場力向上のポイント 衝動買いは、これまでストレス発散で行い、その後に後悔するという悪いイメージがある。しかし、実際に どんな時に行われるのかみると、食品で「1 ヶ月以内に予定外の買い物」をした時の状況は、「時間に余 裕があった」40%、「開放的な気分だった、うれしい・楽しい気分だった」25%であった。衝動買いはストレ ス発散の時に行われるものではなく、「ワクワク」している時に喚起されるものである。こうした心理的状況 の時に、「商品を手に取って試したり自由に選べた」20%、「商品が(大量陳列や売場演出など)目立 つように陳列されていた」18%という商品の見せ方の工夫、売場演出などの店頭刺激があった時に衝動 買いが起こることが弊社の調査で分かっている。ハーゲンダッツはCVSで夜の時間帯に多く売れている。 会社帰りにOLが自分へのご褒美で購入したり、自分でも経験があるが、サラリーマンがお酒を飲んだ後 に開放的になって購入している。試食販売やタイムセールの時に衝動買いが行われるのは、上記のような 理由からである。 現在、リアル小売の売場ではPBの売場シェアが拡大し、どの小売業もPBと売れ筋NBだけで構成 されるつまらない売場になっている。売場面積がどんどん縮小しているなかで、メーカーは売上を上げていく ためには買い上げ率を向上させるしかない。リアル小売におけるメーカーの課題は衝動買いを喚起させ、 生産性を向上させることである。ポイントは「ワクワク感」の醸成と「新しい発見」である。品揃えは売れ筋と PB中心からロングテール型の豊富な品ぞろえへ転換させる。売場づくりは売れ筋をゴールデンゾーンに 陳列する方法から情報発信スペースを設け、視覚的に訴える売場づくりに変える。情報発信は統一され た「店長おすすめ」というPOPから北野エースのカレーのように美味しさを売り込むPOPと音楽や季節 感や催事の演出による楽しさ感を醸成させる。売り方は試食販売や店員による売り込みが重要である。 この結果、売場への立ち寄り率はUPし、売場で商品を選択する時間(売場滞在時間)が伸び、買 い上げ率が向上する構造に転換する。 (4)売場力開発のステップ 売場力を開発するには、三つのステップが必要である。まず、当該カテゴリーがどんな時にどんな刺激で 衝動買いされるのかを解明することである。そのためには、当該カテゴリーで衝動買いをする消費者の購買 行動を把握するためのインターネットによる質問紙調査を行うことである。次に、その調査結果をもとに、 楽しさを引き出す要素を検討し、その店頭刺激策を売場専門家から引き出し、その意見をベースに売場 展開図や売場ツールに落とし込むことが必要である。最後に、幾つか検討した売場展開案を実際に売場 で実験し、その成果を確認することである。実験期間は最低 2 週間必要である。検証方法はPOSデ copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved. 2 提言論文 ータで売上結果を見るだけでなく、売場観察調査によって、立ち寄り率の変化、売場滞在時間の変化、 商品手に取り率と買い上げ率の変化を見ることも必要である。さらに、アイトラッキングによる売場での消 費者の視線の動きを把握し、売場のどこを見て、どのツールを注視していたのを明らかにすることで、どの店 頭刺激が有効なのかを知ることができる。 消費者接点が大きく変化する現代において、リアル小売の売場はこれまでとは違う意味を持つようにな ってきている。リアル小売を衝動買い接点と位置づけ、衝動買いのできる売場力を高めることがこれからの マーケティングで必要不可欠となる。 【基調論文】 顧客接点のリ・デザイン -次世代マーケティングの提案 1.顧客の捉え方とセグメントのリ・デザイン-筋書きづくりによる遠近透視 2.品質差別化へのリ・デザイン-セグメント開発とシグナル開発 3.多元チャネルのリ・デザイン-多元流通ネットワークの再定義 4.リアル小売の売場力開発-選択、購入、入手の即時化 5.消費者ネットワークへのアプローチ戦略 copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved. 3
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