提言論文 顧客接点のリ・デザイン -次世代マーケティングの提案 5.消費者ネットワークへのアプローチ戦略 構成 (1)個人から集団説得へ (2)消費者の包囲説得 (1)個人から集団説得へ 人と人とのコミュニケーションのネットワークが、人々の意識や行動に与える影響が大きくなっている。 我々が商品を選ぶ時に重視する評判や口コミなどの情報、購入方法、どんな商品を選ぶか、そもそも商 品を欲しいと思う動機から他者の存在を意識せずには成り立っていない。また、購入した商品サービスを 通じて体験したことを、「仲間内」に伝えて羨ましがられたいという「体験ニーズ」がある。ツイッターでつぶや いたり、フェイスブックや口コミサイトに掲載された体験情報が他の消費者の欲望の対象になったり選択の 手がかりとなる。急拡大するスマホなどによってすすむネットワーク化が、コミュニケーションの量と購買行動 への影響力をより大きくしている。 消費者調査によって、人々のコミュニケーションを分析したところ(消費社会白書 2014「新しい消費へ の離陸」参照)、コミュニケーションのネットワークにおいて、特に情報を波及させる役割を果たす人が存在 することがわかった。「仲間内」という特定の集団内で多人数に情報伝達する「スピーカー型」と、異なる集 団間に情報をつなぐ「ブリッジ型」である。このふたつのタイプの相乗効果によって、商品サービスの情報がネ ットワークを通じて波及していく。 一方で、これまでのマーケティングコミュニケーションは、多くの場合に個人としての消費者を前提にしてき た。マス宣伝を通じて、限られた世帯の視聴率調査を元にCMの到達率を算出し、新聞・雑誌広告は 発行部数によって媒体費が算出される。企業のHPやSNSなどネットを通じた情報発信量も拡大し ているが、消費者の接触率は必ずしも高いとはいえない。ある程度のターゲットが設定される場合もあるが、 大海に向かって大きな編み目の投網をなげるようなものである。さらに、マス宣伝、ネット情報、店頭施策 などのさまざまなコミュニケーション努力がそれぞれ異なる部門によって設計されて、バラバラに実施されるこ ともありがちなことである。 それに対して、消費者が「仲間内」という特定の集団のネットワークの影響を受けて意志決定しているな らば、その特定集団を説得の対象として、コミュニケーション施策を統合的に設計するのが合理的である。 copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved. 1 提言論文 (2)消費者の包囲説得 家電や調理器具などの最近のヒット商品が国内の大手家電メーカーからではなく、地方の中小企業や 海外企業から生まれている。彼らはマス宣伝の大量投入や営業マンの数によって流通や消費者を説得 したのではない。特定の消費者と特定のニーズをターゲットとして、限られた資源を様々な施策を駆使して 消費者に接近している。 代表例がアメリカ Vitamix 社の"Vitamix"(以下バイタミックスと表記)である。国内ではミキサーの 類型となっているが、「食物を丸ごと粉々にして、細胞内の栄養素までも引き出す、ホールフードマシーン」 (正規代理店HPより)である。売れ筋は 79,800 円と高額だが、2010 年からの 3 年で売上が 4 倍に急成長、スムージーブームを牽引した。メインの販売ルートは百貨店である。アメリカで地位を確立し たのと同様に実演販売に力を入れ高額商品を受容する百貨店にルートを絞った。 成功のポイントは四つある。第 1 に、ママ友ネットワークにターゲットを絞ったことである。子育て主婦は美 容健康に関心が高く、口コミの発信量が多く、リアルな体験情報によって影響されやすい。ふたつ目に、リ アルな店頭での徹底したデモンストレーションによる販促である。新宿伊勢丹をはじめ、全国の有力百貨 店とレークタウンなどの集客力の高いショッピングセンターで毎日実施。2014 年 2 月の場合は 29 店舗で のべ 170 日展開されている。百貨店はリアルな説得が効く環境であり、高収入の主婦層との接点である と同時に「スピーカー型」出現率が高い。第 3 に、ネットによる情報説得とリアルとの連動である。カリスマモ デルや「サロネーゼ」と呼ばれるカリスマ主婦の利用体験や多数のレシピを公式サイトから発信する。前述 のデモンストレーションスケジュールはHPで公開され、いつどこで行われているか誰でもが知ることができる。 ネット情報に敏感な「ブリッジ型」にとって魅力的な情報が展開されている。ネットとリアルを連動させて、マ マ友ネットワークの「スピーカー型」と「ブリッジ型」との接点をつくっている。四つめは、バイタミクスインストラク ターをHPで募集、3 日間の研修後に店頭デモンストレーターや、教室を開きインストラクターとなる。有 料講座を開催しファンづくり、顧客のネットワークづくりを促進するなど、ユーザーがユーザーを説得する構造 を作っている。 「仲間内」体験ニーズを刺激しネットワーク説得を可能にするのは、リアルなユーザーのネットワークを発 見してターゲットにし、店頭での体験型説得、ネットを通じた「ブリッジ型」説得、ユーザーがユーザーを説 得するという三方からの顧客包囲型のプロモーションアプローチである。 【基調論文】 顧客接点のリ・デザイン -次世代マーケティングの提案 1.顧客の捉え方とセグメントのリ・デザイン-筋書きづくりによる遠近透視 2.品質差別化へのリ・デザイン-セグメント開発とシグナル開発 3.多元チャネルのリ・デザイン-多元流通ネットワークの再定義 4.リアル小売の売場力開発-選択、購入、入手の即時化 5.消費者ネットワークへのアプローチ戦略 copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved. 2
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