プリント用PDF(会員サービス)

戦略ケース
風雲急を告げる外食業界−元気寿司、リンガーハット 他
国内市場での胃袋争奪戦と海外進出
1.回復基調の外食産業。一方で業態格差が鮮明に
日本フードサービス協会会員社による
外食産業市場動向調査の 2013 年暦年
図表 1.外食業態別の
売上高(全店ペース)の前年比推移
(1-12 月)の年間売上高は全業態トータ
ルで 100.7%と 2 年連続で前年を上回っ
た(図表 1)。2008 年 9 月のリーマンショ
ックの影響を受けた市場が減速した 2009
年、さらに東日本大震災が直撃した 2011
年に前年比マイナスとなったことで外食
産業の縮小トレンドが懸念された。2012
年こそ震災の反動でプラスとなったが、
2013 年はアベノミクス効果の景気回復も
あり、回復基調を強めた。注目すべきは 5
年ぶりに前年比プラスとなった客単価で
ある(図表 2)。長らく続いた『デフレ外
図表 2.外食産業 売上高・利用客数・
客単価・店舗数の推移(全体)
食=低価格競争』からの脱却の兆しが見え
たことは今後への好材料となっている。
また、主要企業の月次業績の推移をみる
と、既存店が前年比プラスとなっている
企業が多く、新規出店依存から脱する方
向にある。
全体では回復基調にある外食産業だが、
一方で懸念材料もある。業態格差である。
これまでの拡大期ではほぼ全ての業態が
プラス基調であったが、業態間における
好不調がはっきり分かれた。特に 2013 年はそれが顕著に出ている。好調な業態は「ファミ
リーレストラン」
「ディナーレストラン」
「喫茶」
「その他」である。逆に不調な業態は 5 年
連続前年割れとなった「パブレストラン/居酒屋」、そして「ファーストフード」である。
「パブレストラン/居酒屋」の不振は、若年層のアルコール離れや他業態の酒類取り扱い
拡大などが背景にある。また「ファーストフード」は代表格である日本マクドナルドの不
振が象徴している。特に 2013 年は年間 4.5 億杯と予想される「セブンカフェ」などコンビ
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
1
戦略ケース
ニコーヒーが「プレミアムコーヒー」を仕掛けたマクドナルドの喫茶目的の客を奪った。
今後は頭打ちにある「胃袋市場」を巡り、中食や内食とのボーダレスのシェア競争が激化
することが確実視される。
2.国内での新規出店のチャンスも、景気が回復すると人材不足のジレンマ
国内の景気回復を背景に、不調の業態はともかく、好調な業態や企業はこの機に国内出店
拡大を図りたいところだが、ここで外食産業の構造的な問題が露呈する。「人材不足」であ
る。日本経済新聞社が 2013 年 4 月にまとめた 2014 年春の大卒採用人数によると、アベノ
ミクス期待もあって大量出店と事業拡大を図る大手外食企業は 2013 年春実績比で 3 割以上
の採用を計画した。しかし、飲食業は「サービス残業」や「長時間労働」などネガティブ
なイメージから敬遠される。しかも景気が良くなり、他業種も採用を増やすため必然的に
採用が追い付かず、人材不足感が強まる。そして、それが更なるサービス残業や長時間労
働を引き起こすという悪循環を繰り返してきた。もっと深刻なのは、パート・アルバイト
の人材確保である。飲食業は他の業種に比べて時給が低めであるため、集まりにくく、定
着しづらいとされる。また「接客業」ということも特に若年層にとってはハードルを上げ
ている。さらには、出店増加を加速させるコンビニエンスストアなど小売業との人材確保
競争を強いられている。つまり、正社員とパート・アルバイトの採用拡大と定着率アップ
という課題をクリアしない限り、国内でのチャンスを逃してしまうのである。
現在、多くの外食チェーンは、これまでの OJT 偏重から研修施設や独自の教育体系づく
りなど、人材開発に投資を始めている。また現場力を高めるために、評価に応じて店長や
リーダーへの登用やそれに伴う時給アップ、さらには店舗対抗の接客コンテストなどの開
催を通じて、モチベーションやコミュニケーションアップを図っている。
3.海外進出による拡大を目指す
国内市場に拡大チャンスがあるとはいえ、将来的な人口減少や少子高齢化を踏まえると、
成長には限度がある。そこで、現在多くの企業が模索しているのが海外進出である。特に
成長が著しい東南アジアを中心とするアジア市場への進出、さらには和食がユネスコ(国
連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されたことで、欧米などにも進出チャンスが
広がっている。
(1)拡大するアジア市場
現在の海外進出の中心はアジアである。外食チェーン企業の海外店舗数の上位をみると、
そのほとんどがアジア地域への進出である。1 月にコロワイドがベトナムに居酒屋
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
2
戦略ケース
「NIJYU-MARU」を集中出店するなど、今後 10 年で約 200 店舗の出店を打ちだしている。
現在の進出店舗数のトップが未上場の「味千ラーメン」であるということからもわかるよ
うに、まだまだ海外展開は始まったばかりである。
図表 3.外食チェーン企業の海外店舗数
今後、特に急速な展開が予想されるのが国内では苦
戦が続く居酒屋チェーンである。外食産業が回復に
向かう中、若者のアルコール離れなど構造的に国内
市場の縮小トレンドに歯止めをかけることは難し
く、必然的に海外に活路を見出さざるを得ない。現
在、居酒屋企業における海外店舗数トップは和民だ
が中国、香港、シンガポールなど 80 店舗程度にす
ぎない。和民は 2014 年 6 月にカンボジアに 1 号店
を計画するなど、東南アジアでの出店展開を進めて、
2018 年 3 月期までに海外店舗数を 230 店舗まで増
加させる。
また国内居酒屋最大手のモンテローザは 2004 年
に香港に海外 1 号店を出店したが、約 10 年経過した現在でもシンガポール、台湾、韓国、
上海の 5 地域で 15 店舗と本格展開には至っていないだけに、競合の動きをみて今後急速に
店舗拡大することが予想される。
また、これまでのアジア展開は、距離的に近い中国や韓国が先行していたが、国家間の関
係悪化や人件費などのコスト高騰もあって、シンガポールやタイ、ベトナムなど日本との
親和性の高い東南アジアへのシフトが進んでいる。新市場におけるメニューやオペレーシ
ョンの現地化と多店舗展開のための仕組みづくりとノウハウの蓄積が課題である(図表 3)
。
(2)「和食」の世界的拡大のチャンス
ここにきて海外拡大のチャンスは欧米にも広がっている。ひとつは、円安などを背景にし
た訪日外国人の増加である。2020 年の東京五輪招致もあるため、今後も継続的な増加が見
込まれ、日本の食文化への接触機会の拡大が期待できる。もうひとつはユネスコの無形文
化遺産登録による「和食」のブームである。かつて「クールジャパン」ということで、日
本酒や焼酎、豆腐や納豆といった単品レベルでのブームであった。しかし、今回は「和食・
和風メニュー」や調味料など「和食材」というような広がりをみせている。
欧州への拡大を目指す企業の代表格は「丸亀製麺」のトリドールである。2011 年の米国・
ハワイを皮切りに、中国や台湾、タイ、インドネシア、オーストラリアなどに約 50 店を展
開しているが、2013 年 2 月にはロシア・モスクワに進出し、2017 年末までに 100 店舗展
開を計画している。そして 2014 年 3 月には英国・ロンドンへの初出店が予定されており、
2016 年 3 月末までに海外 400 店舗を目指している。
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
3
戦略ケース
4.そして再編の波が押し寄せる
こうした国内外での拡大を目指し、2013 年より外食企業の再編が進んでいる。その狙い
や背景などから分類すると大きく三つにわかれる。
(1)海外進出拡大を狙った再編
2 月 10 日に長崎ちゃんぽんの「リンガーハット」が「8 番ラーメン」を展開するハチバ
ンとの資本業務提携を発表した。この提携は 3 週間ほど前に新聞報道されたが、両社とも
協業の検討の事実は認めていたため、時間の問題とみられていた(参照:戦略ケース 【エ
ッジ】海外進出に活路求める外食チェーン企業)。
国内で 500 店舗以上を展開するリンガーハットだが海外では 9 店舗にすぎない。一方、
ハチバンは国内 136 店舗だが、海外ではタイを中心に 112 店舗展開している。これは、外
食チェーン企業の海外出店数では 8 位に相当する(弊社調べ)。九州と関東に出店を集中す
るリンガーハットと、北陸を拠点とするハチバンでは国内では棲みわけされており、空白
地域への出店において協業のメリットがある。しかしそれ以上に、
「今後 10 年でアジア 170
店体制」を目標に掲げる売上高 350 億円のリンガーハットにとっては、売上高 60 億円なが
らも海外展開のノウハウを持つハチバンとの提携のメリットは大きい。
リンガーハットとハチバンはともに麺を取り扱う業態であるが、今後は商品の枠を超えた
再編も考えられる。特にイオンや百貨店が海外に大型のショッピングセンターの開発を進
めており、そこのフードコートなどに出店するにあたって、複数の業態を
えることが有
効であるからである。
(2)「小」が「大」を飲みこむ
2013 年 11 月の回転ずし 2 位「カッパ・クリエイトホールディングス(以下、カッパ HD)」
と同 5 位の「元気寿司」の経営統合のニュースはカッパの首脳陣が退陣し、元気寿司が主
導するということで「小が大を飲み込む」という点でも注目される。この背景には両社の
筆頭株主である米穀卸最大手「神明」のコメ販売拡大があるが、外食業界の中で好調とみ
られていた回転ずし市場での再編ということでインパクトが大きかった。
2014 年に予定される統合後の売上高は単純計算で 1,186 億円(2012 年度)となり、首
位の「あきんどスシロー」
(同 1,113 億円)を上回る最大手となる。カッパ HD の「かっぱ
寿司」は業界最多の約 400 店舗展開だが、「1 皿 88 円」など低価格戦略により 2012 年度
に最終赤字に転落し、2013 年度も 2 期連続最終赤字が見込まれている。一方の元気寿司は
2008 年度から 2010 年度まで 3 期連続最終赤字であったが、「元気寿司」の不採算店の閉
鎖や 1 皿 100 円の「魚べい」への業態転換により、店舗数こそ減少したが、増収増益への
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
4
戦略ケース
転換を果たしている。
「元気寿司」の業績回復のノウハウを「かっぱ寿司」の再建に投入するとともに、魚やコ
メなど原材料価格の高騰に対して規模のメリットで購買力を高め、店舗やメニューの共同
開発や物流・仕入れの共通化を進めることで、厳しい出店競争の中で、低価格業態での収
益確保を目指す。その先には海外出店も睨んでおり、中国や香港から東南アジアにおいて 5
年後 250 店舗体制を計画している。
過去の成功体験が持続しない厳しい外食の経営環境下において、これまでの常識を覆すよ
うな再編は回転ずし業界だけでなく、他の業界にも広がっていくことが予想される。
(3)業界最大手ゼンショーが仕掛ける新たなM&A
外食業界の最大手企業「ゼンショーホールディングス(以下ゼンショーHD)」(参照:企
業活動分析 ゼンショーHD)の売上高は 4,175 億円。2 位の日本マクドナルドホールディ
ングス(参照:企業活動分析 日本マクドナルド HD)が 2,947 億円、3 位の吉野家ホール
ディングス(参照:企業活動分析 吉野家 HD)が 1,645 億円ということからも、圧倒的な
規模を誇っていることがわかる(2012 年度業績)。メインは牛丼チェーン業界売上トップ
の「すき家」だが、ファミリーレストラン業界 5 位の「ココス」、回転ずし業界 4 位の「は
ま寿司」、その他にも焼き肉やパスタ専門店からカフェまで多様な業態を展開している。
このゼンショーHD がここ 2 年で関東圏のローカルスーパーを傘下に収めている。2012
年の「マルヤ」
(埼玉県)を皮切りに、2013 年には「マルエイ」
(千葉県)、
「スーパーヤマ
グチ」(栃木県)を買収している。小売業と外食チェーンの関係でいえば、イトーヨーカ堂
の「デニーズ」、ダイエーの「神戸らんぷ亭」、イオンの「レッドロブスタージャパン」の
ように流通企業グループが傘下に展開するというかたちであった。しかしゼンショーは、
食材調達ルートの確保とコスト低減のために小売企業を買収するという、これまでとは逆
の展開を試行している。今後は複合店舗展開など新たな展開の可能性もあるが、新しいM
&Aの形として注目される。
国内の外食産業の市場規模は 1997 年の 29 兆円をピークに縮小トレンドが続き、2012
年では 23.2 億円と 15 年間で約 2 割も減少している(公益財団法人 食の安全・安心財団 附
属機関 外食産業総合調査研究センター調べ)。日本の人口が初めて減少に転じたのは 2005
年であることから、単純に胃袋市場の縮小が外食市場の縮小の要因であるとはいえない。
過度な低価格競争による客単価の低下、さらには低価格を実現するための商品やサービス
の品質低下による顧客離れなど負の循環に陥っていたといえる。
この間、不況や震災などを通じた「内食回帰」
、さらにはコンビニエンスストアを代表と
する「中食」の進化と拡大により、食需要のボーダレス競争が激化している。出店余地の
小さい国内市場で高付加価値化を実現しつつ、海外への進出を図る。大手外食チェーンを
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
5
戦略ケース
中心とした外食産業は景気回復下で新たな局面を迎えている。
copyright (C)2014 Japan Consumer Marketing Research Institute. all rights reserved.
6