まつお ゆきこ 氏名(本籍) 学 位 の 種 類 松尾 侑希子(長崎県) 博 士(薬学) 学 位 記 番 号 論 博 第 332号 学位授与の日付 平 成 26 年 3 月 20 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 2 項該当 学位論文題目 高等植物を由来とする腫瘍細胞毒性成分の探索研究 論文審査委員 (主査) 教授 三巻 祥浩 教授 竹谷 孝一 教授 横松 力 教授 平野 俊彦 論文 内 容の 要旨 申請者は天然からの新規抗腫瘍活性成分の探索を目的に,抽出エキスに腫瘍細胞毒 性 が 認 め ら れ た ビ ャ ク ダ ン 科 Santalum album 心 材 , メ ギ 科 Caulophyllum thalictroides 地 下 部 ,ユ リ 科 Fritillaria meleagris 鱗 茎 お よ び Bessera elegans 鱗 茎 の 成 分 探 索 を 行 っ た . そ の 結 果 , 新 規 化 合 物 38 種 を 含 む 80 種 の 化 合 物 を 単 離 し , そ れ ら の 構 造 を 明 ら か に す る と と も に ,腫 瘍 細 胞( HL-60 白 血 病 細 胞 ,A549 肺 が ん 細 胞 な ど )と TIG-3 線 維芽細胞に対する細胞毒性を評価し,腫瘍選択性,構造活性相関,アポトーシス誘導 活 性 ,PPAR-γ リ ガ ン ド 活 性 天 然 物 で あ る マ グ ノ ロ ー ル と の 併 用 効 果 な ど を 検 討 し た . 【 第 1 章 】 ビ ャ ク ダ ン 科 Santalum album心 材 の 化 学 成 分 1, 2) S. albumの 心 材 (1.0 kg) を MeOHに て 抽 出 し ,減 圧 下 濃 縮 し た .得 ら れ た MeOH抽 出 エ キ ス は HL-60 細 胞 に 対 し て 細 胞 毒 性 を 示 し た (IC 5 0 2.1 µg/mL).こ の エ キ ス を Diaion HP-20 カ ラ ム に 付 し , 30% MeOH, 50% MeOH, MeOH, EtOH, EtOAcと 順 次 極 性 を 下 げながら溶出させた.このうち細胞毒性を示した画分の成分探索を行い,4 種の新規 α-santalane型 セ ス キ テ ル ペ ン (1-4),8 種 の 新 規 β-santalane型 セ ス キ テ ル ペ ン (8-15), 1 種 の 新 規 リ グ ナ ン (20) を 含 む 24 種 の 化 合 物 (1-24) を 単 離 し た . 単 離 し た 化 合 物 の 構 造 を 各 種 ス ペ ク ト ル デ ー タ の 解 析 , 化 学 変 換 , 新 Mosher法 な ど の 適 用 に よ り , 以 下 の よ う に 決 定 し た .化 合 物 5 と 16 は 本 植 物 の 特 異 な 香 気 成 分 と し て 知 ら れ て お り , 今回その誘導体である新規の微量成分を多数同定した. OH OH OH OH R R OH OH CHO OCH3 OH OH OHC 1 2 3 R = CH2OH 7 R = CH3 OH OH OH HO OCH3 H3CO H3CO OH OH OH 15 11 R = CH2OH 12 R = CHO OH OH H H OCH3 O 18 OCH3 OH OH 23 R HO 24 OCH3 OH H OH OH 14 OH 16 R = CH3 17 R = CH2OH OH 13 OH OH HO O OH R 22 HO OH H OH OH 20 (7R,8R) R = OH 21 (7S,8S) R = OCH3 10 9 8 OCH3 OH OH OH OH OH R O 8 OH OH OH O 7 4 R = COOH 5 R = CH3 6 R = CH2OH OCH3 OH OCH3 O 19 【 第 2 章 】 メ ギ 科 Caulophyllum thalictroides地 下 部 の 化 学 成 分 3) C. thalictroides の 地 下 部 を MeOH に て 抽 出 し た . 得 ら れ た MeOH 抽 出 エ キ ス (IC 5 0 12.1 µg/mL) を S. albumと 同 様 の 方 法 に よ り 分 離 , 精 製 し , 4 種 の 新 規 ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 (30, 32-34) を 含 む 22 種 の 化 合 物 (25-46) を 単 離 し た . OH O H H R1O 25 26 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 COOR4 R2 R1O R2 Ara Ara Glc-(1 2)-Ara Ara Ara Ara Ara Glc-(1 2)-Ara Glc-(1 2)-Ara Ara Glc-(1 2)-Ara Ara H OH OH OH OH H H H H OH OH OH R3 O R4 H CHO H CHO H CH2OH Glc CH2OH CH2OH Glc-(1 6)-Glc H CH3 H CH2OH H CH3 H CH2OH H CH3 H CH3 H CH2OH H H R2 H H R3 R1 O AraO H OH R1 27 Glc-(1 2)-Ara 28 Ara R2 H COOH OH H COOH H RO OH H 2)-Ara 30 R = Glc-(1 29 H OH O H H O H RO R1 R2 R4 R3 42 H CH2OH Ara 43 OH CH2OH Ara 44 Glc-(1 2)-Ara H CH3 45 Glc-(1 2)-Ara H CH2OH 46 H CH2OH H Rha-(1 Rha-(1 Rha-(1 Rha-(1 Rha-(1 【 第 3 章 】 ユ リ 科 Fritillaria meleagris鱗 茎 の 化 学 成 分 4)-Glc-(1 4)-Glc-(1 4)-Glc-(1 4)-Glc-(1 4)-Glc-(1 31 6)-Glc 6)-Glc 6)-Glc 6)-Glc 6)-Glc H R = Glc-(1 2)-Ara 4) F. meleagris の 鱗 茎 を MeOH に て 抽 出 し た . 得 ら れ た MeOH 抽 出 エ キ ス (IC 5 0 13.5 µg/mL) を S. albumと 同 様 の 方 法 に よ り 分 離 , 精 製 し , 10 種 の 新 規 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 (47-56) を 含 む 18 種 の 化 合 物 (47-64) を 単 離 し た .化 合 物 47 は ,C-22 位 の 立 体 配 置 が 22S (22β) の ス ピ ロ ソ ラ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド ア ル カ ロ イ ド (tomatidenol) を ア グ リ コ ン と す る 配 糖 体 で あ る .Tomatidenolの 配 糖 体 は ナ ス 科 植 物 か ら 多 く 単 離 さ れ て い る が,今回のようにユリ科植物から得られることは稀である. O R2 R3 H H R3 R2 O H H R4 R1O R3 H(β) H,H 5(6) - ene 5(6) - ene 5(6) - ene 5(6) - ene H(α) O S2 S3 S1 S2 S2 S1 O H H H H R3 R2 R1 48 49 59 60 61 62 47 S2 CH2 NH 57 S1 NH CH2 58 S1 CH2 NH R4 H H R1O R1O R1 R2 R3 R4 R5 O H H H H O-Glc H OH O H O-Glc H R5 R4 R2 R5 H H H OH H OH H OH H OMe H H 50 52 53 54 64 51 R2 R3 R4 H H,H H 5(6) - ene OH 5(6) - ene H 5(6) - ene OH 5(6) - ene OH S1 = Glc 55 55a 56 63 4 Glc Glc S2 = 2 2 Rha Rha 【 第 4 章 】 ユ リ 科 Bessera elegans鱗 茎 の 化 学 成 分 R1O S3 = H S4 = Xyl Xyl R2 H O H R3 R1 S2 S2 S4 S4 S1 H H H S2O H H R1 R2 R3 R4 R5 S5 H O H OGlc H H O H OH H OH OH H(β),OGlc H c O Gl H H OGlc 4 Glc S5 = Glc 2 2 6 Glc Rha Rha 5) B. elegans の 鱗 茎 を MeOH に て 抽 出 し た . 得 ら れ た MeOH 抽 出 エ キ ス (IC 5 0 20.2 µg/mL) を S. album と 同 様 の 方 法 に よ り 分 離 , 精 製 し , 9 種 の 新 規 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 (65-73) と 2 種 の 新 規 フ ラ ボ ノ イ ド (79-80) を 含 む 16 種 の 化 合 物 (65-80) を 単 離 し た. H R2O 65 66 67 68 69 74 75 R1 OH OH OH OH H H OH H O H R2 S3 S3 S2 S2 S1 S1 S2 H R1 R3 H R2O H R3 R4 H Me Me OH Me OH OH CH2OH H Me H Me H Me R5 H,H H,H H,H H,H O H,H H,H OMe O H O H R1 HO OH R4 R5 OH O-Glc O-Glc O H O H R1 R3 H 70 71 76 77 78 H R1 R2 R3 OH S3 H OH S2 OH OH H H H S2 H OH S2 H H R2O H R1 R2 72 OH S2 73 H S1 H OH H O 79 H HO HO HO S1 = O HO O O OH S2 = OH O HO O OH 80 HO O O OH OH O HO HO HO OH O OH O HO O OH OMe O HO O HO O HO O HO O HO HO HO O O OH HO HO OH HO S3 = HO O HO O O OH O HO O OH O HO OH O HO OH 【第 5 章】単離された化合物および一部誘導体の腫瘍細胞毒性 OH 1 -5 ) 4 種 の 植 物 よ り 単 離 さ れ た 化 合 物 と 一 部 誘 導 体 に つ い て , 腫 瘍 細 胞 ( HL-60 細 胞 , A549 細 胞 な ど ) と TIG-3 正 常 細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 を MTT 法 に よ り 評 価 し た . そ の 結 果 , 22 種 の 化 合 物 が 腫 瘍 細 胞 選 択 的 に 細 胞 毒 性 を 示 し (Tables 1, 2), 構 造 活 性 相 関 に関する知見が得られた. α-Santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン の な か で は ,1 が HL-60 細 胞 に 対 し て シ ス プ ラ チ ン に 匹 敵 す る 細 胞 毒 性 を 示 し , 5, 6, 7 が 中 程 度 の 活 性 を 示 し た . 側 鎖 の 二 重 結 合 を 還 元 す る と (3b,6b,7b) 活 性 が 消 失 し た こ と か ら ,α-santalane 骨 格 の 側 鎖 の 二 重 結 合 が 細 胞 毒 性 の 発 現 に 必 須 で あ る こ と が 示 さ れ た .化 合 物 1,5,6,7 で そ れ ぞ れ 24 時 間 処 理 し た HL-60 細 胞 に は , ア ポ ト ー シ ス に 特 徴 的 な 形 態 的 変 化 と DNA の 断 片 化 , caspase-3 の 活 性 化 が 認 め ら れ た . β-Santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン 16 は 本 植 物 の 主 た る 香 気 成 分 で あ り , 既 存 の 抗 が ん 剤 が 効 き に く い 接 着 細 胞 (A549 細 胞 , HSC-2 細 胞 , OH HSC-4 細 胞 ) に 対 し て も 細 胞 毒 性 を 示 し た . リ グ ナ ン 類 の な か で は , 側 鎖 に ア ル デ ヒ ド 基 を 有 す る 20, 21 が HL-60 細 胞 と A549 細 胞 に 対 し て ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し た . Table 1. Cytotoxic activities of 1-24, etoposide, and cisplatin against HL-60 leukemia cells and TIG-3 normal cells 1 2 3 IC50 (µM)a Compd HL-60 TIG-3 2.20 ± 0.23 >40 6 >40 >40 6a >40 >40 6b 3b 4 5 >40 >40 13.8 ± 0.97 >40 >40 >40 5a 5b >40 >40 >40 >40 Compd a 7 7a 7b IC50 (µM) Compd HL-60 TIG-3 11.1 ± 0.19 >40 8 0.70 ± 0.08 4.0 ± 0.03 9 >40 >40 10 21.3 ± 0.51 >40 11 >40 >40 12 13 >40 >40 IC50 (µM) Compd HL-60 TIG-3 19.7 ± 0.23 >40 14 >40 >40 15 13.0 ± 0.68 11.5 ± 2.06 16 19.9 ± 0.67 13.5 ± 0.49 17 2.10 ± 0.03 >40 12.1 ± 2.15 >40 18 19 IC50 (µM) HL-60 TIG-3 >40 >40 36.0 ± 2.20 >40 9.90 ± 0.52 >40 11.9 ± 0.41 >40 10.4 ± 0.42 20.3 ± 0.51 38.5 ± 0.55 >40 Compd 20 21 22 23 IC50 (µM) HL-60 TIG-3 1.50 ± 0.02 >40 4.30 ± 0.13 >40 >40 >40 >40 >40 24 etoposide >40 0.48 ± 0.03 >40 14.5 ± 1.00 cisplatin 1.76 ± 0.05 2.62 ± 0.18 Date are represented the mean value ± S.E.M. of three experiments performed in triplicate. ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 の な か で は ,モ ノ デ ス モ シ ド で あ る 25 と 35 が 腫 瘍 細 胞 選 択 的 に細胞毒性を示した. ス テ ロ イ ド 配 糖 体 の な か で は , 47 と 58 が HL-60 細 胞 に 対 し て , 57 が A549 細 胞 に 対 し て 腫 瘍 選 択 的 な 細 胞 毒 性 を 示 し た . こ の 選 択 性 は ス ピ ロ 環 部 (22 位 ) の 立 体 配 置 が 関 与 し て い る と 考 え ら れ る . コ レ ス タ ン 型 ス テ ロ イ ド 誘 導 体 55aで 処 理 し た HL-60 細 胞 は , ア ポ ト ー シ ス に 特 徴 的 な 形 態 的 変 化 と caspase-3 の 活 性 化 を 示 し , G2/M期 の 細 胞 の 蓄 積 と と も に sub-G 1 ピ ー ク の 上 昇 を 認 め た . し た が っ て , 55aは G2/M期 で 細 胞 周期を停止させ,アポトーシスを誘導することが示された.プソイドフロスタノール 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 73 は 時 間 依 存 的 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し ,A549 細 胞 に 対 し て は G0/G1 期 に お い て 細 胞 周 期 を 停 止 さ せ , ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し た . プ ソ イ ド フ ロ ス タ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 類 は 一 般 に 細 胞 毒 性 を 示 さ な い た め ,73 が 腫 瘍 選 択 的 に 細 胞毒性を示したことは興味深い新知見である. Table 2. Cytotoxic activities of 25-80, etoposide, and cisplatin against HL-60 cells, A549 cells and TIG-3 normal cells a Compd Compd IC50 (µM) HL-60 TIG-3 >10 >10 Compd IC50 (µM) A549 > 10 47 HL-60 5.00 ± 0.16 26 >10 >10 37 >10 >10 48 5.74 ± 0.10 > 10 27 >10 >10 38 >10 >10 49 > 10 > 10 28 >10 >10 39 >10 >10 50 3.77 ± 0.25 6.83 ± 0.25 29 >10 >10 40 >10 >10 51 > 10 7.57 ± 0.24 30 31 32 33 34 35 >10 >10 >10 >10 >10 6.25 ± 0.36 >10 >10 >10 >10 >10 >10 IC50 (µM) 41 42 43 44 45 46 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 >10 > 10 > 10 > 10 > 10 7.78 ± 0.09 > 10 4.45 ± 0.05 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 1.0 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 65 HL-60 5.41 ± 0.24 A549 4.08 ± 0.14 TIG-3 1.82 ± 0.01 66 > 10 > 10 > 10 72 67 > 10 > 10 > 10 73 3.75 ± 0.11 1.64 ± 0.09 25 Compd a IC50 (µM) HL-60 TIG-3 8.02 ± 0.23 >10 36 Compd 71 52 53 54 55 55a 56 IC50 (µM) HL-60 > 10 A549 > 10 TIG-3 > 10 > 10 > 10 Compd TIG-3 Compd 1.0b 57 1.0 > 10 b 58 4.42 ± 0.92 > 10 > 10 59 6.10 ± 0.04 6.53 ± 0.22 1.0 b 1.0 > 10 60 6.77 ± 0.05 4.44 ± 0.09 1.0 61 4.68 ± 0.09 5.19 ± 0.02 b 62 63 64 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 1.0b > 10 > 10 > 10 77 A549 0.50 ± 0.01 2.02 ± 0.01 78 4.24 ± 0.04 1.29 ± 0.02 > 10 > 10 79 0.43 ± 0.02 1.99 ± 0.06 4.57 ± 0.19 TIG-3 > 10 68 > 10 > 10 > 10 74 3.09 ± 0.13 1.10 ± 0.01 1.12 ± 0.01 80 > 10 > 10 > 10 69 8.05 ± 0.28 3.55 ± 0.07 1.74 ± 0.01 75 4.12 ± 0.20 1.53 ± 0.04 > 10 etoposide 0.32 ± 0.01 4.07 ± 0.23 11.2 ± 1.37 70 6.22 ± 0.04 3.80 ± 0.07 > 10 76 cisplatin 1.23 ± 0.03 2.30 ± 0.04 2.01 ± 0.32 > 10 > 10 > 10 b b b IC50 (µM) HL-60 6.14 ± 0.14 Date are represented the mean value ± S.E.M. of three experiments performed in triplicate. IC50 (µM) A549 TIG-3 7.93 ± 0.16 > 10 HL-60 > 10 IC50 values are less than 1.0 µM. 近 年 , 種 々 の が ん 細 胞 に お い て ペ ル オ キ シ ソ ー ム 増 殖 剤 応 答 性 受 容 体 (PPAR)-γ が 高 発 現 し , PPAR-γ リ ガ ン ド の 抗 腫 瘍 活 性 や 抗 が ん 剤 の 増 強 作 用 が 注 目 さ れ て い る . そ こ で , 天 然 物 由 来 の PPAR-γ リ ガ ン ド で あ る マ グ ノ ロ ー ル と , 腫 瘍 細 胞 選 択 的 に 毒 性 を 示 し た セ ス キ テ ル ペ ン 類 (1,5,6,16,17) お よ び リ グ ナ ン 類 (20,21) と の 併 用効果を検討した.その結果,セスキテルペン類およびリグナン類はマグノロールと の 併 用 に よ り 濃 度 依 存 的 に HL-60 細 胞 に 対 す る 毒 性 が 増 強 し ,ア ポ ト ー シ ス に 特 徴 的 な 形 態 的 変 化 が 認 め ら れ た .化 合 物 1 の 細 胞 毒 性 は マ グ ノ ロ ー ル (1 µg/mL) と の 併 用 に よ り 100 倍 以 上 増 強 さ れ ,0.01 µg/mL の 濃 度 で HL-60 細 胞 に 対 し て ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し た . In vivo 試 験 に お い て も , マ グ ノ ロ ー ル の よ う な 天 然 物 由 来 PPAR-γ リ ガ ン ドの併用による腫瘍細胞毒性成分の投与量の大幅な減量が可能であれば,天然由来成 分を用いたがん治療の臨床応用への展開が期待できる. 【研究結果の掲載誌】 1) Phytochemistry, 77, 304-311 (2012); 2) Chem. Pharm. Bull., 58, 587-590 (2010); 3) J. Nat. Prod., 72, 1155-1160 (2009); 4) Steroids, 78, 670-682 (2013); 5) Phytochemistry, 96, 244-256 (2013) 論文 審 査の 結果 の要 旨 松尾侑希子氏の博士学位論文は,天然からの新規抗腫瘍活性成分の探索を目的に, ビ ャ ク ダ ン 科 Santalum album 心 材 , メ ギ 科 Caulophyllum thalictroides 地 下 部 , ユ リ 科 Fritillaria meleagris 鱗 茎 , ユ リ 科 Bessera elegans 鱗 茎 の 成 分 分 離 を 行 い , 単 離 さ れ た 化 合 物 の 化 学 構 造 と , そ れ ら の HL-60 白 血 病 細 胞 や A549 肺 が ん 細 胞 に 対 す る 腫 瘍 細 胞毒性について述べたものである.本論文は 5 章からなる. 第 1 章 で は , S. album 心 材 よ り 得 ら れ た 4 種 の 新 規 α-santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン , 8 種 の 新 規 β-santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン ,1 種 の 新 規 リ グ ナ ン を 含 む 24 種 の 化 合 物 の 構造について述べた.本植物の主たる香気成分に加えて,側鎖部が多様な構造の新規 santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン を 単 離 し , 二 次 元 NMR を 含 む 各 種 ス ペ ク ト ル デ ー タ の 解 析 , 化 学 変 換 , 新 Mosher 法 の 適 用 な ど に よ り そ れ ら の 構 造 を 明 ら か に し た . 第 2 章 で は , C. thalictroides 地 下 部 よ り 得 ら れ た 4 種 の 新 規 ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 を 含 む 22 種 の 化 合 物 の 構 造 に つ い て 述 べ た .メ ギ 科 植 物 は 一 般 に ア ル カ ロ イ ド を 含 有 す る こ と が 知 ら れ て い る が ,本 研 究 に よ り C. thalictroidesが ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 を 約 0.14 % の 含 有 率 で 含 む こ と が 明 ら か と な っ た . ま た , 多 数 の oleanane型 ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 と と も に , 天 然 か ら の 報 告 例 が 少 な い 2 種 の taraxastane型 ト リ テ ル ペ ン 配 糖 体 を 単 離した. 第 3 章 で は ,F. meleagris 鱗 茎 よ り 得 ら れ た 3 種 の ス ピ ロ ソ ラ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド ア ル カ ロ イ ド 配 糖 体 ,6 種 の ス ピ ロ ス タ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 ,6 種 の フ ロ ス タ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 ,3 種 の コ レ ス タ ン 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 の 構 造 に つ い て 述 べ た . こ れ ら の う ち 10 種 は 新 規 化 合 物 で あ る .本 植 物 よ り ,ユ リ 科 か ら は じ め て と な る C-22 位 の 立 体 配 置 が 22S (22β) の ス ピ ロ ソ ラ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド ア ル カ ロ イ ド の 配 糖 体 を 単離した. 第 4 章 で は , B. elegans 鱗 茎 よ り 得 ら れ た 7 種 の ス ピ ロ ス タ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 ,7 種 の フ ロ ス タ ノ ー ル 型 ス テ ロ イ ド 配 糖 体 ,2 種 の ホ モ イ ソ フ ラ ボ ノ イ ド の 構 造 に つ い て 述 べ た .こ れ ら の う ち 11 種 は 新 規 化 合 物 で あ る .本 植 物 よ り ,天 然 か ら の 報 告 例 が 少 な い scillascillin 型 ホ モ イ ソ フ ラ ボ ノ イ ド を 単 離 し た . 第 3 章 と 第 4 章 で 述 べ た よ う に ,ユ リ 科 の 園 芸 植 物 F. meleagris と B. elegans か ら 新 規性のある天然物が多数単離されたことは,伝承的背景のない園芸植物も新しい医薬 品資源として期待できることを支持するものと言える. 第 5 章では,4 種の植物より単離された化合物ならびに一部誘導体の腫瘍細胞毒性 について述べた.その結果,腫瘍細胞選択的にアポトーシスを誘導し,新規抗がん剤 の シ ー ド 化 合 物 と し て 期 待 で き る α-santalane 型 セ ス キ テ ル ペ ン や ネ オ リ グ ナ ン を 見 出 し た . ま た ス テ ロ イ ド 配 糖 体 の な か に は , A549 肺 が ん 細 胞 に 対 し て G0/G1 期 で 細 胞 周 期 を 停 止 さ せ 、時 間 依 存 的 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 す る も の や ,caspase の 活 性 化 を ともなわずにアポトーシス様細胞死を誘導するものがあった.腫瘍細胞選択的に毒性 を 示 し た セ ス キ テ ル ペ ン 類 と リ グ ナ ン 類 は , 天 然 物 由 来 の PPAR-γ リ ガ ン ド で あ る マ グ ノ ロ ー ル と 併 用 す る こ と に よ り ,そ れ ら の HL-60 細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性 が 大 き く 増 強することを見出した.本研究成果は,抗がん剤とマグノロールのような天然由来成 分の併用による新しいがん治療の端緒となるものと評価できる. 以上,本論文は創薬を志向した生物活性天然物化学分野の研究として価値ある新規 知見を十分に含んでおり,博士(薬学)学位論文として適格であることを認める.
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