きわめて稀な早発月経の一例(吉冨 奈央 2011年

きわめて稀な
早発月経の一例
鹿児島大学病院 産婦人科
吉冨 奈央、岩元 一朗、堂地 勉
はじめに
早発思春期は性ステロイドホルモンの
分泌により第2次性徴(乳房発育、恥毛発
育、初経発来)が標準より早く出現した状
態である。
今回われわれは早発思春期の亜型であ
り、非常にまれな早発月経を経験し、その
取扱いなどについて考察を加えたので報
告する。
症例
患者:女児、6歳7か月
主訴:性器出血
既往歴:4歳時に性器出血
その他特に外傷、手術などなし
家族歴:祖母 胃癌、伯母 乳癌
現病歴:9月10日に少量の性器出血と帯下あり。
その後再度、性器出血を認めたため、近医産
婦人科を受診し、精査目的で当院紹介となる。
この間ホルモン剤(含有物)の誤った摂取や
常用薬品などはなかった。
現症
身長:111 ㎝
(クラスで前から2番目、母153 ㎝、父168 ㎝)
体重:18 ㎏
乳房発育:Tanner Ⅰ度
恥毛発育:Tanner Ⅰ度
超音波検査で子宮、両側付属器に異常なし
外陰部に外傷なし
内分泌学的検査
FT4 1.29 ng/dl (0.90 – 1.80)
TSH 3.02 μIU/ml (0.35 – 3.73)
LH < 0.2 mIU/ml
FSH 2.61 mIU/ml
PRL 6.9 ng/ml
E2 < 12 pg/ml
* 内分泌学的異常はなし
手根骨Xp
骨年齢:手関節の
骨化核数を求める
正常:年齢数または
年齢数+1
早発思春期とは?
性ステロイドホルモンの分泌により第2次性徴
が標準より早く出現した状態。以下の3点が主
に問題となる。
①潜在する重篤な病変の発現症状である
可能性があり、精査が必要である。
②本人に心理的、社会的な問題を引き起こす
ことがある。
③早期には急激な身長増加速度の亢進を見る
が、最終的には低身長に終わる。
早発思春期の定義
早発思春期
日本産科婦人科学会 1)
中枢性思春期早発症
診断の手引き 2)
乳房発育
7歳未満
7歳6か月未満
陰毛発育
9歳未満
8歳未満
初経発来
10歳未満
10歳6か月未満
*乳房発育、陰毛発育、初経のそれぞれが上記年齢で
発現した場合を早発思春期という
1)日本産科婦人科学会
2)間脳下垂体機能障害調査研究班(平成15年度改訂)
早発思春期の分類1)
1.中枢性(真性):視床下部GnRH分泌早期活性化 GnRH↑LH↑FSH↑
1)特発性 GnRH分泌亢進
2)器質性
腫瘍(過誤腫、神経膠腫)、炎症、外傷、水頭症、放射線照射後
2.末梢性(仮性):GnRH分泌を伴わない
1)ホルモン産生腫瘍 卵巣腫瘍、卵胞嚢胞、副腎腫瘍などLH↓FSH↓
2)原発性甲状腺機能低下症
3)医原性、外因性:食品、薬剤、化粧品 LH↓FSH↓
3.異性性早発思春期症
1)男性化卵巣腫瘍(arrhenoblastoma)など
2)男性化副腎腫瘍
3)先天性副腎皮質過形成
4.亜型
1)早発乳房発育
2)早発副腎皮質性第2次性徴
3)早発初経
1)綾部琢哉:早発思春期。臨婦産63:1019-1025.2009
早発思春期診断のアルゴリズム
早期の第2次性徴の発現(乳房発育、恥毛発育、初経発来)
成長率、骨年齢、性ホルモン
卵巣超音波検査
卵巣腫瘍
自律性反復性卵胞嚢胞
早発思春期の亜型
早発乳房発育
早発副腎皮質性第2次性徴
早発初経
GnRH負荷テスト
ゴナドトロピン依存性
MRI、CT、負荷試験、遺伝子解析
MRI、CT
特発性
ゴナドトロピン非依存性
器質性
過誤腫、神経膠腫、水頭症
炎症、外傷、放射線照射後
副腎腫瘍
McCune-Albright症候群
hCG産生腫瘍
現症
身長:111 ㎝
身長、体重は
年齢相当
(クラスで前から2番目、母153㎝、父168㎝)
体重:18 ㎏
月経以外の
乳房発育:Tanner Ⅰ度
第2次性徴は
認めず
恥毛発育:Tanner Ⅰ度
超音波検査で子宮、両側付属器に異常なし
腫瘍性病変はなし
内分泌学的検査
FT4 1.29 ng/dl (0.90 – 1.80)
甲状腺機能は正常
TSH 3.02 μIU/ml (0.35 – 3.73)
LH < 0.2 mIU/ml
LH↓、FSH→(LH<FSH)
FSH 2.61 mIU/ml
PRL 6.9 ng/ml
E2 < 12 pg/ml
E2低値
* 内分泌学的異常はなし
診断
早発月経
Premature menarche without other evidence
of precocious puberty
Heller M E, et al. Arch Dis Child
We describe 4 young girls with recurrent vaginal
bleeding in the absence of other signs of
precocious sexual development. Investigation
showed low oestrogen levels in 2 of them, and
basal gonadotrophins were in the upper part of
the prepubertal range. We believe that the
isolated early menstrualtion in these patients
was possibility related to increased sensitivity
of the endometrium to oestrogens.
治療
1.中枢性、特発性
GnRHアゴニスト(リュープリンRなど)が第一選択
2.末梢性
原因となる器質的病変の治療
酢酸メドロキシプロゲステロン(ヒスロンRなど)
による性器出血への対応
3.亜型
治療は不要
⇒最終身長は影響を受けないため
おわりに
今回われわれはきわめてまれな早発月経を
経験した。早発月経は将来的な妊孕能や最終
身長に影響を及ぼさず、予後は良好とされてい
る。
しかし、本人および家族にとっては性器出血
があることから、不安を感じる。
正確な診断により不要な治療を行わず、また
本人、家族の精神的なサポートを行うことが必
要と思われた。