1 【1】不妊症学総論 女性内分泌 女性の内分泌環境は幼児期から,思春期,性成熟期,更年期,老年期と大 きく変化していく.したがって女性の内分泌環境を理解するためには正常月 経周期における視床下部-下垂体-卵巣-子宮におけるメカニズムを理解しな 皮質 視床下部 ultra−short feedback GnRH short feedback 下垂体 FSH LH auto− feedback long feedback 卵巣 インヒビン アクチビン エストロゲン プロゲスチン 子宮 ●図 1-1●視床下部-下垂体-卵巣系のフィードバック機構 2 【1】不妊症学総論 498-07633 いといけない.排卵に関与する下垂体ホルモンは FSH,LH であり,FSH, LH は視床下部からの gonadotropin releasing hormone(GnRH)の調節下で 下垂体前葉で産生分泌される.この FSH・LH の作用で卵巣においてエスト ロゲン,プロゲステロンなどのステロイドホルモンが産生され,標的組織(子 1) 宮内膜など)に作用する(図 1-1) . また卵巣においては,胎生期から閉経期までの間に生殖細胞(卵祖細胞) 数は大きく変化する.卵祖細胞数は胎生 8 週で 60 万個となり,20 週では最 も多くなり 600万〜700 万個となる.その後は自然減少し出生時には 200 万 個,7 歳で 30 万個,思春期には 20万〜30 万個と減少し,更年期は約 1000 個 2) と減少して閉経期となる(図 1-2) .このため幼年期から老年期までの女性 の内分泌環境は大きく変化していく. 血中各種ホルモン値の年齢的推移を図 1-3 に示す.すなわち 幼年期: hypogonadotropic hypogonadism 性成熟期: normogonadotropic normogonadism 老年期: hypergonadotropic hypogonadism 7.0 卵子数(単位100万) 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0.6 0.3 3 月齢 6 9 出生 5 10 20 30 ●図 1-2●ヒト卵子数の年齢による推移 498-07633 40 50 年齢 2) 1.女性内分泌 3 E1, E2(pg/ml) 初経 150 E2 100 E1 50 0 PRG(ng/ml) 閉経 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 歳 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 歳 20 10 0 FSH, LH(mIU/ml) 200 150 FSH 100 LH 50 0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 歳 ●図 1-3●女性血中各種ホルモン値の年齢的推移 (赤祖父,他.日母研修ノート: 中高年婦人の臨床より) を示す. 本稿では性成熟期の内分泌環境について示す. A 性機能系ホルモン 1 ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモン gonadotropin-releasing hormone(GnRH) GnRH は 10 個のアミノ酸で構成される,ペプチドホルモンである.性中 4 【1】不妊症学総論 498-07633 mIU/ml 130 110 90 mIU/ml 100 70 50 30 0 mIU/ml 30 80 1 2 3 LH 0 1 2 3 時間 FSH 20 60 10 0 mIU/ml 15 40 1 2 mIU/ml 20 3 時間 15 10 10 5 0 5 1 2 2 4 3 時間 0 1 2 3 4 18 20 22 24 26 20 0 1 6 8 10 12 14 16 5 時間 28日 ●図 1-4●正常排卵性周期における血中 LH・FSH の基礎値および 3) 脈波様 pulsatile 分泌パターン 枢である視床下部にある GnRH 産生細胞で産生され,下垂体門脈に律動的に 分泌される.この作用で下垂体より FSH,LH が律動的に分泌される(図 13) 4) .血中半減期は 2〜3 分と極めて短い.この律動的に分泌された GnRH に同期して下垂体からゴナドトロピンがパルス状に分泌される.このパルス 状分泌の間隔や振幅は年齢や月経周期の時期により異なり,卵胞期では約 1〜2 時間に 1 回で比較的小さな振幅であるが,排卵期には頻回で振幅が大き くなる.黄体期では 3〜4 時間に 1 回と周期は長くなり,振幅も大きい. 律動的に分泌されるゴナドトロピンは卵巣に作用し,卵胞の成熟・排卵を 引き起こす. 498-07633 1.女性内分泌 5 2 ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン) gonadotropin 下垂体性ゴナドトロピンには卵胞刺激ホルモン follicle stimulating hor- mone(FSH)と黄体化ホルモン luteinizing hormone(LH)がある.いずれ も下垂体のゴナドトロピン産生細胞(ゴナドトロフ)から分泌される.また, 標的臓器である卵巣においては FSH レセプターは顆粒膜細胞に,LH レセプ ターは莢膜細胞に存在する. 3 卵巣から分泌されるホルモン 下垂体からのゴナドトロピンの作用を受けて,卵胞や黄体から性ステロイ 4) ドホルモンが産生される(図 1-5) .これらのステロイドホルモンは血中に アセテート コレステロール CH3 CH3 C=O C=O OH ② HO プレグネノロン ① ③ HO 17α−ヒドロキシプレグネノロン CH3 CH3 C=O C=O OH ② O プロゲステロン O O 17α−ヒドロキシ プロゲステロン 酵素 ①3β−ヒドロキシステロイド デヒドロゲナーゼ−イソメラーゼ ②17α−ヒドロキシラーゼ ③17, 20リアーゼ ④ヒドロキシラーゼ ⑤アロマターゼ HO デヒドロエピアンドロステロン ① OH O ③ ④ O アンドロステン ダイオン ⑤ O テストステロン ⑤ O HO OH HO エストロン エストラジオール :強い ●図 1-5●性ステロイドホルモンの産生 6 【1】不妊症学総論 498-07633
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