Chance protein皿iaで発症したFSHの臨床病理学的検討 国立病院医療センター小児科 小田島安平,浅野博雄,山口正司 国立病院医療センター研究部病理 岡田正明 国立病院医療センター小児科にて腎生検を行い, 1 はじめに FGSの診断が確定した症例のうち, 巣状糸球体硬化症(以下FGS)は,組織学的 1) chance proteinuria with or without he− に規定された疾患単位で以下のような特性を有す maturiaにて発見され,初期のうちに腎生 る。1)focal and segumentalな分布を示す硬化 検が行われているもの 性病変,2)髄質近傍皮質のvulnerability,3)特 2)各種治療に抵抗し,slowly progressive 徴的蛍光抗体所見にその特徴は要約される。この な経過をたどっているもの ような組織病理学的変化と臨床像との相関は種々 3)少なくても1回は腎生検にてFSHの所 検討されている。FGO,FSHに分けて検討した 見があったもの Habibらの報告を始めとして,Geraldらの報告, 以上の要件をみたす当院小児科管理中の患児は その他種々のものがある。しかし,その多くはネ 5名である。症例の現在の年齢は14∼19歳で発症 フローゼ症候群として発症したものが殆どである。 時の年齢は2歳8カ月から12歳までである。発症 今回,我々はchance proteinuriaとして発症し 後初回腎生検までは2∼60カ月の差あり,症例2 たもので,slowly progressiveな経過をたどって と5は初回腎生検時minimal changeの診断で いるFSH5例に対し,その臨床経過と腎生検所 経過観察されていたものである(表1)。5例の 見との比較対比を試みた。このような検討はいま 現在までの治療はステロイドを全例に,パルス療 だ報告が少なく,FSHの初期像をかんがえる上 法施行例3名,抗凝固療法は全例に免疫抑制剤投 で興味深いと思われる6 与は3例におこなっている(表2)。現在の臨床 2 対 象 検査値では症例1,2は低蛋白血症をしめし,全 例血尿を認めない。主な合併症は症例1の染色体 表1 症例 性別 発症年令、 発症一腎生検(月) 1.H H 14 F 5才1ヵ月 42 2.K N 15 F 2才8ヵ月 38 3.F T 19 M 12才 4.S M 14 F 9才10ヵ月 7 5.S T 15 M 2 8才8ヵ月 一95一 794 年令 39 60 9 4 表2 現在までの治療 ステロイド剤 パルス療法 抗凝固療法 免疫抑制療法 1。H H 十 十 十 十 2。1( N 十 十 十 十 3。F T 十 4。S M 一 5。S T 十 表3 臨床検査所見 十 十 十 一 Ccrm1!min 尿蛋白g/da 十 一 TPg/dI HT 一 一 一 microトema亀uri趣 1。H H 7−10 40 4.3 一 『 2.K N 2−5 53 3.5 一 一 3.F T 4−6 70 6.8 十 一 4.S M 3−4 80 6.7 一 一 5.S T 6−7 75 6.5 一 一 異常とgonadoblastoma,症例3の腎静脈血栓症 4歳時当院入院。軽度の低蛋白血症と蛋白尿を がある(表3)。 みとめ,ステロイド剤による治療により一時尿蛋 白は消失した。しかし,減量とともに再び出現し, 3 臨床経過 ACTH等も使用した。8歳時を最後にステロイド 症例1 14歳女児 5歳時保育園の尿検査で初 剤には反応がなくなり,抗凝固療法等をおこなっ めて尿蛋白を指摘された。尿異常は持続し,6歳時 たが,改善を見ずに現在に至っている。 その精査目的で某病院入院,腎生検を受けている。 症例3 19歳男児 12歳時,学校検尿にて蛋白 その光顕像はFGSにあたる所見でendoxanの 尿を発見され,某病院にて高血圧も指摘されてい 投与を受けたが,改善は得られなかった。同時に る。13歳∼14歳の間は血圧は安定し,蛋白尿も消 この入院時に染色体検査も受け,karyo typeが 失していた。16歳時,学校検尿で再び蛋白尿陽性 46−XYで男性半陰陽であることも指摘された。 となり,当院来院した。外来にて経過を見ていた 8歳時,両側gonad摘出のため当院に入院した。 が,蛋白尿持続するため腎生検施行し,FSHと 入院時,尿蛋白10g/day,血尿があり,TP6.1g/ 診断した。その後,Ccrの低下を示したこと,血 dJ,BUN19mg!dJ,CrO.9mg/dJであった。手 術後の組織診断はgonadoblastomaであった。 管極よりの糸球体変化が強く,IVPにて左腎下極 9歳時,持続する尿蛋白のため腎生検施行。この 腎静脈血栓症を証明した。抗凝固療法を行ったと の陰影欠損があったことにより腎静脈造影を行い, 時の検査では尿蛋白5∼15g/day,TP5.7,BUN ころ,蛋白尿の一時的な軽減を見たが,再び蛋白 20,Cr O.9であった。以後,ステロイド剤,パル 尿は治療前の値にもどった。その後,Azapropazo. ス療法,抗凝固療法等を行ったが,治療に反応せ ne投与にて蛋白尿の消失をみたが,Cr値上昇の ずに徐々に低蛋白血症をきたしている。 ため中止し,中止後は再び蛋白尿の出現をみてい 症例2 15歳 女児 2歳8カ月時蛋白尿を指 る。 摘され,某病院入院した。6カ月の入院中ステロ 症例4 14歳女児 9歳10カ月時,学校検尿で イド剤6M P投与を受けたが改善せずに退院した。 蛋白尿指摘されたため当院入院した。入院時1∼ 一96一 39/dayの蛋白尿以外に異常をみとめず,腎生検 5 結 果 にてFSHと診断した。パルス療法1クール施行 したが反応しなかった。その後,経過観察してい 1)腎生検所見(表4,5) たところ尿中蛋白量の増加傾向があるため,第2 表の示すとうりであるが,全例10個以上の糸球 回腎生検施行した。生検所見の悪化傾向があるた 体を観察できた。表の数字は,上よりそれぞれの め抗凝固療法施行,変化をみずに現在に至ってい 所見がみられた糸球体の数を記入してある。糸球 る。 体のadditionolsignificant featureより下はそ 症例5 15歳男児,症例4の兄 8歳8カ月時 れぞれの所見のあるものをその程度により十,“ の学校検尿で蛋白尿指摘され,某病院入院。治ゆ で記入した。hyaline depositeをみたものは,症 したとのことで退院している。その後再び蛋白尿 出現のため当院入院した。1日蛋白尿1∼1.5g 例1(HH)の第2,3回目,症例2(KN)の第 2回目,症例3(FT),症例5(ST)の第2回 が持続するため腎生検施行minimal changeの診 目。cresentを認めたものは症例1(HH)の2回 断であった。プレドニン,ジピリダモール投与を 目。adhesionがあったものはhyaline deposite 行ったが反応せず,経過を見ていたところ,尿蛋 を認めたものと同様であった。FSHと診断した 白の増加傾向があるため14歳時2回目の腎生検を ものは全例間質の変化があり,foam cellは症例 行った。FSHと診断し線溶,抗凝固療法を施行し 1(HH)のみであった。血管の病変があったも たが,変化を見ずに現在に至っている。 4 方 のは症例1,3,4である。以上の結果で,石飛 らのSCOREは0−32であり,GS−lndexは0∼ 法 L3であった。 上記5例の対象患児の前後10回の腎生検組織所 2)組織所見と臨床所見の関係 見を,石飛ら(日腎誌,10:82,1089)のSCOR Eと,斉藤ら(日腎誌,11:79,1207)のGS− (11GS−lndexおよび組織傷害SCOREと の関係 Indexにより数値化し,それぞれの生検時のクレ 発症後年数を経過するとGS−lndexが上昇す アチニンクリアランスおよび発症後年数との比較 るようにも思われるが,統計学的には有意の相関 検討を行った。 はみられなかった(図1)。組織傷害SCOREと 表4 腎生検所見 C A S E H.”. N o of810繭erul1 繭hor 璽e3i㎝3 N.K. 1 1 2 1 2 25 37 22 16 10 23 23 12 ” 16 19 20 4 2 4 23 2 2 3 7 口硅d 腰oder飢e 8evere 122 2 4 15 3 42 2 2 odora馳 愈置oba監361白ro8i8 T。S. 1 2 16 25 8 16 6 evere M。S. ● 響 2 3 8e6u鵬enta夏3C!e雌1c le3i㎝ ■11d τ.H. 3 2 1 addMo”8E8i8n田c即t fea吐ore3 fo襯ソceH 駈ンa!i哺P《S−po3耗奪vodepo31t3 h 81α幽eruhτ tuft3 flb姻ro cel聖ular cre3cent3 ad卜eslo鴨 ・静−・ 静 十 十 十 十 十 亜 † 十 thi戯e鴨菅“醒of㎝腕 ’鵬1CrO−a鴫ury瓢 dl3rupt ioo of Bo聯腰鹿“3 B” 庸e3an81旦甚 ce亘1 prollfar&UOO 鵬e3an8ial醸erPO3茸tl㎝ 一97一 一 + 十 十 表5腎生検所見 C A S E H,H. N。K. τH, M.S, 1 2 1 工S. 1 2 3 1 2 1 2 皿NTERST躍T l M flbro313 十 十 鵬ild 願oder飢e 十 十 十一 十 + 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 十 →。 ・十 十 十 十 3eve『 1y叩h㏄yte b川t7醐09 鵬11d 働oder飢6 十 十 十 3eve『’ he翫03idero3督5 foa庸 cen 十十告十昏 TUBULES 飢rOP卜y 旧奮1d 十 十 自ode凪te se》er 卜ya!ihe ca3仁 十 十 十 pl吐卜en旦l c鮒t he構03idero8i3 fo8鳳y ep仕卜e1春a 十 十 ARTER I ES 』rter奪OSC塁erosl3ui噛 hyalhIZ醐on 十 ■ild ㎜derate 3ever ih“鵬a璽tMcレenln601th ela8tof量bro818 朧11d ロoderate 8ever 1nSuda“On 十 十 十 十 発症後年数との関係も同様であった(図2)。 は,SCOREの上昇にともなって統計学的に危険 (2〕GS−Indexおよび組織傷害SCOREとク 率0.05をもって有意に減少した(図4)。 レアチニンクリァランスの関係 6考 案 GS−lndexとクレアチニンクリアランスは, GS−lndex増加に伴ってCcrの低下するよう にも思われるが,統計学的には有意の相関はみら FSHの臨床像をSaint−Hillerらは,次の様に 分類している。 れなかった(図3)。組織傷害SCOREとCcr 写真1 症例4(SM)1回目の腎生検,FGO Group A l malignant FSH 写真2 症例4(SM)2回目の腎生検で,polor は右下 購 一98一 写真3 症例5(ST〉のFSHを示す an〔1 recurrent nephrotic syn一 (1rome A2 proteinuriaonly B2 proteinuria with microscopic hematuria C2 proteinuria and arterial hy− pertension without赴ematuria Dproteinuriawitharterialhy− pertension and hematuria. 今回我々が対象としたものは,この分類で言う A2ないしB2にて発症したものである。FSHの 多くがNSを伴って発症する。したがって,現在 B l FSH WITH nephrotic syndr− までの臨床病理学的検討がなされているものの多 ome くがNSである。今回,我々の検討では症例数が C l FSH with stable minor lesion すくなく,結論はだしえないが,発症後年数との 関連では有意のものはでてこなかった。これは, NSを伴っていないFSHはステロイド不応性の 図1 GS−lndexと発症後年数 G S−lNDEX 2,0 図3 GS−Indexと腎機能Ccr 撮!/団h 冒00 ● 喜。0 ● ● ● ● 50 ● ● ● 発見後年数 0 ● o 2 4 6 0 10 年 図2 組織傷害SCOREと発症後年数 ・INDEX O 1.0 2.0 SCORε 組織傷害SCOREと腎機能Ccr 図4 ● 鳳1/翫監n 30 ● ユ o o ● o ● ● ●● ● 事5 R=0。635 ● o ● P《0.05 5 0 ● ● ● 0 ● 翼症後年数 S C O R E 2 亀 6 8 10 年 0 一99一 ■ o 2 0 3 0 ものでも,長期間組織所見がstableなものがあ §文献 るためと思われた。 1) 】日[abib,R,Kleinknecht,C,: Patho1。Annu。,6多 Be嬉らはratによる実験で,FGSは形態学 417,1971。 的変化がおこる以前より高度の蛋白尿排せつが起 こると述べている。今回の症例5のばあいこのよ 2) Geτald, S., Si1ia,P.: Jounal of Pediat.,101; 40,1982. 3)石飛,佐藤,他:日腎誌,10;1089,1982、 うなことをうらずけていると考えられる。Lalich 4)斉藤,古山,他:日腎誌,21;1207,1979. らはFGSの病変の強さが蛋白尿と相関を示すと 5) Berg,B.M,: Pros.Soc.Exp。Bio二Med,シ1191 述べているが,今回のものではそのようなことは 417,1965. 認められなかった。 6) Lalich,」,J.: A−ch,Path.,91∋372,1971. 我々のデータでは,組織傷害SCOREとCcr が相関を示したが,これについても今後症例を重 ねて検討したい。 一100コ
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