山村 行弘 暮らしの法律 Yamamura Yukihiro 弁護士。第一東京弁護士会所属。 一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。 協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所) 第 57回 会社の車で 事故を起こしたら? 相談者の気持ち 週末、会社の車に乗って自宅に帰る途中で、近所のスーパーに 買い物に寄ったところ、駐車場で隣の車に傷をつけてしまいま した。社用車の保険を使って弁償することはできますか? 会社の従業員が社用車を運 形をとらえて客観的に観察したとき、使用者の 転中に物損事故を起こした場 事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職 合、その従業員は当該事故に 務行為の範囲内に属するものと認められる場合 ついて損害賠償責任 (民法709 で足りる」 と判断しています (最高裁昭和 39 年2 月4日判決) 。 条) を負います。また、その車の利用が、会社の 「事業の執行について」 なされたといえるのであ すなわち、業務中の運転によって事故が起き れば、当該事故について会社も責任を負うこと たような場合に限らず、行為の外形から客観的 になります。これを使用者責任といいます (民法 に見て職務の執行の範囲内と評価されるもので 715 条1項) 。このように会社が事故について使 あれば、 「事業の執行について」 の要件を満たす 用者責任を負う場合、最終的には損害額とその ものと判断されています。例えば、裁判例では、 後の保険料の増額とを考慮して会社が判断する 外交販売員であり仕事の必要に応じて社用車の ことになりますが、社用車を被保険自動車とす 使用を許されていた者が、勤務時間外に私用で る保険(本件では対物賠償責任保険) を使って損 同車を運転中に事故を起こした事案において、 害を賠償することができます。他方、車の利用 「事業の執行について」の要件が認められてい ます。 が会社の「事業の執行について」 なされたといえ ず、会社が使用者責任を負わない場合、従業員 本件の事故は、勤務時間外である週末、しか による物損事故について被保険者である会社が もスーパーでの買い物という私用の際に起きた 法律上の損害賠償責任を負わないため、当該保 ものとはいえ、自家用車ではなく社用車で起こ 険を使うことは難しいでしょう。 した事故です。 行為の外形から客観的に見ると、 では、車の利用が、 「事業の執行について」 な 「事業の執行について」 の要件を充たしているも のといえるでしょう。 されたか否かはどのような基準で判断されるの でしょうか。この点について判例は、 「必ずしも したがって、会社は使用者責任を負いますの 被用者がその担当する業務を適正に執行する場 で、保険を使って損害が賠償される可能性があ 合だけを指すのでなく、広く被用者の行為の外 るといえます。 2017.2 34
© Copyright 2024 ExpyDoc