アパートの入居者が 部屋の使用目的を守 らない場合は?

山村 行弘
暮らしの法律
Yamamura Yukihiro
弁護士。第一東京弁護士会所属。
一般民事・刑事事件、知的財産、法律相談などを手がける。
協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所)
第
54回
アパートの入居者が
部屋の使用目的を守
らない場合は?
相談者の気持ち
隣の部屋は夜遅くまで人の出入りが多く、騒々しくて困って
います。居住用のアパートなのに団体の事務所に使用してい
るようです。大家に苦情を言っても状況は変わりません。居
住者に退去してもらうことはできるでしょうか? また、自分
が退去する場合は何か補償がありますか?
理等の窓口となっている管理会社に状況を説明
居住用のアパートの賃貸に
し、動いてもらうのがよいでしょう。
おいては、通常、賃貸借契約
書に使用目的
(用法)
が規定さ
では、管理会社に言っても、状況が改善され
れており、借主は、その用法
ない場合はどうでしょうか。アパートの賃貸借
に従って、その部屋の使用・収益をしなければな
契約は、あくまで貸主と借主との間の契約です
らない義務(用法遵守義務、民法 616 条)を負っ
ので、契約当事者以外の入居者が賃貸借契約の
ています。そして、一般的な契約書には、借主
解除を主張することはできません。そこで、ど
がこの用法遵守義務に違反した場合、貸主側で
うしても我慢ができない場合は、自身が退去す
相当の期間を定めてその義務違反の是正を催告
ることになります。そしてこの場合、退去を余
し、それにもかかわらず、その期間内に是正が
儀なくされた借主は、貸主や用法遵守義務に違
なされず、当該義務違反により賃貸借契約を継
反した借主に対して損害賠償を請求できる可能
続することが困難と認められる場合には、貸主
性があります。
じゅん
側で当該賃貸借契約を解除することができる旨
つまり、賃貸借契約において、貸主は、借主
を定めています(国土交通省
「賃貸住宅標準契約
に対して
「静穏に居住させる義務」
を負っていま
書」第3条、第 10 条2項参照)
。
すので、用法遵守義務に違反して他の借主に迷
本件において、当該借主は、居住用と定めら
惑を及ぼしている借主に対して、改善措置等を
れた部屋を団体の事務所として利用しているの
要求せず放置したような場合には、他の借主か
ですから、用法遵守義務違反に当たります。こ
ら債務不履行に基づく損害賠償を請求されるこ
の場合、貸主に報告し、貸主側から是正の催告
とがあるのです。また、用法遵守義務に違反し
をしてもらったり、貸主と借主の信頼関係が破
た借主も、違反の程度が他の借主の受忍限度を
壊されたと評価できるような場合には貸主側か
超えていると評価されるような場合には、他の
ら賃貸借契約の解除を行ってもらうのが筋です。
借主から不法行為に基づく損害賠償を請求され
なお、貸主個人に直接言っても、積極的に動い
ることになります。
てくれない場合は、苦情や住民間のトラブル処
2016.11
37