21 - Ⅶ.エピジェネティクス

Ⅶ.エピジェネティクス(epigenetics)
1.エピジェネティクスとは
細胞世代を超えて継承され得る、塩基配列の変化を伴わない遺伝子機能や遺伝子発現について研究する学問領域
2.ゲノムインプリンティング(genomic imprinting)
哺乳類には、どちらの親に由来するかに応じて、一対のアレルのうち一方しか発現しない遺伝子(インプリ
ント遺伝子)が存在する。ゲノム上に位置する遺伝子のうち一部は、父親あるいは母親由来のアレルから選択
的に発現している。この片親性遺伝子発現制御に必要なため、遺伝子に記憶が印される過程をゲノムインプリ
ンティング(遺伝子刷り込み)と呼ぶ。ゲノムインプリンティングの分子機構は複雑であるが、遺伝子上に存
在する CpG アイランドのメチル化により、転写が不活性化されることがその中心となっている。
3.DNA のメチル化機構
哺乳類の細胞に見られる DNA のメチル化は、連続するシトシンとグアニン配列(5’-CG-3’配列、CpG 配列)
のシトシン残基にのみ起こる。インプリンティング遺伝子の多くは、父親由来または母親由来の一方の染色体側
の CpG 配列中にメチル化を受ける領域を有している。
(メチル化機構の概略は、テキスト p.17 を参照。他の資料で、詳細も確認しておくこと)
4.2 種類のリプログラミング
発生過程で生じるリプログラミング(=ゲノムの修飾状態
の書き換え)には、2 種類のパターンが存在する。受精後の卵
割期に生じるリプログラミングでは、ゲノム全体の脱メチル化
が生じるが、インプリントは、維持される。一方、配偶子形成
期に生じるリプログラミングでは、インプリントを含むすべて
の修飾が一時的に消去され、配偶子形成後に、配偶子に特異的
な修飾が確立される。
インプリンティング記憶の消去は、マウスでは、胎児期 11.5
から 12.5 日目の始原生殖細胞が、生殖隆起に到達した直後に起
こる。ここで、すべてのインプリント領域が脱メチル化される。
配偶子に特異的なインプリントの形成は、雄と雌で大きく
異なる。雄では、出生前後に生殖細胞すべてのインプリント領
域がメチル化される。しかし、メスでは、卵子の成熟過程で卵
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子が成長するとともに、順次、各インプリント領域がメチル化されていく(テキスト 77 ページ図 2.34)。
この違いのため、生殖隆起から採取した始原生殖細胞をドナー核として用いる場合、インプリント消去後の細
胞では、正常発生が難しくなる。現在の核移植技術では、インプリントの正常な再構築が確実に期待できないため
である。
paternal
maternal
5.ヒストン修飾
DNA の 2 本鎖は、ヒストンに巻き付いたうえで折りたたまれている。そのため、ヒストンが受ける化学修飾
によっても、転写の活性化や抑制が生じる。ヒストンには、H1、H2A、H2B、H3、H4 の 5 種類のタンパク質が
あるが、エピジェネティクス制御において重要なのは、H3 と H4 である。
修飾の種類は、アセチル化、メチル化、リン酸化、ユビキチン化などがあるが、特に重要なのは、リジン(K)
のアセチル化と、リジンあるいはアルギニン(R)のメチル化である。
代表的なヒストン修飾と転写の活性化・抑制化の関係
モノメチル化
ジメチル化
トリメチル化
アセチル化
H3K4
活性化
活性化
H3K9
活性化
抑制化
抑制化
活性化
H3K27
活性化
抑制化
抑制化
活性化
(仲野「エピジェネティクス」岩波新書、2014)
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H3K79
活性化
活性化
活性化