エピジェネティクス epigenetics = epi + genetics エピジェネティクス 遺伝子以外の要因に制御される遺伝形質に関する 学問 細胞世代を超えて継承され得る、塩基配列の変化 を伴わない遺伝子機能や遺伝子発現について研 究する学問領域 (塩田、2005、実験医学、23:2096) ゲノムインプリンティング 比較的発達した胎子 形成不全の胎盤 (genomic imprinting) • 哺乳類では、単為発生胚、雌性核発生胚、雄性 核発生胚は、致死となる。 雌性発生卵 正常産子 • 哺乳動物では、父親と母親の両者から遺伝子を 受け継がないと正常な発生が起こらない。 正常受精卵 胎盤組織の過剰形成 未発達の胎子 雄性発生卵 ゲノムインプリンティング • 哺乳類には、どちらの親に由来するかに応じ て、一対のアレルのうち一方しか発現しない 遺伝子(インプリント遺伝子)が存在する。ゲノ ム上に位置する遺伝子のうち一部は、父親あ るいは母親由来のアレルから選択的に発現し ている。 • この片親性遺伝子発現制御に必要なため、 遺伝子に記憶が印される過程をゲノムインプ リンティング(遺伝子刷り込み)と呼ぶ。 父アレル 母アレル Gnas H19 Peg1/Mest Igf2r Igf2 p57KIP2 Peg3 Mash2 Snrpn etc. Ndn マウスのインプリント遺伝子の例 Anf127 遺伝子 発現 機能 U2 Gnas 父方 G蛋白サブユニット Impact Peg1/Mest 父方 加水分解酵素 Xist Igf2 父方 胎子成長因子 etc. Igf2r 母方 IGF-IIの分解 Xist 父方 X染色体の不活化 H19 母方 腫瘍抑制RNA 1 インプリンティング ジェネティックとエピジェネティック ジェネティック • アレルの発現状態は、細胞分裂を通じて維持さ れる。 • この維持機構の候補として、DNAのメチル化が 有力とされている。 DNAの塩基配列 T G A C A C T G Me エピジェネティック DNAのメチル化 T G A C A C T G ヒストンの化学修飾 リン酸化 メチル化 アセチル化 DNAのメチル化 • DNAのメチル化(CpG領域のシトシン) DNA結合タンパク質の結合阻害 転写の抑制 • DNAの脱メチル化 DNA結合タンパク質が結合 転写活性化 Me ヒストンの化学修飾 • メチル化 転写の抑制、DNAメチル化にも関与 • アセチル化 転写活性化 • リン酸化 生理機能の詳細は不明 DNAのメチル化 • 哺乳類の細胞に見られるDNAのメチル化は、 5’-CG-3’配列(CpG)を有するシトシン残基に のみ起こる。 • インプリンティング遺伝子の多くは、父親由 来または母親由来の一方の染色体側のCpG 配列中にメチル化を受ける領域を有している。 Reik W and Walter J. (2001) Nature Rev Genet 2:21 2 de novo メチル化 DNAメチル化酵素(Dnmt) • Dnmt1 維持メチル化に必須。ヘミメチル化DNA に優先的に働く • Dnmt3a・Dnmt3b 維持メチル化とde novoメチル化の 両方に働く酵素。胚盤胞以降de novo メチル化の主役。 脱メチル化 • 受動的脱メチル化 維持型Methylaseが働かない。DNA複製 後、維持メチル化が働かない状態で、次の 複製が起こるために生じる。 • 能動的脱メチル化 受精直後の精子ゲノム、始原生殖細胞 細胞分化後の一部の細胞のプロモーター DNA修復の際にシトシンに置換される CG GC 5' 3' mCG 3' 5' GmC メチル化維持機構 ヘミメチル化DNA mCG G C mCG GmC 複製 mCG GmC 受動的脱メチル化 ヘミメチル化DNA mCG G C 複製 GmC GmC methyltransferase C G GmC mCG mCG mCG G C CG GC CG GC C G GmC 能動的脱メチル化 5-メチルシトシンから中間体を経てシトシンに置換 DNAメチル化によるインプリンティング制御 DNAメチル化によるインプリンティング制御 (1)プロモーターのメチル化 (3)アンチセンスRNA アレル1 アレル2 アレル1 CH3 non-coding RNAを含むアンチセンス転写 生成されたRNAはセンス方向の転写を抑制 (2)サイレンサー アレル1 アレル2 CH3 CH3 CH3 アレル2 CH3 CH3 silencer 3 DNAメチル化によるインプリンティング制御 (4)インシュレーター 父親由来 Igf2 インプリンティング 制御領域(ICR) CH3 不活性型 insulator X染色体不活性化の転写制御仮説 不活性化X(Xi) H19 enhancer Xist 分化過程でメチル化 される領域(DMR) CH3 不活性型 insulator Xistは非翻訳RNAを コードし、このRNAが 染色体を覆う Tsix enhancer 活性化X(Xa) 母親由来 転写制御因子 Igf2 活性型 insulator 転写制御因子 H19 Xist 活性型 insulator Tsix Nature 428:860 (2004) Mice without father! Reproduction 128:1 (2004) Nature 428:809 2004より • インプリント遺伝子の近くには、インプリンティン グ調節領域が存在する。 • インプリンティング調節領域は、アレル間でメチ ル化状態が異なる。 • 調節領域の脱メチル化が進むと、インプリント遺 伝子の発現異常が認められる。 • 維持メチル化機構は、受精後のインプリントの 維持に必須である! • インプリント=メチル化!? • 受精直後から、胚盤胞にいたる過程で脱メチル化が 起こり、メチルシトシンの大半が失われる。 • 着床後、各体細胞系列の分化とともにゲノムのメチ ル化レベルは急速に上昇する。 • 形態形成が完了するころまでに、成体に見られる組 織特異的なメチル化パターンが確立される。 • 着床前における脱メチル化は、インプリンティング調 節領域では起こらず、アレル特異的なメチル化が消 去されずに残り、これが、父・母由来を区別するため の指標として働く。 4 Reik W and Walter J. (2001) Nature Rev Genet 2:21 2種類のリプログラミング • リプログラミング =ゲノムの修飾状態の書き換え 1.受精後の卵割期 ゲノム全体の脱メチル化。 インプリントは、維持される。 2.配偶子形成期 インプリントを含むすべての修飾が消去される。 配偶子形成後に、配偶子に特異的な修飾が確立さ れる。 ヒストン修飾による転写への影響 H3K4 活性化 H3K36 活性化 H3K79 活性化 メチル化 H3R3 活性化 H3K9 抑制化 H3K27 抑制化 H3R8 抑制化 H2AK5 H2BK12, 15 アセチル化 活性化 H4K5, 8, 12, 16 H3K9, 14, 18 H2AK119 抑制化 ユビキチン化 H2BK123 活性化 H2AS1 抑制化 リン酸化 H3S10 活性化 (羽田・岡田、2014、生体の科学65:535) K:リジン R:アルギニン S:セリン クローン動物のゲノム修飾 • クローン個体作出には、DNAメチル化をは じめ、体細胞核のゲノム修飾を消去するこ とが必要。 • ただし、父母由来を識別するインプリントは 維持される必要がある。 • 着床後のde novoメチル化とクロマチン変化 により正しいパターン構築が必要。 PGCクローンの発生 5
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