「活性化」の定義と「まちそだて」の基礎概念について

第6回
「活性化」の定義と「まちそだて」の基礎概念について
1 「活性化」の第3区分
「 ま ち そ だ て 」は 、換 言 す れ ば「 持 続 的 な 地 域 社 会 活 性 化 の た め の 営 為 」
で あ る 。こ の よ う に 規 定 す る と き 、
「 活 性 化 」を 正 確 に 定 義 す る 必 要 が あ る
こ と は 言 を ま た な い 。そ れ で は 、
「 活 性 化 」の 定 義 と は い か な る も の で あ る
べきなのか。
「活性化」は通常、二通りの意味で用いられるだろう。すなわち、①経
済的効果の実現、と②定住・交流人口の増加という意味である。①と②は
共存することも連動して現象することもある。また、これらが「活性化」
の語義内容として適切だということは自明である。しかし、筆者はさらに
第3の定義を加えることを提唱する。それは、③アメニティ度の向上、で
ある。
すでに紹介しているように、
「 ア メ ニ テ ィ 」と は「 住 み 甲 斐 」の こ と で あ
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る 。「 快 適 さ 」 や 「 居 心 地 の よ さ 」 を 統 括 す る の が 「 住 み 甲 斐 」 で あ り 、
こ の「 住 み 甲 斐 」は「 そ こ に 住 む こ と の 誇 り 」を も 生 み 出 す も の で あ る が 、
③を「活性化」の定義に加えるのは、必ずしも「経済的効果」と「人口面
での効果」が顕著に認められなくとも、人々が満足して生活を送る地域が
存在しうるという認識ゆえである。北海道の地域でいえば、北海道として
は気候が温暖なことで知られる伊達市や、札幌近郊にあって自然が豊かな
長沼町などがそうした地域に該当するのではないだろうか 2 。もちろん、
「アメニティ度の向上」が「人口面での効果」や「経済的効果」を呼び起
こす場合も十分に考えられる。いずれにしても、③を加えることで「活性
化」の定義の緻密度が高まることは間違いなかろう。
2 「まちそだて」の基礎概念案
「まちそだて」の営為を規定する基礎概念を、筆者は、研究の現段階に
おいて、
「 中 心 概 念 」と「 下 位 概 念 」に 2 分 し て 捉 え て い る 。そ の 中 心 概 念
は 「 自 恃 性 」 と 「 持 続 性 」 で あ り 、 こ れ ら 2 概 念 は 、「 小 実 業 性 」「 地 方 主
義 」「 非 営 利 至 上 主 義 」「 非 匿 名 性 」 と い う 4 つ の 下 位 概 念 の 上 に 構 築 さ れ
るものである。
筑 和 正 格 (2008)「「 国 際 ・ 地 域 ・ 文 化 」 と 「 ま ち そ だ て 」 ― 「 国 際 地 域 文 化
論 」 へ の 1 ア プ ロ ー チ 」『 国 際 広 報 メ デ ィ ア ・ 観 光 学 ジ ャ ー ナ ル 』 No.7 北 海
道 大 学 大 学 院 国 際 広 報 メ デ ィ ア ・ 観 光 学 院 P.42。
2 両 地 域 と も 、① と ② が 際 立 っ て は い な い 。近 年 の 人 口 動 向 に 関 し て は 、伊 達
市はほぼ横這い、長沼町は微減である。しかし、両地域とも転入者を呼び込
む魅力を備えていることは―伊達市の場合は統計資料から、長沼町の場合は
若干の聞き取り調査から―確かなようである。
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2-1 中 心 概 念
① 自 恃 性 ( Self-reliance 3 )
これは、マイケル・シューマンの術語を援用したものである。
「 外 部 依 存 性 Dependence」 の 反 意 語 で 、 外 部 ( 資 本 ) の 力 に 頼 る こ と
なく、地域における生活者自身の能力と知恵で地域社会を維持すること
を意味する。
② 持 続 性 ( Continuance)
文 字 通 り 地 域 共 同 体 ( Community) が 持 続 す る こ と 。「 Sustainable
Development( = 発 展 [Development]を 維 持 す る こ と )」と は 異 な り 、む
し ろ 、「 文 化 の 保 守 性 4 」 と 連 関 し て い る 。
2-2 下 位 概 念
① 小 実 業 性 ( Small Business 5 )
シューマンの術語の応用で、グローバルビジネスの反意語である。た
だ し "global"に 対 す る ア ン チ テ ー ゼ と し て の "small"な の で 、絶 対 に「 小 」
でなければならないという意味ではない。基本的に「地域が所有する
("locally owned" 6 )」 企 業 を 指 す 。 と り わ け 地 域 内 循 環 を 重 視 す る 。
したがって下に挙げる「地域主義」と密接な関係をもつ。地域から企業
( 資 本 ) が 移 動 し な い の で 、「 持 続 性 」 を 保 て る と い う 利 点 が あ る 。
② 地 域 主 義 ( Localism)
「中央集権」
「一極集中」
「画一化」
「 規 格 化 」等 の 反 意 語 で あ る 。地 域
社会を重視することを意味する。主として経済活動において、地域社会
の利益を最優先に考えること。中央集権が、効率性、画一性を求めるの
に対して、地方主義は、各地方の個性を重視する。地域の独自性を重視
し 、そ れ に 沿 っ た 地 域 運 営 を 行 う と い う 志 向 。そ れ に よ っ て ア メ ニ テ ィ 、
すなわち住み甲斐が向上する。ここでは行政と住民との距離が近い。シ
ューマンは、自恃性をもつ地域同士が連携する「間地域性
"Interlocalism" 7 」( 地 域 相 互 の 情 報 交 換 と 互 助 ) を 重 視 す る が 、 そ の
背景には、
「 地 域 主 義 」は 往 々 に し て 地 域 社 会 の 閉 鎖 性・閉 塞 性 を も た ら
す 危 険 性 を も 内 包 し て い る ( = 「 文 化 の 保 守 性 8 」 の ネ ガ の 部 分 )、 と
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筆 者 は「 自 立 性 」が「 持 続 的 活 性 化 」に は 不 可 欠 の 要 素 と 考 え て い た が 、
「自
らを恃みとする」という意味をもつこの語の方をより適切な表現として採用
した。
4 文 化 は 保 守 性 を も つ が 、こ の 保 守 性 が 集 団 や 社 会 に 安 定 性 を 、し た が っ て 持
続 性 を も た ら す 要 素 で あ る 。 筑 和 (2008) pp.28-29、 pp.40-41 参 照 。
5 Shuman, Michael H.(2006) The Small-Mart Revolution: How Local
Businesses Are Beating the Global Competition Berrett-Koehler
Publishers,Inc. San Fransisco p.9.
6 同上
7 Shuman(1998) Going Local. Creating Self-reliant Communities in a
Global Age Routledge New York, p.198.
8 文化の保守性は集団や社会に安定をもたらす一方で、
集団外に対しては排他
性 や 差 別 を 意 味 す る 場 合 も あ る 。「 ま ち そ だ て 」 の 営 為 は 、 自 文 化 の 認 識 に 立
脚 し て 開 始 さ れ る が 、こ の 閉 鎖 性 の 問 題 に は 十 分 に 留 意 し な け れ ば な ら な い 。
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いう認識がある。
③ 非 営 利 至 上 主 義 ( Non-profit first)
「共同体の持続」
「 ア メ ニ テ ィ 度 の 向 上 」と い っ た 、経 済 的 利 益 以 外 の
価値を、経済的利益よりも上位に置くこと。もちろん、決して経済性・
収益性の軽視ではなく、
「 何 の た め の 収 益 か 」を 念 頭 に 置 い て 経 済 活 動 を
行う、ということである。
④ 非 匿 名 性 ( Identifiableness)
匿 名 性 ( Anonymity) の 反 意 語 。 ま ち そ だ て に 関 与 す る 人 物 た ち が 、
各人の個性を発揮すること。個々人の独自性が可視的であること。つま
り、没個性的な人々の集団(大衆)ではなく、明確な個性をもつ個人た
ちの自律的な営為が総合的に1つの特性をもつこと。各人が自分の存在
理 由 を 自 覚 し 、 主 体 性 を も つ こ と 。「 当 事 者 」 意 識 の 涵 養 が 必 要 で あ る 。
ただし、個性的な個人の集合であることによって集団の結束性が問題と
なりうる。また、場合によっては、集団としての「決定」を下すのに時
間がかかる。
シューマンの述語に依拠した概念もいくつかあるが、中心概念の②「持
続 性 」と 下 位 概 念 の ③「 非 営 利 至 上 主 義 」、④「 非 匿 名 性 」は 、富 良 野 地 域 ・
十勝地域・まおい地域における聞き取り調査の内容から抽出した概念であ
る。これらの概念は、基本的にあらゆる「まちそだて」に共通するもので
あり、この基礎概念にさらに「歴史性」や「風土性」が付加されることに
よって、各事例はその個別性を高めていくのではないかと考えられる。
「まちそだて」基礎概念図
自恃性
持続性
中心概念
下位概念
小
実
業
性
地
方
主
義
非
営
利
至
上
主
義
非
匿
名
性
今後、これら諸概念の有効性の検証を、事例との対照の中でさらに継続
し、概念内容の精緻化に努めなければならない。もちろん、場合によって
は具体的検討に応じて概念自体の変更もあるかもしれない。
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さらに1点、言及しておかなければならないのは、いわば「まちそだて
運 動 論 」に つ い て で あ る 。上 述 し た の は 、
「 ま ち そ だ て 」が 内 包 す べ き ダ イ
ナミックな基本条件だが、看過してならないのは、そもそもこの営為を成
立させるための基本条件である。
その条件を概念化して列挙すれば、
「傾倒」
「集団形成」
「 価 値 の 共 有 」で
あ る 。つ ま り 、
「 ま ち そ だ て 」が 第 1 に 必 要 と す る の は 、そ の 営 み を 自 己 が
行うべきものであることを自明視する人物の存在である。この人物を、筆
者 は「 当 事 者 」と 名 づ け る が 、こ の 文 字 通 り の「 当 事 者 」な し に は 、
「まち
そ だ て 」 は 成 立 し え な い 。 こ の 「 傾 倒 」 は 、 英 語 の "Commitment"の 訳 語
であるが、
「 ま ち そ だ て 」が 開 始 さ れ る た め に は 、き わ め て 強 力 な コ ミ ッ ト
メ ン ト が 存 在 し な け れ ば な ら な い の で あ る 。俗 に「 よ そ 者 、ば か 者 、若 者 」
と 呼 ば れ る 人 間 の 地 域 社 会 活 性 化 へ の 貢 献 可 能 性 が 語 ら れ る が 、強 力 な「 傾
倒」を示す人間は、さしずめ「ばか者」に相当するのであろう。
第2点目は、
「 ま ち そ だ て 」は 1 個 人 の 孤 独 な 営 み で あ る 場 合 に は 脆 弱 き
わまりない、という現実に由来している。したがって、いかに「傾倒」を
備えた人物の集団を形成するか、ということが重要な点となる。たとえそ
の集団が2名にすぎないとしても、営為の強力さという点では1名の場合
と は 雲 泥 の 差 が あ る こ と は 、現 実 の 事 例 が 示 し て い る 。
「 集 団 形 成 」は 重 要
な条件である。
3点目は集団構成員の、より詳細に言えば集団の中心人物たちの「価値
の 共 有 」で あ る 。
「 集 団 形 成 」と「 価 値 の 共 有 」を 同 義 の 概 念 と 捉 え る こ と
も で き る 。そ れ を 認 め た 上 で「 価 値 の 共 有 」を 説 く の は 、
「 ま ち そ だ て 」に
おける強固な核の存在の必要性ゆえである。
「 ま ち そ だ て 」は 、全 体 と し て
は出入り自由な、絆の緩い営為である方が持続性が高まるようだが、しか
し、自由な集団活動を単に自由な状態で放置しておくならば、その活動が
結局拡散してしまう可能性は多分に存在する。活動の持続には一種の統制
も必要なのである。一見逆説的だが、参加・脱退が自由な「まちそだて」
営為は、堅固な核をもつことで初めて成立するのだ。そして、この堅固さ
を生み出すのが、第1点の「傾倒」と、この「価値の共有」なのである。
様々な現実事例は、ここに掲げた3概念が「まちそだて運動論」の前提
として存在することを教示している。
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