第55回神奈川県放射線医会例会 ミニ・イメージ・インタープリテーション③ 横浜市立大学附属病院 放射線科 野村幸一郎 症例:51歳 男性 【現病歴】 半年前に他院で施行した腹部エコーで両腎の多発性腫瘤を指摘 され、泌尿器科を受診。両側腎癌疑いで手術の方針となったが、 当院での手術を希望し、当院泌尿器科を紹介受診。 【既往歴】 両側気胸(25歳に左肺、30歳に右肺)、高血圧、脂質異常症 【家族歴】 母方家系に本人と同様の皮疹あり 【身体所見】 顔面の皮疹 【血液検査】 問題なし 胸部CT 肺野条件 胸部CT 冠状断像 肺野条件 腹部単純CT 腹部造影CT 動脈優位相 腹部造影CT 排泄相 画像所見 両肺下葉の縦隔側を中心として、薄い壁を持つ大小 さまざまな嚢胞が多数みとめられる。 両側腎に多発性の充実性腫瘤がみとめられる。単純 CTでは腎実質と同程度の吸収値を示し、造影CTで は、動脈相で腎皮質とほぼ等吸収、排泄相で腎皮質 より低吸収となっている。 多発肺嚢胞性病変 肺ランゲルハンス細胞組織球症(肺好酸球性肉芽腫症) リンパ脈管筋腫症(LAM)、結節性硬化症 リンパ性間質性肺炎(LIP) 肺気腫( α1アンチトリプシン欠損症を含む) 感染症(Tb、PCP、クリプトコッカスなど) 敗血症性肺塞栓症 肉芽腫症(サルコイドーシス、Wegener肉芽腫症など) 腫瘍(転移性腫瘍、肺癌) Birt-Hogg-Dubé syndrome, Marfan syndrome, Ehlers-Danlos syndrome 多発肺嚢胞性病変 肺ランゲルハンス細胞組織球症(肺好酸球性肉芽腫症) リンパ脈管筋腫症(LAM)、結節性硬化症 リンパ性間質性肺炎(LIP) 肺気腫( α1アンチトリプシン欠損症を含む) 感染症(Tb、PCP、クリプトコッカスなど) 敗血症性肺塞栓症 肉芽腫症(サルコイドーシス、Wegener肉芽腫症など) 腫瘍(転移性腫瘍、肺癌) Birt-Hogg-Dubé syndrome, Marfan syndrome, Ehlers-Danlos syndrome 肺ランゲルハンス細胞組織球症(肺LCH) 不整形で壁の厚い嚢胞が上肺優位に分布する。小葉中心性結節、粒状濃度を伴 うことが多い。90%に喫煙歴あり。 リンパ脈管筋腫症(LAM) 多数の壁の薄い類円形嚢胞がランダムに分布する。 リンパ性間質性肺炎(LIP) 壁の薄い嚢胞がランダムに散在し、2/3の症例は両側性に観察される。すりガラ ス濃度や小葉中心性結節、気管支血管周囲束の腫大、小葉間隔壁の肥厚もみら れる。 肺気腫 気腫性病変は通常は壁をもたない低吸収値として描出される。小葉中心性、傍隔 壁性の病変。α1アンチトリプシン欠損症の場合は、若年者で下肺優位にみられる。 Birt-Hogg-Dubé syndrome 不整形で壁の薄い嚢胞が下肺縦隔側優位に分布する。LAMと比較すると、胸膜と 接する頻度が高い。 肺ランゲルハンス細胞組織球症(肺LCH) 不整形で壁の厚い嚢胞が上肺優位に分布する。小葉中心性結節、粒状濃度を伴 うことが多い。90%に喫煙歴あり。 リンパ脈管筋腫症(LAM) 多数の壁の薄い類円形嚢胞がランダムに分布する。 リンパ性間質性肺炎(LIP) 壁の薄い嚢胞がランダムに散在し、2/3の症例は両側性に観察される。すりガラ ス濃度や小葉中心性結節、気管支血管周囲束の腫大、小葉間隔壁の肥厚もみら れる。 肺気腫 気腫性病変は通常は壁をもたない低吸収値として描出される。小葉中心性、傍隔 壁性の病変。α1アンチトリプシン欠損症の場合は、若年者で下肺優位にみられる。 Birt-Hogg-Dubé syndrome 不整形で壁の薄い嚢胞が下肺縦隔側優位に分布する。LAMと比較すると、胸膜と 接する頻度が高い。 多発性充実性腎腫瘤 腎細胞癌(特にvon Hippel-Lindau病) 血管筋脂肪腫(特に結節性硬化症、LAM) 悪性リンパ腫 転移性腎腫瘍 腎結核 多発腎膿瘍 多発oncocytoma Birt-Hogg-Dubé syndrome 多発性充実性腎腫瘤 腎細胞癌(特にvon Hippel-Lindau病) 血管筋脂肪腫(特に結節性硬化症、LAM) 悪性リンパ腫 転移性腎腫瘍 腎結核 多発腎膿瘍 多発oncocytoma Birt-Hogg-Dubé syndrome 経過 病歴、家族歴、画像所見からBirt-Hogg-Dubé syndromeが 疑われた。 遺伝子解析を施行。 17番染色体短腕にフォリクリン (folliculin [FLCN])遺伝子の 変異を認め、Birt-Hogg-Dubé syndromeと診断された。 左腎部分切除術を施行。 病理では、嫌色素性腎細胞癌(一部はオンコサイトーマとの ハイブリットタイプ)であった。 診断 Birt-Hogg-Dubé syndrome Birt-Hogg-Dubé syndrome (BHDS) ①20代から多発性肺嚢胞を有し、高率に気胸を繰り返す。 ②中高年になり腎腫瘍を発生する。 ③顔面から上半身に皮疹がある。 この3つを特徴とするまれな常染色体優性遺伝の疾患。 17番染色体短腕に位置するフォリクリン (folliculin [FLCN])遺伝 子の変異によっておこり、常染色体優性遺伝の形式をとる。 性差はないが、若年男性の場合には特発性自然気胸と安易に 診断されがちであり、女性の方が発見されやすい。 症状、合併症 欧米では皮疹で発見されることが多いが、アジア人BHDSの場合、皮疹は19%にしか認められない。 20歳以降で好発する。様々な皮疹を呈するが、BHDSに特異的なものは線維毛包腫。 多発性肺嚢胞・反復性気胸の好発年齢は20~40歳で、90%の患者に起こる。 腎腫瘍有病率は約20%で、特に40歳以降で増加する。約58%は多発性、両側性に生じる。合併す る腎腫瘍の組織型は嫌色素性腎細胞癌、オンコサイトーマ、あるいはそれらのハイブリットタイプの 頻度が高い。 BHDSの患者は気胸のリスクが通常の約50倍、腎腫瘍のリスクが約7倍高いとされている。 日本のあるグループによる統計では、肺病変のみのBHDS患者が約70%で、肺と皮膚病変の合併 は約24%、肺と腎病変の合併は約4%程度。 治療 肺病変 基本的に肺機能は良好で、嚢胞自体はほとんど増加しない。気胸は40歳ま では繰り返すことが多い。気胸の再発防止のため、胸膜癒着術や下部胸膜 カバーリング術を行う。 皮膚病変 経過観察でよいが、美容上の観点から治療することがある。 腎腫瘍 早期に発見し切除術を行う。 まとめ 多発肺嚢胞、繰り返す気胸の症例を見たときはLAM の他、BHDSを鑑別に挙げる。 肺の嚢胞性病変の分布、腎腫瘍や皮疹の有無を確 認する他、家族歴にも注意する。
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