難渋症例にチャレンジ! 出題者 眼科診断トレーニング 前久保 知行 Tomoyuki Maekubo 眼科三宅病院 〒 462-0825 名古屋市北区大曽根三丁目 15-68 症 例 78 歳 男性 現病歴 生来視力良好,左右差なし.数カ月前から緩徐に進行する両眼のかすみを主訴に 初診.初診時視力,RV = (0.1),LV = (0.1),両眼ともに白内障核硬化度 3 ~ 4 度を認め,眼底透見はやや不良.術前の動的視野検査では異常なく,白内障手術 を施行された.術後視力,RV = (0.6),LV= (0.5),自覚症状の改善はみられたが, 視力改善はやや不良であった.術後のフォローとともに精査を計画していたが, 途中心不全の悪化により受診されなかった.2 カ月後再診時,RV =(0.1),LV = (0.1),視力低下を認め,ゴールドマン動的視野検査にて両)中心暗点を認めた . 既往歴 高血圧,心房細動,心不全,難聴,外傷歴(-) 家族歴 特記なし 生活歴 食事摂取は良好,たばこ:20 本/日,飲酒:機会飲酒,仕事:無職 検査結果 視 力:右=0.1(矯正不能) 左=0.1(矯正不能) OCT:視神経乳頭周囲神経線維は両眼ともに耳側に菲薄 眼 圧:右/左 10/10mmHg 化を認め,黄斑Ganglion cell complexの菲薄化を認 瞳 孔:正円・同大 めた. 対光反応:両眼ともにやや遅鈍,不完全.RAPD(-) 前眼部・中間透光体:両眼)眼内レンズ挿入眼 動的視野:両眼の中心暗点 眼 底:両眼視神経軽度萎縮 ERG:フラッシュ,30Hzフリッカー,Cone/Rod 振幅 単純頭部MRI:視神経から視交叉、頭蓋内に明らかな異 低下なく,ほぼ正常 常所見を認めなかった. 眼科診断トレーニング 観察のポイント ①高齢,男性 ②緩徐進行性の視力障害 ③両眼性中心暗点 ④視神経乳頭腫脹(-),軽度蒼白 問題点 の 整理 白内障手術後に視力改善がやや不良で,緩徐進行性に中心暗点が両眼性に生じた症 例である.本症例では,本人自覚が軽微であり明らかな急性変化は認められなかった. 術後の眼底検査では乳頭腫脹は認めておらず,緩徐に進行した両眼性視神経萎縮と考 えられる.両眼性視神経萎縮を生じる疾患として,栄養障害性やエタンブトール,メ チルアルコール,シンナーなどの中毒性視神経症が考えられる.これらに対しては, 食生活などの生活歴,薬物服用歴,職業歴などが重要となる.また,遺伝性神経症で あるレーベル遺伝性視神経症や常染色体優性視神経萎縮なども鑑別に上がる.家族歴, 年齢,進行経過や診断には遺伝子検査が必要となる.本症例は非典型的な両眼性視神 経萎縮の症例であった.他にはどのような鑑別を考え,検査を進められるであろうか. memo 解答と解説は「眼科グラフィック」4 巻 2 号に掲載
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