輸血情報「9910-55」

9910-55
輸血情報
【 血液製剤の使用指針 −アルブミン製剤− 】
「血液製剤の使用基準」が改正され、今般、
『血液製剤の使用指針』として厚生省から示されました。
アルブミン製剤については、いまだに「蛋白質源としての栄養補給」等の不適切な使用が行われているという
状況を踏まえた改正となり、適応病態等がより詳細に記載されています。主な改正事項は次のとおりです。
◆アルブミン製剤の適応について具体的な病態が付記され、使用対象がより明確になりました。 ◆必要投与量については、従来の算定式で認められた上昇期待値と実測値の間の差異をなくすために、
科学的修正を加えた新しい式が示されるとともに、輸注効果についての評価を行うことが明記されました。
◆合理性に乏しく根拠の明確でない適応については、不適切な使用として今回の使用指針から除外され
ました。
●アルブミン製剤の使用目的
膠質浸透圧の維持・循環血漿量の確保
治療抵抗性の重度浮腫の治療
【 旧使用基準 】
【基本方針】
急性の低蛋白血症による病態、
また、他の治療では管理困難な
慢性の低蛋白血症による病態に対し、その補充により病態の
一時的改善を図るために使用する。
●アルブミン製剤の使用指針
1.出血性ショック【裏面の参考資料参照】
①循環血液量の30%以上の喪失時
細胞外液系輸液薬(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など)の
投与が第一選択である。膠質浸透圧の維持には、まず人工膠
質液を併用する。
②循環血液量の50%以上の多量出血時や血清アルブミン濃
度が3.0g/dL未満の場合
等張アルブミン製剤の併用を考慮する。
※補充量は、
バイタルサイン、
尿量、
中心静脈圧や肺動脈閉塞圧(楔
入圧)、
血清アルブミン濃度などにより判断する。
※腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場
合には等張アルブミン製剤を使用する。
※人工膠質液を1L以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の
使用を考慮する。
2.人工心肺を使用する心臓手術
人工心肺の充填には、
原則として細胞外液系輸液薬を使用する。
術前より血清アルブミン濃度または膠質浸透圧の高度な低下
のある場合、あるいは体重10kg未満の小児の場合などには、
等張アルブミン製剤の使用を検討する。
人工心肺実施に伴う血液希釈で起こった低アルブミン血症の
補正は不要である。
4.難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフローゼ症候群
急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては、利尿
薬に加えて短期的(1週間を限度)に高張アルブミン製剤の投
与を必要とする場合がある。
5.血行動態が不安定な血液透析時
血圧の安定が悪い血液透析例において、特に、糖尿病合併例
や術後低 アルブミン血症例に、循環血漿量増加の目的で予防
的投与を検討する。
6.凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換療法
新鮮凍結血漿に比較して、等張アルブミン製剤がより安全な
置換液である。
7.重症熱傷
熱傷後、
通常24時間以内は細胞外液系輸液薬で対応する。以降、
細胞外液系輸液薬では循環血漿量不足の是正が困難な場合
には、人工膠質液または等張アルブミン製剤で対処する。
8. 低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が
認められる場合
術前、術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低
蛋白血症で、治療抵抗性の肺水腫または著明な浮腫が認めら
れる場合には、利尿薬とともに高張アルブミン製剤の投与を
考慮する。
3.難治性腹水を伴う肝硬変あるいは大量の腹水穿刺時
治療抵抗性の腹水に対し、利尿を誘導するために短期的(1週
間を限度)に、あるいは大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環
血漿量を維持するために、高張アルブミン製剤の投与を必要
とする場合がある。
9.循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など
急性膵炎、腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショック
を起こした場合には、等張アルブミン製剤を使用する。
☆等張アルブミン製剤:5%人血清アルブミン、加熱人血漿蛋白(PPF)、高張アルブミン製剤:20%,25%人血清アルブミン
【 旧使用基準 】
【使用対象】
(1)使用が適切なもの
①循環血漿量の是正:出血性ショック、外傷性ショック
②膠質浸透圧の改善 : 熱傷、低アルブミン血症を伴う成人
呼吸窮迫症候群 (ARDS)
(2)状況により使用されるもの
①侵襲の大きな手術後:大量のアルブミンの喪失により
呼吸不全、 腎不全などの重篤な合併症の危険を伴う場合
②手術前のプアリスクな状況:アルブミンの減少により、
手術に耐えられぬ場合
③腸閉塞、
急性腸炎など:循環血漿量の著明な減少を伴う場合
④開心術中及び術後:体外循環によりアルブミン濃度または
膠質浸透圧が減少している場合
⑤肝硬変、ネフローゼなど : 高度な低蛋白血症に基づく腹水、
乏尿などの合併症を伴う場合
⑥悪性腫瘍:低蛋白血症に基づく浮腫、胸水、腹水などのため、
がんに対する積極的な治療を実施できない場合
【効果が検討されているもの】
治療的血漿交換
●投与量・投与効果の評価
○ 下記の計算式から得られたアルブミン量を患者の病状に応じて、通常2∼3日で分割投与する。
必要投与量(g)=期待上昇濃度(g/dL)*1×循環血漿量(dL)×2.5*2
*1:目標値と実測値の差 *2:投与アルブミンの血管内回収率(=40%)の逆数
体重1kg当たりの循環血漿量が0.4dLの患者の場合は、次式で簡単に算出できる。
必要投与量(g)=期待上昇濃度(g/dL)×体重(kg)
《参考》
血清アルブミン濃度の上昇値(g/dL)=投与アルブミン量(g)×0.4*3/循環血漿量(dL)
*3
:投与アルブミンの血管内回収率(=40%)
体重1kg当たりの循環血漿量が0.4dLの患者にアルブミン1gを投与した場合は、
血清アルブミン濃度の上昇値(g/dL)は体重の逆数となる。
○ 投与後の血清アルブミン濃度の目安
急性の場合:3.0g/dL以上
慢性の場合:2.5g/dL以上
○ 投与効果の判定を3日間を目途に行い、使用の継続を判断し、漫然と投与し続けることのないように注意する。
●不適切な使用
【 旧使用基準 】
【投与の決定と効果判定】
1.蛋白質源としての栄養補給
○臨床症状(利尿状況、循環動態 など)、検査所見
(アルブミン濃度、膠質浸透 圧など)により投与を
決定するが、
急性の病態ではアルブミン濃度3.0g/dL以上
慢性の病態ではアルブミン濃度2.5g/dL以上
を維持することを一応目標とする。
○効果の判定は3日間を目途に評価を行い使用の
継続を判定する。
栄養補給の目的には中心静脈栄養、末梢静脈栄養によ
るアミノ酸の投与と エネルギーの補給が有効であって、
アルブミン投与の意義はほとんどない。
2.脳虚血時の血管攣縮に対する脳組織の障害防止目的
アルブミン投与の有用性は証明されておらず、使用対
象とならない。
3.単なる血清アルブミン濃度の維持
【以下に示す使用は適切でない】
4.末期患者へのアルブミン投与
(1) 栄養補給の目的
(2) 単なる血漿アルブミン濃度の維持
(3) 全血の代用として赤血球濃厚液と併用すること
アルブミン投与による延命効果は明らかにされていない。
参考資料
Lundsgaard- Hansen P,et al. Component therapy of
出血患者における輸液・成分輸血療法の適応 * * surgical hemorrhage : Red cell concentrates, colloids
and crystalloids. Bibl Haematol. 46 :147-169,1980.
血液成分量
(%)
100
Ht( 43→35)%
80
TP(7.5→4.5)g/dL
60
Ⅴ/ Ⅷ因子%
35
Plt=5×104/μL
25
輸液
血液成分
(一部を改訂)
L-R : 細胞外液系輸液薬(乳酸リンゲル液、酢酸
リンゲル液など)
RCC : 赤血球濃厚液
A-C : 人工膠質液
HSA : 等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン、
加熱人血漿蛋白)
FFP : 新鮮凍結血漿
PC : 血小板濃厚液
20
50
150
100
(%)
L-R
出血量
RCC
A-C
HSA
FFP
PC
日本赤十字社中央血液センター 医薬情報部
輸血用血液又は血漿分画製剤の使用による副作用・感染症が疑われ
た場合は、直ちに、血液センター医薬情報担当者までご連絡ください。
また、原因究明のために、使用された製剤、患者さんの検体(輸血前・
輸血後)等のご提供をお願いします。なお、使用された製剤はできる
だけ清潔な状態で冷所に保存しておいてください。
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