生活習慣病予防について

平成19年2月21日(水)
朝倉介護保険事業者協議会スタッフセミナー
生活習慣病予防について
~メタボリックシンドロームの考え方~
生活習慣病の概要
生活習慣病とは?
「食生活、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生
活習慣が、その発症・進行に関与する症候群」
1996(平成8)年公衆衛生審議会の意見具申における定義
*がん、虚血性心疾患、脳血管障害、
高血圧、糖尿病、高脂血症などが含まれる
メタボリックシンドローム(平成17年4月)
メタボリックシンドロームの診断基準
必
須
項
目
腹腔内脂肪蓄積
ウェスト周囲径
男性≧85cm
女性≧90cm
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)
上記に加え以下のうち2項目以上
高トリグリセライド血症
≧150mg/dL
かつ/または
低HDLコレステロール血症 <40mg/dL
収縮期血圧
かつ/または
拡張期血圧
≧130mmHg
空腹時高血糖
≧110mg/dL
≧85mmHg
男女とも
平均寿命の年次推移(各国別)
85.49歳
78.53歳
主な死因別にみた死亡率の年次推移
平成17年人口動態統計資料
悪性新生物の主な部位別死亡率(人口10万対)の年次推移
平成17年人口動態統計
がん(全部位):男性
がん(全部位):女性
高血圧診断基準
分類
収縮期血圧
拡張期血圧
至適血圧
< 120
かつ
< 80
正常血圧
< 130
かつ
< 85
正常高値血圧
130~139
または
85~89
軽症高血圧
140~159
または
90~99
中等症高血圧
160~179
または
100~109
重症高血圧
収縮期高血圧
≧180 または ≧110
≧140
かつ
<90
(単位:mmHg 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」より)
初診時の高血圧管理計画
血圧測定、病歴、身体所見、検査所見
二次性高血圧の除外
生活習慣の是正の指導
血圧
130~139/80~89mmHg
低リスク群
中リスク群
高リスク群
高血圧患者のリスクの層別化
危険因子
軽症高血圧
(140~159/90~
99mmHg)
中等症高血圧
(160~
179/100~
109mmHg)
重症高血圧
(≧180/≧110
mmHg)
危険因子なし
低リスク
中等リスク
高リスク
糖尿病以外の1~2個の危険
因子あり
中等リスク
中等リスク
高リスク
糖尿病、臓器障害、心血管
病、3個以上の危険因子、
のいずれかがある。
高リスク
高リスク
高リスク
血圧
生活習慣の修正項目(高血圧)
1) 食塩制限6g/日未満
2) 野菜・果実の積極的摂取*
3) 適正体重の維持
4) 運動療法
5) アルコール制限
6) 禁煙
生活習慣の複合的な修正はより効果的である
糖尿病診断基準
75g糖負荷試験
(2時間値)
空腹時血糖
糖尿病型
126mg/dl以上
または 200mg/dl以上
境界型
110mg/dl以上
126mg/dl未満
140mg/dl以上
200mg/dl未満
正常型
110mg/dl未満
かつ
140mg/dl未満
①空腹時血糖値≧126mg/dl,75gOGTT2時間値≧200mg/dl,随時血糖値≧200mg/dlのいずれか(静脈血
漿値)が,別の日に行った検査で2回以上確認できれば糖尿病と診断してよい
*.これらの基準値を超えても,1回の検査だけの場合には糖尿病型と呼ぶ.
②糖尿病型を示し,かつ次のいずれかの条件がみたされた場合は,1回だけの検査でも糖尿病と診断できる.
1.糖尿病の典型的症状(口渇,多飲,多尿,体重減少)の存在
2.HbA1c≧6.5%
3.確実な糖尿病網膜症の存在
(日本糖尿病学会)
境界型糖尿病と動脈硬化
高脂血圧診断基準
病名
項目
数値
高コレステロール血症
総コレステロール値
220mg/dl以上
高LDL血症
LDLコレステロール値
140mg/dl以上
低HDL血症
HDLコレステロール値
40mg/dl未満
高中性脂肪血症
中性脂肪値
150mg/dl以
(日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患診療ガイドライン2002年版」)
危険因子保有数と冠動脈疾患発症リスク
31.3
35
30
25
相
対 20
危
険 15
9.7
10
5
0
5.1
1.0
0
1
リスク保有数
2
3~4
リスク: ・肥満(BMI 25以上) ・高血圧(140/90以上)
・高血糖(空腹時110mg/dl 以上) ・高中性脂肪(150mg/dl 以上)
Nakamura, T.et.al.: Jpn. Circ. J., 65:11-17,2001.
肥満とメタボリックシンドローム
肥満症診断の流れ(日本肥満学会)
肥
満
BMI*
25 以上
150cmでは約56kg以上
160cmでは約64kg以上
170cmでは約72kg以上
あり
なし
非
肥
満
*体重(Kg)÷身長(m)2
(日本人ではBMIが25以上になるとBMI22に
比べ、糖尿病、高脂血症、高血圧症の合併頻
度が2倍以上になる)
内健肥
臓康満
脂障に
肪害よ
蓄まる
積た
は
肥
満
症
内臓脂肪蓄積の判定基準
・スクリーニング検査(ウエスト周囲径)
男性:85cm以上
女性:90cm以上
・確定診断(腹部CT)
内臓脂肪面積:100cm2以上
肥満者(BMI≧25)の割合(20歳以上)
平成16年 国民健康・栄養調査
肥満者の生活習慣病の重複の状況(粗い推計)
肥満に加え、糖尿病、高血圧症、高脂血症が・・・
肥満のみ
約20%
肥満のみ
糖尿病
いずれか1疾患有病
約47%
いずれか2疾患有病
約28%
高脂血症
高血圧症
3疾患すべて有病
約 5%
(H14糖尿病実態調査を再集計)
内臓脂肪面積とリスク数
男性(n=479)
女性(n=181)
2.5
2.5
2
2
リ
ス
ク
数 1.5
リ
ス
ク
数 1.5
1
1
0.5
0.5
0
0
<100
100~125 125~150 150~175
175<
<100
100~125 125~150 150~175
175<
メタボリックシンドローム診断基準委員会,日本内科学会雑誌, 2005;94:794-809
内臓脂肪面積とウエストの関係
(回帰直線より求めた内臓脂肪面積とウエストの関係)
内臓脂肪面積
ウエスト周囲径
(男性)
ウエスト周囲径
(女性)
50cm2
79.8
81.5
60cm2
80.9
83.2
70cm2
82.0
85.0
80cm2
83.1
86.7
90cm2
84.2
88.5
100cm2
85.3
90.2
110cm2
86.4
92.0
120cm2
87.5
93.7
松澤祐治他.肥満研究, 2001;7:54-59
腹部脂肪の分布の違い
腹部肥満の有無による危険因子合併頻度の比較
(尼崎市職員男性3064名での検討)
%
80
*
*
60
*
40
*
腹部肥満(+)
腹部肥満(ー)
20
*P<0.001
0
高TG血症
低HDL血症
高血圧
高血糖
別冊医学のあゆみ: 肥満症・メタボリックシンドローム より引用
腹部肥満の有無による危険因子合併頻度の比較
(尼崎市職員女性1071名での検討)
%
80
*
60
*
40
*
腹部肥満(+)
腹部肥満(ー)
20
*P<0.001
0
高TG血症
低HDL血症
高血圧
高血糖
別冊医学のあゆみ: 肥満症・メタボリックシンドローム より引用
肥満になると・・・・・
動脈硬化危険因子としてのアディポネクチン
3
オ
ッ
ズ
比
2
2.05
1.22
1
1.0
0.75
0
~4.0
4.0~5.4
5.5~6.9
7.0~
血中アディポネクチン濃度(μg/ml)
Kumada M, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.2003;23:85-89
内臓肥満型肥満と生活習慣病
不健康な生活習慣
遺伝因子
内臓脂肪型肥満
代謝(メタボリズム)の異常・インスリン抵抗性
高血糖
血圧高値
放置すると
放置し続けると・・・
脳卒中、冠動脈疾患等・・・
脂質異常
○8学会が合同で疾患概念と診断基準を策定した
(平成17年4月 日本内科学会総会で公表)
動
脈
硬
化
学
会
糖
尿
病
学
会
肥
満
学
会
高
血
圧
学
会
内科学会
循
環
器
学
会
腎
臓
病
学
会
血
栓
止
血
学
会
メタボリックシンドロームの診断基準
必
須
項
目
腹腔内脂肪蓄積
ウェスト周囲径
男性≧85cm
女性≧90cm
(内臓脂肪面積 男女とも≧100cm2に相当)
上記に加え以下のうち2項目以上
高トリグリセライド血症
≧150mg/dL
かつ/または
低HDLコレステロール血症 <40mg/dL
収縮期血圧
かつ/または
拡張期血圧
≧130mmHg
空腹時高血糖
≧110mg/dL
≧85mmHg
男女とも
メタボリックシンドロームと各病態の相互関係
肥満症
(脂肪細胞の
質的異常による)
メタボリック
シンドローム
予備軍
メタボリック
シンドローム
内臓脂肪蓄積
内臓脂肪蓄積
+
リスク1つ
内臓脂肪蓄積
+
リスク2つ以上
BMI 25以上
ウエスト周囲径増加
+脂質異常
+血圧高値
+血糖高値
死の四重奏
内臓脂肪蓄積
+
リスク3つ
肥満
+高脂血症
+高血圧
+高血糖
腹囲測定法
測定部位
姿勢・呼吸
・両腕を身体の脇に垂らす
・自然呼気終末に計測
計測時注意点
・メジャーは非伸縮性のもの
・空腹時に計測
メタボリックシンドロームの状況(20歳以上)
男性
平成16年 国民健康・栄養調査
メタボリックシンドロームの状況(20歳以上)
女性
平成16年 国民健康・栄養調査
メタボリックシンドローム
有病者・予備群の状況
(40歳から74歳)
有病者数:約940万人
計1960万人
予備群者数:約1020万人
男性の2人に1人、女性の5人に1人が
該当する
(厚生労働省 平成16年国民健康・栄養調査結果)
メタボリックシンドロームの有無による
冠動脈疾患死亡及び全死亡のリスク
【冠動脈疾患死亡】
【全死亡】
相対危険
相対危険
10
10
5
3.8(1.7-8.2)
5
1.0
1.0
1
1
0
0
MS-
2.4(1.6-3.6)
MS+
MS-
MS+
Hanna-Maaria, et al. JAMA 2002;288:2709-2716
メタボリックシンドロームの予防
メタボリックシンドロームに対する方針
ハイリスク状態であることの自覚
減量・内臓脂肪軽減の重要性認識
身長・体重・ウエスト周囲径の測定
食行動・運動習慣・嗜好
目標値の設定 体重○○Kg
ウエストの周囲径 ○○cm
現状の-5%を目安
3ヶ月~半年間で達成
食事療法
肥満症治療食
生活習慣の特徴を把握
運動療法
重症度を考慮
行動療法
自己モニタリング
体重・ウエスト周囲径記録など
効果の評価
見直し
生活習慣の再評価
薬物療法の適用の有無
継続・維持
さらに達成可能な目標を設定
これを食べれば、やせられる、健康になれるという
『マジックフーズ』はないし、早道はない
フードファディズム
食べ物が健康や病気に及ぼす影響を過大に評価すること 。
食材が店頭から消えたケース
1995年:ココア(生活習慣病予防)
2003年:にがり(ダイエット)
2005年:寒天(ダイエット)
2007年:納豆(ダイエット)
(韓国でも以前、テレビで健康にいいと紹介されたアスパラガ
スがスーパーからなくなったことがあった。)
運動習慣のある者の割合の年次推移
(20歳以上)
*運動習慣のある者:
1回30分以上の運動を週2日以上実施し、1年以上継続している者
平成16年 国民健康・栄養調査
運動の効果
運動
ストレス解消
HDL-CHO上昇
TG低下
血圧低下
動脈硬化性疾患予防
インスリン
抵抗性改善
年齢階級
最大摂取量の目標値
(ml/kg/分)
目標心拍数
(拍/分)
1週間の合計
運動時間(分)
男性
女性
20歳代
40
33
130
180
30歳代
38
32
125
170
40歳代
37
31
120
160
50歳代
34
29
115
150
60歳代
33
28
110
140
平成元年7月「健康づくりのための運動所要量策定検討会報告書」
(目標心拍数・一週間の合計運動時間引用)
平成18年7月「健康づくりのための運動基準2006~身体活動・運動・体力~」
(最大酸素摂取量の目標値引用)
健康指導づくりのための運動指針2006
(厚生労働省 2006年7月)
新しい運動量の単位:エクササイズ
1エクササイズに相当する活発な身体活動
運動
強度
強度
生活活動
3メッツ
3メッツ
軽い筋力トレーニング バレーボール:20分
:20分
歩行:20分
4メッツ
速歩:15分
ゴルフ:15分
自転車:15分
子供と遊ぶ:15分
6メッツ
軽いジョギング:10分 エアロビクス:10分
階段昇降:10分
8メッツ
ランニング:7~8分
水泳:7~8分
重い荷物を運ぶ:7~8分
1エクササイズの身体活動量に相当する
エネルギー消費量
体重
エネルギー消費量
40kg
42kcal
50kg
53kcal
60kg
63kcal
70kg
74kcal
80kg
84kcal
90kg
95kcal
身体活動量の目標
<健康づくりのための運動目標>
週23エクササイズの活発な身体活動*!
そのうち4エクササイズは活発な運動を!
〔メタボリックシンドローム解消のための運動量〕
運動だけで内臓脂肪を低下させようと思うと・・・・・
10エクササイズの運動量が必要。
目標設定の考え方
<健康づくりのための運動目標>
・いつでも、どこでも、楽しく歩こう1日1万歩!
・自分にあった運動でいい汗かこう、週合計60分!
継続できる目標設定を!
食事療法も同時に!
腹囲1cmの減少は体重1Kgの減少
内臓脂肪蓄積状態による運動効果の差異
1400
上
腕
~
足
首
脈
波
伝
播
速
度
*運動習慣を持たない中高年男女、1回30~60分の有酸素運動を週3回以上、
3ヶ月間継続するよう指導
内臓脂肪面積100cm2以上
N=16
P=0.032
1350
1300
1250
内臓脂肪面積100cm2未満
1200
N=20
n.s.
(cm/秒)
・体重は平均で2.1kg低下
・内臓脂肪面積18%減少
1150
1100
前
3ヶ月後
Takanami Y, et al : Circulation Journal,70:609,2006.
酒には適量があるが、タバコにはない
タバコ
酒
Kikuchi S, et al. Jpn J Cancer Res. 93,953-59,2002
日本人健診受診者の喫煙本数別メタボリック症候群
リスク(30~65歳健診受診男女5033名)
5.0
4.0
3.4
相
対
危
険
3.0
3.0
2.0
2.0
1.4
1.0
1.0
0.0
非喫煙者
1~9
10~19
20~39
40~
喫煙本数(本/日)
Nakanishi N, et al: Ind Health 43:295,2005
Q:やめられないのは意志が弱いから?
タバコ依存症
●身体的依存
(ニコチン依存)
●心理的依存
(タバコに結びついた習慣)
「タバ子さんへ依存」
「ニコチン依存」パンフより
ニコチン代替療法
・タバコ1箱 300円
・パッチ1枚 420円
・ガム5個
400円
治療費用
・1箱喫煙者で120円負担増
・2箱喫煙者で180円儲け
治療終了後のタバコ代は全て儲け
医療制度改革とメタボリックシンドローム
国民医療費(総額31.5兆円)
(平成15年)
生活習慣病:10.2兆円
(医療費の約3割)
糖尿病関連 1.9兆円
脳血管障害 2.0兆円
虚血性心疾患 0.8兆円
悪性新生物 2.8兆円
(がん)
その他
21.3兆円
高血圧性疾患 2.8兆円
医療制度構造改革のポイント
ー 生活習慣病対策 ー
1. 糖尿病等の生活習慣病有病者・予備群25%の削
減目標を設定
2. 健診・保健指導にメタボリックシンドロームの概念
を導入した標準的なプログラム構築
3. 医療保険者に生活習慣病に着目した健診・保健
指導(特定健診・特定保健指導)を義務化(40~7
4歳):平成20年4月開始
基本的な健診項目
質問項目、身体計測(身長、体重、BMI、腹
囲)、理学的検査(身体診察)、血圧測定、血液
化学検査(中性脂肪、HDLコレステロール、
LDLコレステロール)、肝機能検査(AST(GOT)、
ALT(GPT)、γ-GT(γ一GTP))、腎機能検査
(血清クレアチニン)、血糖検査(空腹時又は随
時)、HbAIc検査、血清尿酸検査
詳細な検診と該当者
(1)心電図検査:収縮期血圧140mmHg以上又は拡張期血圧
90mmHg以上、質問票・質問項目(4~7)※のうち、1項目以上
該当する者、肥満(内臓脂肪型肥満を有する者、又はBMI
>25の者)、不整脈又は心雑音の認められる者
(2)眼底検査:心電図検査対象者のうち医師が必要と認める者
特に、糖尿病が疑われる者(HbAlc6.1%以上)、又は糖尿病の
既往歴がある者
(3)尿検査(尿糖、尿蛋白、尿潜血):糖尿病あるいは腎疾患の
既往歴を有する者のうち医師が必要と認める者
(4)貧血検査:貧血の既往歴を有する者、または視診等で貧血
が疑われる者
終わり