スーパー総合周産期センター

2012年7月7日
日本周産期新生児医学会
周産期専門医制度暫定指導医
A講習会
周産期専門医に必要な医療連携
北里大学病院
海野信也
Website: 「周産期医療の広場」:http://shusanki.org/
周産期医療における医療連携
制度上の変化
• 2009年4月 消防法改正:2010年度中の搬送先受入基準の策定
• 2010年1月 「周産期医療体制整備指針」の改定
– 2010年度中に、都道府県で、中長期的な視点から『周産期医療体制整備計画』
を策定
– 『周産期医療体制整備計画』に盛り込むべき事項
• 周産期母子医療センター等の機能
– 総合、地域、その他の周産期医療関連施設の診療機能、病床数、確保すべき医療従事者
– 特に、母体救命症例への対応
• NICU病床の整備:1000出生あたり3床
•
•
•
•
•
周産期搬送体制:県域を越えた搬送体制の検討
周産期医療情報センターの機能及び体制
搬送コーディネーターの機能及び体制
周産期関連施設等の関係者に対する研修体制
NICU長期入院児に対する退院支援
周産期医療における医療連携
• 病院前
– 地域:周産期医療機関
• 診療所・一般病院・地域の周産期母子医療センター
– 救急隊
– 広域:他県の周産期医療システム・周産期医療機関
• 病院内
–
–
–
–
周産期センター内:産科と新生児科
産科:麻酔科
新生児科:小児科・小児外科
産科:救命救急センター・母体救命救急に関わる診療科
• 病院後
– 地域行政:保健師・助産師・児童相談所
– 逆搬送・再搬送・三角搬送
– 長期入院児の退院支援:在宅医療等
当事者の献身に依存しない、「行政システム」構築の必要性
本日のテーマ
• 母体救命救急体制の整備
• 搬送コーディネーター
–
–
–
–
神奈川県
千葉県
東京都
埼玉県
• 広域搬送体制
– 県境を超えた周産期搬送体制の構築(東京都と神奈
川県で試行)
東京都母体救命搬送システム
• 緊急に母体救命処置が必要な妊産褥婦(対象患者)
について、救急医療と周産期医療が連携して、迅速
に受入先を確保
• 対象患者が、近くの救急医療機関で受け入れられな
かった場合に必ず受け入れる「母体救命対応総合周
産期母子医療センター」を3か所確保
• 総合周産期センターと救命救急センターの緊密な連
携のもとに対象患者を必ず受け入れ、診断・処置等
を行う。
搬送先選定に要する時間を極力短縮し、
迅速に母体の救命処置を行う体制を整備
東京都母体救命搬送システムのイメージ
母体救命
と判断
直近の
救急医療機関
救急
部門
連携
周産期
部門
産科施設
①要請
搬送途上も
あたりながら
②119番
④救急車搬送
東京消防庁指令室等
直近で受けられない場合
必ず受入れる
③要請
スーパー総合周産期センター
救命救急センター
総合周産期センター
連携
東京都母体救命搬送システムのイメージ
母体救命
傷病妊婦
①119番
搬送途
上もあた
りながら
②要請
救急隊
救急
部門
各消防本部指令室
④救急車搬送
直近の救急医療機関
連携
③要請
スーパー総合周産期センター
救命救急センター
連携
総合周産期センター
周産期
部門
母体救命搬送システム対象症例表
• 以下の疾患等の妊産褥婦で、緊急に母体救命処置が必要
なもの
1.妊産褥婦の救急疾患合併
①脳血管障害 ②急性心疾患 ③呼吸不全 ④重症感染
症,敗血症性ショック ⑤重症外傷,熱傷 ⑥多臓器機
能障害・不全
2.産科救急疾患(重症)
①羊水塞栓症 ②子癇,妊娠高血圧症候群重症型
③HELLP症候群,急性妊娠脂肪肝 ④出血性ショック
⑤産科DIC
3.重篤な症状(診断未確定)
①意識障害 ②痙攣発作 ③激しい頭痛 ④激しい胸痛
⑤激しい腹痛 ⑥原因不明のバイタルサイン異常
以上を呈し重篤な疾患が疑われる症例
4.その他1~3に準ずるもので緊急に母体救命処置必要
なもの
東京都母体救命搬送システム
2009年3月25日~2011年8月31日 142件
東京都母体救命搬送システム
2009年3月25日~2011年8月31日 142件
東京都母体救命搬送システム
2009年3月25日~2011年8月31日 142件
病院選定時間 平均10.0分
東京都母体救命搬送システム
2009年3月25日~2011年8月31日 142件
入院まで(覚知~病着) 平均42分
平成22年度日本産科婦人科学会
周産期委員会
母体救命救急症例の実態に関する調査
周産期委員会委員長 斎藤 滋
周産期救急医療体制の構築とその対応に関する小委員会
小委員長 海野信也
委 員 池田智明、岡井 崇、久保隆彦、小林隆夫、中林正雄
解析担当:久保隆彦
調査名:日本産科婦人科学会周産期委員会 妊産褥婦 救命救急対応症例 実態予備調査
調査地域:東京都・大阪府・神奈川県
調査対象施設:妊産褥婦の救命救急対応を実際に受け入れている医療機関
調査対象期間:2009年1月1日より2009年12月31日
調査対象症例:以下の条件を満たす搬送症例および自施設発生症例
以下の疾患等の妊産褥婦で、緊急に母体救命処置が必要なもの
診断・判断の基準は、各医療機関に委ねるものとします。
「出血性ショック」については、出血量で一律に診断するのではなく、予定された輸血等以外に、ショックの治療が
必要となった症例を対象とすることを想定しています。その他の疾病についても同様の考え方で検討して下さい。
周産期センターだけでなくもっぱら救命救急センター等で対応した症例についても対象に含めます。各施設での
照会をお願いいたします。
妊産褥婦の救急疾患合併
脳血管障害
急性心疾患(心不全、虚血性心疾患等)
呼吸不全(肺血栓塞栓症、肺水腫、重症気管支喘息等)
重症感染症、敗血症性ショック
重症外傷(交通外傷等)、熱傷
多臓器機能障害・不全(肝不全、腎不全、薬物中毒等)
産科救急疾患(重症のもの)
羊水塞栓症
子癇、妊娠高血圧症候群重症型
HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝
出血性ショック(前置癒着胎盤、弛緩出血、重症産道損傷等)
産科DIC(常位胎盤早期剥離等)
重篤な症状(診断未確定)
意識障害
痙攣発作
激しい頭痛
激しい胸痛
激しい腹痛
原因不明のバイタルサイン異常 以上を呈し重篤な疾患が疑われる症例
その他1)-3)に準ずるもので緊急に母体救命処置が必要なもの
各地域での調査状況
<神奈川県>
周産期委員会の個票に記載
2009年1月ー12月
185例集積
<東京都>
東京都の実施した調査のまとめのみ
2009年3月ー2010年12月
142例の集積
101例:東京都母体救命搬送システムによる母体救命搬送事案
41例:事後にスーパー母体救命に相当すると判断された報告事例
<大阪府>
調査期間を2010年8月ー2011年1月
167施設に依頼し54施設より回答 252例
185例+142例+252例=579例を分析
母体救急の実態調査の概要
疾患・症候
症例数
脳血管障害
急性心疾患(心不全、虚血性心疾患等)
妊産褥婦の救
急疾患合併
呼吸不全(肺血栓塞栓症、肺水腫、重症気管支喘息等)
重症感染症、敗血症性ショック
重症外傷(交通外傷等)、熱傷
多臓器機能障害・不全(肝不全、腎不全、薬物中毒等)
羊水塞栓症
重症の産科救
急疾患
子癇、妊娠高血圧症候群重症型
HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝
出血性ショック(前置癒着胎盤、弛緩出血、重症産道損傷等)
産科DIC(常位胎盤早期剥離等)
意識障害
痙攣発作
重篤な症状
(診断未確定)
激しい頭痛
激しい胸痛
激しい腹痛
原因不明のバイタルサイン異常
その他上記に準じた症候を呈し、緊急に母体救命処置が必要だった症例
神奈川県 大阪府 東京都
合計
185
252
142
579
9
3
1
1
3
7
2
53
14
53
31
1
0
0
0
3
0
4
6
4
5
2
2
4
0
6
16
145
25
8
3
3
0
6
0
17
14
1
5
2
4
2
5
11
4
41
28
8
7
1
1
4
2
2
29
8
11
5
9
13
7
70
34
239
84
17
10
4
1
13
2
23
母体救急の疾患・症候(東京都、神奈川県、大阪府 n=579 )
4%
8%
13%
妊産褥婦救急疾患合併
重症産科救急疾患
重篤症状(診断未確定)
75%
その他緊急症例
母体救急の疾患・症候(東京都、神奈川県、大阪府 n=579 )
その他母体救命処置が必要だった症例
23
原因不明のバイタルサイン異常
2
13
1
4
10
17
激しい腹痛
激しい胸痛
激しい頭痛
痙攣発作
意識障害
84
産科DIC(常位胎盤早期剥離等)
出血性ショック(前置癒着胎盤、弛緩出血、重症産道損傷等)
239
34
HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝
70
子癇、妊娠高血圧症候群重症型
羊水塞栓症
7
多臓器機能障害・不全(肝不全、腎不全、薬物中毒等)
13
9
重症外傷(交通外傷等)、熱傷
重症感染症、敗血症性ショック
5
11
8
呼吸不全(肺血栓塞栓症、肺水腫、重症気管支喘息等)
急性心疾患(心不全、虚血性心疾患等)
29
脳血管障害
0
50
100
150
200
250
300
小括 1 (母体救急の解析)
・大量出血を伴う母体救急症例が約6割(57%)を占める
出血性ショック:41%、早剥を含めた産科DIC:15%、羊水塞栓:1%
・PIHを基盤とする子癇、HELLP症候群が約2割(18%)を占める
子癇・重症PIH:12%、HELLP症候群・急性妊娠脂肪肝:6%
・今回の調査の背景分娩数は約30万
・母体救命のための搬送率:579/300,000=約520分娩に1人
・分娩時の脳血管障害発生率:29/300,000=約1,0000分娩に1人
・大量出血での母体救急発生率:199/300,000=約900分娩に1人
母体救急で母体死亡・児死亡(死産を含む)となった疾患・症候
(母児予後の判明している327例を検討)
不明
1/6(17%)
原因不明のバイタルサイン異常
1/6(17%)
激しい腹痛
児死亡 (48例)
母体死亡 (17例)
激しい胸痛
激しい頭痛
痙攣発作
意識障害
1/59(2%)
33/59(56%)
産科DIC(常位胎盤早期剥離等)
出血性ショック(前置癒着胎盤、弛緩出血、重症産道損傷等)
4/94(4%)
4/94(4%)
HELLP症候群、急性妊娠脂肪肝
3/64(5%)
子癇、妊娠高血圧症候群重症型
羊水塞栓症
3/7(43%)
1/7(14%)
2/7(29%)
3/7(43%)
1/3(33%)
1/3(33%)
1/6(17%)
1/6(17%)
多臓器機能障害・不全(肝不全、腎不全、薬物中毒等)
重症外傷(交通外傷等)、熱傷
重症感染症、敗血症性ショック
呼吸不全(肺血栓塞栓症、肺水腫、重症気管支喘息等)
急性心疾患(心不全、虚血性心疾患等)
4/23(17%)
脳血管障害
0
5
10
1/23(4%)
15
20
25
30
35
小括 2 (母体死亡)
・母体死亡は18件あり、母児予後の判明している東京都、神奈川県の約
30万出生の背景から考えると、妊産婦死亡は6/10万出生となり、ほぼ
日本平均と同じであった。
・妊産婦死亡実数は、出血がらみが5人、脳血管障害が4人、羊水塞栓症
が4人と多かった。
・発症母体救急数を分母とした死亡率は、
①羊水塞栓症:57%(4/7)
②重症感染症:20%(1/5)
③外傷・自殺・事故:22%(2/9)
④脳血管障害:14%(4/29)
⑤肺梗塞などの呼吸不全:9%(1/11)
と順に高率であった。
・死亡実数の多かった大量出血がらみは発症数が多く、死亡率は低率で
あった。出血性ショック:2%(4/239)、早剥を含むDIC:1%(1/84)
小括 3 (児死亡)
・母体救急での児死亡(胎内死亡、死産、新生児死亡、乳児死亡)は
15%(48/327)と高率であった。
・児死亡実数48人中、
①早剥を含むDIC:33人(69%)
②出血性ショック:4人(8%)
③子癇を含むPIH:3人(6%)
④外傷・自殺・事故:3人(6%)が多く認められた。
・発症母体救急数を分母とした死亡率は、
①早剥を含むDIC:56%(33/59)
②外傷・自殺・事故:43%(3/7)
③重症感染症:33%(1/3)
④羊水塞栓症:14%(1/7)
⑤子癇を含むPIH:5%(3/64)
⑥脳血管障害:4%(1/23)
⑦出血性ショック:4%(4/94)と順に高率であった。
今後実施しなければならない事項
◆母体死亡症例の搬送についての詳細な分析(時間、発生場所、
死亡を回避できたか等)
◆児死亡の詳細な分析
◆児死亡を回避するための対策、搬送システムの変更も含めて
◆今回の分析から母体救急搬送システムの再検討
母体救急の搬送の約半数を占める大量出血の対策
死亡率の高い羊水塞栓への新しい治療戦略の確立
死亡実数の多い脳血管障害への新しい妊婦健診体制の開発
搬送コーディネータ
• 県内を数ブロックに分ける。
• 各ブロックに「基幹病院」を決める。
• 分娩施設は母体搬送の必要が生じたら、自ブロック
の「基幹病院」に連絡する。
• 基幹病院は自施設受入不能の場合、県の搬送コー
ディネータに連絡する。
• 搬送コーディネータは県内の受入可能性のある病
院すべてに網羅的に連絡し、受入打診を行う。
• 搬送コーディネータは照会結果を基幹病院と搬送元
施設に連絡する。
北里大学病院
聖マリアンナ医科大学
病院
県立こども医療センター
聖マリ医大横浜市西部
病院
横浜市大市民総合医療
センター
小田原市立
病院
東海大学医学部附
属病院
M Yamanaka
総合病院横須賀共
済病院
神奈川県における母体搬送の現況
1400
8.0%
1200
1000
800
600
85
6.0%
3.6%
5.5%
68
49
44
40
67
24
25
67
80
2.5%
538
531
451
384
400
200
450
587
584
2008
2009
2010
484
0
2007
その他
県外収容
478
539
県外搬送率
2011
県内収容 基幹
病院経由
県内収容 情報
センター経由
搬送コーディネート件数
神奈川
千葉県
2007
2008
2009
2010
2011
全母体搬送
999
1125
1218
1222
1011
コーディネーター扱い
589
642
655
681
521
コーディネーター扱い率
59%
57%
54%
56%
52%
全母体搬送
862
1028
1028
コーディネーター扱い
232
146
185
コーディネーター扱い率
27%
14%
18%
全母体搬送
1618
コーディネーター扱い
東京都
一般通報
199
転院搬送
201
コーディネーター扱い率
25%
東京都周産期搬送コーディネータ実績
2010年4月1日ー2011年3月31日
ブロック別依頼件数と受入件数
東京都周産期搬送コーディネータ実績
2010年4月1日ー2011年3月31日
転院搬送理由と一般通報初診時診断名
埼玉県母体・新生児搬送コーディネーター
•
埼玉県の母体搬送件数(埼玉県医師会調査 平成22年実績)
–
•
妊娠6か月以降の母体搬送総件数
1046件 うち転院搬送
977件
設置場所
– 埼玉県医師会内埼玉県県民健康センター3階 埼玉県救急医療情報センター
•
設置時期
– 平成23年10月17日(月曜日)8時30分
– 助産師による24時間365日体制
•
業務内容
– 県内の分娩施設等において転院搬送が必要と判断される妊産婦や新生児が生じた際
に、地域周産期母子医療センターの依頼に基づき、効率的に搬送可能な病院を調整
する。
•
事業のポイント
– 調整対象は地域周産期母子医療センターからの転院搬送
• 母体・新生児搬送コーディネーターは、各地区の地域周産期母子医療センターか
らの依頼に応じて調整します。またこの事業を通じて、地域周産期母子医療セン
ターを中心 とした各地区ごとの母体・新生児の効率的な搬送体制づくりにも努
めます。
– これまでの連携体制は継続
• 母体・新生児搬送コーディネーター事業が稼働しても、これまでの医療機関同士の連携体制
は継続されます。母体・新生児搬送コーディネーターは、これまでの体制で搬送先が見つけら
れない時の新たな搬送先選定の手段として活用します。
埼玉県母体・新生児搬送コーディネーター
地区担当地域周産期母子医療センター
地域周産期母子医療センター名
担当する保健医療圏
川口市立医療センター
南部及び東部(南)
埼玉医科大学病院
川越比企、北部及び秩父
西埼玉中央病院
西部
さいたま市立病院
さいたま
済生会川口総合病院
南西部
自治医科大学附属さいたま医療センター
県央及び利根
さいたま赤十字病院
東部(北)
南関東における広域搬送システムの構築
• 県内で収容先がみつからない場合、基幹病院は、
症例の状態から広域搬送の可能性を評価する。
• 広域搬送不可能と判断した場合は、自施設または
自地域対応とする。
• 広域搬送可能と判断した場合は、自県搬送コー
ディーネータを通じて、他県の搬送コーディネータへ
の依頼を行う。
• 他県の搬送コーディネータは、受入打診作業を行
い、受入先が決定したら、依頼県の搬送コーディ
ネータと依頼元施設に連絡する。
南関東における広域搬送システムの構築
• 2012年1月31日
– 東京都ー神奈川県
• 神奈川県:東京都との周産期広域連携体制(試行)
• 東京都:県域を越えた周産期搬送体制構築に向けた
試行
– 2012年5月末までに6件の事例
– 残された課題:
• 「戻り搬送システム」
• 千葉県・埼玉県との連携体制の構築
神奈川県の周産期救急医療システム
緊急時に
事務的に、システムで
対応することの重要性
事前の準備が必要
医師でなくてもできる仕事は、
他の職種に委譲する。
それも指導医の責任だと思います。