自己血輸血 神戸大学輸血部 西郷勝康 自己血輸血の利点 1)輸血感染症の防止 2)細胞および血漿蛋白質による同種免疫の防止 3)GVHDの防止 4)輸血副作用に対する心理的安心感 5)稀少血液型症例への対応 6)献血血液使用量の削減 自己血輸血療法の種類 患者の造血能に依存する (1)貯血式自己血輸血 液状貯血(造血能に強く依存する) 単純貯血法 蛙跳び法(戻し輸血併用) 凍結保存 凍結血漿 フィブリン糊 患者の造血能に依存しない (2)希釈式自己血輸血 (3)回収式自己血輸血 自己血輸血の代表的適応疾患 心臓血管外科:開心術、開胸術、冠動脈バイパス術、 大動脈瘤など 整形外科 :脊椎側彎症、脊髄腫瘍、椎間板ヘルニア、 人工関節置換術など 腹部骨盤系 :各臓器腫瘍、肝胆道系疾患、腎膀胱疾患、 子宮筋腫、子宮癌、前置胎盤、卵巣腫瘍など 脳外科 :脳腫瘍、動静脈奇形など 耳鼻咽喉科 :咽喉頭癌など その他 :稀な血液型、同種抗体の存在時など (1)術前貯血式自己血輸血 最も一般的な自己血輸血 可能であれば必要な輸血量に見合う量を貯血する 1)液状保存(4℃) 利点;手技が簡単 欠点;保存期間に制限(CPD=21日、CPDA=35日) 2)凍結保存 利点;貯血期間が長く、貯血量を増やせる 欠点;手技が煩雑、特別の設備が必要、赤血球のロスや輸血後の回収率 の低下がある。 貯血式自己血輸血の採血基準および方法 (日本輸血学会) 年 齢:制限なし(10歳以下、70歳以上は慎重に) 体 重:制限なし(40Kg以下は慎重に) 血色素量:採血前11g/dl以上(Ht33%以上) 最高血圧:一応170mmHg以下、90mmHg以上 全身所見:疾患の状況判断 除外すべき疾患(NYHAⅢ度以上、不安定狭心症、感染症) 有熱時には採血を行わない 採血量 :400ml以下 低体重者:採血量=400ml×体重/50kg 採血間隔:1週間前後 手術前3日以内は避ける 採血血液:自己血の明示(自己血に自著) 自己血貯血時の注意点① 1)貧血(鉄欠乏)の誘発 400mL貯血 鉄200mgの喪失 ⇒(1) 鉄剤による補充(時にエリスロポエチン併用) (2) 貯血日毎のCBC、網赤血球の計測 2)迷走神経反射(vasovagal reflex, VVR) 程度 症 状 VVRの疑い 気分不良、あくび、顔面蒼白、眠気 1度 冷汗、悪心嘔吐、めまい、四肢冷感、血圧低下 2度 意識消失、血圧低下(収縮期 90mmHg以下) 3度 さらに痙攣、失禁 予防 ・採血速度をおとす 対策 ・下肢挙上 脈拍数 40/分以上 40/分以下 ・徐脈には硫酸アトロピン 自己血貯血時の注意点② 3)細菌感染 採血時の不潔操作による細菌汚染の可能性 例)エルシニア;低温でも増殖 予防;消毒法の徹底(アルコール+イソジン) 発熱時、抜歯直後は避ける 4)取り違え輸血 防止のため幾重にも確認作業が必要 対策 ・自著シールの添付 ・コンピュータ管理/バーコード確認 ・保管血液の型確認、クロスマッチ ・症例毎の保管ラック 等々 自己血輸血の適応 輸血学会認定施設アンケート結果より 整形外科 1999年 心血管外科 1〜12月 産婦人科 一般消化器 泌尿器科 脳外科 自己血単独症例 口腔外科 同種血輸血症例 骨随ドナー その他手術 耳鼻咽喉科 面川;日本輸血 学会誌 47(4) 671-9, 2001 形成皮膚科 0 1000 2000 3000 4000 症例数 5000 6000 7000 8000 (2)希釈式自己血輸血 手術直前、麻酔導入後に採血する方法 細胞外液 代用血漿 500ml 600ml 輸血 採血 200 採血 200 採血 200 Repeatable (3) 希釈式自己血輸血の患者選択基準 1:輸血の可能性が10%を超える 2:術前ヘモグロビンが12g/dL以上 3:臨床的に問題となる冠動脈、肺、腎、肝疾患がないこと 4:重篤な高血圧でないこと 5:感染症でないこと、また菌血症の危険がないこと 希釈式自己血輸血の理論的な根拠 1)酸素供給の改善 採血により動脈血酸素濃度は低下する しかし 心拍出量の増加 血液粘度の低下 組織への酸素供給上昇 (=末梢循環抵抗の減弱) 2)止血効果の維持 採血後短い時間で利用される ⇒血小板および凝固因子の機能保持 (3)術中回収式自己血輸血 手術中に出血した血液を回収し、洗浄赤血球として 使用する。 適応;短時間に500mL以上の出血が予測される手術 (例;大動脈疾患、脊椎疾患) 欠点 1)特殊な装置(Cell Saverなど)が必要 2)感染の危険性が高い 3)悪性腫瘍細胞の播種の可能性 その他の自己血利用法 1)自己フィブリン糊 新鮮凍結血漿 ↓ 4℃で低温解凍 ↓ クリオ成分の析出 ↓ 遠心 ↓ 凍結保存 クリオプレチピテートには フィブリノーゲン、フィブロ ネクチン、第XIII因子が豊富 手術創部にトロンビン、 カルシウムと同時に使用 2)自己血小板濃厚液 術前3日以内に成分採血装置で採取 体外循環(人工心肺)による血小板機能低下などに利用
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