ホームエクササイズ指導による1症例検討 - 第49回日本理学療法学術大会

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)15 : 45∼16 : 35 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 生活環境支援!福祉用具・地域在宅 7】
1196
訪問リハビリテーションでの低周波治療の効果
(ホームエクササイズ指導による 1 症例検討)
中島
文音,田中
仁
リハビリ訪問看護ステーションルピナス
key words 訪問リハビリテーション・経皮的電気刺激・ホームエクササイズ
【目的】
脳卒中ガイドラインのリハビリテーションでは,痙縮軽減に対して経皮的電気刺激(以下 TENS)が勧められている。しかし,
訪問リハビリテーション場面で,その効果を検証している研究は少ない。そこで,本研究では,訪問リハビリテーションにおい
て,TENS のホームエクササイズを指導し,それを行うことで,上肢の実用性の向上,歩行の安定性の向上が得られるか ABA
型シングルケースデザインで実施した。
【対象と方法】
対象は 33 歳男性,3 年前に前頭葉出血にて左片麻痺を呈した症例である。上肢はブルーンストロームステージ 3,下肢はブルー
ンストロームステージ 3,基本動作,日常生活動作ともに自立し,就労している。
A 期間(介入期)は,訪問リハビリテーション時の運動療法と TENS を実施した。低周波治療器は,伊藤超短波トリオ 300 を使
用した。麻痺側上肢は,手関節背屈筋群(橈側手根伸筋)に電極を設置した。麻痺側下肢は,足関節背屈筋群(前脛骨筋)に接
置した。上肢,下肢ともに 30mmA,100Hz に合わせ毎日 30 分間実施するように指導し,それを 5 週間実施した。B 期間(未介
入期)は,運動療法のみを 5 週間実施した。A1 期,B 期,A2 期に渡って,15 週間を研究期間とした。
評価について上肢は,握力
(血圧計を使用)
,Modified Ashworth scale(以下 MAS,6 段階を 1∼6 と表記した)
,Fugl! Meyer!
TEST(以下 FMT)
,下肢は,歩行速度(5m)30 秒間立ち上がりテスト,Times up and Go Test(以下 TUG)
,Functional Reach
Test(以下 FRT)を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,対象者,家族にヘルシンキ宣言に基づいた研究の主旨の説明を行い,同意を得て進行した。また,当所属法人の倫理
委員会で承認された研究である
【結果】
上肢において握力は,A1 期 5.6±1.5mmHg,B 期 7.9±2.3mmHg,A2 期 6.4±2.2mmHg,MAS で肘関節伸展は,A1 期 4.0,B
期 4.0,A2 期 3.4±0.9,肘関節屈曲は,A1 期 2.8±0.8,B 期 3.4±0.5,A2 期 3.0±1.0,手関節回外は,A1 期 5.2±0.4,B 期 5.0,
A2 期 5.4±0.5,手関節回内は,A1 期 1.0,B 期 1.0,A2 期 1.0,FMT は,A1 期 28.4±1.5,B 期 29.8±2.7,A2 期 32.6±1.8 であっ
た。
下肢において歩行速度は,A1 期 7.1±0.6 秒,B 期 7.0±0.9 秒,A2 期 7.9±0.4 秒,30 秒間立ち上がりテストは,A1 期 14.5±0.5
回,B 期 13.4±0.5 回,A2 期 13.5±0.8 回,TUG は,A1 期 13.5±0.9 秒,B 期 12.7±0.9 秒,A2 期 13.1±0.8 秒,FRT は,A1
期 15.4±2.9cm,B 期 15.5±2.8cm,A2 期 19.8±3.2cm であった。
【考察】
脳卒中治療ガイドライン 2009 より,痙縮に対し,高頻度の TENS を施行することが勧められている。脳卒中片麻痺患者に対し,
訪問リハビリテーションでのホームエクササイズ指導による TENS によって,上肢では,どれだけの筋緊張低下,随意性の向上
がみられるかどうか,下肢では,歩行能力,バランス能力の向上がみられるかどうかを検討した。脳卒中治療ガイドラインより,
TENS は刺激頻度や評価期間により,効果判定に差がみられている。長期効果として TENS(1.7Hz,60 分,週 5)を施行し,
3 年間の評価では痙縮の改善が有意にみられていない
(Ib)
。100Hz の高頻度の TENS を施行することにより,8 週間での評価で
は,痙縮の改善が有意にみられている
(Ib)
,とのことから,今回は 100Hz の高頻度の TENS を利用し自宅でのホームエクササ
イズとして容易にできるよう麻痺側上肢下肢ともに 100Hz 30mA 30 分間を施行した。
握力は A1 期では,1 番低い値になり B 期で 1 番高い値となった。それは,TENS による相反抑制作用によって屈筋群の随意性
が抑制され,握りにくくなったためかと考える。MAS の肘伸展は A2 期で低下した。これは,
脊髄レベルにおける上位運動ニュー
ロンの過興奮の抑制効果が上肢全体及んでるのではと考える。肘屈曲でも同じように考える。FMT は,A2 期で著しく向上した。
これは TENS によって上肢全体の随意性が向上したと考える。下肢においては歩行能力関係の評価は変化がなかった。しかし,
FRT は A2 期において著しく向上した。それは,下腿三頭筋の痙性抑制による荷重時の重心移動が円滑になったためと考える。
痙性筋への電気療法による痙縮抑制のメカニズムは,電気刺激に伴い感覚神経全体の興奮が起こるとし,これらの求心性発射
は,α 運動ニューロンに対し抑制を引き起こすと考えられている。拮抗筋への電気療法による痙縮抑制のメカニズムは,麻痺筋
への拮抗筋に電気療法施行後に相反抑制の回復と考えられている。従って本研究においては,それらの効果によって,訪問リハ
ビリテーションにおける TENS のホームエクササイズの効果は,上肢の随意性をやや向上させ,下肢においては,バランス能力
を向上させたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
訪問リハビリテーションにおける物理療法効果の検証の一助になると考える。