27 人工股関節再置換術後の転帰の違いにおける術前機能の検討

第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
27
人工股関節再置換術後の転帰の違いにおける術前機能の検討
奥野 佑介(おくの ゆうすけ)1,2),永渕 輝佳1),丸井 理可1),濱田 浩志1),二宮 晴夫2)
JCHO大阪病院 リハビリテーション室1),JCHO大阪病院 リハビリテーション科2)
キーワード
人工股関節再置換術,転帰,ADL
【目的】
人工股関節再置換術(以下 revision)においては術前 ADL が多岐にわたることが特徴で,手術合併症の頻度も
高く術後荷重制限を行う症例もあり臨床においても転院する症例が多い.しかし,術後全荷重を許可されていて
も転院する症例を経験することがある.そこで今回,当院にて revision を施行した症例の転帰の違いによる術前
の身体特性を明らかにすることを目的に検討を行った.
【対象と方法】
対象は 2008 年∼2014 年に当院にて revision を施行した 66 例のうち,術後荷重制限なく当院クリニカルパスに
準じてリハビリテーションを行った症例 35 例とした.それらを自宅退院群 30 例(男 4 人,女 26 人,平均年齢
68.7±8.9 歳)と転院群 5 例(男 1 人,女 4 人,平均年齢 76±9.8 歳)の 2 群に分けた.初回手術は人工股関節全置
換術(以下 THA)
,人工骨頭置換術.調査項目は,年齢,BMI,アルブミン値(以下 Alb),ヘモグロビン値(以
下 Hb)
,総蛋白(以下 TP)
,術前の日本整形外科学会股関節判定基準(以下 JOA)の疼痛・可動域・歩行能力・
日常生活動作(以下 ADL)の各 4 項目,MMT 股関節伸展・屈曲・外転・外旋筋力としカルテより抽出した.こ
れらを 2 群間において比較検討を行った.統計学的検討には wilcoxon の順位和検定,対応のない t 検定を用い,
各項目を 2 群間において比較した.統計学的有意水準は 5% とした.
【結果】
退院群 転院群の平均値は JOA 可動域 14.9±2.7 9.8±5.7(P<0.05),ADL16.0±4.3 12.0±2.3(P<0.05),MMT
股関節伸展 4.0±1.0 2.8±1.1(P<0.05),外旋 3.9±0.9 2.6±0.9(P<0.05)であり 4 項目において有意差を認めた.
その他の項目は,BMI23.3±3.8 24.4±6.4,Alb3.9±0.4 3.5±0.8,Hb13.1±1.5 11.6±1.5,TP6.9±0.6 6.2±1.2,JOA
疼痛 27.5±9.3 27.5±9.5,歩行 14.3±6.0 11.7±5.9,MMT 屈曲 4.1±0.7 4.0,外転 3.8±0.9 3.2±0.8 で 2 群間におい
て有意差を認めなかった.
【考察】
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先行研究より術前の可動域,歩行能力,ADL,筋力が低いほど術後の回復が遅れると言われている.また,revision 後は初回 THA と比較して筋力の回復が乏しいとされている.本研究結果からも転院群において術前の
ADL 能力,筋力が低かった.術前の動作能力に大きく関与すると考えられる JOA の疼痛では 2 群間において有意
差を認めなかったにも関わらず,転院群では全症例において ADL の階段昇降・立ち座り・バスステップの項目
が困難であった.これらの動作は下肢筋力に関与していると考えられ,本研究においても股関節伸展・外旋筋力
は退院群に比べ転院群は有意に低かった.これらのことから早期自宅退院には術前の ADL や筋力を維持・向上
させることが必要ではないかと考えられた.
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第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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人工膝関節全置換術の術後在院日数と 2011 Knee Society Score を用いた患
者立脚型評価との関連性の検討
松野 凌馬(まつの りょうま)1),山口 良太4),市橋 康佑1),丸山 孝樹1),高山 孝治2),
松本 知之2),酒井 良忠3),黒田 良祐2),黒坂 昌弘2)
神戸大学医学部附属病院 リハビリテーション部1),神戸大学大学院 医学系研究科 整形外科学2),
神戸大学大学院 医学系研究科 リハビリテーション機能回復学3),株式会社アールイーコンセプト4)
キーワード
人工膝関節全置換術,術後在院日数,患者満足度
【目的】
人工膝関節全置換術(以下 TKA)術後の在院日数は近年顕著に短縮傾向にあるが,術前の身体機能が比較的良
好な状態にあっても術後在院日数が遷延することを経験する.そこで本研究の目的は,TKA 術後在院日数と術前
身体機能および 2011 Knee Society Scoring(以下 2011 KSS)を用いた患者立脚型評価との関連性を検討すること
である.
【方法】
本研究は横断研究である.対象は,2014 年 7 月から 2015 年 6 月までに,当院にて TKA を施行された患者 68
例 71 膝のうち,術前理学療法評価を実施可能であった 42 例 45 膝
(女性 27 例・男性 15 例,年齢 73.7±7.9 歳,BMI
27.0±4.3)
を対象とした.術後重篤な合併症を発症した症例は除外した.術前評価項目として 2011 KSS の下位項
目である 1)膝の状態(100 点)
,2)満足度(40 点)
,3)期待度(15 点),身体機能として 4)Timed up and Go
test(以下 TUG),5)10m 最大歩行速度を測定し,術後在院日数と各項目の関連性を Pearson の相関係数を用い
て検討した.
【結果】
平均術後在院日数は 23.1±6.7 日であった.術前の 1)膝の状態は 50.1±18.4 点,2)満足度 15.2±7.5 点,3)期
待度 12.4±1.5 点,4)
TUG は 12.3±5.3 秒,5)10m 最大歩行速度は 61.9±21.6m 分であった.術後在院日数と 2011
KSS の下位項目の間で,満足度のみ有意な負の相関を認めていた
(r= 0.34,p<0.01)
.身体機能を表す TUG,10
m 最大歩行速度と術後在院日数との間に有意な相関関係は認められなかった.
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【考察】
TKA 術後在院日数には術前の歩行能力や関節可動域制限が影響するとの報告が散見され,術前の身体機能の
重要性が示唆されている.一方で,本研究の結果では,身体機能を表す TUG および最大歩行速度と術後在院日数
との間に有意な相関は認められず,術前の身体機能の向上のみでは術後在院日数の短縮には繋がらない可能性が
示唆された.術前の満足度と術後在院日数との間に有意な負の相関を示しており,TKA 術後在院日数短縮を考慮
する際には,術前の身体機能に加えて患者満足度を把握することが重要であると考えられる.
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第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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膝関節疾患患者における坐位での側方重心移動時の姿勢制御機能
大木 啓輔(おおぎ けいすけ)1),大西 寛之1),元脇 周也1),木村 充子1),来田 晃幸1),
里田 由美子1),近藤 さや花1),中江 徳彦2),小柳 磨毅3)
豊中渡辺病院 リハビリテーション科1),東豊中渡辺病院 リハビリテーション科2),
大阪電気通信大学 医療福祉工学部 理学療法学科3)
キーワード
側方重心移動,姿勢制御,膝関節疾患
【目的】
坐位での姿勢制御は立位姿勢を制御する必要条件である(Akashatha,2011)とされるが,臨床において膝の整
形外科疾患症例が坐位の側方重心移動において非対称性を認めることを経験する.
本研究では膝前十字靭帯再建術後患者を対象に,坐位での側方重心移動時の姿勢制御機能を明らかにすること
を目的とした.
【方法】
対象は当院で自家腱(半腱様筋)による前十字靭帯再建術を施行した患者 11 名(男性 2 名,女性 9 名,43.7±
10.2 歳)と,健常者 11 名(男性 2 名,女性 9 名,37.8±5.8 歳)とした.運動課題は端坐位の足底非接地にて両肩
を水平に保持し,左右へ最大限に重心移動をさせ,両肩峰・両上後腸骨棘にマーカーを貼付し,デジタルビデオ
カメラにて後方より撮影した.撮影画像よりソフトウェア(東総システム社製 ToMoCo Lite)を用いて水平面と
両上後腸骨棘を結ぶ線のなす角(骨盤傾斜角)および(両肩峰を結ぶ線とのなす角(肩傾斜角)
,骨盤に対する肩
の傾斜角度(立ち直り角度)を 3 回計測し,平均値を算出した.傾斜角度は右への移動時は反時計回りを正,時
計回りを負とし,左はその逆とした.また,股関節屈曲,内外旋,体幹側屈の可動域,脊柱側弯の有無を調査し
た.統計処理は患者群,健常群ともに対応のある t 検定(p<0.05)を用いて比較した.また,計測角度の信頼性
を級内相関係数を求めて検討した.
【結果】
肩傾斜斜角,骨盤傾斜角,立ち直り角度は患者群
(健側 患側)
が 3.7±2.9̊ 5.2±2.7̊
(p=0.08)
,31.4±3.7̊ 29.2±
4.1̊(p=0.04)
,27.7±5.4̊ 24.0±4.6̊(p=0.02)で,患側の骨盤傾斜角と立ち直り角度が有意に低値であった.健
常群(利き足 非利き足)ではそれぞれ 6.5±3.8̊ 5.4±4.3̊(p=0.46)
,33.2±5.0̊ 30.3±4.6̊(p=0.18)
,26.7±5.6̊
24.9±4.7̊(p=0.47)で有意差を認めなかった.
級内相関係数は検者間では 0.89∼0.96,検者内では 0.93∼0.95 であった.
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患者群の股関節外旋角度は有意に低値(健患差:8.6±6.9̊,p=0.02)であった.
【考察】
患者群における患側の骨盤傾斜角度と立ち直り角度が有意に低値を示したのは,本研究の対象が神経疾患の既
往や脊柱の可動性に差はなく,患側における股関節外旋可動域の制限が重心移動時の骨盤傾斜を減少させる一つ
の要因と考えられた.
また,先行研究では坐位の側方への重心移動は移動側のハムストリングス,大殿筋,中殿筋や対側の腹斜筋,
脊柱起立筋の働きが必要であり
(佐藤,1994)
,運動量減少の経過がある症例は腹筋群や殿筋群の低緊張が生じる
とされている
(池田,2014).本研究の対象は立ち直り時に働くハムストリングスの一部を採取し,さらに荷重制
限や疼痛により患側への荷重が乏しい時期が続いたことで腹筋群や殿筋群の筋機能が低下し,坐位における患側
への重心移動に低下が生じたと考えられた.本研究は二次元での分析であり,今後は三平面の動きや体幹筋の活
動や筋力との関連を調査する必要がある.
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第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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大腿骨頚部骨折術後 1 症例に対する患側肢と両側肢への経皮的電気刺激治療
(TENS)の鎮痛効果と持続時間の予備的検討
瀧口 述弘(たきぐち のぶひろ)1,2),庄本 康治2)
八幡中央病院 リハビリテーション科1),畿央大学大学院 健康科学研究科2)
キーワード
大腿骨頚部骨折,経皮的電気刺激治療,疼痛
【目的】
大腿骨頚部骨折後,固定術を受けた一症例に対して経皮的電気刺激治療(TENS)を患側肢に実施した患側
TENS と,対側肢も加えた両側 TENS を実施し,鎮痛効果と持続時間の影響を比較し,その実用性を評価するこ
と.
【方法】
症例は,大腿骨頚部骨折後に固定術を受け,認知的問題や重度な併存疾患はなく,術後翌日より全荷重が許可
された 70 歳代の女性である.術後翌日には State trait anxiety inventory(STAI)
,Pain catastrophizing scale
(PCS)を使用し,疼痛の認知面を評価した.フェンタニルで疼痛管理を実施していない術後 1 日目の午後に 60
分間患側 TENS を実施し,2∼3 日目には患側 TENS と患側 TENS5 時間後に 60 分間両側 TENS を実施した.使
用した TENS 機器は日本メディックス社製の SSP アルファ 1 で,刺激強度は不快感のない最大強度とし漸増的
に増加させ,パルス幅は 50μsec,周波数は 1∼200pps の間でランプアップ・ダウンさせ,変調した.電極は Axelgaard 社製の自着性電極 PALS
(5×9cm)
を使用し,貼付部位は,術創部の皮膚分節と骨折部の骨分節を考慮し,
L3,L4 皮膚分節領域の患側肢,または両側肢に貼布した.疼痛強度を Numeric rating scale(NRS)
を使用して,
安静時痛,患側下肢挙上時の運動時痛を TENS 実施前後と 1,2,3 時間後に測定した.また,TENS の使用感を,
I.気持ちよさはありましたか?II.電気刺激治療に満足しましたか?III.また電気刺激を使用したいと思いまし
たか?を①思わない②どちらでもない③少し思う④思う⑤強く思う,の 5 択のアンケートで調査し,副作用も調
査した.
【結果】
STAI は状態不安が 64 点,特性不安が 55 点で PCS は 11 点であった.TENS 実施前後と 1,2,3 時間後の NRS
は,安静時痛が 1 日目のみ認められ,8→0→0→4→4 だった.運動時 NRS は,1 日目が 9→4→4→5→5 であり,
2 日目の患側 TENS では 2→2→2→3→2,両側 TENS では 2→1→1→1→1 だった.3 日目の患側 TENS は 2→2
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→2→2→2,両側 TENS では 2→2→2→2→2 であった.アンケート結果は,I.⑤,II.⑤,III.⑤であり,副作用
は認められなかった.
【考察】
術後 1 日目では,患側 TENS 後 3 時間 NRS が低下しており,TENS を複数回実施する際は 3 時間後に実施して
も鎮痛効果が持続できるかもしれない.術後 2,3 日目では,TENS 前から NRS が低いため,変化が少なかった
と考えた,患側,両側 TENS の比較では,術後 2 日目の患側 TENS では変化がなく,両側 TENS 後では NRS
が 2→1 と 1 低下したが,変化量が少ないため,疼痛が強い症例での更なる検討が必要だと考察した.また,STAI
から本症例は高不安状態であり,先行研究から TENS の効果が低いと予想したが,PCS が 30 点以下であり,破局
的思考が強くなかったため鎮痛が得られたと考察した.また,副作用も認められず,アンケート結果から受け入
れは良好であったと考えた.
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第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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大腿直筋と中間広筋の部位の違いによる安静時と自動運動時の筋厚変化―超
音波画像による検討―
中山 昇平(なかやま しょうへい)1),藤原 浩二1),梅野 宗治1),太田 昌宏1),小竹 俊郎2)
こたけ整形外科クリニック リハビリテーション科1),こたけ整形外科クリニック 整形外科2)
キーワード
大腿直筋,中間広筋,筋厚
【目的】
臨床において膝関節疾患に対する理学療法を行う際に,筋力や関節可動域(ROM)の問題は解決するが自動運
動時(運動時)の伸展制限に遭遇することがある.この症状に対して,筋力や ROM だけでなく安静時と運動時の
筋の動く範囲が重要であると考えられる.本研究では,健常人における大腿直筋と中間広筋の関係は,部位によ
り収縮に差があるとの仮説を立て,安静時と運動時の筋厚を比較した.
【方法】
対象は,下肢に疾患のない健常男性 3 名(身長 181cm±5.0,体重 75.0kg±9.1,年齢 38 歳±0.9)左右 6 脚とし
た.筋力測定機器(OG 技研社製,Isoforce GT 330)を用いて最大等尺性膝伸展筋力(MVC)を測定した.測定
肢位は端座位,股関節屈曲 80̊,膝関節屈曲 60̊ で測定した.対象筋は大腿直筋(RF)と中間広筋(VI)とした.
測定部位は荒木(2014)の方法を参考に RF,VI とも上前腸骨棘から膝蓋骨上縁を結ぶ線上 50%(中間位)
,75%
(遠位)とした.膝関節屈曲 60̊ において安静時と Taafee(1995)の報告を参考に 40%MVC で収縮させたときの
筋厚を測定した.筋厚は超音波画像診断装置(GE 横河メディカル社製,LOGIC 200 MD)の測定機能を用いて,
短軸像を描出し安静時から運動時の筋厚の差を増加量として解析に用いた.統計解析は部位ごとの増加量の差,
および,各筋における部位ごとの安静時と運動時の筋厚差に関して T 検定をおこなった.統計処理には R コマン
ダーを使用し,有意水準は 5% とした.
【結果】
部位別の筋厚増加量は,中間位では RF が有意に増加し(P<0.01),遠位では VI が有意に増加していた(P<
0.01)
.各筋の筋厚(安静時 運動時)は,RF が中間位(20.0mm±1.0 27.3mm±1.8),遠位(13.5mm±1.0 15.4
mm±2.2)であり,中間位,遠位ともに安静時と比較して運動時筋厚は有意に増加した(P<0.05)
.VI は中間位
(20.9mm±4.7 21.3mm±3.6),遠位(14.4mm±4.4 19.9mm±4.6)であり,遠位は安静時と比較して運動時筋厚は
有意に増加した(P<0.05)が,中間位では有意な差はなかった(P=0.56)
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【考察】
本研究の結果,RF と VI は同一筋内でも部位によって筋厚の増加量が異なることが明らかとなった.RF は羽状
構造であり,中間位が筋の幅が最大となり,VI は,筋線維が大腿骨長軸とほぼ一致し,膝関節筋とともに膝蓋上
包の挟み込み防止の働きに関する報告がある.本研究では,RF が中間位,VI が遠位において有意に筋厚が増加
する結果となり,大腿四頭筋の部位による働きの違いを示唆するものであった.
大腿四頭筋は四筋が共同して膝伸展に作用するが,本研究の結果から,同筋への治療アプローチを考える際に
部位や筋ごとの動態解剖を把握することが重要であると考えられた.
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第 5 セッション
運動器(一般演題)
一般口述
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内側型変形性膝関節症患者における膝蓋大腿関節の変形性関節症の合併は膝
関節痛を悪化させる
飯島 弘貴(いいじま ひろたか)1,2),福谷 直人1),山本 裕子3),平岡 正和3),宮信 和幸3),
陳之内 将志4),金田 瑛司3),井所 拓哉5),青山 朋樹1),松田 秀一6),黒木 裕士1)
京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 理学療法学講座1),
日本学術振興会特別研究員2),のぞみ整形外科クリニック3),のぞみ整形外科ヒロシマ4),
公立藤岡総合病院 リハビリテーション室5),
京都大学大学院 医学研究科 感覚運動系外科学講座 整形外科学6)
キーワード
変形性膝関節症,膝蓋大腿関節,膝関節痛
【目的】
変形性関節症(OA)の診断基準や従来の疫学調査は脛骨大腿(Tibiofemoral:TF)関節を中心としたものであっ
たが,近年,欧米人を対象とした大規模調査により,TF 関節よりも膝蓋大腿(Patellofemoral:PF)関節の OA
の方が膝関節痛と関連することが明らかにされ,PFOA の重要性を再認識しようとする国際的な傾向がある.し
かしながら,欧米人とは骨格が異なる日本人を対象に,PFOA と臨床症状との関連性を調査した報告は見られな
い.そこで,内側型 TFOA に PFOA を合併した症例では,臨床症状が悪化するという仮説を立て,以下の方法に
準じて検討した.
【方法】
対象は内側型膝 OA(Kellgren Lawrence[K L]grade≧2)と診断され整形外科外来に通院する 143 名(年齢:
73.7±7.64 歳)
とした.外側像,軸斜像の X 線画像所見より,PFOA の有無を評価し,
“TFOA 単独群”
と“PFOA
合併群”の 2 群に分けた.臨床症状の評価には,変形性膝関節症機能評価尺度(JKOM)の総得点と 4 つの下位尺
度(痛みとこわばり,日常生活の状態,社会的交流,健康状態)を使用し,2 群間で比較した.さらに,PFOA
の有無と JKOM の関連性を詳細に調べる目的で,JKOM の総得点,下位尺度得点をそれぞれ従属変数に投入し,
PFOA 有無(0:なし,1:あり)
,年齢,性別,Body mass index(BMI),TF 関節 K L grade を独立変数に投入
した重回帰分析(強制投入)を行い,標準偏回帰係数(β )を算出した.統計学的有意水準は 5% とした.
【結果】
対象者 143 名のうち,PFOA 合併群は 98 名(68.5%)であった.PFOA 合併群は TFOA 単独群と比較して,
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JKOM 総得点は統計学的有意に高い値を示した(P <0.01)
.また,PFOA 合併群は,下位尺度の中でも,痛みと
こわばり,日常生活の状態,社会的交流の 3 項目において,TFOA 単独群よりも統計学的有意に高い値を示した
.中でも PFOA 合併群の痛みとこわばりは TFOA 単独群の約 2 倍の値を示した(PFOA 合併群:
(P <0.01)
10.7±5.94;TFOA 単独群:5.76±3.99).重回帰分析の結果,PFOA の有無は,年齢,性別,BMI,TF 関節 K L
grade で調整してもなお,JKOM 総得点(β :0.19)
,痛みとこわばり(β :0.24)と関連した(P <0.01)
.
【考察】
内側型膝 OA 患者において,PFOA を合併すると強い膝関節痛が生じることが明らかとなった.本研究の約 7
割近いの対象者において内側型膝 OA に PFOA を合併していること,そして PFOA 合併症例では PF 関節のバ
イオメカニクスを考慮した治療介入が望ましいことを併せて考えると,理学療法介入時には X 線画像所見で PF
関節を評価することの重要性が示唆された.
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