柔道整復後療法が指床間距離に与える影響 - 東京柔道接骨師会

柔道整復後療法が指床間距離に与える影響
○渡部 憲史1)、久米 信好1)2)、畔上 英樹1)、林 雄祐1)、高橋 達徳1)(1)久米鍼灸整骨院、2)東京有明医療大学)
key words:after-treatment, FFD finger-floor-distance
【目的】柔道整復術の後療法は、手技療法・物理療法・運
した。以上の後療法の組み合わせに有意な差を認めるか
動療法からなる。手技療法とは、柔道整復後療法の根幹を
について、G-power にて検定力の算出を行い、chi-square
なすもので、術者の手を用いて患者の身体に種々の機械的
test にて検定した。
刺激を加え、生体の持つ自然治癒力を活性化させ、損傷の
【 結 果 】1 日 目 で は 平 均 0.1cm の 増 加、2 日 目 で は 平 均
早期回復を図ろうとするものである。物理療法とは、電気、
1.39cm の 増 加、3 日 目 で は 平 均 1.85cm の 増 加 を 認 め、
光、温熱、冷却、音波、水などの物理的エネルギーを生体
施術前後の指床間距離では 3 日目の 3 法を併用した群に
に作用させ、生体機能の正常化を図り、恒常性維持機能を
有意な差を認められた。
高めることを目的とするものである。運動療法とは、人体
表 後療法施術後変化量
各部における運動機能の障害を可及的速やかに除去し、運
N=10, Mean±S.D.( ㎝ )
動を積極的に取り入れながら、その機能回復と増進を図る
軽擦法
ものである。柔道整復師はこれらの後療法を匠に使うこと
軽擦法+ SUPER TENS
で、患者の損傷組織修復や機能改善、鎮痛などを行ってい
軽擦法+ SUPER TENS
る。そこで我々は、この後療法をどのように組み合わせる
+ Mckenzie 体操 -1.85±0.62*
ことが有用であるかについて調査することを目的とした。
P<0.05
-0.1±1.48
-1.39±1.49
また、指床間距離の悪影響因子として股関節の可動性不良、 【考察】1 日目、2 日目の施術後、被験者からは「特に変
ハムストリングスの異常緊張が関連していることが示され
わらない」との意見が圧倒的に多かった。しかし、3 日目
ているが、今回の調査では腰部のみに後療法を行うことで、
の施術後には「動きやすい」との意見を多く聞くことが出
指床間距離にどのような影響をおよぼすかについて調査し
来た。このことからも、柔道整復後療法は手技療法・物理
た。
療法・運動療法の 3 法を行うことが柔軟性を向上させる
【方法】本調査の目的ならびに方法を説明した上、協力に
ために有用であると考えられる。本研究では、同じ手技療
同意を得た腰痛を認めない 21 ~ 42 歳 ( 平均 31.5 歳 ) の
法・物理療法・運動療法を行ったが、各被験者の股関節可
健常成人男性 10 名を対象とした。また、後療法の中か
動域、ハムストリングスの緊張や 3 法の施行する順番等
ら、手技療法からは軽擦法、物理療法からは株式会社ホー
により調査結果が大きく異なることが考えられる。また、
マーイオン研究所製低周波治療器 SUPER TENS( 以下、
この柔道整復後療法の効果について科学的な根拠に基づい
SUPER TENS)、運動療法からは Mckenzie 体操を選択し
た文献は少ない。これらの事をふまえ、今後は対象者、対
た。軽擦法とは、術者の手掌を患部に密着させ、抹消から
象部位、方法等を改善し、柔道整復後療法の人体におよぼ
中枢に向かって平らに撫で擦する方法であり、皮膚に機械
す影響について研究していく必要があると考える。
的刺激を与え、知覚神経を興奮させ、皮下の血管に血液を
【文献】
充満させることで栄養の増進、疼痛を緩解させる主要な手
1) 社団法人全国柔道整復学校協会・教科書委員会:柔道
技である。
整復学 - 改定第 5 版 ,101-102
TENS(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:
2) 鳥巣岳彦・国分正一編:標準整形外科学 - 第 9 版:医学
経皮的通電刺激法 ) とは、Gate Control Theory を基に、
書院 ,794,2006
痛みのある場所、あるいはそこから痛みを中枢に伝える末
3) 野島恵理子・佐々木誠:「 他動的股関節内旋外旋運動が
梢神経を覆う皮膚の上に一対の電極を置いて電気刺激する
指床間距離に及ぼす影響 」:理学療法科学 20 巻 3 号 ,187-
除痛法である。Mckenzie 体操とは、腰椎の生理的前弯を
190,2005
回復、維持するための運動である。調査方法は、各被験
4) 佐藤仁・丸山仁司・柊幸伸・加藤宗規:「 骨盤へのホー
者の腰部に対し 3 日間かけて後療法を行うものとし、1 日
ルド・リラックスによる FFD 改善とアプローチ前のハム
目は手技療法のみ ( 軽擦法 5 分間 )、2 日目は手技療法と
ストリングス筋長の関係 」:理学療法科学 20 巻 4 号 ,283-
物理療法 ( 軽擦法 5 分間後、SUPER TENS15 分間 )、3
287,2005
日目は手技療法と物理療法と運動療法 ( 軽擦法 5 分間後、
5) 石田智之・松澤孝司・石丸圭荘:「 ストレッチと刺鍼手
SUPER TENS15 分間、その後 Mckenzie 体操 5 秒保持 5
技が FFD に与える影響 」:東洋療法学校協会学会誌 32 号
セット ) を行い、施術前後の立位体前屈による指床間距離
,80-83,2009
を計測した。また、手技療法、物理療法を施行する際の刺
激量は、被験者が施術を受けていて苦痛に感じない程度と
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