わが国における不眠症の疫学

概念
わが国における不眠症の疫学
土 井 由 利 子
15
収
率
7
5
ら1)・
は 8
、 %
こ ︶
︵
の 表
デ !
ー ︶
タ 。
を
基
に
、
不
眠
の
有
症
Kim
:
2
0率
・ ︵
1 年
∼ 齢
2
4調
・ 整
5 ︶
︶ を
% 男
、 性
2
女2
性 ・
2
03
・ ︵
5
59
︵ %
1
8信
・ 頼
4 区
∼ 間
2
2
の
う
ち
の
3
、
0
3
0
人
に
面
接
調
査
が
行
わ
れ
た
︵
回
2
0出
歳 さ
以 れ
上 た
の 。
対 計
象 20
者 の
4 市
、 区
0 町
0 村
0 か
人 ら
が さ
抽 ら
出 に
さ 無
れ 作
、 為
こ に
つ
の
町
ま
た
は
村
︵
人
口
5
万
未
満
︶
が
無
作
為
に
抽
つ つ
の の
小 中
都 都
市 市
︵ ︵
人 人
口 口
5 15
万 万
以 以
上 上
15 1
万 0
未 0
満 万
︶ 未
お 満
よ ︶
び 、
1 1
CLINICIAN ’12 NO. 606
れ
ぞ
れ
1
つ
の
大
都
市
︵
人
口
1
0
0
万
以
上
︶
、
1
域
︵
北
、
東
、
中
央
、
西
、
南
︶
の
各
地
域
か
ら
、
そ
か
ら
2
月
に
か
け
て
全
国
調
査
を
行
っ
た
。
全
国
5
地
健
康
・
体
力
づ
く
り
事
業
財
団
が
1
9
9
7
年
1
月
健
康
・
体
力
づ
く
り
事
業
財
団
の
全
国
調
査
眠
の
疫
学
研
究
に
つ
い
て
解
説
す
る
。
わ
れ
る
無
作
為
抽
出
に
よ
る
全
国
調
査
に
基
づ
い
た
不
本
稿
で
は
、
対
象
者
の
代
表
性
が
比
較
的
高
い
と
思
(1
1
9)
!一般日本人における不眠の疫学研究
研究
(実施年、 著者文献番号)
有症率
対象者
関連要因
3
0人
1997, Kim, K., et al.1)2) 無作為抽出3,0
(2
0歳以上)
男性1,4
8
2人
女性1,5
4
8人
(回収率7
5.8%)
不眠症
男性2
2.3
(2
0.1∼2
4.5)
%
女性2
0.5
(1
8.4∼2
2.6)
%
全体(男性+女性)
不眠症2
1.4
(1
9.9∼2
3.0)
%
入眠困難8.3
(1
3.6∼1
6.3)
%
中途覚醒1
5
(1
3.6∼1
6.3)
%
早朝覚醒8.0
(7.0∼9.0)
%
1997, Doi, Y., et al.3)4)
男性
・加齢 無職 配偶者
不眠症1
7.3
(1
4.6∼2
0.0)
%
睡眠薬
入眠困難8.6
(6.5∼1
0.6)
%
・併存疾患(高血圧症、
心疾患、糖尿病、筋骨
中途早朝覚醒12.9
(10.6∼15.3)%
格系疾患、胃・十二指
女性
腸潰瘍)
不眠症2
1.5
(1
8.8∼2
4.3)
%
入眠困難1
2.6
(1
0.4∼1
4.8)
% ・診療科(内科、外科・
整形外科、精神神経科)
中途早朝覚醒16.2
(13.8∼18.6)%
無作為抽出1,8
8
9人
(2
0歳以上)
男性9
2
0人
女性9
5
1人
(回収率6
7.5%)
・加齢 無職 運動習慣
(ない) 主観的不健康
感 心理的ストレス
ストレス対処(できな
い)
・心身の症状(腰痛 心
窩部痛 体重減少、頭
痛 疲労 心配 いら
いら 興味の喪失)
・加齢 男性 心身の症
状(頭痛 眩暈 動悸
心窩部痛 便秘 肩こ
り 腰痛 疲労 いら
いら 不安 健康の心
配)
・抑うつ
・睡眠薬 寝酒
8,7
1
4人 男性
2000, Kaneita, Y., et 無作為抽出2
0歳以上)
al.5)6)7), Asai, T., et al.8) (2
入眠困難1
4.2%
男性1
2,6
8
0人
中途覚醒1
8.1%
女性1
4,0
2
5人
早朝覚醒2
6.9%
(回収率記載なし) 女性
入眠困難2
0.0%
中途覚醒2
3.4%
早朝覚醒2
0.6%
全体(男性+女性)
不眠症4
4.8%
注1:不眠症は、入眠困難、中途覚醒および早朝覚醒のいずれかの症状があるものとする
注2:有症率の( )内の値は、9
5%信頼区間
ら
い
ら
、
興
味
の
喪
失
︶
頭
痛
、
疲
労
、
心
配
、
い
(1
2
0)
心
窩
部
痛
、
体
重
減
少
、
'
心
身
の
症
状
︵
腰
痛
、
処
︵
で
き
な
い
︶
お
よ
び
ト
レ
ス
、
&
ス
ト
レ
ス
対
不
健
康
感
、
%
心
理
的
ス
慣
︵
な
い
︶
、
$
主
観
的
齢
、
"
無
職
、
#
運
動
習
る
要
因
と
し
て
は
、
!
加
不
眠
の
症
状
と
関
連
す
状
態
で
あ
っ
た
。
な
く
と
も
1
つ
以
上
あ
る
ば
し
ば
∼
い
つ
も
︶
が
少
早
朝
覚
醒
の
各
症
状
︵
し
入
眠
困
難
、
中
途
覚
醒
、
の
定
義
は
、
1
カ
月
間
に
な
お
、
こ
の
場
合
の
不
眠
CLINICIAN ’12 NO. 606
・
6
︶
%
と
推
定
し
た
。
16
・
6 不
∼ 眠
2
0の
・ 有
0 症
︶ 率
% ︵
、 年
女 齢
性 調
2
1整
・ ︶
は
5 、
︵ 男
1
8性
・1
7
8 ・
∼ 3
2
4︵
4
・1
な
く
と
も
1
つ
以
上
あ
る
状
態
と
し
た
。
た
は
中
途
早
朝
覚
醒
の
症
状
︵
週
に
3
回
以
上
︶
が
少
の
場
合
の
不
眠
の
定
義
は
、
1
カ
月
間
に
入
眠
困
難
ま
9
7
年
の
秋
分
の
日
に
か
け
て
実
施
し
た
。
な
お
、
こ
も
睡
眠
薬
を
常
用
し
て
い
る
者
が
2
・
8
%
、
不
眠
の
頻
度
も
増
え
て
い
た
。
他
方
、
不
眠
の
症
状
が
な
く
て
と
推
定
さ
れ
、
不
眠
の
頻
度
と
と
も
に
睡
眠
薬
の
使
用
7
・
4
%
︵
処
方
薬
6
・
5
%
、
非
処
方
薬
0
・
9
%
︶
週
1
回
/
月
未
満
の
服
用
も
含
め
る
と
、
全
体
で
は
6 難
︶ の
% 有
、 症
女 率
性 が
1
2高
・ く
6 ︵
︵ 男
1
0性
・ 8
4 ・
∼ 6
1
4︵
・ 6
8 ・
︶ 5
% ∼
1
0
︶
、 ・
3
︶
%
と
推
定
さ
れ
た
。
男
性
に
比
べ
女
性
で
入
眠
困
疾
患
を
有
し
て
お
り
、
複
数
の
診
療
科
を
受
診
し
て
い
・ 症
2 状
% を
に 有
上 し
っ て
て い
い て
た4)も
。 治
療
を
受
け
て
い
な
い
者
が
7
5
17
ま
た
、
睡
眠
薬
服
用
者
の
半
数
以
上
が
1
つ
以
上
の
CLINICIAN ’12 NO. 606
に
影
響
す
る
日
照
時
間
や
気
温
な
ど
を
考
慮
し
、
1
9
回
収
率
67
・
5
%
︶
︵
表
!
︶
。
調
査
は
、
睡
眠
・
覚
醒
式
質
問
票
を
用
い
て
調
査
を
行
っ
た
︵
1
、
8
8
9
人
、
し
た
2
、
8
0
0
人
を
対
象
に
、
標
準
化
さ
れ
た
自
記
の
中
か
ら
性
・
年
齢
階
級
別
に
さ
ら
に
無
作
為
に
抽
出
口
規
模
に
応
じ
無
作
為
に
抽
出
し
た
1
0
0
市
区
町
村
土 ︵
井 旧
ら ︶
は3)国
、 立
全 公
国 衆
3 衛
、 生
3 院
7 の
0 全
の 国
市 調
区 査
町
村
か
ら
人
用
率
が
有
意
に
高
か
っ
た
︵
図
"
︶
。
50
歳
代
と
80
歳
以
上
で
は
、
男
性
に
比
べ
、
女
性
の
常
加
齢
に
よ
る
常
用
率
の
増
加
が
認
め
ら
れ
た
。
な
お
、
女
性
で
5
・
4
︵
4
・
1
∼
6
・
8
︶
%
と
推
定
さ
れ
、
一
般
男
性
で
3
・
5
︵
2
・
3
∼
4
・
7
︶
%
、
一
般
上
の
頻
度
で
、
眠
る
た
め
に
薬
を
服
用
︶
に
関
し
て
は
、
睡
眠
薬
の
常
用
率
︵
過
去
1
カ
月
間
に
3
回
/
週
以
醒
で
顕
著
︶
の
有
症
率
が
高
く
な
る
傾
向
に
あ
っ
た
。
な
ど
が
示
唆
さ
れ1)
た2)
。
ま
た
、
男
女
と
も
に
、
加
齢
と
と
も
に
不
眠
︵
中
途
覚
50
歳
代
と
80
歳
以
上
で
、
そ
の
傾
向
が
顕
著
で
あ
っ
た
。
(1
2
1)
!睡眠薬を常用する割合―年齢と性差の影響
注1:睡眠薬の常用とは過去1カ月間に週に3回以上の頻度で睡眠薬を使用
すること
注2:男女ともに加齢とともに増加
p<0.0
5* 性差あり p<0.0
5
注3:
( )内の値は、9
5%信頼区間
出典:文献3より引用改変
に
抽
出
さ
れ
た
対
象
者
の
う
ち
3
2
、
7
2
3
0
0
地
域
が
抽
出
さ
れ
、
さ
ら
に
無
作
為
(1
2
2)
国
約
8
2
4
、
0
0
0
地
域
か
ら
無
作
為
に
調
査
︵
2
0
0
0
年
6
月
︶
を
行
っ
た
。
全
象
に
自
記
式
質
問
票
に
よ
る
保
健
福
祉
動
向
厚
生
労
働
省
は
1
2
歳
以
上
の
日
本
人
を
対
厚
生
労
働
省
の
保
健
福
祉
動
向
調
査
認 ・
め 整
た4)形
。 外
科
の
順
に
不
眠
と
有
意
な
相
関
を
精
神
神
経
科
、
内
科
、
耳
鼻
咽
喉
科
、
外
科
あ
っ
た
。
同
様
に
性
・
年
齢
で
調
整
す
る
と
、
外
科
・
整
形
外
科
、
眼
科
、
精
神
神
経
科
で
相
関
を
認
め
た
。
診
療
科
の
上
位
は
、
内
科
、
腸
潰
瘍
、
高
血
圧
症
の
順
に
不
眠
と
有
意
な
す
る
と
、
糖
尿
病
、
心
疾
患
、
胃
・
十
二
指
二
指
腸
潰
瘍
で
あ
っ
た
。
性
・
年
齢
で
調
整
疾
患
、
糖
尿
病
、
筋
骨
格
系
疾
患
、
胃
・
十
CLINICIAN ’12 NO. 606
た
。
併
存
疾
患
の
上
位
は
、
高
血
圧
症
、
心
18
!眠るためにアルコールまたは睡眠薬を常用する割合
注:アルコールまたは睡眠薬の常用とは過去1カ月間に週に3回以上の頻度
で飲酒することまたは睡眠薬を服用すること
出典:文献7より引用改変
不
眠
の
症
状
と
関
連
す
る
要
因
と
19
と
定
義
さ
れ
た
。
が
少
な
く
と
も
1
つ
以
上
あ
る
状
態
症
状
︵
二
者
択
一
式
の
肯
定
回
答
︶
困
難
、
中
途
覚
醒
、
早
朝
覚
醒
の
各
な
お
、
こ
の
場
合
の
不
眠
は
、
入
眠
の % ・ 1 そ
有 と 0 % れ
症 推 % お ぞ
率 定 、 よ れ
は さ 23 び 男
44 れ ・ 26 性
・ た5)4 ・ で
8 。 % 9 14
% 全 お % ・
で 体 よ 、 2
あ で び 女 %
っ の 20 性 、
た6)不 ・ で 18
。 眠 6 20 ・
CLINICIAN ’12 NO. 606
覚
醒
、
早
朝
覚
醒
︶
の
有
症
率
は
、
不
眠
の
各
症
状
︵
入
眠
困
難
、
中
途
が
行
わ
れ
た
︵
表
!
︶
。
そ
の
結
果
、
く
2
8
、
7
1
4
人
に
つ
い
て
解
析
年
齢
の
未
回
答
︵
2
2
2
人
︶
を
除
無
回
答
︵
7
0
7
人
︶
お
よ
び
性
・
う
ち
、
20
歳
未
満
︵
3
、
0
8
6
人
︶
、
9
人
か
ら
回
答
が
得
ら
れ
た
。
こ
の
(1
2
3)
Kim, K., et al. : An epidemiological study of insomnia
among the Japanese general population. Sleep, 23, 41-47
(2000)
Kim, K., et al. : Somatic and psychological complaints
and their correlates with insomnia in the Japanese
general population. Psychosom. Med., 63, 441-446
(2001)
Doi, Y., et al. : Prevalence of sleep disturbance and
hypnotic
medication
use
in
relation
to
sociodemographic factors in the general Japanese adult
population. J. Epidemiol., 10, 79-86 (2000)
Doi, Y., et al. : Sleep-medication for symptomatic
insomnia in the general population of Japan. Sleep and
Biological Rhythms, 3, 149-157 (2005)
Kaneita, Y., et al. : Excessive daytime sleepiness among
the Japanese general population. J. Epidemiol., 15, 1-8
(2005)
Kaneita, Y., et al. : The relationship between depression
and sleep disturbances : a Japanese nationwide general
population survey. J. Clin. Psychiatry, 67, 196-203
(2006)
Kaneita, Y., et al. : Use of alcohol and hypnotic
20
CLINICIAN ’12 NO. 606
(1
2
4)
1)文
献
2)
3)
4)
5)
Asai
統
括
研
究
官
︶
疫
学
調
査
研
究
分
野
6)
7)
し
て
は
、
!
加
齢
、
"
男
性
、
#
心
身
の
症
状
︵
頭
痛
、
抑 疲 眩
う 労 暈
つ7)、 、
な い 動
ど ら 悸
が い 、
認 ら 心
め 、 窩
部
ら 不
安 痛
れ 、 、
た 健 便
。 康 秘
さ の 、
ら 心 肩
に 配6)こ
、 ︶ り
お 、
よ 腰
ら び 痛
は8)$ 、
、
同
調
査
の
デ
ー
タ
を
基
に
、
寝
酒
と
睡
眠
薬
に
つ
い
て
解
析
を
行
っ
た
。
図
#
に
、
眠
る
た
め
に
睡
眠
薬
や
ア
ル
コ
ー
ル
を
常
用
︵
1
カ
月
間
に
週
3
回
以
上
︶
す
る
よ 割
び 合
3 を
・ 示
0 し
% た
、 。
女 そ
性 れ
で ぞ
は れ
10 、
・ 男
0 性
% で
お は
よ 37
び ・
3 4
・ %
9 お
%
と
推
定
さ
れ
た
。
睡
眠
薬
の
服
用
は
男
女
と
も
に
加
齢
と
と
も
に
増
加
し
て
い
た
。
寝
酒
は
女
性
よ
り
男
性
の
頻
度
が
高
く
、
特
に
40
∼
59
歳
の
年
代
で
顕
著
で
あ
っ
た
。
睡
眠
薬
は
男
女
と
も
に
不
眠
︵
入
眠
困
難
と
早
朝
覚
醒
︶
の
症
状
と
有
意
に
関
連
し
て
い
た
が
、
寝
酒
は
男
性
で
は
入
眠
困
難
と
早
朝
覚
醒
、
女
性
で
は
入
眠
困
難
と
中
途
覚
醒
と
有
意
に
関
連
し
て
い
た
。
︵
国
立
保
健
医
療
科
学
院
medication as aids to sleep among the Japanese general
population. Sleep Med., 8, 723-732 (2007)
Asai, T., et al. : Epidemiological study of the
relationship between sleep disturbances and somatic
psychological complaints among the Japanese general
population. Sleep and Biological Rhythms, 4, 55-62
(2005)
8)
(1
2
5)
CLINICIAN ’12 NO. 606
21