M2 型活性化マクロファージをターゲットとした腎疾患の難治化 - 新潟大学

平成23年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究成果報告書
殿
申 請
者
所 属 医歯学総合病院 小児科
代表者氏名
池住 洋平
印
本年度の交付を受けたプロジェクト推進経費について,下記のとおり報告いたします。
プロジェクトの種目:奨励研究
プロジェクトの課題:M2 型活性化マクロファージをターゲットとした腎疾患の難治化機序の解明
および制御法の確立
プロジェクトの代表者:所属 医歯学総合病院小児科 職名 講師 氏名 池住 洋平 分担者 0 人
プロジェクトの成果:
(別紙可)
【目的】
本研究の目的は、全ての進行性腎疾患にみられる普遍的な現象であるマクロファージ(Mφ)浸潤に注
目し、
申請者がこれまでに明らかにしてきた腎組織病変の慢性化機序における活性化 Mφ、
特に M2 型
(組
織修復型)活性化Mφの慢性病変組織(難治病変)における役割を明らかにし、その制御法を確立する
ことである。
【方法】
1. M2 のアンジオテンシン系への関与の可能性についての検討
炎症性・非炎症性を問わず、多くの腎疾患の治療に ACE 阻害薬またはアンジオテンシン II 受容
体拮抗薬(ARB)が使用され、その進行抑制効果(腎保護作用)やタンパク尿抑制効果が報告さ
れている。この事実に基づき、アンジオテンシン系関連物質(レニン、アンジオテンシノーゲン、
アルドステロン、およびこれらの受容体)を Mφが産生または誘導している可能性について、ヒ
ト Mφ細胞株を用いた in vitro の実験系により検討した。
2.生活習慣病(高脂血症、高血圧)の腎炎難治化への関与
申請者はこれまでの検討から、最も頻度の高い慢性糸球体腎炎である IgA 腎症でも、成人例は小
児例と比較し、病初期から慢性病変(糸球体基質の増生、尿細管間質の線維化)を呈しやすく、こ
れに M2 型活性化 Mφが関与し、ステロイドがこれを助長する可能性があることを明らかにして
いる。一方、慢性化病変を呈する IgA 腎症に対して、アンジオテンシン系阻害薬の有効性が知ら
れている。これらの事実に基づき、上記 1. と関連し、IgA 腎症の慢性病変形成に M2 がアンジオ
テンシン系関連物質の産生を介して関与している可能性を検証。さらにステロイド薬作用との関連
を Mφ細胞株を用いた in vitro 系にて解析した。また小児と成人における生活習慣病の合併頻度に
関する疫学的検討を行った。
(注)報告書は2枚以上とする。別紙による場合も同じ。
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3. ステロイド抵抗化(難治化)機序への関与
小児ネフローゼ症候群(NS)の約 9 割はステロイド反応性であり、組織上は微小変化型を呈す
る。 しかし、約 10%にステロイド抵抗性あるいは徐々にステロイドに抵抗化するものがあり、
この場合多くは組織所見上、巣状分節性糸球体硬化病変を呈する。
このような症例では、ネフローゼの病態自体に起因する高コレステロール血症を呈するが、ステ
ロイドの使用によりさらに高コレステロール血症が助長される。ステロイド抵抗性ネフローゼ(巣
状糸球体硬化症)の治療として、LDL 吸着療法あるいは血漿交換が行われる。これらの事実をも
とにコレステロール増加(高脂血症)が M2 を介して難治化(ステロイド抵抗化)に関与してい
る可能性についてヒト単球由来 Mφを用いた in vitro 系を用いて検討を行った。
【結果】
1.
M2 のアンジオテンシン系への関与の可能性
培養ヒト Mφ株に対して、IFNγもしくは
Dexamethasone (Dex)で刺激したところ、IFN
γによりアンジオテンシノーゲン mRNA の産生
が誘導され、Dex により ACE の産生が誘導され
た。両者ともに代謝拮抗薬ミゾリビン(Miz)に
より抑制された(図 1)
。
このことから、アンジオテンシン系の関与する
腎疾患の進行機序に Mφ由来のアンジオテンシ
ン系物質が関与している可能性が示唆された。こ
れに対して、小児 IgA 腎症の治療に使用される
Miz が抑制効果を有する可能性が示唆された。
2.生活習慣病(高脂血症、高血圧)の腎炎難治化への関与
成人 IgA 腎症の症例の背景調査を行ったところ、成人例では IgA 診断時に約 50%が高血圧、高
脂血症または糖尿病の既往があることが判明した。一方、小児例ではいずれの合併例は認められ
なかった。また、CD163 および CD204 陽性 M2 は成人で有意に多くの糸球体、間質への浸潤が
認められ、糸球体および間質の慢性化病変(糸球体基質の増生、および間質の線維化)と有意な
相関が認められた。これらの所見から、生活習慣病の合併が、M2 の誘導もしくは活性化を介し
た慢性病変の形成に関与している可能性が示唆された。
3. ステロイド抵抗化(難治化)機序への関与
小児ステロイド感受性、抵抗性ネフローゼ症候
群の腎組織における LDL スカベンジャー受容体
(CD36)の発現を検討したところ、ステロイド
抵抗性ネフローゼにおいて有意に多くの CD36
陽性細胞の糸球体浸潤が認められた(図 2)
。
-2-
また、ヒト末梢血単球から誘導した Mφを用いた in
vitro の検討では、IL-4、IL-13 など Th2 系サイトカ
インおよび Dex、LDL の添加により CD36、CD204
の発現が有意に増加した。さらに Dex、LDL により
TGF- β 、 CTGF さ ら に LR11 ( LDL related
receptor)の発現が有意に増強した(図 3)
。
以上の結果から、ネフローゼ患児では LDL を含む
コレステロールの増加が見られ、ステロイド薬はこ
れを助長するが、
糸球体における Mφは Dex や LDL
の刺激によりむしろ活性化し、基質の増加、治療抵
抗化に関与する可能性が示唆された。また、LR11
は T リンパ球の特異的な活性化や生存に関与する
ことが知られており、高 LDL 血症下で Mφ・T リ
ンパ球の相互作用による病状の遷延化に関与する可
能性が示唆された。
【考察およびまとめ】
以上の結果から、M2 は慢性糸球体腎炎およびネフローゼ症候群の病態において、組織の慢性
化病変の形成に関与している可能性が考えられ、特に高脂血症に代表される生活習慣病の合併は、
M2 を介したステロイド治療への抵抗化あるいは慢性化病変の形成を助長する可能性が示唆され
た。また、こうした M2 型マクロファージの活性抑制にはミゾリビン等の代謝拮抗薬が有効であ
る可能性が示唆された。
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
(別紙可)
2012 年日本腎臓学会、小児腎臓病学会(6 月)で発表予定。
欧文誌投稿準備中。
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収支決算書
単位:円
配分額: 600,000 円
費目別収支決算表
設備備品費
消耗品費
0
旅
費
600,000
謝金・賃金
0
そ の 他
0
合
0
計
600,000
設備備品費内訳
設備備品名
仕様・型式等
数 量
単
価
金
額
0
計
消耗品費内訳
品
目
数 量
単
価
金
額
ヒト単球、ヒト由来 LDL、抗体類、PCR 関連消耗品など
600,000
計
600,000
旅
費 内訳
事
項 ・ 出張先
回 数
単
価
金
額
0
計
謝 金 ・ 賃 金
内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
0
計
そ
の 他 内訳
事
項
員 数
単
価
金
額
0
計
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