PDF 409306 bytes - 日本消化器外科学会

日消外会議 20(7):1782∼
症
1785,1987年
例
有茎性 胃外性 胃平滑筋 肉腫 の 1治 験例
国立神戸病院外科
船坂 真 里
今西 築
多淵 芳 樹
八日 敏
花 畑 雅 明
河
良 明
高本 幸 夫
A CASE OF EXTRAGASTRIC LE10MYOSARCOMA WITH PEDUNCLE
Masato FUNASAKA,Yoshよ
i TABUCHI,Yoshiaki HANAHATA,
Yukio KOMOTO,Kizuku IMANISHI,Satoshi HATTA
and Yosh陀 出【
iKAWA
Department of Surgery,Kobe National IIospital
索引用語 !有室性胃腫瘍, 胃外性胃腫瘍,胃 平滑筋肉腫
図 1 胃 透視 :背 臥位 (左)で 胃上部前壁 に大 きな陰
影欠損が認め られ るが,腹 臥位 (右)で は陰影欠損
は明 らかでない。
は じめ に
) , 胃 肉腫
胃平滑筋 肉腫 は 胃原発腫瘍 の0 . 1 ∼1 . 2 % 1 ン
の2 0 ∼2 5 % l 1 3 ) を
占 め る と報 告 され て お りそ れ ほ どま
れ な腫瘍 とは言 い難 い。 しか し著者 らは非常 に特異 な
発育形態 を示 した有茎性 の 胃外発 育平滑筋 肉腫 を最近
経験 したので, 若 子 の文献的考察 を加 えて発表す る。
I . 症
例
患者 :68歳,女 .
既往歴 :特 記す べ き こ とな し.
主訴 :心 寓部不快感.
現病歴 :昭 和 60年 5月 ころ よ り心 寓部 に時 々不快感
が 出現 していた 。 同年 8月 に 胃の集団検診 を受 けて異
常 を指 摘 され,そ の精査 のため 胃内視鏡 を施行 された
結果,胃 体上部 の粘膜下腫瘤 を疑 われたため,精 査 。
くbridging foldも
明 らかではなかった.また この陰影
欠損 は腹臥位で は不 明瞭 となった (図 1)。
治療 の 目的で当科 に入 院 した.こ の間,体 重減 少,鴎
下障害 ・黒色便等 の症状 は なか った。
家族歴 :特 記 す べ き こ とな し.
胃内視鏡所見 :胃体上部前壁に立ち上 が りの比較的
明瞭 で凹凸不整 な直径 約2cmの 胃内 に突 出 した腫瘤
が認 め られ,そ の表面粘膜 は周辺 とほぼ同様 の外観を
呈 していた。同部 よ り4個 所生検 したが,Group Iで
あ り,胃 透視 の所見 と合わせて 胃原 発粘膜下腫瘍 を
入院 時現症 :身 長 144cm,体 重45kgで 栄養状態 は 良
好 で ,腹 部 。全身 に腫瘤, リ ンパ 節腫 大等 の異常所見
はみ られ なか った。
入院 時 一 般検 査 :末
疑 った。
浦 血 ,肝 ・
腎機能,腫瘍 マ ー カ ー,
便潜 血 反 応 な ど一 般検 査 には 異 常 は 認 め られ なか っ
Computed tOmography(CT)所
径
約 5cmの 球形 の腫瘤 が認め られ,一 部 胃壁 との連続
か
がみ られ るため 胃原発 の 胃外発 育性腫場 で,大 きさ
ら肉腫 が疑 われた (図 2).
た。
性
胃透視所見 :背 臥位 で 胃体上部 か ら胃底部 にかけて
大 きな陰影欠損 を認 めた。 同部 の粘膜 に異常所見 は な
<1986年 10月15日受理>別 刷請求先 :船 坂 真 理
〒654 神 戸市須磨 区西落合 3-1 国
立神 戸病 院外
科
見 :左 上 腹部 に直
以
上 の所見 よ り胃外 に発育 した 粘膜下腫瘍 (肉腫)
の術前診断の もと,胃 全摘 。膵陣合併切除術を予定 し
開腹術を行 った.
手術所見 !胃体上部前壁に有茎性 胃外性腫瘍 を認め
161(1783)
1987年7月
図 2 CTi左 上腹部 に 胃 (S)と 連続性を もった直径
5cmの 腫瘤 (T)が 認 め られ る。
た。腫瘍 は5.0×4.6×4.4cmの 球形 で ,山 田 IV型 様 に
大 さlcm,長 さ1.5cmの 茎 を有 し,周 囲臓 器 へ の浸潤,
腹膜播種 ,肝 転移, リ ンパ 節転移 な どの所見 はなか っ
たが,充 実性 ・硬度 は弾性硬 ・表 面 は一 部粗大結節状
で 肉腫 と思われた。視診 ・触診 で茎 の部分 に腫 瘍 の浸
潤 が及 んで いない と考 え られたた め ,術 式 を変更 し茎
出術 を行 い,腹 膜再
を含 め 胃壁 を楔状 に切 除 し腫癌摘―
発予防 の 目的 で マ イ トマ イシ ン Cを 10mg腹 腔 内 に散
布 した。 また術 中切除部 か ら視診 で 胃内腔 を精査 した
が粘膜 に異常 は認め られず,目 の触診 で も腫瘍 ・硬結
の異常所 見 はなか った (図 3).
切 除標 本 :5.0×4`6×4.4cmの 表 面 粗 大 結 節 状 で
ほぼ球形 の腫瘍 で,茎 付着部 の 胃粘膜 には異常 を認 め
一 な 自色
なか った 。害」
面 で は中心壊 死 は見 られず,均
の充実性腫瘍 で あ った 。
ル ーペ像 :茎 の中心 部 に相 当す る 胃壁 の固有筋層 が
一 部欠損 してお り,茎 の辺縁部 で 固有筋層 が腫瘍 に牽
図 3 術 中写真 :胃体上部前壁やや大弯 よりに有茎性
胃外性 に発育 した5.0×4.6×4.4cmの 腫瘍 がみ ら
さ1.5cmの茎 が認め
れ,胃 との間に大 さ1.Ocln,長
図 4 ル ーペ像 i茎に腫瘍浸潤 は認め られず,茎 付着
部の胃壁には固有筋層が一部欠損 している。
られる.
図 5 組 織像 (HE染 色,×200):筋線維束が変叉 し,
細胞密度は高 く核分裂像 も散見 される.核分裂は200
倍率ではぼ毎視野に認められる.
P`
な
よ淵
`
こ
淳
よ 卜 ヘミよ ,
卜さ
胃体部前壁
162(1784)
有茎性 胃外性平滑筋 肉腫 の 1治 験例
引 され るよ うに走行 し茎 の一 部 を形 成 していたが,茎
に腫瘍 浸潤 は認 め なか った (図 4)。
組織所見 :筋 線維 を含 む紡鍾 状 の細胞 よ りなる細胞
日消外会誌 20巻
7号
め られていた。組織学 的 に この茎付着部 の 固有筋層 が
欠損 し, この部 分で 胃壁 が脆 弱 なため腫 瘍 の重 さで圧
鏡 した ところ,毎 視野 に 1∼ 2個 の 分裂像 が認 め られ
排 されて 胃内腔 に突 出 し, 胃内発 育型粘膜下腫瘍様 の
所見 を塁 した もの と思われ る。 CT,血 管造影 は腫瘍 と
胃 との連続性 を証 明す るのに有用 と思われ る。 この う
ち 自験例 の CTで は,図 2で 示 した よ うに一 見 目壁 と
平滑筋 肉腫 と診 断 された (図 5)。
術後経過 t術 後 13日 目に退院 し, 5カ 月経過 した 現
在再発 は認め られず ,経 過観察 中で あ る。
の交通 の ない腹腔 内腫瘍 の よ うな像 を呈 して いたが,
胃壁 との間 に一 部連続性 を認めた 。 また症例 1の 血 管
造影 では,腫 瘍 が左右 の 胃動脈 よ り栄 養 されてい る所
束 が互 いに交差 してお り,細 胞密度 は高 く,核 の不整 。
大小不 同や核分裂像 も散見 され,200倍 率 で10視 野 を検
H.考
察
は
胃平滑筋 肉腫 胃悪性腫瘍 の0.1∼ 1.2%lレ),胃 肉腫
の20∼25%l13)を占め る と報 告 され て お りそ れ ほ どま
れ な腫瘍 ではない,一 般 に男女比 は1.2∼1411分 4)で
やや 男性 に多 く,あ らゆ る年齢 で発生す るが50歳 代 に
好発 し,そ の好発部位 は 胃癌取 り扱 い規約 に よる CoM
の領域 で,C・ Mに 84.3∼95.8%1)の5)が発生す る と報告
され てい る。発生形態 は,Skandalakisの 分類ゆでは 胃
内,壁 内,胃 外,混 合型 の 4型 に分 け られ るが, 胃外
型 が半数近 くを 占め る との報告 が 多 い1め 1し か し,本
例 の よ うに山 田の IV型 様 の茎 を有 し 胃外 に発 育 した
肉腫 は非常 にまれで,著 者 らが文 献上検索 しえた 限 り
では 自験例 を合 め 3例 のみで あ る(表 1)。 ただ し腫 瘍
自体 が 茎 を形 成 して い る混 合型 の ものりは 除外 した 。
これ ら 3例 "ゆはいず れ も50∼60歳 代 の 女性 で,自 覚症
状 は悪心や腹部膨満感 な どの不 定愁訴 で特異 な ものは
見 か ら胃あ るいは小網原発 の腫瘍 と判断 され てい る.
いず れ にせ よ術前 の確定診 断 は 困難 で,胃 原発 の 胃外
発育型腫瘤 を見た場合,本 例 の よ うな腫瘤 が あ る こ と
を記憶 に とどめ る こ とが必 要 で あろ う.
胃平滑筋 肉腫 の 治療 は手術 が主 体 となるが,癌 腫 ほ
ど症例 が 多 くな いため術式 と予後 との関連 が い まだ 明
らかでな く,術 式 につ いては議論 の 分 かれ る ところで
は リンパ節郭清 の必要性 を主張 し
あ る。Skandalakisめ
てお り,高 木 ら。は32例中 5例 (15%)に リンパ節転移
を認 め 胃癌 に準 じた 胃癌取 り扱 い規約 に よる N2群 ま
での郭清 を行 うべ きと主張 してい る。一 方,北 岡 ら2)は
484/1でリンパ節転移 を認 めた症例 は な く,胃 切除 ・局
所切 除 のいずれ において も予後 に差 はみ られ なか った
と述 べ ,Shiuり,Appelmanlのも局所切 除を提 唱 してい
る。 胃平滑筋 肉腫 の切除範 囲や リンパ節郭清 に関 して
は今後 の検討 を待 たね ばな らな いが,本 例 の よ うに有
ない よ うであ るが,茎 捻転 に よ り急性 に発症 した症例
(症例 2)的もあ る。他 覚的 には 自験 例 以外 の 2例 で は
茎性 で しか も茎 に腫瘍 浸潤 の無 い場合,再 発す る とす
れば リンパ節再発 よ りもむ しろ腹膜播種再発 の可能性
腫瘤 が触知 され てい るが, 自験例 では腫瘍 が 左上腹部
に発 育 した左肋骨 弓下 に存在 したため, これ を触知 す
の方 が高 い と思われ,茎 を含めた 目の部分切 除 で 良 い
る こ とはで きな か った。
胃透視 では 3例 とも陰影欠損 ,圧 迫像 がみ られ粘 膜
下腫瘍 の所見を呈 してい るが, 自験例 の よ うに体位 に
よ りその所見 が変化す ることが有茎性 胃外性腫瘤 に特
徴的 で あ る と思われ る。 胃内視鏡 で は症例 2と 同様 に
自験例 において も立 ち上 が りの明瞭 な粘膜 の隆起 が認
ので はないか と思われ る.な お,一 般 に 胃平滑筋 肉腫
で は約 4%の 症例 で 多発す る との報 告 1)や胃癌 との合
併 例りも報告 され て お り,部 分切 除 を行 う際 には切 除
部以外 の 胃を十 分精 査 し残 胃に病変 が存在 しない こ と
を確 認す る必要 が あ ろ う。外科的 な切 除以外 の治療法
と して は放射線療法 は一 般 に無効 とされゆ11),化学療
法 は リンパ 肉腫 の よ うには行われ ず,有 効 で あ った と
の報告 はみ られ な い.
表 1 有 茎性 胃外性 胃平滑筋 肉腫 の本邦報告ral
症例
年齢 ・
性
部位
大きさ
胃体小 6 0 × 6 . 6
弯後壁 ×5 2cm
胃体上
部後壁
15× 15
×20cm
自験 例
心寓部
38歳・
女 不快感
胃体上
部前壁
50×46
×414cm
分除
部切
下腹部
56歳 ・
女
腫瘤
分除
部切
大下 らD
(1985)
術式
分除
部切
福鳴 らの 51歳 ・
女
(1982)
主訴
膨
部感
腹満
1.
報告者
(年)
胃平滑筋 肉腫 の予後 は核分裂数 と密接 な関連 が あ る
りゆ,Stoutlり
との報告 が 多 くり。い1の
は200倍率 で50視野
を検鏡 した場合 の核 分裂数 を基準 として予後 との 関連
を論 じて いる。佐野 ら121は
この基準 を若干簡略化 し200
倍率 で10視野 の核 分裂数 の平均値 を指標 とし, これ が
2.0以上 の時 は予後 が悪 く特 に4.0以上 の場合 には全frl
が手術時 に肝転移 が 陽性 か または 2年 以内に死亡 した
と報告 してい る.本 例 では毎視 野 に 1∼ 2個 の核分裂
163(1785)
1987左
F 7月
像 がみ られたた め,厳 重 な経過観察 が必要 で あ る と考
えて い る。
III.結
語
68歳女性 の 胃体 上部前壁 に発 生 し特異 な発 育形態 を
示 した有茎性 胃外型 平滑筋 肉腫 の 1症 例 を経験 したの
で,若 千 の文献的考察 を加 えてそ の詳細 を報告 した。
文
献
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