不当要求に発展させない初期対応の徹底と 「相談ルート」 - 一般財団法人

照)のアドバイスを受けながら監察
応に詳しい横山雅文弁護士(総論参
という。マニュアルは、クレーム対
マニュアルを作成する運びになった
もあり、それらをベースに実践的な
役所側の落ち度や法的責任を認める
ル の 趣 旨 の 一 環 と し て 行 う も の で、
的確な対応をする」というマニュア
合のお詫びは、
「相手の真意をくんで
必要性も説いている。ただ、この場
お詫びではないことも書き添えてい
さらに暴行事案となるのを未然に
室で作成。最終的には市の「公正職
市区町村レベルでは、おそらく全国
防ぐために「凶器となるようなもの
ルポ PART1
不当要求に発展させない
初期対応の徹底と「相談ルート」
の確立によって職員を守る
初の実例も用いた実践的な不当要
を置かない」
「ブザーの設置」を勧め
る。
体および市会議員などの公職者から
求・クレーム対応マニュアルである。
務 審 査 会 」 の 監 修 を 得 て 完 成 し た。
市職員に寄せられる意見、苦情、要
兵庫県神戸市
神 戸 市 で は、 市 民 か ら の 理 不 尽
な 要 求 へ の 対 処 法 を ま と め た「 不
ているほか、他の職員から面談の様
子が見えたり、いざというときに援
マニュアルの運用を開始したのは
ページから成るマ
望などは、不当要求も含めてすべて
月。本文
当 要 求・ ク レ ー ム 対 応 マ ニ ュ ア ル 」
年
記録されることとなった。
に、キャビネットやパーティション
助しやすいよう通路を確保するため
権限外の相談を執拗に求められ
概要版は全職員に配付された。現在
時には礼を尽くし
お詫びすることも必要
4判
に対しては毅然と対応することが
る、毎日来庁したり電話をかけてく
の配置を工夫するよう促している。
月)で不当要求行為
月には
ニュアルは全所属に、
全 庁 的 に 定 着 し て き た と い う。 そ
では、庁内のイントラネットで閲覧
年
年
護の相談に来訪した市民にナイフを
るのは、まず市民からの「意見」を
こうした状況を背景に全庁的に統
市役所側に不手際やミスがあった
寄せられた報告から
の事例をピッ
過 去 の 事 例 の 検 証 で は、 監 察 室 に
る、対応職員を誹謗中傷するといっ
月~
年間(
の ポ イ ン ト は 組 織 的 対 応。 特 に 困
年
は183件に上った。
神戸市が、市民からの不当要求に
「不当要求」に発展させないための、
ついて統計を取り始めたのは、
ンス条例(神戸市政の透明化の推進
一されたマニュアル作成を求める声
場合は迅速に対応することや、時に
初動対応の重要性を強調しているこ
及び公正な職務執行の確保に関する
が高まってきた。また記録によって
とだ。
条例)
の運用開始がきっかけだった。
は礼を尽くし、お詫びをすることの
生している。
突きつけられるという暴力事案も発
マニュアルの特徴として挙げられ
1
不当要求事例が蓄積されてきたこと
13
A
この条例により、市民や法人・団
市の中心・三宮から
ほど近い 神戸市 役
所(写真は監察室が
入る第一庁舎)
と、条例運用開始からの
できる。
コン プ ラ イ ア ン ス 条 例 を 機 に
た不当要求事案は以前から日常的に
54
難 事 例 が 発 生 し た 際 の「 相 談 ル ー
4
発生していたが、改めて記録をとる
09
年
対応 マ ニ ュ ア ル 作 成 へ
12
長田区役所で、福祉相談員が生活保
5
08
2
07
1
07
ト」を確立しておくことにある。
枚の
を 2 0 0 9 年 か ら 運 用、 不 当 要 求
Reportage
月のこと。いわゆるコンプライア
07
16
2014.1
フォーラム
地方公務員 安全と健康
特集
1
特集 ルポ PART1 兵庫県 神戸市
のポイントがまとめられている。加
こに対応上の問題があったか」など
うえで、
「対応が適切だったか」
「ど
クアップ、各事例の概要を紹介した
よ う な 考 え 方 は マ ニ ュ ア ル の ほ か、
録 を と る た め に も 必 須 で す 」。 こ の
を減らすことはもとより、正確な記
複数対応は、担当者の精神的な負担
こ と は 各 所 属 に 徹 底 さ せ て い ま す。
◀
■その 後 も 要 求 行 為 が 続 い た ら、
各所属に配置されたコンプラ
イ ア ン ス 責 任 者( 所 属 長 ) が、
相手方に不当要求である旨を
警告する
年度は希望者を対象に
■なお も 要 求 や 誹 謗 中 傷・ 脅 迫
が 止 ま ら な い 場 合 は、 法 的 対
応を検討
◀
■それ で も 要 求 が 繰 り 返 さ れ れ
ば、最終回答の文書を送付
えて、各所属に配置されている「コ
・
年度は所属長(課長級)を対
研修会でも職員に伝えている。研修
会は
象に、
実施した。講師は前出・横山弁護士
が務めた。
そのほか新任課長対象の研修にも
コンプライアンス研修が盛り込ま
法的手段に訴えることなど、客観的
なアドバイスをできる面もある」と
高橋さん。また、不当要求か否かを
判断しかねる場合は、前出・公正職
年
月からは、弁護士
人を「神戸
3
務審査会に諮問し判断を仰ぐ。
さらに
3
人、警察OB1人の計
13
イスを受けられる体制も整えている。
等に関する相談や情報提供、アドバ
に委嘱、専門家から、不当要求行為
市不当要求行為に関する専門委員」
4
ンプライアンス推進責任者」
(所属
長)が当該事例に当たってすべきこ
とや注意点、さらに関連知識のコラ
ムも掲載されている。
暴力 ・ 脅 迫 事 案 は
躊躇 せ ず 警 察 に 通 報
■暴力 行 為、 悪 質 な 誹 謗 中 傷 や
街 宣 行 為 が あ れ ば、 躊 躇 せ ず
警 察 へ 通 報。 ま た 監 察 室 経 由
での弁護士へ相談
公務員が市民を警察に通報した
り、刑事告訴や仮処分を求めること
は、民間企業が顧客に対するよりも、
心理的抵抗が大きい。
しかし、このように具体的な対応
方法や「相談ルート」が明示されて
いるので、各所属でも速やかに毅然
とした対応ができる。
不当要求・クレーム対応マニュアル。実践的な対応法が掲載されている。
れ、その中で不当要求への対応につ
こうした取り組みの結果、マニュ
いて周知を図っている。
求行為に対する組織としての心構え
アルは職員間にかなり浸透してき
マニュアルはまた、冒頭で不当要
として、「組織対応」
「記録化」
「連携」
発 生 し た 際 の、『 相 談 ル ー ト 』 が 定
た。 高 橋 さ ん は、「 特 に 困 難 事 例 が
中でも重要なのは、組織的対応と
着したメリットは大きい」という。
点を訴えている。
いう。行財政局行政監察部監察室係
マニュアルは、話がこじれた場合
の
長の高橋健司さんは、
こう語る。
「担
相手の出方に応じて、対応方法や庁
実際、神戸市ではマニュアルが浸
「 監 察 室 は 当 事 者 で は な い だ け に、
談 す る 習 慣 が 根 づ い て き た と い う。
応に苦慮する場合などは監察室へ相
属から即座に警察へ通報するし、対
透した結果、暴力・脅迫事案は、所
震災の
PTSD様症状
7人
職場の人間関係
23人
その他
18人
内外の相談先が具体的に示されてい
◀
2014.1
フォーラム
地方公務員 安全と健康
17
るのが特徴だ。
(2012.5∼)
■合理 的 な 説 明 に 納 得 し て も ら
え ず、「 同 じ 話 の 繰 り 返 し 」 に
なったら、対話を打ち切る
図3 個別面談での主訴
勤務状況
による負担
12人
11
09
10
の 対 応 を 以 下 の よ う に 示 し て い る。
高橋健司さん
当者を孤立させず、複数で対応する
行財政局行政監察部監察室係長・
自身の体調不良
18人
医療機関の
紹介希望
4人
3
要領 を 制 定 し て
ないことができるとした(録画は告
為の疑いがある場合に限って告知し
の性格や精神状態、家庭環境から社
しかし、不当要求の問題は、相手
ある市区町村窓口はオープンスペー
ましてや行政サービスの最前線で
だ。前出・コンプライアンス条例で
り、実際はなかなか行いにくい面も
録画については機器の問題もあ
内容を固め、運用を開始した。
審議会」にも諮問したうえで要領の
知 を 要 す る )。 市 の「 個 人 情 報 保 護
が増えることは容易に想定される。
が長引けば生活保護関係の相談対応
い要素に左右される。たとえば不況
的に自治体側がコントロールできな
会経済環境の影響に至るまで、基本
不当要求に発展した場合は、組織と
当要求に発展させないこと。そして
自治体側ができるのは、極力、不
リティを強化することもできない。
スであり、民間企業のようにセキュ
た謝罪要求、無理な要求など
16
しかない。神戸市の事例は、このオー
ソドックスな取り組みを徹底したも
のとして参考になるだろう。
18
2014.1
フォーラム
地方公務員 安全と健康
告知 な し の 録 音 も 可 能 に
は 不 当 要 求 行 為 に つ い て、
「暴力や
ある。ただ、殴る、蹴る、胸倉をつ
ところで、不当要求行為に対処す
脅迫行為などの実力行使を伴うもの
かむ、手を払うなどの行為を動画で
=その他 長時間の居座り、度の過ぎ
るうえでは、記録をとることが重要
や、社会的相当性を逸脱する手段に
残しておけば、証拠能力は音声だけ
して毅然と対応し、職員を守ること
よ る 要 望 」 と 規 定 し て い る が、
「実
よりは高いといえよう。
年間保存される。ただし不当要求
録音・録画データは公文書として、
力行使」や「社会的相当性」につい
て事後検証するうえで、録音・録画
データは効果的であり、警察に提出
行為に該当しないとの判断が下され
れば即廃棄することとしている。
オーソドックスな取り組みを
(個人)
(2009∼2012年)
する証拠としても有効だ。
録音・録画する際は、行政の信頼
旨を市民に告知し、同意を得ること
徹底させること
性や公平性を確保するために、その
が望ましい。しかし、相手が殴りか
かってきたり凶器を出すなど緊急性
は、不当要求行為の件
数 の 推 移 と、 内 訳 を 見 た も の だ が、
・図
画することもやむを得ない。告知し
一連の対策で減少したとは断言でき
図
たにもかかわらず、録音・録画を拒
ない。
が高い場合は、告知せずに録音・録
否される場合もあろう。
公営住宅関係
12件
一定のラインを超えたら毅然とし
消防関係
12件
区役所窓口関係
53件
病院関係
1件
年
て法的手続きに進むこと、告知なし
図2 不当要求行為の内訳
80
70
60
50
40
30
生活保護関係
54件
その他
75件
税金関係
11件
こうした事態を想定して、
月には、告知なしの録音も可能とす
の録音がされる場合もあることなど
が 周 知 さ れ れ ば、 常 習 的 な ク レ ー
マーに対してはある程度の抑止効果
はあるかもしれない。
25
2
=脅迫
=暴行
図1 不当要求行為件数の推移
5
る「不当要求行為の録音及び録画に
関する要領」を制定した。
要領では、原則告知するとし、事
態が切迫している場合や不当要求行
個人
1
19
23
33
個人
法人・団体 2 4
20
10
0
16
2010年
6
14
個人
法人・団体 1 4
9
19
個人
法人・団体 1 2 5
2012年
6
法人・団体 2
8
32
6
2009年
2011年
11