インタビュー 河村 裕美さん インタビュー 必要とするサポートや配慮は人それぞれ 画一的な制度より 経験者と語り合える機会を 静岡県 職 員 認定 NPO 法人オレンジティ 理事長 精神保 健 福 祉 士 ・ 社 会 福 祉 士 ・ P R プ ラ ン ナ ー (ヘル ス コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ) て初めて自分が深刻な状態なんだと から半年ぐらいはかかる」と言われ 「 何 日 と い う 問 題 じ ゃ な い。 数 か 月 に専念して」と言ってくれました。 は「仕事のことは気にしないで、治療 ればいけない」と伝えたところ、上司 直、迷いましたが、同じ部署の同僚 他の同僚に伝えるかどうかは、正 それから一週間後に細胞診と組織 には全員に話すことにしました。休 気がついたのです。 診の結果が出て、医師から「手術で ありがたいことに、みんな快く私 む間、私の仕事をやってくれるわけ 忙しかったですね。私は企画・広 の休みと仕事のお願いを受け入れて 子宮と卵巣を摘出することになるだ 報関係の部署に配属されることが多 くれました。普段から全員がギリギ ですから、理由を隠してお願いする くて、当時もそうでした。残業も少 リの状態で仕事をしていて、そこか ろう」という説明を受けました。 なくなかったですし、県外への出張 ら一人いなくなればさらに大変にな のはフェアじゃないと思ったので いな」と感じたので念のために病院 もありました。 ることは明らかなのに、みんな「心 ──当時、仕事はどのような状況で 子宮頸がんの治療を経て職場に復 に行っただけだったのに、その場で ──仕事を辞めようかと考えたこと 配しなくていいから」と言ってくれ す。 帰し、現在も県職員として働きなが 医師に「これはがんだね」と告知さ はありましたか。 したか。 ら 女 性 特 有のがんのセルフヘルプ・ れてしまいました。 河村 裕美 さん グループ理事長としても活躍してい ──告知を受けて最初に考えたこと える職場のあり方についてうかがっ 考える今後の治療と就労の両立を支 とでした。どのくらい休むことにな いっぱいでした。その次に仕事のこ ばかりで申し訳ないという気持ちで まずは夫のことですね。結婚した 所はあるのだろうかということが本 戻ってきたとき、職場に自分の居場 迷 惑 を か け て し ま う の か。 そ し て ればいいのか。どれだけ職場の人に ました。誰に自分の仕事をお願いす が、長く休むことへの恐怖感はあり 知の翌月には東京のがん専門病院で を受けるなど色々ありましたが、告 知人の勧めでセカンドオピニオン すか。 ──それからすぐに入院されたので と思います。 ましたね。私はとても恵まれていた る河村さん。今回はご自身のがんの は何ですか。 た。 るのか、同僚に迷惑をかけてしまう それは一度もありませんでした 治療から復帰への経験と、そこから ──まず、子宮頸がんの告知を受け か月で、その後は自宅 に戻って療養しました。 院期間は約 通り、子宮と両側の卵巣を摘出。そ 治療のため、数か月仕 事を休まなけ まず 直属の上司に「子 宮 頸がんの ──職場には病気のことをどのよう 手術しました。最初の医師の見立て 日入 当に心配でした。 、 した。医師に「何日ぐらい仕事を休 の上、リンパ節も除去しました。入 とか、そういう心配です。 告知されたとき、私は 3 院すれば終わるぐらいに考えていま 2 め ば い い で す か 」 と 聞 い た と こ ろ、 に伝えましたか。 たときのことを教えてください。 月で、結婚し 子宮頸がんを告知されたのは、忘 年 週間でした。自覚症状は れもしない平成 てわずか 7 特 に な く、 「最近ちょっと生理が重 1 11 2016.7 フォーラム 地方公務員 安全と健康 17 1 候 群 」。 の ぼ せ や ほ て り、 め ま い、 くても口に出すことができませんで のではないかと思うと、どんなに辛 悩みを共有できるだけで 気持ちが楽になる した。服用していたホルモン剤が体 ─ ─ 今、 河 村 さ ん は NPO の 理 事 のではないかという焦燥感が強くて むと職場に自分の居場所がなくなる を勧められましたが、あまり長く休 しました。医師からは半年休むこと なってしまいました。いつ漏れてし が、私も尿意や便意を全く感じなく 遺症が出ることは少なくないのです ので、神経が傷ついて術後にこの後 がんの手術では骨盤内の神経を触る 難しい質問ですね。私個人は、や があったらよかったと思いますか。 置転換や仕事量を減らすなどの措置 ──当時、職場での配慮、つまり配 りの出張にも行きました。 か月後には残業もしましたし、泊ま 会の中で参加者に聞くと、公務職 務職場と何か違いはありますか。 経験者の話を聞くと思いますが、公 ──そこでは色々な職場で働くがん めのセルフヘルプグループです。 を分かち合い、サポートしていくた 後遺症のことは、一応、復帰した みを取る必要もありますし、激しい 抗がん剤治療をする場合は平日に休 18 2016.7 フォーラム 地方公務員 安全と健康 いらいらなど、更年期のような症状 が あ り ま し た。「 リ ン パ 浮 腫 」 で 片 に合わず、どうにも具合が悪いとき どんなに体が辛くても 歯を食いしばって仕事をした 方の足だけがぱんぱんにむくんでし …。休んでいると、つい「自分は世 まうか分からなくて通勤中も不安で りがいのあるその仕事を続けたかっ 場は休暇や給付金などの制度がしっ 体で、女性特有のがんの体験者、家 は い。「 オ レ ン ジ テ ィ」 と い う 団 ──どのくらい休んでから職場に復 たが、それも言えず、必死で隠して 長としても活躍されていますね。 そしてなによりも大変だったの には、心底「休みたい」と思いまし か月 まったのも辛かったです。 か月、自宅療養が 帰されましたか。 入院が 、 の中に不必要な人間なのではない したし、仕事中もそんなに頻繁にト たので、歯を食いしばって仕事をし かりしているので、ずいぶん恵まれ 仕事を続けました。復帰から か」「傷がついて使えない人間になっ イレに行くわけにもいかず、最初の ました。でも、それが誰にとっても ていると感じます。民間企業に勤め が「排尿・排便障害」です。子宮頸 てしまったかも」などと悪い方向に 頃はおむつをして出勤していまし 正解とは限りません。人によっては か月仕事を休んでから復帰 考えてしまうので、少し無理をして た。 配置転換や仕事量の調整をしてほし で、計 早めの復帰に踏み切りました。 ──辛い状況を職場の人に話しまし ときに上司に伝えました。ただ上司 副作用が出てしまう人もいます。そ を出すことは難しいですね。画一的 オレンジティでは、月に1回、静岡県の東部・中部・西部 と東京の4会場で、女性特有のがん(子宮・卵巣・乳が ん)について参加者やスタッフと話をする「おしゃべり ルーム」を開催している 族、支援者などが互いの悩みや体験 ──同じ職場に復帰したのですか。 が、それも病気のこととは関係のな は男性で、排尿障害などの話をする うなると病気前と同じ仕事が難しい 月に異動がありました い定期的にある異動で、特に病気へ ことにどうしても抵抗があり、あま です。次の の配慮によるものではありません。 と い う ケ ー ス も 出 て く る で し ょ う。 職場がどういう対応をするのが正し り詳しくは伝えませんでした。 具体的に、日々の仕事の最中に体 ──継続的な治療や後遺症などはな かったのでしょうか。 つの答え 言っていません。弱いところを見せ な対応ではだめだと思います。 いとか正しくないとか、 などはありませんでしたが、後遺症 る と 仕 事 が な く な る の で は な い か、 が辛いということは、職場では一切 は非常に辛かったですね。まず卵巣 職場で不必要な人間だと判断される 私の場合は手術後の抗がん剤治療 をとった後遺症である「卵巣欠落症 1 4 そうです、休む前と全く同じ職場 いという希望もあるでしょう。また 2 2 たか。 1 1 3 インタビュー 河村 裕美さん を諦める人も少なくありません。 した。お金の問題で、抗がん剤治療 らない状況に追い込まれた人もいま たり、最悪の場合は辞めなければな ている参加者の中には配置転換され ──河村さんご自身は、当時、不安 楽になると思います。 くれる存在が職場にいたら、少しは や自分の気持ちを「交通整理」して わけです。そんなとき、色々な情報 そういったことが一気に押し寄せる て、同じ病気になった普通の人の話 明 を 受 け ま し た が、 そ う で は な く ん医師からは病気に関する詳しい説 がんの告知を受けたとき、もちろ ではないかと思います。 ながら仕事をしなくてもよかったの いますので、そういう相談に対して 団体や相談窓口などの情報をもって ジティ」の活動を通じて病気の支援 ことがあります。今の私は「オレン しょう」というような相談を受ける があるのですが、どうしたらいいで 返すようにしています。 逆に、民間企業と比べて公務職場 ながら治療を続ける苦労とか、そう とはいえ、大きな病気の経験者の は、できる限り「それなら〇〇に相 考えませんでしたね。産業医や保 いう経験の話です。相手は医師でも みんながみんな私のように病気のこ を聞きたかったんです。日々の生活 間に上司も同僚も変わるため、その 健師はちょっと敷居が高いというか 看護師でもないのですから、話した とを公表しているわけではありませ な気持ちを産業医や保健師に相談す た び に 病 気 の 事 情 を 説 明 す る の は、 …。病気のことや治療法のことは専 ところで何かが解決するわけではあ んし、人によっては過去の病気につ で大変だと感じたのは、定期的に人 正直面倒ですね。私は最初の上司に 門の主治医に聞けばいいわけで、産 りません。でも、「こんなことがあっ いては話したくないという人もいる 談してみたら」などとアドバイスを は後遺症の話をしましたが、その後 業医に聞くことではありません。ま て大変だ」「私のときもそうだった」 でしょう。ですから、そこは保健師 のことや仕事への復帰の仕方、働き はいちいち話さなくなりました。今 た保健師に相談するのは情報の取り などと話せるだけで、本当に心が楽 さんなどが窓口になり、過去に大き ることは考えませんでしたか。 は、時々上司が「体調はどう」と聞 扱いがどのようになるのか不安もあ 年 間「 オ レ ン ジ 事異動があることでしょうか。短期 いてきますが、詳しいことは話しま に な る の で す。 ほかに、どんな制度やサポート 今、静岡県庁には「チューター制 体制があればいいと思いますか。 ─ りました。 せん。 ──ご自身の経験をもとに、治療と 就労を両立させるために職場にどん な制度やフォローがあったらいいと きることの意義を感じています。 をもつ人たちが集まって情報交換で ティ」の活動をしてきて、同じ経験 た職員がいたときはメンターになっ 対し、もし同じ病気になってしまっ な病気をして職場に復帰した職員に 病気を告知される人のほとんどが初 がいてくれればと思います。大きな まず、職場にソーシャルワーカー 先輩がメンターになり、話を聞いた 病気を経験して職場に復帰している になった職員に対して、似たような うな制度があるといいですね。病気 長として様々な場に出て自分の経験 ま せ ん が、「 オ レ ン ジ テ ィ」 の 理 事 職場で表立った支援活動はしてい ますか。 なった職員の支援をする機会はあり かと思います。 にとって大きな力になるのではない や治療を受けながら仕事をする職員 ができれば、病気から復帰する職員 てくれるかどうか希望を聞いてお めての経験です。病気のことだけで り悩みを共有したりするイメージで を話していますから、庁内では私の ──ありがとうございました。 今、 河 村 さ ん は 職 場 で 病 気 に もいっぱいいっぱいなのに、さらに す。自分が病気をしたとき、メンター 病 気 の こ と は よ く 知 ら れ て い ま す。 ─ 医療制度や社会保障、その職場の制 のような存在の先輩が一人でも職場 そのため、全く知らない職員からあ 度」があるんですが、それと同じよ 度 な ど も 調 べ な く て は な り ま せ ん。 にいて、話をすることができていた る 日 突 然、「 〇 〇 と い う 病 気 の 疑 い 考えますか。 そのうえで、治療法に悩んだり、薬 なら、あんなに気を張って、我慢し メンターを結びつける。そんな制度 き、いざというときに病気の職員と に悩んだり、病院選びに悩んだり… 2016.7 フォーラム 地方公務員 安全と健康 19 15
© Copyright 2024 ExpyDoc