大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料 平成 23 年 2 月 18 日 定性・定量融合モデルにおける影響伝播の双方向合成による目標達成シナリオ高速作成方式 森田 善洸 (ビジネス情報システム講座) 1 不確実な環境下においては、施策から目標に至る要因の変 化をシナリオとして複数作成し、各シナリオに応じた施策を 試行錯誤により検討する。シナリオ作成のため、定量的情報 と定性的情報を用いて、因果関係 (アーク) から要因 (ノー ド) の値の時系列変化を求める定性・定量融合シミュレーショ ンが提案されている。モンテカルロ法にもとづくシミュレー ションでは、ユーザが着目する重視ノードの値が目標値を達 成するシナリオ (目標達成シナリオ) を、必要な数だけ生成 するのに時間を要する。本研究では、必要数の目標達成シナ リオを対話的な検討が可能な時間で作成することを目的と する。 2 定性ノードA 定量ノードB (定性値) (定量値) H(高) 因果関係(アーク) ランドマーク 定性ノードからみて 同等とみなせる dH(やや高) で対応 順伝播値 M(標準) 逆伝播値 定量値が異なっても dL(やや低) L(低) 合成の対象とする 定性値:定量値で表現できない値を5段階の記号で表現 はじめに 図 2: 定量ノードの合致条件の緩和 は、同じ回数を実行し、初期段階における各伝播時間とシナ リオ作成率が推定できた後、総作成時間が短くなるよう回数 を調整する。各段階での回数決定について以下で述べる。 • 初期段階では、順伝播と逆伝播の試行回数を同数とし、 必要数を得るために最低限必要な試行回数を決定する。 全時間ステップで合成できるとき、シナリオ作成率は 最大となるので、以下の式で初期試行回数を求める。 √ 初期試行回数 = 必要数/ステップ数 影響伝播の双方向合成による 目標達成シナリオ高速作成方式 2.1 目標達成シナリオ高速作成方式の概要 図 1 に目標達成シナリオ高速作成方式の考え方を示す。図 1 左に示すように、重視ノードに設定した目標値から初期値 を求める逆シミュレーション手法 (逆伝播) が提案されてお り、目標値をとるシナリオを作成できる。そこで、定性・定 量融合シミュレーション (順伝播) によって作成されるシナ リオと、逆伝播によって作成されるシナリオを、図 1 右に示 すように、適当な時間ステップで合成することで、目標達成 シナリオを作成できる。 因果関係にもとづいたシナリオを合成する上で、各シナリ オの重視ノードの値が合致していても、他のノードで合致し ていなければ、合成した時間ステップの前後で整合性のない 確率分布が導かれる。そのため、値が各ノードで合致する必 要があるが、定量値が合致する割合はきわめて小さく、合成 はほとんどできない。また、逆伝播では、アーク合流箇所が 増加すると逆演算に要する時間が増加し、順伝播の数倍以上 の時間がかかるため、逆伝播の試行回数を減らしつつ、シナ リオの合成回数を増やす必要がある。 アーク合流箇所 逆伝播 重視 アーク 商品イメージ ノー 広告費 目標値 ドの 値 市場需要 市場シェア 順伝播 :定量ノード 初期値 :定性ノード 合成 目標値 初期値 ステップ数 図 1: 目標達成シナリオ高速作成方式 2.2 影響伝播の双方向合成 各定量ノードの定量値が厳密に合致せずとも、定量ノード と因果関係をもつ定性ノードから、異なる定量値が同等とみ なせるのであれば、シナリオを合成しても不整合は生じな い。図 2 に示すように、定量ノードには、定性値との対応を 定義するため、ノードの値の範囲を分割する区切り (ランド マーク) が与えられているので、ランドマークにより分割さ れた範囲内で値が合致すればシナリオを合成する。 2.3 順・逆伝播試行回数の決定 逆伝播の回数を減らしすぎると、順伝播と逆伝播の試行回 数に対して合成できるシナリオの割合 (シナリオ作成率) が 低下して、かえって合成できるシナリオ数が減少する。そこ で、順伝播および逆伝播の計算時間が未知である初期段階で • 初期段階以降はシナリオ作成率と順伝播、逆伝播に要 した時間から、残りの必要試行回数を求める。時間の 要する逆伝播の回数を減らすため、順伝播と逆伝播の 試行回数の比は、それぞれに要した平均時間の逆比と し、残りの必要数を配分する。 3 評価実験 逆伝播の計算時間に影響するアーク合流箇所を 1 箇所含む モデルと 3 箇所含むモデルに、順伝播のみを用いた方式、順 逆同回数で合成する方式と提案方式を適用し、10000 件の目 標達成シナリオを作成するのに要した時間、試行回数を表 1 に示す。また、アーク合流箇所が 1 箇所のモデルでの各時間 ステップにおける重視ノードの値の確率分布を図 3 に示す。 計算機の環境は CPU が Intel Core2 Duo 2GHz、メモリが 2GB、OS が Windows Vista である。表 1 より計算時間は 98%以上削減され、回数決定により時間の要する逆伝播の回 数を削減できた。また図 3 の確率分布も類似しており、平均 値を比較すると各ステップにおいてその差は最大 3%以下と 十分小さく、危険度 5%で統計的に一致していることを確認 した。 表 1: 目標達成シナリオ作成に要した時間 アーク合流 1 箇所 アーク合流 3 箇所 1,862 秒 (順 81,985 回) 5,389 秒 (順 226,733 回) 順伝播のみ 順逆同回数 で合成 68 秒 87 秒 (順 240 回; 逆 240 回) (順 240 回; 逆 240 回) 提案方式 30 秒 35 秒 (順 458 回; 逆 117 回) (順 621 回; 逆 106 回) 確率 提案手法 初期値 市場シェア 目標値 確率 順伝播のみ 初期値 目標値 市場シェア 図 3: 各ステップにおける重視ノードの確率分布
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