リーフレット [Leaflet] - 電力中央研究所

電力中央研究所報告
建 設 技 術
報告書番号: N 0 8 0 5 8
気象予測モデルと連携した出水予測手法の
開発
−九州地方に襲来する台風事例−
背
景
水力発電ダムにおいては、災害防止と貯水量の確保のため降水予測が重要な情報
となっている。ゲート操作の判断などに活用される 6 時間以下の短時間の降雨予測
には、気象庁の降水短時間予測のような主として気象レーダ情報を用いた予測手法
が用いられている。一方、人員配置などの検討に活用される 6 時間以上の予測には、
計算範囲が広くかつ大気の流れに関する運動量や質量保存の式を計算する数値予報
が用いられる。近年、計算機の発達に伴い非静力学平衡の運動式を高解像度で計算
することが可能になったほか、降水過程を再現する雲微物理モデルの高度化もなさ
れている。このような高度な気象モデルを用いて、ダム流域の 6 時間以上の予測降
雨量について定量的な評価が行われている事例は希有であり、ダム流入量の予測精
度についても同様である。
目
的
当所の気象予測モデルと水循環解析モデルを連携した 6 時間以上でも活用できる
降雨・出水予測手法を開発し、台風襲来時に適用した際の予測精度を検証する。
主な成果
1.水循環解析モデルの全国化と気象予測モデルとの連携
当所の水循環解析モデル(以後、HYDREEMS)を日本国内どこでも計算可能とし、
任意のダム流域や河川水系を対象とした流出解析を容易にした。また、アメダス等
の雨量データに加えて、気象予測モデルによる予測降雨量を用いて出水予測が行え
るよう HYDREEMS を改良した。
2.気象予測モデルと出水予測モデルによるダム流入量予測精度評価
(1)予測結果の評価法
台風の進路(図 1)や進行速度、最大雨量や総雨量などのダム流域平均値、ダム
流入量を解析し、ダム運用に必要な情報をまとめて評価する手法を整備した。また
ゲート操作に必要となる洪水立ち上がりの時間やピーク流量の予測値の定量的評価
法を考案し、本研究の検討事例に適用した。
(2)台風の進路と総雨量
宮崎県に既往最大洪水をもたらした台風 0514 号とそれに準ずる洪水をもたらし
た台風 0416 号を検討事例として、降雨・出水予測を行った。初期条件を 12 時間ず
つ変えながら予測を行った結果、山岳域の雨量の多い箇所と総雨量を予測すること
ができた(図 2)。
(3)降雨出水予測手法の適用性
2 つの台風について 4 ケースずつ出水予測計算を行った(図 3)。耳川本川沿いに
設置されている 6 ダムのピーク流量の予測値は、観測値の 0.8∼1.7 倍、総流量の予
測値は観測値の 0.7∼1.9 倍となった。また、洪水の立ち上がり時刻の予測について
は、下流ダムでは時間差少なく予測できたが、上流ダムについては時間差を生じる
結果となった。
今後の展開
実運用化にむけて、NuWFAS と HYDREEMS を同時に動作させ、長期間の運用試験を
行っていく。
予測
気象庁解析
○●は 12 時間ごとにプロット
mm
mm
初期値
図 1 台風 0514 号の予測進路
(初期値 2005 年 9 月 4 日 21 時)
図 2 レーダ雨量(左)と予測雨量の比較(右)
(2005 年 9 月 4 日 21 時∼9 月 6 日 21 時)
2500
RMSE = 324[m 3/s]
CORREL= 0.91
NASHEL=0.71
流量(m3/s)
2000
雨量計入力
WRF Run-1
1500
1000
500
0
9/4 0:00
9/5 0:00
9/6 0:00
9/7 0:00
9/8 0:00
9/9 0:00
図 3 48 時間流出予測と観測流量の比較
(初期値:2005 年 9 月 4 日 21 時)
研究報告
N08058
担 当 者
連 絡 先
[非売品・不許複製]
キーワード:降雨予測,出水予測,ダム運用,WRF モデル,水循環解析モデル
豊田
康嗣(地球工学研究所
流体科学領域)
(財)電力中央研究所 地球工学研究所
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©財団法人電力中央研究所
平成21年8月
08−033