経営学総論 第6章 経営戦略とイノベーション 法政大学教授 洞口治夫 1 ①経営の多角化 ②需要の価格弾力性 ③経験曲線 ④新規事業創造の戦略 ⑤ネットワーク戦略 ⑥ビジネス・アーキテクチャ ⑦モジュラー型と擦り合わせ型 ⑧トヨタ生産方式(TPS) ⑨イノベーション・マネジメント ⑩イノベーションと企業戦略 2 ①経営の多角化 • 企業成長の典型的な方法 • 新商品開発と新市場の開発 • 既存企業をベースとした新規事業の開発 として行われる。⇔ベンチャー・ビジネス、 起業 • 既存企業の経営資源のうち、未利用資源 を利用する。 3 未利用資源とは何か。 • 5対7のように、生産設備の利用時間/利 用能力にあまりがでるケース。 • ボトルネックの前後。 • 知識・ブランドイメージ・インターネットサイ トのように、追加的な利用にかかわるコス トが低いケース。 • 異なる利用方法が考えられるケース。 4 アンゾフの4分類 製品 現 新 現 市場浸透力 製品開発 新 市場開発 多角化 使命(ニーズ) 5 多角化に匹敵する戦略 製品 現 新 市場浸透力 営業・顧客掘り 起こし・ フェスティバル 市場開発 国際化・年齢対 応・所得対応 製品開発 新規事業・ プロジェクトX 使命(ニーズ) 現 新 多角化 6 <復習> Alfred D. Chandler 『経営戦略と組織』 Strategy and Structure, 1969 7 <復習>チャンドラー • 「組織は戦略に従う」 =多角化戦略による事業部制の成立 8 <復習> 第2章②企業ドメイン • ドメインとは「領域」のこと。 • 企業が、自社の事業領域を定義すること。 • その定義は、①株式会社の定款、②設立 目的、③社是・社訓、④会社のCMコピー、 ⑤コーポレート・ブランド、⑥年間の事業方 針、⑦社長・CEOの挨拶、などに現れる。 9 <復習> Igor Ansoff イゴー・アンゾフ (1918-2002) Corporate Strategy, 『企業戦略論』, 1965. 10 <復習>アンゾフの4分類 製品 現 新 現 市場浸透 製品開発 新 市場開発 多角化 使命(ニーズ) 11 アンゾフのタイプ分類 水平的多角化 中間財 事業部 顧客 12 アンゾフのタイプ分類 垂直的多角化 新事業部 事業部 顧客 13 アンゾフのタイプ分類 集中的多角化 中間財 事業部 親会社と子会社で 共通の尺度がある 顧客 14 プロダクト・ポートフォリオ・ マネジメント • PPM・・・プロダクト・ポートフォリオ・マネジ メント • 縦軸・・・市場成長性 • 横軸・・・市場占有率 • PPMは多角化の行き過ぎを整理するため の理論です。 15 PPMとは、 市 場 成 長 率 成長率・高 成長率・高 市場シェア・小 市場シェア・大 →問題児 →スター 成長率・低 成長率・低 市場シェア・大 市場シェア・小 →負け犬 市場シェア →ミルクカウ 金のなる木 16 PPMは、 多角化の必要性を説明できる。 • ミルクカウを持っているときに、 成熟した市場から生まれる キャッシュフローを、次にどう使 うか? 17 PPMで考えると、、、 • 今、負け犬の状態にある事業部 門は、どのような条件のもとで、合 理化するべきか? 18 PPMとは、 市場成長率 市 場 シ ェ ァ 成長率・高 成長率・高 市場シェア・小 市場シェア・大 →問題児 →スター 成長率・低 成長率・低 市場シェア・小 →負け犬 市場シェア・大 →ミルクカウ 金のなる木 19 PPMと需要の価格弾力性は、 市場成長率 市 場 シ ェ ァ 成長率・高 成長率・高 市場シェア・小 市場シェア・大 →超硬直的 →硬直的/弾力的 成長率・低 成長率・低 市場シェア・小 市場シェア・大 →弾力的 →弾力的 20 製品ライフサイクルの認識は、 事業領域の再定義の基本 • • • • 第2章②企業ドメイン、③事業ドメイン 導入期、成長期、成熟期、衰退期 需要の価格弾力性は、硬直的→弾力的 成熟期に何をするか。何もしないか。 21 ②需要の価格弾力性 • 弾力性は、普遍的な 概念:戦略のツール • 価格設定の指針 • a:販売数量 • Δa:販売数量の変化 • b:価格 • Δb:価格の変化 a a e b b 22 練習問題① • ある大学院では、250万円の授業料を、 225万円に値下げしました。250万円の ときには、30人の受験者がいましたが、 225万円では45人の受験生に増加しま した。このときの需要の価格弾力性を求 めなさい。 23 値下げ問題・答え 弾力性の 分子 (45-30)/30 0.5 = 分母 (225-250)/250 -0.1 弾力性=|0.5/-0.1|=5 24 値下げ問題・答え・その2 1/2を分母にかけるケース 15 (45 30) 0.5 (45 30) .5 e 37 25 (225 250) 237 .5 0.5 (225 250) 6 2 19 15 5 10 2 3.8 5 95 19 25 練習問題② • N県の米作は、昨年に比較して豊作とな り、収量が1.5倍に増えました。そのとき、 価格が前年比の5分の3になりました。こ のときの需要の価格弾力性を求めなさい。 26 答え (今年の収量 昨年の収量) 昨年の収量 e 1.5 1.5 2.5 0.6 (今年の米価 昨年の米価) 3 5 昨年の米価 27 練習問題③ • 新婚旅行では、一泊50000円のホテルか、 75000円のホテルか、どちらのホテルを 予約してもよい、と思っているX君の、ホ テルに対する需要の価格弾力性は、いく つか。 28 答えを図に描くと、 価値財の「シートベルト」と 新婚旅行のホテル代は同じで、、、 価格 X君の需要曲線 7.5万円のホテルの供給曲線 5万円のホテルの供給曲線 数量 29 分子は変化しないのでゼロ (11) 0 0 1 1 e 0 25000 (50000 75000 ) (1/ 3) 75000 75000 需要の価格弾力性は低い。 硬直的、とも表現する。 30 練習問題④ • 「わが社では、求人広告を出しておけば、 現行の賃金で、いくらでも募集がくる」とコ メントしている日系C国現地法人のマ ネージャーがいる。賃金を縦軸、労働供 給を横軸としたときに、このマネージャー が直面している労働供給曲線は、どのよ うな形をしているか。 31 答えを図に描くと、 労働者全体の供給曲線は水平 価格 企業の 労働需要曲線 C国の労働供給曲線 数量 32 分母がゼロなので、弾力性は∞ (これからの採用 今までの採用 ) 今までの採用 e プラスの数 0 (これからの賃金 いままでの賃金 ) いままでの賃金 ルイスという経済学者は、「無限に弾力的な労 働市場」の概念を開発途上国に当てはめて議論 し、ノーベル賞を得た。 33 練習問題の意図 • 計測して得られた数値データがなくとも、 需要の価格弾力性を推計できる。 • 弾力性が1より小さいとき、価格は硬直的 であり、付加価値が高い。参入チャンス。 • 「多少、値がはってもいいものが欲しい。」 • 「オプション装備が1万円単位」と 「特売日、全品100円引き」の違い。 34 高いと買えない 価 格 需要曲線は 安いと みんな 買う 右下がり 購入数量 35 価 格 価格が下がったときに、 どのくらい購入数量が p0 増えるでしょうか? p1 q0 q1 購入数量 36 売上高(p×q)は、 • 製品価格pと販売数量qで決まります。 • 4つのpは、製品、価格、販路、販促ですが、 価格決定は、経営戦略として大切です。 • 値引き販売が収入増になる場合と、赤字 増になる場合があります。 37 価 格 需要の価格弾力性が1である、 とは、価格変化ののちに、売上高 が変化しない状態を指します。 p0 直角双曲線に なっているはずですね。 p1 q0 q1 購入数量 38 練習問題⑤ • ある大学院では、250万円の授業料を、 187.5万円に値下げしました。250万 円のときには、30人の受験者がいました が、187.5万円では40人の受験生に 増加しました。このときの需要の価格弾 力性を求めなさい。 39 需要の価格弾力性は1になるはず。 • 250万円×30人=7500万円 • 187.5万円×40人=7500万円 • p0q0=p1q1 40 基準点をp0にすると、 1になりません。 (40-30)/30 10/30 = (187.5-250)/250 62.5/250 弾力性=|(1/3)/-(1/4)|=4/3 41 1/2を分母にかけると、 1になります。 (40 30) 0.5 (40 30) e (187 .5 250) 0.5 (187 .5 250) 2 7 2 7 10 35 62 .5 218 .75 1 42 弾力性の意味 • マイナスをつけるか、絶対値をとるかする ので、ゼロから無限大までの値をとります。 • 弾力性が1である、とは、販売価格を変化 させても、販売数量が増えるので、販売総 額が変化しない状態を意味します。 • 需要の価格弾力性が、弾力的か、硬直的 か、が重要なポイントです。 43 多角化の論理 • • • • • 多角化の定義は、なにか。 多角化に匹敵する戦略はあるか。 企業が多角化をするのはなぜか。 どのような多角化が成功するか。 選択と集中との関連はなにか。 44 多角化(diversification)の定義 • 日本における研究 • 「企業が事業活動を行って外部に販売する 製品分野の全体の多様性が増すこと」(吉 原・佐久間・伊丹・加護野『日本企業の多 角化戦略』日本経済新聞社、1981年) • 本業集約型、本業拡散型 • 関連集約型、関連拡散型 45 多角化の定義に加えられるべき 理論的視点:代替の弾力性 • 多角化によって提供さ れる財の代替の弾力 性が低い。 • 本業と関連分野の区 別が必要。 • 本業bと関連分野aの 代替の弾力性は低い。 • 例・トヨタの車とトヨタ・ ホーム a a e b b 46 たとえば、 • • • • • • 缶コーヒーとミルク入りコーヒー飲料 代替可能 缶コーヒーと紅茶 缶コーヒーと炭酸飲料 →同一事業部 缶コーヒーとビール 代替不可能 缶コーヒーとウィスキー 缶コーヒーと居酒屋 →複数事業部 47 ③経験曲線 • 縦軸にコスト • 横軸に累積生産量 • 累積生産量に依存してコストが低下する。 48 経験曲線を描いてみましょう。 49 ④新規事業創造の戦略 • • • • バーゲルマンの理論 2人の人物の必要性 新規事業を思いつき、推進する人 その人を社内で擁護する上司=チャンピ オニング(擁護者) • この2人は、インフォーマルに結びつく。 50 <復習> 第2章③事業ドメイン • 複数の事業を展開する企業が、各事業分 野で何をするか、を定義する必要が生まれ る。⇒ドメインの定義 51 <復習>ドメインの定義 レビット「マーケティング近視眼」 • 顧客はドリルが欲しいのか。あるいは、 ドリルであけた穴が欲しいのか。 • ドリルを売るのか、ドリルで空けた穴 を売るのか。 52 <復習> 左は鉄工用ドリル (左)鉄工用ドリルの穴 右はアルミ用ドリル (右)アルミ用ドリルの穴 http://homepage3.nifty.com/jg3adq/know.htm 53 <復習>レビットにならって、 身近な事例を考えてみましょう。 • 自動車を買って手に入れたいものは、輸 送の手段か、「かっこよさ」か。 • マクドナルドで手に入れたいものは、エネ ルギーか、おいしさか、それとも、時間か。 54 <復習> 「ドメイン」=事業範囲 「定義」=自らの認識 • すべての企業構成員、経営者、起業家が、毎 日、暗黙のうちに行っている。 • 自分が何者か、を認識することは、むずかし い。 • ドメインの定義 =事業範囲に関する自らの認識 55 <復習>ドメインの再定義が遅れ ることから、なにが生まれてしまうか。 • 「成功体験のある人ほど、それにとらわれて 失敗する」小倉昌男、『経営はロマンだ!』、 日経ビジネス文庫、p.93. • クリステンセン『イノベーションのジレンマ』、 持続的イノベーションと破壊的イノベーショ ン。 • 話は「暗黙の戦略」が共有されて、変化への 抵抗が生まれる。 56 <復習> 成功をするためには、 絶えず変革=自己革新 を続けなければならない。 57 <復習>ドメイン・コンセンサス • ドメイン・コンセンサス=事業領域について の経営側、顧客側の認識の一致。 • 経営内の不一致 • 経営と顧客の不一致 • ある層の顧客と、別の顧客の不一致 58 <復習>組織のパラダイム変革 • 組織内の一部の人間が、組織に共有され ていたパラダイムを変革していく。 • 少数者による成功例の提示 • 危機感の醸成 • 追随者の出現 • 古いパラダイムにこだわる人を少数派へ 59 ⑤ネットワーク戦略 • 少数者による成功例の提示 • 少数者が社内に存在しない場合に、社外 との連携を求める。 • 社内に資源がない場合に、社外の資源を 利用する。 • 社外から、知識・経営のヒント・人材を得よ うとする。 60 ⑥ビジネス・アーキテクチャ • 新規事業をはじめるときに、どのような組 織で対応するのか? • アーキテクチャー:architecture:建築学、 建築様式、構造、構成、設計、体系、コン ピューターのハードウェア、ソフトウェアの 論理構造 61 新組織の組み方(1) • • • • • ①社内既存組織で対応 プロジェクト・チーム 選任チーム ②社内の新組織で対応 新部局、新部課の設立 62 新組織の組み方(2) • • • • • • ③社外に新組織を設立 子会社の設立、既存企業の買収 ④社外で他の企業と協力 アライアンス 合弁事業の設立 バーチャルな組織をインターネット上に構 築 63 ⑦モジュラー型と擦り合わせ型 • モジュール化とは、もともとは、自動車産業 などの製造業において、複数の部品を組 み合わせて、一つの「モジュール」とし、最 終組み立て工程の作業付加を低減させる 試み。 • 例:コックピット・モジュール ドア・モジュール 64 ビジネスもモジュール化できる。 • • • • • アウトソーシング(外注委託)の流れ 製造=下請け 情報処理=SEの派遣 総務/給与計算=派遣 営業、研究開発 65 何が企業を成り立たせているか? • 製造、情報処理、総務・人事、営業、研究 開発、などはすべて「外注」できる。 • 日本企業の年功昇進制度によって「ぶら下 がり社員」が増えた。 • 企業が成り立つために、本当に必要なこと は何か?=「コア・コンピタンス」 66 <復習>ポーターの価値連鎖 支 援 活 動 企業のインフラストラクチャー 人事・労務管理 技術開発 調達活動 調 達 物 流 製 造 主活動 出 ・ サ 販 マ ー 荷 売 ー ケ 物 テ ビ 流 ィ ス マ ー ジ ン ン グ 67 擦り合わせ • 擦り合わせとは、細かな調整を行うこと。 • 製品開発の段階において、製品の仕様を 決めるときに、細かな調整が必要になるこ と。 • 例。自動車生産でのモックアップ。車体に、 部品を組み込んでいくと、入らなかったり、 熱が逃げなかったりする、という問題を解 決するプロセス。 68 ⑧トヨタ生産方式 • トヨタは擦り合わせが得意 • 東京大学、藤本隆宏教授の説。 • 日本企業は、製品開発、生産組織、販売 方法などで、方法の擦り合わせを行うのが 得意 • JIT生産方式による在庫削減 69 ⑨イノベーション・マネジメント • Innovation:革新、新機軸 • 「コア・コンピタンス」を高める活動 • イノベーション=革新、を導き出すために、 何をするのか。 • 社長の役割の変化=調整者から、革新を 導き出す人へ。 • 多様性の許容⇔官僚制/「金太郎飴」 70 法政大学には、 • 法政大学イノベーション・マネジメント研究 センター • 法政大学専門職大学院イノベーション・マ ネジメント研究科 • があり、イノベーション・マネジメントについ ての研究と教育を行っている。 71 ⑩イノベーションと企業戦略 • 世界中の誰もが求めているものがイノベー ション。 • 20世紀的ないくつかのパターンはある。 • (例)高級品と言われていた商品を、安価 に大量に提供する。 • 自動車、海外旅行、回転寿司、コーヒー 72 21世紀的なパターン • インターネットという社会インフラを利用し たビジネス • eコマース=物販(本、携帯電話、服) • 情報の販売=音楽、出会い系、新聞 • 個別サービスの販売=コンサルティング • 知識の販売+知識の結合 73 専門知識の重要性 • 長期にわたる専門知識の探求のなかで、 その副産物を利用する。 • 研究の対象を定め、長期にわたって専門 家と対話し、知識を蓄えるなかで、その副 産物の意義を見捨てない。 74
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