(現地調査 2006 年 7-8 月) 円借款事業事後モニタリング報告書 評価者:笹尾 隆二郎(アイ・シー・ネット株式会社) 案件名:パキスタン「ビンカシム火力発電所 6 号機増設事業(1)(2)」(L/A No. PK-P30, PK-P39) [借款概要] 承諾額/実行額 借款契約調印 貸付完了 事後評価 実施機関 :27,525 百万円/25,089 百万円 :1992 年 3 月、1994 年 11 月締結 :1999 年 3 月、2001 年 2 月 :2001 年度 :パキスタン国カラチ電力供給公社(KESC, Karachi Electric Supply Corporation Limited) [事業目的] カラチ市近郊のビンカシム火力発電所において、210MW の発電機及び送変電設備を増設することにより、カラチ市周辺の電力供給を図り、もって同地域の 民生向上、対象地域の経済成長に寄与する。 コンサルタント:東電設計 コントラクター:丸紅、Interhom (PVT) Ltd.(パキスタン)、Siemens Pakistan Engineering Co., Ltd. / China Northwest Electric Power Group (パキスタン・中国) [結果概要] 項目 事後評価時 事後モニタリング時 [有効性・イン パクト] 有効性 発電量は事後評価時以降もほぼ計画値通りの水準を保ち、引き続き対象地 域の重要な電力供給源となっており、有効性は高い。 (1) 発電機(6号機) (1) 発電機(6号機) ・ 本発電機は、当初計画を上回る効果を発現している。一方、過 ・ 本発電機の稼動状況は、事後評価時同様ほぼ計画値通りの発電量を供 剰運転による設備の早期劣化に留意する必要がある。 給しており、全体的に概ね良好である。なお、2000 年以降の稼動停止 時間の増加は、施設の一部不具合の修理作業によるものである。 <表 1:発電機(6号機)の運用状況> <表 1:発電機(6号機)の運用状況> 年 最大 出力 (MW) 総発 電量 (GWh) 計画値 実績値 計画値 実績値 97-98 210 219 (104%) 981 931 (95%) 98-99 210 213 (101%) 1,174 1,443 (123%) 99-00 210 210 (100%) 1,174 1,468 (125%) 1 年 最大 出力 (MW) 総発 電量 (GWh) 計画値 実績値 00-01 210 210 (100%) 01-02 210 200 (95%) 02-03 210 205 (98%) 03-04 210 205 (98%) 04-05 210 207 (99%) 計画値 1,542 1,542 1,542 1,542 1,542 実績値 1,461 (95%) 1,510 (98%) 1,492 (97%) 1,551 (101%) 1,472 (95%) 発電所 利用率 (%) 熱効率 (%) 所内率 (%) 稼動停 止時間 (時間) 計画値 実績値 実績値 63.83 60.57 (95%) - 63.83 73.63 (115%) - 63.83 75.13 (118%) 38.17 発電所 計画値 利用率(%) 実績値 実績値 - - 5.85 実績値 - - 72.28 熱効率 (%) 所内率 (%) 稼動停 止時間 (時間) 実績値 90.0 79.4 (88%) 36.74 90.0 82.1 (91%) 36.06 90.0 81.1 (90%) 35.95 90.0 84.1 (93%) 36.49 90.0 80.0 (89%) 36.32 実績値 6.05 6.10 6.32 6.06 6.23 実績値 541 413 398 367 622 出所:KESC ・ 対象地域全体で見ると、需要は増加している一方(5 年間で年 平均 5.14%の伸び) 、カラチ電力供給公社(KESC)の発電所の供 ・ 本発電機は、2004/05 年時点で対象地域への電力総供給量の 15.8%を供 給能力は横ばいであり、かつ設備能力を大きく下回っている。 給しており、引き続き重要な電力供給源となっている。ただし対象地 この状況下で増設された本発電機は、対象地域への電力総供給 域全体で見ると、需要は依然増加している一方(5 年間で年平均 3.4% 量の 13.6%を供給しており、逼迫した電力需給改善に貢献して の伸び)、KESC による新規の発電所建設がなかったため、供給は横ばい いる。 の状況にある。KESC は、事後評価時にすでに行っていた水利電力公社 (WAPDA)や IPP の発電所からの電力購入を漸増させ、増加する電力需 要に対応している。 ・ 全体としては慢性的な電力不足が続いており、依然として計画停電が <図 1:対象地域の電力需給の推移> 行われている((2)参照)。 <図 1:対象地域の電力需給の推移> (MW) 2,400 2,200 2,000 KESC 発電 所設備能力 1,800 KESC 管内 最大電力需要 1,600 1,400 KESC 発電 所可能出力 1,200 1,000 2000-01 出所:KESC 2 01-02 02-03 03-04 04-05 (2) 送変電設備 (2) 送変電設備 ・ 供給カット電力量は、98-99 年の約 102GWh と比較して、99-00 ・ 最大供給カット電力は、事後評価時からやや改善傾向にはあるものの、 ほぼ横ばいである。供給カット電力量は情報・データ収集に制約があ 年には 7.3GWh と、大幅に減少している。 ったため不明であるが、関係機関へのヒアリングでは、事後評価後の 水準は明らかに事業開始当初の 90 年代を上回っているだろうとの回答 <表 2:対象地域の計画停電の推移> が得られた。 最大供給カット電力 供給カット電力量 年 (MW) (MWh) <表 2:対象地域の計画停電の推移> 94-95 286 30,853 最大供給カット電力 供給カット電力量 95-96 268 53,188 年 (MW) (MWh) 96-97 341 85,934 00-01 262 不明(未入手) 97-98 300 50,201 01-02 201 不明(未入手) 98-99 338 101,963 02-03 141 不明(未入手) 99-00 238 7,307 03-04 80 不明(未入手) 04-05 220 不明(未入手) 出所:KESC (3) 財務的内部収益率(FIRR) (3) 財務的内部収益率(FIRR) ・ マイナス(審査時 9.3%) ・ 実施機関よりキャッシュフローに関する詳細情報が入手できず再計算 ・ マイナスとなる主な原因は、盗電によるシステムロス率の増 は困難であるが、発電電力量・システムロス率が事後評価時とほぼ同 加、燃料費の高騰にも拘らず電力料金が政策的に低く抑えられ 水準、売電価格・燃料価格は共に上昇していることから、FIRR は事後 ていることなどである。 評価時点と同等と推測される。 (費用)資本費用、燃料費、運営維持費 (便益)6 号機増設による売電収入の増分 <表 3:FIRR 算定根拠> <表 3:FIRR 算定根拠> アプレイザル時 実績値 (事後評価時) 発電電力量 (GWh) 1,174.2 1,443.0~ 1,468.0 売電価格 燃料価格 (Rp/kWh) (Rp/kWh) 1.89 0.373 2.33~ 1.16~ 2.56 1.85 システムロス率 (%) 21.0 31.5~ 38.6 註:価格はすべて 1997 年固定価格表示 アプレイザル時 実績値① (事後評価時) 実績値② (事後モニタリング 時:2004/5 年) 発電電力量 (GWh) 1,174.2 1,443.0~ 1,468.0 売電価格 (Rp/kWh) 1.89 2.33~ 2.56 燃料価格 (Rp/kWh) 0.373 1.16~ 1.85 システムロス率 (%) 21.0 31.5~ 38.6 1,471.6 4.56 3.09 (2005 年) 34.2 出所:評価者作成 註:アプレイザル時と実績値①は、1997 年固定価格表示、実績値②は修正なし。 インパクト (1) 社会に対するインパクト (1) 社会に対するインパクト ・ 一般家庭・産業部門に及び、カラチ市の産業・民生に相応の影 モニタリングでは、以下①~④の指標について分析を試みた。 響を与えていたと思われる計画停電が減少した(有効性(2)参 照)。 ①カラチ地域の GRDP 3 カラチ地域(シンド州全体)のみの GDP データは整備されていないが、 実施機関によれば、 世銀の推計*では 2004-05 年期において 280 億ドル強、 うち電気・ガス供給による収益は 10 億ドル強、さらに電力・ガス部門は 1991 年から 2005 年間に 10%以上の成長を達成したとされているとのこ と(*未確定) 。なお、カラチ地域はパキスタン最大の工業・商業都市であ ることから、全国の GNP の趨勢と相関して向上していると推察される。 <表 4:パキスタン全国 GNP> 年 実質 GDP 成長 率(%) 2000-01 01-02 02-03 03-04 04-05 1.8 3.1 4.7 7.5 8.6 出所:Pakistan Economic Survey ② 需要家1軒あたり年間事故停電時間(分/年・軒) ③ 需要家1軒あたり年間事故停電回数(回/年・軒) ・ いずれも正確な情報は入手できなかったが、これらの数字は本事業実 施以前よりも増加している可能性が大きいと推測される。その要因は、 6 号機を含む発電部分のパフォーマンスに拘らず地域の電力需要に対 する発電の絶対量が不足していること、かつ KESC の送電網全体に維持 管理の不十分さや盗電などの問題があることである。 ④ 電力使用者数・使用量 ・ いずれも施設稼動開始時から増加傾向にある。本事業以降、KESC 管内 で特に発電所の建設はないことを考慮すると、本事業は対象地域にお ける電力利用の拡大に一定の貢献をしているものと考えられる。 <表 5:電力使用者数・使用量> 電力使用者数 居住者(人) 商業関係(人) 工業関係(人) 電力使用量(GWh) 1997-98 年 (施設稼動開始時点) 1,060,000 337,004 28,048 6,138 2003-04 年 1,350,000 407,902 32,574 7,832 出所:KESC (2) 環境に対するインパクト (2) 環境に対するインパクト ・ 騒音・振動の民家への影響、温排水による海洋への影響、周辺 ・ 2006 年 3 月の実施機関による内部監査では、SOX(硫黄酸化物) ・NOX 大気の状況等、いずれも特段の問題は生じていない。 ( 窒 素 酸 化 物 )・ 騒 音 ・ 排 水 の い ず れ も 、 環 境 行 政 を 司 る ・ 実施機関の所有する排煙のモニタリングシステムが故障して EPA(Environment Protection Agency) 傘 下 の NEQS(National いるため、修理する必要がある。 Environment Quality System)の規定範囲内に収まっている。 ・ 排煙のモニタリングシステムに関しては、設置より 10 年が経過し十分 4 に機能していないため、現在修理工程に入っている。また、移動式モ ニタリング車両(周辺大気:KfW 借款で調達)は稼動しているものの、 プログラムにやや問題があり、改善される予定である。 [持続性] 実施機関、運営・維持機関ともに、事後評価以降引き続き新規人員採用が 凍結されており、実施機関の財務赤字も事後評価以降改善されていない。い ずれの点とも、実施機関民営化(2005 年 12 月)後の対策が期待される。 (1) 技術 (1) 技術 ・ 発電所の職員数は 862 名、うち管理職 122 名、作業員 740 名(技 ・ 発電所の職員数は全体で 746 名、うち 149 名が技術者。事後評価時か 術者であるかどうかは不明)。アジア開発銀行(ADB)の指導に ら 116 名(13.5%)減少しているが、機構改革の一環で 1996 年から数 よる合理化の下、新規雇用・退職者の補充は禁止されている。 年間職員の新規採用が凍結されていたことによるもの。発電所は、最 低限の技術レベル確保のため(組織としての最低限の技術水準の維持 のため)、今後職員数を漸増させたい意向。 ・ 技術者は全員、工学の学士号を保有しており、ボイラーのオペレータ ーも公的な資格を持っている。KESC の研修機関や国外の機関での研修 機会もある。発電機のコントロールルームには備え付けのマニュアル もあり、活用されている。 (2) 体制 (2) 体制 ・ 本事業の運営・管理は、パキスタン国内の二つの電力会社の内 ・ 運営・管理体制は事後評価時と同じ。 の一つである KESC の監督の下、ビンカシム火力発電所が行っ ・ KESC は 2005 年 12 月に民営化された(資本構成は、政府・公的部門保 ている。KESC の従業員数は 12,499 名(99 年 6 月)。 有分 27%、民間保有分 73%、CEO はドイツ人)。従業員数は 10,188 名 ・ パキスタン政府は、電力セクターの構造改革(機能分担、電力 (2006 年7月)で、事後評価時より 2,311 名(18.5 %)減少している 市場自由化、機構改革(民営化含む)等)への注力を表明。 が、発電所同様、1996 年から数年間は職員の新規採用が凍結されてい たことによるもの。 ・ ADB による実施機関合理化支援は、KESC の民営化にむけての原動力と なっており、今後の経営改善を通して持続性全般にも貢献していくと 思われる。 ・ 民営化後の諸施策およびその影響については、情報収集に制約があっ たため明らかでない。現地の意見は、もう少し長い目で見て具体的な 成果を見るべき、というもの。 (3) 財務 (3) 財務 ・ KESC の財務状況は年々悪化している。原因は、重油価格高騰を ・ KESC の収益状況は改善していない。経常損益は、1998 年度の約 73 億 反映しない政策的な売電価格の設定、盗電によるシステムロス ルピーの赤字が 2004 年度には約 119 億ルピーの赤字へと拡大したが、 率の上昇、金融費用負担の高さ等であり、売上債権の回転期間 原因は事後評価時とほぼ同じである。なお、2002 年度から 3 年間は政 も悪化しているところ、借入への依存度が高い。 府補助金が拠出され、2004 年度には最終的な損益は 4.6 億ルピーの黒 ・ 重油価格高騰対策として同国政府は国内産天然ガスの電力セ 字となったものの、今後の補助金投入の見込みはない。 クター優先割り当てを実施。ビンカシム発電所の発電量の 44% ・ 発電燃料のガスへの転換が進み、2005 年現在のガス発電は 76%となっ 5 がガス利用による(2001 年 2 月)。 ており、事後評価時と比較するとおおよそ年間 12 億 6600 万ルピーの 節約になる。これは売上高の 3.2%に相当する。2008~2010 年頃には ガスの需要が供給を上回るとされているが、ガス燃料の確保に関して は、KESC とガス供給会社との間で長期契約が結ばれており、特に問題 ないと考えられる。 <維持管理状況> <維持管理状況> ・ 6 号発電機は良好に稼動しており、特段の問題はない。ただし、 ・ 調達機材のメーカーのマニュアルに沿った維持管理作業が定期的に行 過剰運転や定期点検の未実施による設備の早期劣化の恐れに われており、消耗品の在庫管理も十分である。6 号発電機は概ね良好に つき留意が必要。 稼動しているが、特定の部品の問題や磨耗が確認されており、2007 年 12 月にオーバーホールが予定されている。 [教訓、提言及 び資料情報と モニタリング 方法] (1) 事 後 評 価 (1)教訓、提言とも記載なし。 報告書及び 事後評価後 に実施した 評価等の教 訓及び提言 をフォローアップ (2) 事 後 モ ニ タリング時 の教訓及び 持続性確保 の為の提言 実施機関において、対象地域全体の電力需要増に対応する新規計画、およ び財務状況改善のための検討が必要である。 (1) 事後評価時の教訓・提言のフォローアップ ・ 該当なし。 (2) 事後モニタリング時の教訓・持続性確保のための提言 ・ 実施機関の組織全体としては、電力需要の増加に応え計画停電を減ら すことが急務であり、新規の発電所建設や送配電網の整備・改善への本 格的な取り組みが必要である。 ・ 情報開示への協力があまり得られず、事業効果のモニタリングや情報 収集を通じた妥当性の検証自体が困難になるので、新機関への移管時 (民営化後)には業務引継ぎが滞りなく行われるような取り組みが必 要である。 6
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