ハイドロサイクロンの レイノルズ応力モデル

混相流
ハイドロサイクロンの
レイノルズ応力モデル
Mike Slack(Fluent Europe Ltd.)
成させました.そこで,この新技術の潜
在能力を実証する目的で,75mm径のハイ
ドロサイクロンを大気に開放し,安定し
た気柱で調査しました.入口から供給す
るのは石灰石と水のスラリーです.CFD
モデルは主相の液体(水),気柱に成長す
る気相に加えて,10∼40μm径の粒子が入
った4種類の粒状相という6相で,ナビエ
ストークス方程式19本およびレイノルズ
応力の方程式6本が70,000セルのモデルで
計算されました.
その結果,最小の粒子は動径方向に受
ける力が弱いため,水中に浮遊し続け,ア
ンダーフローとオーバーフローの出口で
水と同じ割合に予想通り分割されていま
した.これに反して,30∼40μmと粒子が
大きくなると,動径方向に受ける力が強
くなるので,懸濁液中に留まる物質の量
も減少していました.大きい粒子がサイ
クロンに流入すると,直後にサイクロン
の壁面に均一層を形成しますが,層の厚
さは粒子がアンダーフローに接近すると
共に次第に薄くなり,アンダーフローで
大部分の粒子が除去されていました.
予測による分離効率は,実測の傾向
[1]
に正しく従っていました.スラリー分離
の実測に影響する要因や,強い渦流が絡
む本混相系の安定度および感度に影響す
る要因を考えると,今回の結果はこの種
の解析で極めて見事なものと言えるでし
ょう.
1
Fluent NEWS fall 2004
気柱がハイドロサイクロン
の中心で発達する様子
T.C. Monredon, K.T. Hsieh and R.K. Rajamani,
International Journal of Mineral Processing, 35,
p. 65-83, 1990.
100
実測値
80
FLUENTによる予測
60
40
20
0
0
10
20
粒径(μm)
30
40
予測による分離効率曲線を実測によるサイクロン
性能と比較(スラリー重量が10.47%の場合)
16
パスラインをサイクロ
ンの滞留時間で色分け
reference:
アンダーフロー回収率(%)
サイクロンセパレーターは,おそらく
業界で最も広く普及している分離器です.
この分離器は可動部品がなく,種々の材
質から簡単に製造できます.しかし,サ
イクロン内部の流れは予測が大変です.乱
流モデルを正しく選択することが,乱流
の異方性を把握する上で鍵となります.ま
た,流線の曲率が大きいために流れは一
層複雑になります.
サイクロンを動作させるには,主相
(液
体または気体)
をらせん状に回転させ,こ
の回転の力を借りて微粒子の懸濁物質を
動径方向に加速します.従来式の円筒状
サイクロンには出口が2ヵ所,対称軸の両
側にあります.アンダーフローの出口は
サイクロン底の円錐の頂点にあり,オー
バーフローの出口は上面から降りた内管
(通称ボルテックスファインダー)
です.懸
濁微粒子相は主相より密度が高いのが通
例で,渦流
(スワール)
を印加するため,大
きな粒子は速やかに外壁に移動し,下向
きにらせん運動をしてアンダーフローに
なります.一方,小さい粒子は小さいほ
どゆっくりと移動するので,サイクロン
中心の近傍で上向きのらせん運動に捕獲
され,上面を突き抜け,外に放出されま
す.液体運動式サイクロン
(通称ハイドロ
サイクロン)
は上面を大気に開放して動作
するもので,サイクロン軸が低圧になる
ため,大気が逆流して気柱ができ,物理
現象はますます複雑になります.
これまでハイドロサイクロンを実際に
CFDでモデル化する場合は,その大半で
気柱がなく,微粒子相の体積負荷が少な
い事例に限定されていました.流れ計算
は単相であることが多く,ラグランジュ
粒子トラッキングアプローチ
(DPM)
で分
離効率を予測していました.ハイドロサ
イクロンは気柱ができた状態で動作する
のが普通で,スラリー供給濃度が体積に
して10%を超えているので,単純なアプ
ローチはハイドロサイクロンに適してい
ません.気柱の形状はスラリー濃度なら
びに渦流と強く相互作用しており,出口
間の流れ分岐を支配しています.
FLUENT 6.2は,市販CFDソフトウェア
として初めて,オイラー混相流アルゴリ
ズムをレイノルズ応力のフルモデルと連
最小(10μm,左)と最大(40μm,右)の粒子に関す
る体積分率分布から示唆される石灰石の粒径依存挙動