H - 核融合炉実現を目指したトリチウム研究の新展開 - 核融合科学研究所

特定領域「核融合トリチウム」成果報告会
平成22 年5月13日(木)
核融合炉液体ブランケットの
水素(同位体)センサー・ポンプの
電極高度化研究
核融合科学研究所 炉工学研究センター
近藤正聡
室賀健夫
核融合科学研究所 安全管理センター
田中将裕
総合研究大学院大学
大島智子
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1.研究背景 (核融合炉燃料増殖ブランケットの課題)
核融合炉トリチウム増殖ブランケットシステム
液体増殖ブランケットシステム
(自己冷却型 増殖燃料の交換が不要)
液体増殖材が循環し、トリチウムを連続回収
液体増殖材中のトリチウムの連続モニター・
制御が必要
固体増殖ブランケットシステム
固体増殖ブランケットから発生したトリチウムを
パージガスから回収
課題:液体増殖材中の水素(同位体・トリチウム含む)のオンライン測定
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1.研究背景 (気体・液体中の水素測定方法)
方法
原理
応用例
オンライン測定
ガスクロマトグラフィー
気体の移動相内で試料を分離、
熱伝導率を検出する
・混合気体、揮発性
の高い液体の分離・
分析
難
金属膜透過法[1]
純鉄製の水素・同位体透過壁を
透過したガスを四重極質量分析
計で測定する
・トリチウム増殖材か
らのトリチウム回収
・工業化されていな
い
流路を分岐させることで
一部可能
セラミックスで仕切った2つのエリ
アの水素分圧差により発生する
起電力を測定する
・溶融アルミニウム
[2]、溶融銅中の水素
濃度測定[3]
浸漬により直接測定が可能
固体電解質セラミックス
固体電解質センサは、液体ブランケット中の水素(同位体)を測定するのに適している
[1] J. Yagi et al. Fusion Engineering and Design 84, 1993 (2009)
[2] T. Yajima et al. Solid State Ionics 79, 333 (1995)
[3] N. Fukatsu et al. Solid State Ionics 113, 219 (1998)
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1.研究背景 (固体電解質を核融合炉液体増殖ブランケットへ応用
するための課題)
固体電解質水素センサとは
Electromotive
force :E
固体電解質が腐食・還元雰囲気で受ける影響
Solid electrolyte
(CaZr0.9In0.1O3-a)
Electrode
H2
H2
Measurement
H2
H2
H2
H2
Reference
PH2(r)
PH2(m)
H 2 → 2 H + + 2e −
Nernstの式
 PH 2(m) 

2FE = RT ∗ ln
 PH 2(r) 
F:ファラデー定数
(9.64853×104C/mol)
E:起電力(V)
R:気体定数(8.31451J/K・mol)
T:温度(K)
PH2(m):測定極側の水素分圧(Pa)
PH2(r):基準極側の水素分圧(Pa)
・液体増殖材雰囲気での腐食、
還元により機能が低下する[4]
固体電解質を腐食・還元から
保護する構造が必要
測定極側は液体増殖材と直接
接触させない、気相を有する構造の
センサ形状を検討する
[4] 岩原 表面技術 56, (2005)
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1.研究背景(固体電解質を核融合炉液体ブランケットに応用するた
めの対策)
これまでの電極構造
新しい構造の提案:緻密膜電極
三相界面(電極、ガス、固体電解
質)における電極反応
緻密な膜状にして電極とする
緻密電極の水素透過、固体電解質の腐食・
還元防止を期待する
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1.研究の目的
核融合炉液体ブランケット用のオンライン測定ができる
水素センサを開発する
・耐食性に優れた電極材の検討
水素の選択透過性を持つパラジウムを取り上げ、
緻密膜の形成条件を探索する
・液体増殖材中での水素測定の前段階評価として
気相中でのセンサ特性を明らかにする
・液体ブランケット材料中での適用の可能性を明らかにする
取扱いが比較的容易で溶融塩Flibe(Li2BeF4)と模擬できる
溶融塩Flinak(LiF-NaF-KF)中での測定を行う
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1.研究の方法
1.緻密な保護電極の開発
・コーティング方法の決定
・熱処理条件の決定
・電子顕微鏡(SEM)による表面観察
・緻密電極の耐食性評価(溶融塩Flinak中に浸漬)
2.緻密電極を塗布したセンサの電極特性評価
・ガス雰囲気中の起電力測定
・緻密電極の反応メカニズムの解明
3.液体増殖材中への水素センサ浸漬測定試験
・溶融塩Flinak中での測定
・液体増殖材中への適用性の確認
4.開発したセンサを用いた液体増殖材中の水素溶解挙動の解明
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2.緻密保護電極の開発
各種金属中への水素拡散係数
及び水素固溶度[5]
1000oC
-7
10
500oC
Pd緻密膜の形成
300oC
Pd
水素拡散係数, m2s-1
Fe
Pd
-8
H
V
10
Pt
-9
10
水素化物
塗布材:Pdフリットレスペースト
希釈材:n酢酸ブチル
塗布方法:刷毛塗り
熱処理雰囲気:大気
熱処理温度:1673K×0.5hr
Ni
赤10 0.5Pd
-10
1
1.5
2
多孔質Ptコーティング
1000/T / K
青10 Pt
0
水素溶解度, H/M
at 0.1MPa
0.1MPa
水素溶解度,
H/M at
Ti
10μm
Ta
-1
10
V
緻密膜Pdコーティング
(処理温度:1673K)
10μm
Pd
-2
10
-3
10
Ni
-4
10
Fe
Pt
-5
10
0
0.5
1
1000 / T (K)
Cu
1.5
2
[5] 深井,田中,内田著「水素と金属」,(1998)
大気雰囲気下にて1673Kに昇温・保持することで、緻密なPd膜を得ることができた
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2.Pd緻密膜耐食性の評価(液体増殖材Flinak浸漬試験)
緻密膜表面
Flinak浸漬前
Flinak浸漬後(Max973K,5hr)
緻密膜は固体電解
質保護機能が期待
できる
Pd
固体電解質
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3.気相中のセンサ特性
多孔質Pt・膜状Pdの電極を測定極・基準極に
取り付け、センサ応答・電極構造の違いを
比較する
試験装置の概要
センサプローブの構造
測定側電極(m)
基準側電極(r)
Pt線
固体電解質
CaZr0.9In0.1O3-a
Al2O3管
ステンレス管
No.
測定極側(m)
基準極側(r)
(A)
多孔質Pt電極
多孔質Pt電極
(B)
膜状Pd電極
膜状Pd電極
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3.Pd緻密膜電極の評価試験結果
873Kにおける水素起電力応答
:Pt多孔質電極
:Pd緻密膜電極
0.2
100%H2
100%H2
・センサ起電力値に安定性・
再現性が確認された
0.15
EMF / V
0.1 Ar-10%H2
Ar-10%H2
0.05
Ar-1%H2
0
Ar-1%H2
Ar-0.5%H2
-0.05
-0.1
Ar-1%H2
0
Ar-0.5%H2
873K
500 1000 1500 2000 2500 3000
Time / sec
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3.理論起電力との比較
三相界面電極
二相界面電極
C = k PH 2
E=
RT  PH 2 (m ) 

E=
ln
2F  PH 2 (r ) 
RT  PH 2 (m ) 
=
ln
2F  PH 2 (r ) 
: 三相界面理論起電力
: Pt多孔質電極
: Pd緻密膜電極
0.2
RT  C(m ) 

ln
2F  C(r ) 
: 二相界面理論起電力
: Pd緻密膜電極
0.2
100%H2/1%H2
0.15
0.15
100%H2/1%H2
10%H2/1%H2
0.05
0
-0.05
1%H2/1%H2
0.5%H2/1%H2
-0.1
600 650 700 750 800 850 900
Temperature / K
0.1
EMF / V
EMF / V
0.1
0.05
10%H2/1%H2
0
-0.05
1%H2/1%H2
0.5%H /1%H
2
2
-0.1
600 650 700 750 800 850 900
Temperature / K
多孔質電極も緻密膜電極も三相界面電極の理論起電力値に近い数値を示す
Pd緻密膜の電極反応は、二相界面電極ではなく三相界面電極である可能性が示唆される 12/17
3.Pd電極モデルの検討
当初の予想
実際の電極モデル
Pd電極表面
Lead wire
Pore
Pd
electrode
Pd電極断面
10μm
Solid electrolyte ceramics
(CaZr0.9In0.1O3-α)
e-
H2 H H
2
H+
H 2 → 2H
2H → H 2
H 2 → 2 H + + 2e −
Pd電極の表面は緻密であるが、固体電解質・電極界面に気相が存在し、
三相界面の電極反応となっている
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4.Flinak浸漬試験装置と水素センサの構造
浸漬試験装置
センサプローブ構造
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4.Flinak浸漬試験の結果
温度ヒステリシスとセンサ起電力の関係
Flinak測定と気相中測定の比較
雰囲気ガス:Ar-0.5%H2
: Dip in Flinak by 0.5%H2
: Dip in Flinak by 1%H2
: 0.5%H2 in gas
: 1%H2 in gas
: Theoretical EMF in 0.5%H2
: Theoretical EMF in 1%H2
: EMF in Flinak by 0.5%H2
: Temperature of Flinak
1000
0.04
EMF / V
0.02
800
0
B
A
-0.02
700
C
0.02
EMF / V
900
Temperature / K
0.04
0
B
-0.02
600
-0.04
-0.04
500
2000
4000
6000
Time / sec
8000
A
800
C
850
900
950
Temperature / K
気相中の試験と同様に、Nernstの式から導出される
理論起電力値に近い数値を示した
1000
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5.まとめ
核融合炉液体ブランケット用のオンライン測定ができる水素センサを開
発するために、耐食性に優れた緻密な保護電極を製作し、電極の特性
評価を行った。 本センサを用いて、溶融塩Flinak中に浸漬、水素濃度
測定を行った。
1.緻密な保護電極の開発
・緻密な保護電極の候補材料として、水素透過性に優れたPdを選択した
・Pdペーストを固体電解質セラミックスの表面に塗布し、大気雰囲気・1673Kで
熱処理することで、オープンポアが見られない緻密な膜状の電極を得ることができた
2.緻密電極を塗布したセンサの電極特性評価
・アルゴン-水素混合ガス雰囲気下でPd緻密膜電極を取り付けた水素センサの
起電力を測定し、センサ起電力及び水素ガス濃度変化に対する応答は、
従来用いられていた多孔質Pt電極と同様、三相界面電極反応の理論起電力値と
一致した
・Pd緻密膜電極は、固体電解質セラミックス・電極界面に気相を有し、
その電極反応は三相界面電極反応であると考えられる
3.液体増殖材中への水素センサ浸漬測定試験
・溶融塩Flinak中での水素濃度測定が可能であることを示した
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研究の成果
国内会議発表
日本原子力学会、プラ核学会等
国際会議2件 Toki conference (岐阜,日本、H 20),
ISFNT(H21, 中国, 大連)
論文2件
Study of Pd Membrane Electrode in Solid Electrolyte Hydrogen
(Isotope) Sensor for Application to Liquid Blankets
T. OHSHIMA, M. KONDO, M. TANAKA and T. MUROGA
Hydrogen transport in Molten Salt Flinak Measured by Solid
Electrolyte Sensors with Pd Electrode
T. OHSHIMA, M. KONDO, M. TANAKA and T. MUROGA
表彰 第1回総合研究大学大学院大学学長賞 大島智子
ペロブスカイト型プロトン伝導体の伝導機構
格子欠陥
格子欠陥
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
H+ H+
O
H+
O
O
O
O
H+
O
O
+
K
H 2 + 2h ↔ 2H +
基準極ガス:Ar-1%H2、雰囲気温度873K 時のセンサ起電力
0.2
0
EMF / V
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1
873K
-1.2
-10
-8
-6
-4
-2
10
10
10
10
10
0
10
2
10
4
10
水素分圧 / Pa
873K
水素分圧1Pa時のセンサ起電力:-0.260V
〃 2Pa時のセンサ起電力:-0.234V
Matsumoto et al. Solid State Ionics, (2000)
測定極:H2-D2混合ガス
基準極:Ar-H2混合ガス の場合
E=
EMFs for atmospheres H2 || test gas (●) plotted
against D2 molar percentage in the test gases of
H2 –D2 mixtures.
RT  P(m ) 
 − 0.0169
ln
2F  PH 2 (r ) 
融点
ブランケッ
トにおける
システム圧
平衡水素
分圧
溶融塩
Flibe
737K
0.5MPa[3]
溶融塩
Flinak
727K
10~50Pa
(973K)[1]
液体金属
Li
454K
PT=3.4×
10-9Pa[2]
XT=1appm
(773K)[2]
-0.99V
液体金属
Pb-Li
508K
28Pa
(723K)[2]
2appm
(673K)[4]
-0.13V
出口濃度
センサ起電力
(1%H2基準
873K)
-0.17~
-0.11V
腐食の
特徴
フッ化物に
よる腐食
液体金属腐
食
[1] Fukada and Morisaki, J. of Nuclear Materials, 358 (2006) 235
[2] Moriyama et al. Fusion and Engineering and Design, 28 (1995) 226
[3] Sagara et al. Fusion and Engineering and Design, 49-50 (2000) 661
[4] Reimann, Fusion and Engineering and Design, 14 (1991) 413
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