樹状細胞成熟過程で誘導さ れるチロシンホスファター ゼの機能解析

発現は、
LPS刺激後もほぼ一定であった。一方、
未刺激の状態
樹状細胞成熟過程で誘導さ
れるチロシンホスファター
ゼの機能解析
(PTPepsilon)
およびPTP-1 Bの発現が、
LPS刺激後、
上昇す
田沼 延公 [北海道大学遺伝子病制御研究所/助手]
griseochromogenes由来の抗生物質であるトウトマイセチン
では発現がほとんどみとめられない、
あるいは比較的低いPTPe
ることが明らかになった。
我々は最 近、土 壌 細 菌の一 種であるS t r e p t o m y c e s
が、PP1特異的阻害剤としてはたらくことを見出した。
オカダ酸
背景・目的 に代表される既知の阻害剤が、
セリン・スレオニン特異的プロテ
樹状細胞は、
生体内において、
最も主要かつ最強の抗原提
インホスファターゼのうち主にPP2A(protein-phosphatase
示細胞である。最近の研究により、
樹状細胞に作用してその成
type 2A)
を阻害するのに対し、
トウトマイセチンは、
主にPP1を
熟・活性化を制御する種々のligand分子が明らかにされ、
また、
阻害するという特徴をもつ。
PP1とPP2Aは、
ともに細胞内におけ
その受容体からの細胞内シグナル伝達機構が明らかになりつ
る主要なセリン・スレオニンプロテインホスファターゼであり、
これ
つある。
しかしながら、樹状細胞機能の調節・制御機構につい
らの活性は、
細胞内の全プロテインホスファターゼ活性のほとん
ては不明な点が多い。
どを占めることが明らかになっている。新規PP1特異的阻害剤、
他の多くの細胞で明らかにされてきたのと同様に、
樹状細胞
トウトマイセチンを用いて、BC-1細胞の貪食におけるPP1の役
においても、
タンパク質のリン酸化は受容体からのシグナル伝
割について検討した。
まず、未成熟BC-1細胞をLPS存在下で
達・細胞運動/遊走性の制御等に重要な役割を果たしている
24時間培養して成熟BC-1細胞とし、
この細胞のFITC蛍光ラ
と考えられている。
タンパク質リン酸化の負の調節因子であるプ
ベルしたデキストラン
(FITC-デキストラン)
の取込み
(エンドサイ
ロテインホスファターゼは、
シグナルの強さ、長さを適正に保ち、
トーシス)能を測定した。LPSにより成熟させたBC-1細胞は、
そ
結果、樹状細胞の活性化や機能を調節する因子として、有力
のままではほとんど貪食能をしめさないが、
この細胞に、
ケモカイ
な候補である。本研究では、樹状細胞の機能調節におけるプ
ンの一種であるCCL19を添加することによりFITC-デキストラン
ロテインホスファターゼの役割を明らかにすることを目的とした。
のエンドサイトーシスが著しく上昇した。一方、
成熟BC-1細胞を、
予め1 μMトウトマイセチンで5時間の前処理を行っておくと、
内容・方法 実験には、
G-CSF 依存性マウス未成熟樹状細胞、
BC-1細
胞を用いた。BC-1細胞における各種プロテインホスファターゼ
の発現を、
ノーザンブロット法やウエスタンブロット法により検討し
た。
プロテインホスファターゼは、
その基質特異性により、
チロシ
ン残基特異的なものと、
セリン・スレオニン残基特異的なものに
大別される。発現が明らかになったいくつかのチロシン残基特
異的プロテインホスファターゼ(PTP)
分子種について、
siRNA
CCL19によって誘導されるFITC-デキストランの取込みが、
大き
く減少した。
これらの結果から、
トウトマイセチンによるPP1の阻
害により、成熟BC-1細胞のCCL19で誘導されるエンドサイトー
シスが 大きく阻 害されることが 明らかになった。すなわち、
CCL19により誘導される樹状細胞の貪食において、PP1が重
要な役割を果たしていることが示唆された。
今後の展望 (small interfereing RNA)
を発現するplasmidベクターやレト
本研究により、特定のプロテインホスファターゼ分子種が、樹
ロウイルスベクターを用いて、
それらPTPの発現を細胞から特
状細胞の活性化や機能の調節に関わることが強く示唆された。
異的に欠損させることを試みた。
また、
生体内における主要なセ
今後、
これら各プロテインホスファターゼ分子種の機能、基質タ
リンスレオニン残基特異的プロテインホスファターゼのひとつで
ンパクを含めた作用機序を明らかにできれば、
これらプロテイン
あるPP1
(protein-phosphatase type1)
について、
我々が新た
ホスファターゼを治療標的として、種々の免疫疾患に対する新
に発見したPP1特異的阻害剤を用いて、BC-1細胞における
たな治療法が開発できる可能性がある。
さらに、
現在開発が進
PP1の機能を検討した。
められているがん免疫療法においても、樹状細胞は重要な役
割を担っている。PTP-1BやPTPe、
PP1を標的とした樹状細胞
結果・成果 G-CSF 依存性マウス未成熟樹状細胞、
BC-1におけるプロ
テインホスファターゼの発現をウエスタンブロット法により検討し
た。BC-1細胞をLPSで刺激し、
刺激後2-24時間後の細胞を回
収し、
その全細胞抽出液のイムノブロット解析を行った
(図1)。
チロシンホスファターゼ 、S h p - 1( S H 2 - c o n t a i n i n g
phosphatase-1)が未刺激のBC-1細胞に発現しており、
その
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の機能修飾を、
それら癌免疫療法と組み合わせることにより、
よ
り良好な治療プロトコールを開発できるかもしれない。