恒吉隆郎

平成 20 年度
システム情報工学研究科修士(社会工学)論文概要
国の安定性とその推移の量的評価
専攻名
社会システム工学
学籍番号 200720728
専攻
学生氏名
指導教員名
恒吉隆郎
橋本昭洋
グローバル化が進む今日において国際的な政治、経済、文化といったあらゆる分野で活動する主
体にとって、国家は活動の客体となり、そして活動の拠点や場所となる。そのため、国際的な活動
を行う主体にとって、国家の安定性はさまざまな意思決定を行う上で重要な要因となる。しかし、
これまで国家の安定性の量的な評価はなされていないため、本論文では 1981 年から 2004 年まで
の国家の安定性の定量的な評価を行っている。また、国家の局面を包括的に捉え、多次元の評価項
目を用いて国家の安定性を客観的に評価するために、DEA(Data Envelopment Analysis)を適
用した。評価の実施に際しては、一時点での評価に加えて、分析期間を通して国家の安定性の時系
列的な推移を測るために DEA/Malmquist Index を用いた。そして、評価対象(DMU : Decision
making Unit)となる評価対象国には、分析期間における合併分裂国であるドイツ、ソ連、ユーゴ
スラビア、チェコスロバキアを含んだ世界中の全 91 カ国と 1 地域を選定した。
本研究の分析結果としては、DEA と Negative DEA という異なる 2 つのモデルを用いた分析を
行うことによって、elusive な国家の安定性を「安定度」と「不安定度」の両方向から評価し、国
家の特性を十分に捉えた量的な評価を行うことができた。また、時系列分析では、エポックを表す
1989 年の冷戦終結が国家の安定性の世界的なターニングポイントを示し、冷戦後の世界構造にお
いては国家の安定性の格差が広がっていることが明らかとなった。分裂国分析では、ソ連、ユーゴ
スラビア、チェコスロバキアの安定性は崩壊に至る数年前から大きく低下しており、これらの一般
的な傾向として崩壊年に向かって国家の安定性が約 50 パーセント低下していることが分かった。
また、本研究での方法論的な特徴は、合併分裂を伴う DMU に対する DEA/ MI の 適用法にあ
る。これまでの DEA/ MI を適用した既存研究においては、合併分裂を行った DMU の合併分裂の
処理自体に十分な考慮がなされてこなかった。そのため、分析期間を通して単一の DMU としての
DEA/MI の変化しか見られず、合併分裂を行った複数の DMU 間における DEA/MI の相対比較が
適切に行えないという問題があった。しかし、本分析では DEA/MI の適用を方法論的に工夫する
ことにより、統一・崩壊国家の安定性の推移を同一グラフ上で表し、合併・分裂を伴った複数の対
象国間での相対比較を可能にした。