包絡分析法の新規アプローチの提案とその応用 帯広畜産大学 姜 興起 東京理科大学 野田英雄 1 研究の背景と目的 データ包絡分析法 (DEA: Data Envelopment Analysis) は,事業体の活動に投入された資源(入力)と産 出(出力)のデータに基づき,事業体の相対的な効率性を分析する手法である. いま,K 個の事業体があり,各事業体が M 種類の資源を投入して N 種類の財を産出している状況を 考える.事業体 k の入力と出力を,それぞれ {xmk > 0; m = 1, 2, . . . , M },{ynk > 0; n = 1, 2, . . . , N } で表す.また,ウェイト Vk = {vmk ; m = 1, 2, . . . , M },Uk = {unk ; n = 1, . . . , N } と u0k を用いて仮想 ∑M ∑N 入力と仮想出力を,それぞれ m=1 vmk xmk と n=1 unk ynk で表し,事業体 k のウェイトを用いた事業 ∑N ∑M 体 ℓ の効率性指標を hℓ (u0k , Uk , Vk ) = (u0k + n=1 unk ynℓ )/ m=1 vmk xmℓ で定義する. 従来の DEA モデルでは,1 ≤ k ≤ K に対して,hℓ (u0k , Uk , Vk ) ≤ 1 (ℓ = 1, 2, . . . , K); min{Vk } > 0; u0k > 0; min{Uk } > 0 の制約下で,hk (Uk , Vk ) を最大にするパラメータ Vk , u0k ,Uk を求めて,効率 性 hk (Uk , Vk ) を計算し,事業体の効率性を評価する.従来のアプローチの問題は次のように要約できる. (1) M + N の値が大きい,すなわちパラメータ数が多い場合,最適化の計算が困難となり,結果の信頼性 の低下をまねく.(2) DEA における最適化の目標が不明確になる. 本研究の目的は,上述の困難を解決しうるモデルと推定に関する新規アプローチを提案することである. 2 モデルと推定法 M = N = 2 のケースについて,提案する DEA 分析の概略は次のとおりである. (1) 入力モデル m = 1, 2 について,Xm = max{xkm ; k = 1, 2, . . . , K} とする.{Xm ; m = 1, 2} を 入力とする事業体を想定し,入力のみに注目すれば,これは最も効率性の低いもの(不効率事業体)とみ なせる.2 次元空間において,不効率事業体と事業体 k は,それぞれ点 P (X1 , X2 ) と点 A (xk1 , xk2 ) に 位置する.いま,線分 AP に直交する直線の傾きを 0 < βk < +∞ とし,事業体 k のフロンティアが線 分 AP の延長線上の点 B (x∗k1 , x∗k2 ) にあるとしよう.傾きが βk で,点 B を通る直線を事業体 k のフロ ンティアとして,その縦軸における切片 αk は (x∗k1 , x∗k2 ) の関数となる. 本研究では,線分 BP の長さが短いほど,言い換えれば 0 < αk < +∞ の範囲で αk が大きいほど,効 率性が高いとみなす.傾きが βk で,事業体 ℓ が位置する点 (xℓ1 , xℓ2 ) を通る直線の縦軸における切片を (k) (k) αℓ で表し,制約 αk ≤ min{αℓ ; ℓ = 1, 2, . . . , K} の下で,フロンティア位置 (x∗k1 , x∗k2 ) を決める.さ らに,αk と βk により v1k と v2k を推定して,点 A と点 B との相対的位置関係で効率性の分析を行う. ∗ (2) 出力モデル 基本的に入力モデルの場合と逆に考えてよい.m = 1, 2 について Xm = min{xkm ; k = ∗ 1, 2, . . . , K} とする.{Xm ; m = 1, 2} を入力とする事業体を想定して,それを最も効率性の低いもの(不 効率事業体)とみなす.v1k と v2k の推定法と類似する方法で u1k と u2k の推定を行い,フロンティアと 効率性の計算は入力モデルの場合と同様に行う. (3) 総合的効率性の分析 入力モデルと出力モデルで得られた v1k ,v2k ,u1k ,u2k の推定値を用いて, 総合的入力と出力を Ik = v1k x1k + v2k x2k と Ok = u1k y1k + u2k y2k で計算する.さらに,1 入力と 1 出 力のモデルで分析を行う. 3 提案法の特徴 提案法は次のような特徴をもつ.(1) 入力と出力について個別にモデルを構築してパラメータの推定を行 うので,計算の負荷が軽減でき,結果の信頼性も向上する.(2) モデル毎に不効率事業体が定義されてい るので,最適化の目標が明確である.(3) 各事業体について効率性の分析とともにフロンティアの推定も 得られる. 本研究では,各産業について都道府県間における経済的効率性の時間的変化を比較・検討し,地域お よび産業の類型化を試みる.このような類型化から地域経済の構造を解明することで,経済成長の促進を もたらす政策的含意の獲得が期待できる.
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