DEA: データ包絡分析法 (マネジメント・サイエンス) 目次 1 DEA 1.1 DEA とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.2 1 入力 1 出力の例から . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.3 2 入力 1 出力の例 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1 1 2 2 DEA の方法 2.1 分析に用いるデータ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.2 CCR モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2.3 効率値を求める線形計画問題の解の解釈 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 3 3 4 3 計算例 3.1 例 1:1.3 節の 2 入力・1 出力の問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3.2 例 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 4 4 4 演習問題 6 1 DEA 1.1 DEA とは • データ包絡分析法 (DEA; Data Envelopment Analysis) とは,事業体 (企業,事業所,国家, 地方自治体,病院,学校など) の経営活動の効率性を相対的に評価し,効率が低いと判断された場 合には改善の方向性を示すための方法である. • 入力 (投入) を出力 (産出) に変換するシステムとして事業体を捉え,その効率を 産出 効率 = 投入 で表して比較評価する.ただし,投入や産出が複数ある場合は効率の定義に工夫が必要となる. • この資料では,チャーンズ・クーパー・ロード (Charnes-Cooper-Rhodes) が 1978 年に提案したモ デル (CRR モデル) について説明する. 1.2 1 入力 1 出力の例から • DEA では,ある事業体が他の事業体に比べて効率が悪いとは言えない場合にその事業体は効率的 であるといい,そうでない場合は非効率的という.非効率的な事業体に対する改善のための手本 となる事業体の集合を参照集合という. 表 1: 1 入力・1 出力の例 事業体 企業名 A B C D E F 入力 従業員数 x 2 3 3 4 5 5 出力 売上高 y 1 4 2 3 4 3 効率 y/x 0.5 1.3 0.67 0.75 0.8 0.6 • 表 1 の例では,企業 B は最も効率 (= 出力/入力) が高いので効率的である.その他の企業は B よ りも効率が低いので非効率的となり,それら企業の参照集合は {B} となる. • 横軸を従業員数,縦軸を売上高として各企業をグラフ上にプロットする.このとき,原点と企業 B の点を結ぶ直線を効率的フロンティアという.非効率的な企業は効率的フロンティアを改善の目 標として売上高の増加または従業員の削減を行えばよい. 1 • このように DEA は最も先進的な事業体を基準とした評価であり,平均を基準とした評価とは異な るものである. 1.3 2 入力 1 出力の例 • 表 2 は入力項目が 2 つ,出力項目が 1 つの例であるが,この場合は単純に出力を入力で割って効率 を求めることはできない. 表 2: 2 入力・1 出力の例 その 1 (店舗数,従業員数と売上高) 事業体 企業名 A B C D E F 入力 従業員数 x1 7 20 8 2 10 18 店舗数 x2 4 5 12 12 20 3 売上高 y 2 5 4 2 5 3 出力 • 表 3 は,表 2 から売上高 1 あたりの従業員数と店舗数を求めたものである (そのため,出力の売上 高はすべての企業で 1 となっている).この表の中で最も入力の少ない企業が効率的であると言え るが,入力項目が 2 つなのでやはり単純な比較はできない. 表 3: 2 入力・1 出力の例 その 2 (売上高 1 に対する従業員数と店舗数) 事業体 企業名 A B C D E F 入力 従業員数 x1 /y 3.5 4 2 1 2 6 店舗数 x2 /y 2 1 3 6 4 1 売上高 y/y 1 1 1 1 1 1 出力 • そこで,横軸を x1 /y (単位売上当たりの従業員数),縦軸を x2 /y (単位売上当たりの店舗数) とし て各企業をグラフ上にプロットする.入力はより少ない方がよいことを考慮すると次のことが分 かる (結果を表 4 にまとめる). – F よりは B が,E よりは C がより効率的である → F, E は非効率的 – D, C, B はどの 2 つを比べてもどちらがより効率的とは言えない → D, C, B は効率的 – D と C, C と B を結んだ線分が効率的フロンティアとなる (DC 上の点は D と C を手本に, CB 上 の点は C と B を手本にすれば実現できると考える,効率的である仮想的な企業に対 応する) – A には,効率的フロンティア上の点まで含めればより効率的な点が存在する → A は非効率的 – 非効率な企業は効率的フロンティア上の点を目標として改善を図ればよい → 例えば,A は 売上 1 当たりの店舗数を現状のままとし,従業員数を 0.5 減らす改善を行えば効率的となる – 非効率な企業と原点を結ぶ線分が効率的フロンティアと交わる点を求め,効率的フロンティ ア上のその点を含む線分の両端にある企業がさきの非効率な企業の参照集合 (改善の手本と なる事業体の集合) となる → 例えば,E の参照集合は {C, D} (ただし,F は例外で,その 参照集合は {B} となる) 2 DEA の方法 事業体 (意思決定単位, Decision Making Unit; DMU) は一般に複数の入力 (投入) と複数の出力 (産 出) を持つ.しかし,前節で示した方法は投入数または産出数が 1 の場合にのみしか適用できない.本 節ではそれらが複数の場合でも適用できる方法を示す. 2 表 4: 2 入力・1 出力の例の分析結果 事業体 企業名 判定 参照集合 2.1 A B C D E F 非効率的 効率的 効率的 効率的 非効率的 非効率的 {B, C} – – – {C, D} {B} 分析に用いるデータ • 分析の対象となる事業体数 (DMU 数) n DMU1 , DMU2 , ..., DMUn • 投入データ項目数 m DMUk の投入データ xk = (x1k , x2k , ..., xmk ), k = 1, 2, ..., n • 産出データ項目数 l DMUk の産出データ y k = (y1k , y2k , ..., ylk ), k = 1, 2, ..., n 2.2 CCR モデル • 効率値の定義: – v1 , v2 , ..., vm : 投入に対する重み – u1 , u2 , ..., ul : 産出に対する重み 仮想的総出力 u1 y1k + u2 y2k + · · · + ul ylk – DMUk の効率値:θk = = , k = 1, 2, ..., n 仮想的総入力 v1 x1k + v2 x2k + · · · + vm xmk • 効率値 θk の与え方:定義で示した効率値 θk を決めるには重みの値を決めないといけない.そこ で,各 DMU の特徴が生かされた重みの付け方となるよう,次の最適化問題の最適値を DMUk の 効率値 θk∗ とする (よって,最適化問題は DMU 毎に解くことになる). DMUk の効率値を求める問題の定式化, k = 1, 2, ..., n 最大化 θk 制約条件 θj ≤ 1, j = 1, 2, ..., n (1) v1 , v2 , ..., vm ≥ 0, u1 , u2 , ..., ul ≥ 0 投入データ,産出データ,それらの重みを使ってこの式を書き下すと,次の原問題が得られる. DMUk の効率値を求める問題 (原問題), k = 1, 2, ..., n u1 y1k + u2 y2k + · · · + ul ylk 最大化 θk = v1 x1k + v2 x2k + · · · + vm xmk u1 y1j + u2 y2j + · · · + ul ylj 制約条件 ≤ 1, j = 1, 2, ..., n v1 x1j + v2 x2j + · · · + vm xmj v1 , v2 , ..., vm ≥ 0, u1 , u2 , ..., ul ≥ 0 (2) この最適化問題の制約条件は,各 DMU の効率値 θj (j = 1, 2, ..., n) が 0 ≤ θj ≤ 1 となるように するための条件である (効率値の最大値を 1 としている).この最適化問題の最適値は次の線形計 画問題 (LP 問題) を解くことで得られる (原問題と線形計画問題の最適値は一致する). DMUk の効率値を求める問題 (線形計画問題), k = 1, 2, .., n 最大化 θk = u1 y1k + u2 y2k + · · · + ul ylk 制約条件 v1 x1k + v2 x2k + · · · + vm xmk = 1 u1 y1j + u2 y2j + · · · + ul ylj ≤ v1 x1j + v2 x2j + · · · + vm xmj , j = 1, 2, ..., n v1 , v2 , ..., vm ≥ 0, u1 , u2 , ..., ul ≥ 0 ∗ , u∗ , u∗ , ..., u∗ ,最適値を θ ∗ とする. この LP 問題の最適解を v1∗ , v2∗ , ..., vm 1 2 l k 3 (3) 2.3 効率値を求める線形計画問題の解の解釈 • 以下では k = 1, 2, ..., n を DMU の番号とする. • DMUk について,DMU の集合 Rk を以下で与える. Rk = “θj∗ = 1” となるような DMUj (j = 1, 2, ..., n) の集合 = 不等式制約条件を等式で満たす DMU の集合 ∗ = {j : u∗1 y1j + u∗2 y2j + · · · + u∗l ylj = v1∗ x1j + v2∗ x2j + · · · + vm xmj , j = 1, 2, ..., n} • θk∗ < 1 の時:DMUk は非効率的であり,Rk が参照集合となる. • θk∗ = 1 の時:DMUk は多くの場合効率的となるが,θk∗ = 1 であっても入力の余剰または出力の不 足が生じている場合があり,その場合は非効率的となる (2 入力 1 出力の例における企業 F がそれ にあたる).入力の余剰または出力の不足が生じているかの判断には他の線形計画問題 (元の線形 計画問題の双対問題とスラックを求める線形計画問題) を考える必要があるため,ここでは省略す る1 . • 注意:改善目標も計算によって求めることができるが,やはり元の線形計画問題の双対問題を考え る必要があるので省略する. 計算例 3 3.1 例 1:1.3 節の 2 入力・1 出力の問題 • DMUA の効率値を求める線形計画問題 最大化 θ A = u1 制約条件 3.5v1 + 2v2 = 1 u1 ≤ 3.5v1 + 2v2 u1 ≤ 4v1 + v2 u1 ≤ 2v1 + 3v2 u1 ≤ v1 + 6v2 u1 ≤ 2v1 + 4v2 u1 ≤ 6v1 + v2 ∗ 解:θA = u∗1 v1 , v2 ≥ 0, u1 ≥ 0 = 0.909 (A は非効率的), v1∗ = 0.182, v2∗ = 0.182, RA = {B, C} (参照集合) • DMUB の効率値を求める線形計画問題 (定式化の部分は省略) ∗ = u∗ = 1, v ∗ = 0.2, v ∗ = 0.2, R = {B, C} 解:θB B 1 1 2 ∗ = 1 かつ x = (2, 3) ≤ | (4, 1) = xB なので B は効率的 → θB C • DMUF の効率値を求める線形計画問題 (定式化の部分は省略) 解:θF∗ = u∗1 = 1, v1∗ = 0, v2∗ = 1, RF = {B, F } → θF∗ = 1 だが xB = (4, 1) ≤ (6, 1) = xF かつ 第 1 要素が 4 < 6 となり,入力の余剰を含むので F は非効率的 • 他の DMU についても同様にして線形計画問題をつくり,それを解いた結果は表 5 のようになる. 3.2 例2 • 入力として従業員数と店舗数,出力として売上高とカード会員数を取り上げた表 6 の問題を考える. ある vi∗ がゼロであった場合,それに対応する入力 xi に余剰が生じている可能性がある.同様に,ある u∗j がゼロであっ た場合,それに対応する出力 yj に不足が生じている可能性がある. 1 4 表 5: 2 入力・1 出力問題の計算結果 DMU A B C D E F 0.909 1 1 1 0.9 1 v1∗ 0.182 0.2 0.2 0.333 0.3 0 v2∗ 0.182 0.2 0.2 0.111 0.1 1 Rk {B, C} {B, C} {B, C} {C, D} {C, D} {B, F } 判定 非効率的 効率的 効率的 効率的 非効率的 非効率的 参照集合 {B, C} {C, D} {B} θk∗ = u∗1 表 6: 2 入力・2 出力の例 事業体 企業名 A B C D 入力 従業員数 (千人) x1 1.7 1.5 2.4 2.6 店舗数 x2 15 10 20 18 売上高 (億円) y1 18 16 34 20 会員数 (千人) y2 21 20 23 24 出力 • DMUA の効率値を求める線形計画問題 最大化 θA = 18u1 + 21u2 制約条件 1.7v1 + 15v2 = 1 18u1 + 21u2 ≤ 1.7v1 + 15v2 16u1 + 20u2 ≤ 1.5v1 + 10v2 34u1 + 23u2 ≤ 2.4v1 + 20v2 20u1 + 24u2 ≤ 2.6v1 + 18v2 v1 , v2 ≥ 0, u1 , u2 ≥ 0 ∗ = 0.96 (A は非効率的), v ∗ = 0.588, v ∗ = 0, u∗ = 0.0255, u∗ = 0.0238, R = {B, C} (参 解:θA A 1 2 1 2 照集合) • DMUA 以外については結果のみを表 7 に示す. 表 7: 2 入力・2 出力問題の計算結果 DMU A B C D θk∗ v1∗ v2∗ u∗1 u∗2 0.96 1 1 0.71 0.588 0 0 0.385 0 0.1 0.05 0 0.0255 0.0545 0.0272 0.0166 0.0238 0.00641 0.00321 0.0155 Rk {B, C} {B, C} {B, C} {B, C} 判定 非効率的 効率的 (可能性) 効率的 (可能性) 非効率的 参照集合 {B, C} {B, C} 5 4 演習問題 問題 1 表 8 の 2 入力・1 出力の問題について以下の (1)∼(3) に答えよ. 表 8: 2 入力・1 出力のデータ DMU 入力 出力 A B C D E F x1 4 6 2 4 6 2 x2 3 2 5 2 1 4 y 1 1 1 1 1 1 (1) 各 DMU が効率的か非効率的か,及び,非効率的な場合は参照集合を,図を使って求めよ. (2) DMU A の効率値を求める問題を線形計画問題として定式化せよ. (3) ソルバーを用いて (2) の線形計画問題を解いてみよ. 問題 2 表 6 の 2 入力・2 出力の問題について,DMUA 以外の企業の効率値を求める問題を線形計画 問題として定式化せよ.さらに,ソルバーを使ってそれらを解き,結果が表 7 と同じになることを確認 せよ. 問題 3 表 9 のデータをもとに DEA によるメーカー間の効率性の比較分析を行え (用いる方法は,図に よる方法またはソルバーによる方法のどちらでもよい). 表 9: 国内自動車メーカーの販売関連データ (90 年度末,文献 [1] より) メーカー 入力 出力 営業所数 従業員数 国内売上高 (億円) トヨタ 4755 119468 52078 日産 3066 74538 24421 本田 2652 25717 10739 マツダ 2718 32274 9301 三菱 1291 32075 12152 いすず 561 16468 6106 ダイハツ 696 15546 6366 スズキ 788 10179 5271 富士重工 501 10442 4719 参考文献 [1] 刀根薫, 「経営効率性の測定と改善」, 日科技連 (1993). [2] 末吉俊幸, 「DEA 経営効率分析法」, 朝倉書店 (2001). 6
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