等尺性収縮を用いた肩関節腱板機能エクササイズにおける表面筋電図学

第48回日本理学療法学術大会(名古屋)
O-A運動-235
等尺性収縮を用いた肩関節腱板機能エクササイズにおける表面筋電図学的検討
鏡視下腱板修復術後の早期後療法を想定して
仲島 佑紀 , 藤井 周 , 坂内 将貴
船橋整形外科病院理学診療部
key words 術後後療法・等尺性収縮・表面筋電図
【はじめに、目的】
鏡視下肩腱板修復術後の早期後療法における腱板機能エクササイズとして等尺性運動が選択され、ホームエクササイズと
しても指導することが多い。しかし臨床上、適切な運動負荷量の設定が困難であり、運動時に肩関節周囲筋の過活動など
運動習得に難渋する症例を経験する。そのような症例においては前腕や手関節運動を用いた腱板筋群の賦活を行っている
が、運動様式の違いによる腱板筋群の筋活動については明らかとなっていない。そこで本研究では肩関節外旋等尺性運動
に着目し、運動様式の異なる 3 種類の腱板機能エクササイズにおける筋活動について、表面筋電図学的に検討することを
目的とした。
【方法】
対象は肩関節に既往のない健常男性 17 名(25.5 ± 2.1 歳)の非利き手側 17 肩とした。測定筋は棘下筋、小円筋、三角筋前・
後部線維とした。測定機器は Noraxon 社製 Myosystem1400 の表面筋電図を使用し、サンプリング周波数は 1000Hz に設定
した。電極は十分な皮膚処理後に貼付した。測定肢位はすべての運動課題において、外転装具を用いて肩関節外転位、前腕
回内外中間位、手関節掌背屈中間位で肘を机上に乗せた坐位とした。運動課題は 3 種類とし、試行回数は 5 秒間を 3 回と
した。<1> 肩関節外旋等尺性運動(以下、外旋)
;自家製 pulley を用いて、0.5kg 重錘にて肩関節内旋方向の牽引力が加わる
よう設定した。抵抗部位を手関節とし、保持させた。<2> 前腕回外反復運動(以下、回外)
;輪ゴムの一方を固定し、一方を
母指に掛け、前腕回内外中間位から最大回外位までの反復運動を行わせた。<3> 手関節背屈反復運動(以下、背屈)
;輪ゴ
ムを母指と示指・中指で把持し、手関節掌背屈中間位から最大背屈位までの反復運動を行わせた。<2> と <3> については
最大回外位、最大背屈位で輪ゴムが一定の張力となるよう設定し、メトロノームを用いて 1 秒に 1 回のリズムで運動を行
わせた。解析区間は 5 秒間のうち中間 3 秒間とした。筋活動の解析は、各筋の最大等尺性収縮を測定し、得られた筋活動最
大値から% MVC を算出した。解析区間で得られた% MVC 積分値を筋活動量とし、各運動課題の 3 試行の平均値を算出し
た。統計学的解析には 2 元配置分散分析を用い、各運動様式および各筋活動量を比較検討した。有意水準は 5% とした。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は当院倫理委員会で承認を得た後に行われた(承認番号 2012019)。被験者に対して倫理委員会規定の同意書を用い
て研究内容を十分に説明し同意を得た。
【結果】
各運動課題における筋活動量(%MVC)は、外旋において棘下筋 19.6 ± 11.5、小円筋 12.0 ± 5.3、三角筋前部 2.5 ± 1.4、三
角筋後部 3.3 ± 1.5、回外において棘下筋 22.1 ± 11.2、小円筋 14.7 ± 6.0、三角筋前部 3.9 ± 2.9、三角筋後部 4.3 ± 2.2、背屈
において棘下筋 18.7 ± 10.1、小円筋 13.4 ± 6.2、三角筋前部 3.2 ± 2.4、三角筋後部 3.8 ± 2.1 であった。2 元配置分散分析か
ら各筋の筋活動量に主効果が認められ(p<0.01)
、各運動様式には主効果が認められなかった(p=0.19)。交互作用は認めら
れなかった(p=0.96)
。
【考察】
本研究結果は、最も高値の筋活動量が棘下筋であり、次いで小円筋、三角筋後部、三角筋前部の順となり、各運動様式にお
いてその傾向が同様であったことを表している。これは本研究運動課題における低負荷外旋等尺性運動と回外や背屈を用
いた腱板機能エクササイズがそれぞれ同様の運動効果をもたらす可能性を示唆するものと考える。林らは肩関節 ROM エ
クササイズとしての腱板等尺性収縮の有効性を報告し、また石谷らは、術後早期の腱板機能エクササイズについて、鏡視
下腱板修復後の RSD 様症状の発生予防や挙上角度の早期改善に有利であること、装具固定期間の等尺性収縮を用いた早期
後療法と術後 1 ヶ月後にエクササイズを開始した群において腱骨接合部癒合不全率に差がなかったと報告している。先行
研究からも後療法における等尺性運動は有効であると考える。しかし臨床上、外旋等尺性運動においては運動強度を定め
ることが困難であり、組織修復期間の過剰な筋収縮のリスクなどを考慮する必要がある。そのため早期後療法として低負
荷での筋収縮を行わせるうえで、運動課題が容易である前腕や手関節を用いた腱板機能エクササイズの有用性が示唆され
た。
【理学療法学研究としての意義】
腱板機能エクササイズについて表面筋電図学的検討を行ない、各運動様式で筋活動が同様の傾向を示したことは、本研究
結果が臨床上、症例に応じた運動療法選択の一助となる可能性が示唆された。